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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
第8章 夏の思い出
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閑話 海水浴という名の戦争 後編

あい!




◇南の海岸にて◇




「ソル。俺達はここまで、なんやかんやお互いを傷付けまいと、大きく争う事はしなかったよな」


「そうだね......でも、今回ばかりは、私のワガママに付き合ってね」


「あぁ。それに、これは一種の戦争だ。互いが互いの欲しいものを求める、欲に(まみ)れた争いだ」




互いに木刀を構え、向き合った。




「本気で行くよ。では、いざ尋常に......」


「尋常に......」




「「勝負!!」」




◇20分前◇




全ての始まりは、ソルの一言からだった。




「ねぇルナ君。久しぶりに私と打ち合わない?」



またもやリル達に生き埋めにされていると、ソルが俺の顔を覗き込みながら言ってきた。



「......ここで?」



本当に、ここで打ち合わなきゃならんのか?周りの目とか、もっとちゃんとした遊びは無いのか?



「うん。それに、これはアレだよ。愛の確かめ合いだよ」


「殺し愛ってか?やかましいわ!」


「えへへ、でもね、最近の私を客観的に見たら、刀の腕が落ちてる気がしてね。感覚を取り戻したいの」



ソルが真剣な顔で言ってきた。



「嫌だ。ソルを傷付けたくない」


「そう言うと思った。だからね、報酬を用意してるの」


「報酬?」



毎度ながら、色々と用意してるな。だけど、ソルを傷付けること以上の報酬って、限りなく0に近いぞ?




「うん。ルナ君が勝ったら、私は24時間、ルナ君の言う事を何でも聞くよ。リアルでも、ゲームでも。別にエッチな事でも大歓迎だからね!」


「ん?」




「逆に、私が勝ったらルナ君をリアルで襲う」


「ん???」


「どう?」



............ん?理解が追いつかないぞ。



「いや、今のどこに『どう?』って聞く要素があるんだ!俺が負けたらとんでもねぇ事になるじゃないか!」



絶対に受けちゃならん勝負だ。そう、あれだ。


『ここで負けたら、高校生生活終わるナリ。そうだ!勝負を回避して、貞操を守るナリ!』ってヤツだ。



「ちなみに拒否権は無いよ。打ち合ってくれなかったら、速攻でログアウトするから。その後は......分かるね?」



アッ......死ぬのか?俺。というかソルさん、性欲に(まみ)れてないですか?大丈夫?


いや、もしかしたらこれが正常なのかもしれない。俺の自制心が強すぎる可能性がある。




待て、今はそんな事を考えてる場合じゃない。ソルとの打ち合いについてだ。




「......刀は?」




俺は砂の山から転移を使って抜け出し、ソルから刀を貰った。



「これ。私のと同じ性能の木刀」


「条件は?」


「決闘システムを使って、最初に一撃当てた方の勝利。

あと、魔法の使用禁止とステータスの制限。お互いにレベル10の、最初の人間の時のステータスね。あと、3本勝負」



これなら......受けてもいいかな。いや、受けるしかないんだけどさ。



「分かったよ。どこでやるんだ?流石にリル達からは離すんだろ?」


「いや、丁度いいから見てもらおうよ。私達がどんな強さをしているのか、ちゃんと知ってもらえるし」



確かに。俺はともかく、ソルの強さってリル達には正しく伝わっていないかもしれない。


そう考えると、これは良い機会なのかもな。



「分かった。俺は最初から全力でやるぞ?......2人の生活の為に」


「うん。私だってルナ君が欲しいからね。全力でやるよ」



ひぇぇぇ!頑張れ俺!未来の陽菜との生活の為、命を賭して勝つんだぞ!




「じゃ、数年ぶりの打ち合い。やろっか」


「あぁ」






◇10分後◇






「へぇ、お前らが勝負か......俺も見るぜ!」


「俺も。勉強の為に観戦させてもらいます」



リル達を呼びに行くと、マサキ達も見に来ると言ってきた。



「見るのはいいけど、静かにしててくれよ?ソルもそうだが、音のする方に武器をぶん投げるかもしれんからな」


「お、おう!」


「分かりました!」



お互いに試合の全てを「見る」からな。雑音がすれば、自然とその方向へ攻撃してしまう。


ま、今回はそうならないと思うけど。



「父様。母様と何かあったのですか?」


「リルちゃんのいうとおり。パパ、すっごくしんけんな顔してる」


「ん?まぁ、ソルが持ち出した賭けに負けたら人生大変な事になるからな。だから、命を賭けて人生を選ぼうと思ったんだ」



「「「???」」」



「何を賭けられたんだ?ルナ」



「貞操だ。俺が負けたら......大人の階段がジェットエンジン付きのエレベーターになる」



「「Oh......」」


「貞操って何ですか?父様」


「ん〜とな、まぁ、あと1年は大切しないといけない、俺の守るべきものだ」



我ながら上手く誤魔化......例えられたと思う。

大人になるのに必要な段階というか、ちゃんとした考えとも言うべき事だしな。




「あ、来たきた。ルナ君!早速やろっ!」



◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇

『ソル』から決闘申請が届きました。


<ルール>

・3ポイント先取

・最初に一撃を当てた方に1ポイント

・1ポイント取った後10秒は両者無敵

・『木刀』1本のみの勝負


<制限>

・第1種族『人間』のレベル10のステータス制限

・装備品の付与効果の無効化

・魔法の使用不可

・『刀術』以外のスキル使用不可

・『刀術』スキルレベルが1に固定


申請を受諾しますか?『はい』『いいえ』

◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇



公平だ。実に公平な試合だ。俺はこの試合を大会でしたかったんだ。



あぁ、こんな所に俺が求める戦いがあったなんて、酷い皮肉だな。


運営が最初からこの試合にしなかった事。大切な人に教えられた事。自分でその提案をしなかった事。


振り返れば、俺は舗装された道を歩いていた事に気付いたよ。




「懐かしい」


「でしょ?」



本当に懐かしい。昔から陽菜と打ち合う時は、俺は何故か自分を振り返ってしまうんだ。



「ソル。俺達はここまで、なんやかんやお互いを傷付けまいと、大きく争う事はしなかったよな」


「そうだね......でも、今回ばかりは、私のワガママに付き合ってね」


「あぁ。それに、これは一種の戦争だ。互いが互いの欲しいものを求める、欲に(まみ)れた争いだ」



互いに木刀を構え、向き合った。



「本気で行くよ。では、いざ尋常に......」


「尋常に......」




「「勝負!!」」




◇━━━━━━━━━◇

決闘を開始します。

◇━━━━━━━━━◇



決闘が始まった瞬間、俺達は木刀の切っ先を地面の砂に刺し、お互いを見た。



「......」


「......」



だよなぁ。まずは『見る』よなぁ。試合の基本だもん。


相手の流れを見る。呼吸を読んで、視線を読む。空気の動き方や僅かな体の動きを見るんだ。


砂浜でやろうとしたのは、良い判断だな、ソル。その考えは凄いよ。尊敬する。




そして見合うこと1分。ようやく試合が動き始めた。




ソルが先手だ。木刀を地面ギリギリに浮かして下段に見せているが、刀の向きが下を向いている為、俺から見て時計回りに回転させて攻撃するのだろう。



ガンッ!



予想通り、時計回りに回転して俺の右腕に当てようとしてきたな。


次の動きも読めるぞ。足の踏み込みからして、蹴りだな。



「ふっ!」



良し。ソルの綺麗な脚をちゃんと捉えて回避出来た。




ここまで来て、また木刀を下ろして向き合った。




ソルは俺の読みの精度をチェックしているんだろう。

ここまでで3度の動きがあったが、全部読まれているからな。



そして20秒後、ソルが頷いてこちらを見た。



これは次手に誘われてるな。まぁ、乗るとしよう。




俺はソルに素早く近付き、上段から木刀を振り下ろした。



ガシッ!と音を立てながら受け流され、俺の木刀はソルの右後ろの砂に刺さった。


するとすかさず右足を軸に回し蹴りをしてきたので、ここからが俺のターンだ。



「......よっ」


「っ!」



ソルの右足を掴み、俺は最速で地面に伏せる事で回し蹴りを回避し、ソルが体勢を立て直す2秒の隙に、刺さった木刀を抜いてソルの足に当てた。



◇━━━━━━━◇

『ルナ』1ポイント

◇━━━━━━━◇



「ん〜」



ソルが次の動きを確認しているので、俺は木刀を持って元の位置に戻った。



「......良し」



10秒後、ソルがダッシュで俺の前まで来て、木刀を振らずに足で砂を巻き上げた。



「ヴェッ!」


「えいっ」



◇━━━━━━━◇

『ソル』1ポイント

◇━━━━━━━◇




怯んだ瞬間に木刀を当てられ、ポイントを取られてしまった。



いや〜、忘れていた。まさか砂を使ってくるとは。やっぱりうまいなぁ、ソル。ルール内で使える物は全部使うの、本当に上手いよ。



ふむ、ルール内か。ルール......これ、スキルが使えなくても、他のアイテムは使えるんだよ......な?



物は試しだ。ソルに何か言われたら辞めるとしよう。



俺は『反転の横笛』を取り出し、音を鳴らしてみた。



ピーっと高い音が鳴ると、俺の体が光に包まれた。



「「「「「え?」」」」」


「やった」



俺の見た目が金髪ショートのロリになり、直ぐに笛をしまってソルへ突撃した。



「え!?」


「そいっ!」



◇━━━━━━━◇

『ルナ』2ポイント

◇━━━━━━━◇



「ルナ君、それはズルじゃない?」


「使える物を、使ったまでさ......」


「くぅ......いいよ。次が本番だし」




俺はまた元の位置へ戻り、木刀を構えた。


視点が低くなった事により、見える世界もある。

その内の1つは、ソルの小指の動きだな。


上からでは見えなかったが、下からなら小指が見え、細かい力の調整をしている事が分かった。



「じゃあ、行くよ」



ソルがわざわざ宣言してから俺に詰め寄ると、左手から巫女服をぶん投げて来た。



「えちょ待っ」


「ふんっ!」



◇━━━━━━━◇

『ソル』2ポイント

◇━━━━━━━◇



「すみません。元に戻すんで、許して下さい」


「ふふん。分かればよろしい」



俺はソルの巫女服をインベントリに仕舞い、横笛を出して体を戻した。



「あれ?私の巫女服......」


「記念に貰ってく。俺が勝ったら、久しぶりに着てもらうぞ」


「なるほど。分かった」



嘘ですソルの香りがしたから反射的に仕舞っただけです。


だって......頭から思い切っり被ったんだもん。その時に、フワッと良い香りがしたんだもん......


ぼく悪くないもん!!!




「じゃ、ラスト......やろうか」


「うん」




最後に見合うと、またソルが先手をとってやってきた。




「ふっ!」



また砂を巻き上げ、俺の視界を完全に奪った。



ガンッ!



(けん)



目は見えないが、試合を見ろ。人は見えないが、刀を見ろ。


見た先は読み、考え、行動に移せ。



ガンッ!ガガン!



ワンテンポ入れてからの2連撃。これは陽菜の癖だな、次は蹴りがくる。



ブンッ!



予想通り、右足での蹴りだ。しゃがんで対処出来る。



「はっ!」


(どく)



バガンッ!



蹴ったあと直ぐに上段からの振り下ろし。これは陽菜との経験で覚えた流れだ。


試合の流れをよく読み、次は考えよう。



「ふんっ!」



次は左足からの蹴りだな。考えれば分かる。バランス調整も兼ねているのだろう。



(こう)



ブンッ!



蹴りを避け、俺はソルの左側へ一気に飛び退いた。



さぁ、最後の一手だ。久しぶりに熱い戦いになったな。



(こう)



師匠の教えの1つ『見読考行(けんどくこうこう)』という戦い方だ。


読んで字の如く、見て、読み、考えて行動するというものだ。




今の俺は砂で目が見えんが、ソルの動きがよ〜く分かる。次は木刀で切り払うのだろう?



ザッ、ザッ、と足音が聞こえる。後2歩だな。



そして俺は、ソルの攻撃に合わせて突きを「んむっ!」



「「「「え?」」」」



ヤバい!完全に読みミスした!まさかここでキスをしてくるとは......直ぐに退かな「ごめんね」



◇━━━━━━━━━━━━━━━◇

『ソル』3ポイント先取により勝利!

◇━━━━━━━━━━━━━━━◇



あ......視界が戻っていく......



ちゃんと目を開けると、俺はソルに抱き締められた。



「んふふ〜、勝った!」


「......あの」


「えへへ〜、ルナ君。覚悟は出来てるね?」


「いや、その......出来てません」



嫌だ!まだこんな所で高校生生活を終わりたくない!!



「大丈夫。痛くしないから」


「それ、逆のセリフだろう?」


「ルナ。男を見せろ。女に負けたんだから、もう諦めるんだ」


「そうですよ。それにしても意外でした。ルナさんが負けるとは、思いもしませんでした」



あぁ、どんどん皆が集まってくる......



「父様。大切なもの......守れませんでしたね」


「どんまい」



2人とも......俺はもう、ダメなのかもしれない。




「じゃあルナ君。リアルでまた会おう。さらばっ!」




そう言ってソルはログアウトしてしまった。




「......」



割と本気でどうしようか考えていると、マサキに肩をポンポンと叩かれた。



「ルナ。多分ソルにも考えがあるはずだ。そこをちゃんと聞いてあげて、何とか回避しろ」


「でも......できるかな......あきらめようかな」


「大丈夫だ。ベストフレンドを信じてくれよ?」



マサキがニカッと笑ってサムズアップした。



「......分かった。何とか食い止めてみる」


「ルナさん、ソルさんとは家が近いんですか?」


「いや?隣で寝て、一緒にゲームしてる」



「「え゛......」」



あ、あぁ、あぁぁぁ!!!マズイ!



「ルナ!早くログアウトしろ!割とマジで間に合わなくるぞ!」


「リルちゃん達の事は守りますから、早く行ってください!」


「わ、分かった!頼む!!」




そうして最後にドタバタしながら、俺もログアウトした。



あふたぁへ続く→

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