閑話 海水浴という名の戦争 前編
うみ!
「ルナ君、海行こっ!」
「......ということは?」
「あぁ......私の水着、見れるんだぜ......」
来た!遂にソルの水着が見れるんだ!これには笑いを禁じ得ない。待ちに待ったソルの水着、この目に焼き付けるんだ!
「フッフッフ......フッハハハゲホッゲホッ!」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫。それで、リル達はどうする?」
「もちろん行きますよ。今回こそ、ちゃんと遊べるんですよね?」
「あぁ。例え神界に飛ばされても転移で戻るからな」
「ならわたしも。パパとあそぶ」
「じゃあ4人で行こっか!ルナ君、悩殺されてね?」
「楽しみにしてる。じゃあ庭に魔法陣置いとくか」
という訳でテレポート用の魔法陣を置く為に庭に来た。
「ほい、『テレポート』」
半径1メートルほどの、真っ白な魔法陣が庭に出現した。
「......」
「......行かないの?」
「違う。行けないんだ。深刻なMP不足でな、もう少し待ってくれ」
それから数分かけてMPを回復させ、海岸に転移してから、海岸にもテレポートを設置して家の魔法陣と繋げた。
「ここを潜ると......ほいっ、ただいま」
「「「おぉ〜!」」」
海岸と家が簡単に行き来できるようになった。
この魔法陣を踏んでも飛べるのはヴェルテクスのメンバーのみなので、防犯面は大丈夫だ。
「ほ、ホントに海に着いちゃった......凄いよルナ君!」
「この為に頑張ったからな。さ、水着を見せておくれ?」
「ふっ......その前に、ルナ君にも水着があるんですよ」
「頂きます」
ソルから海パンを貰った。黒の下地に狐の絵柄の水着だった。実にソルらしくて、とても可愛いな。
「じゃあ念の為、『サンドウォール』」
周りから見られない為に砂の壁を出現させ、その中で着替えることにした。
まぁ、ウィンドウ操作で着替えるから、見られるもクソもないんだけどな。
「3人とも、着替えたか?」
「着替えたよ〜」
「着替えました!」
「た!」
「じゃあ解除するぞ〜!そいっ!」
ソル達を囲んでいた砂壁を消すと、そこには天使が3人いた。
「えへへ〜、どうかな?」
「..................『サンドウォール』」
「あれ?ルナ君?」
いやぁ、不覚でした。この私、周囲に見られる可能性を失念しておりました。
これは許される行為ではありませんが、然るべき対処として、再度壁を出現させて頂きました。
これは『天使保護法・第1項・周囲の視線からの保護』という法律に則って行いました。
こ、この光景を独り占めしたいとか、思ってないんだからね!勘違いしないでよね!
「みんな、綺麗だよ。ソルは水色のビキニが似合っているし、リルはオレンジの......なんて言うんだろう。まぁ、水着が似合っている。メルも黒が似合っているぞ」
ギブミー語彙力。君達ビューティフル。オーケー?
「ふふっ、ありがと」
「ありがとうございます、父様。父様もお似合いですよ?」
「うみのおとこ」
「ありがとう。ただ1つ、問題発生だな......」
「「「問題?」」」
あぁ、大問題だ。俺の命に関わる問題だ。
「お前達を......他人に見せたくない......」
えぇ、独占欲ですよ。ソルは勿論、リルもメルも含め、誰にも見せたくない気持ちがあるんだ。
「そう言ってくれると嬉しいね!でも、このままだと遊べないよ?」
「そうですよ!せっかく来たんですから、ちゃんと遊びましょう?」
分かってる。分かっているんだ......でも......!
「かべ、こわしていい?」
「いいよ、メルちゃん。パンチしちゃえ」
「ううん。食べる」
「「「え?」」」
てっきり殴って壊すのかと思えば、メルはサンドウォールに齧り付いた。流石に砂を食べるのはいけない。止めないと!
「こら!ばっちぃから辞めなさい!」
「......?ほら、たべれるよ?」
メルが齧り付いた場所を見てみると、みるみるうちにサンドウォールが崩れていった。
おかしい。軽く表面が削られただけで、そう簡単にはサンドウォールは崩れないはずだ。
「何をしたんだ?」
「パパのまほうをたべたの。おいしくないけど、まずくもないよ?」
......理解しました。リルは『魔食み』を使ったんだ。魔法そのものを食べたから、サンドウォールが崩れたんだな。
「メルちゃん......凄い」
「凄いですね!魔法を食べるなんて、思いもしませんでした!」
「ふふん。パパにもできない、わたしだけのちからだよ」
メルが胸を張って言った。これは......褒めるか。
「あぁ、凄いなメル。驚いたよ」
「えっへん。じゃあ、あそぼ?」
「そうだな。そうしようか.....あ、変な人に話しかけられたら迷わず俺に報告しろよ?イブキで斬るから」
「ダメだよルナ君!死人が出るよ!?」
「え?殺さないのか?」
「他人に迷惑をかけるのはダメ。それに、ただのナンパなら私達の指輪を見せたり、目の前でキスすればいいでしょ?」
お兄さん......ソルを守るためなら殺す覚悟もあるのに、そんな夢のような提案をされたら呑むしかないじゃないか......!
「......それもそうだな。分かった。呼ぶのはシリカにしよう」
「だからダメだって!斬っちゃダメ!」
「嫌だ!3人を守る為なら、俺は誰だって斬る!」
俺が大きな声で宣言すると、2つの足音が背後の森から聞こえてきた。
「下がれ、『アイスドーム』」
3人を狙う奴かもしれないので、俺は半球状の氷でみんなを囲んだ。
「お、その声はやっぱりルナか!......って何してんだ?」
「氷、ですか?それは」
足音の犯人は、マサキとガーディ君だった。
「......下がれ。それ以上近付いたら斬る」
「ちょちょちょっ!どうしたんだ!?」
「ルナさん?」
それ以上近付いてソル達を見てみろ、2人の目を貫いてやる。
「メルちゃん、ルナ君をぶん殴って」
「は〜い」
「え?ちょ待っ」
トゴォォ!!バキバキバキィ!!!
「ンニャァァ!!」
俺はメルに殴り飛ばされ、森の木を10本ほど折った所でようやく止まった。
「「えぇ......なに今の......」」
「ごめんね、2人とも。今のルナ君、私達にメロメロすぎてまともな判断が出来てないの」
「「あぁ〜、なるほど」」
「父様、大丈夫ですかね?死んでませんか?」
「だいじょうぶ。ちゃんと『てかげん』したもん」
俺がヨロヨロと歩いて戻っていると、メルが手加減してくれた事を知った。
俺、メルに手加減スキルを取らせておいて良かった。ナイスだぞ、昔の俺。お前は未来の俺を救ったんだ。誇ってもいい。
「あぁ......ブリーシンガメン外してたから、割とマジで死ぬかと思ったぜ......」
「お前、今のでよく生きてんな。凄いぞ」
「痛くないんですか?あ、VIT上げたとか?」
「上げてないよ......娘のパンチを軽く受けただけだ。痛いし痒いし死ぬ」
HPが2000くらいしか残らなかったんだぞ?痛いに決まってんだろ。メルのSTRって1万5000もあるんだぞ?
フルパワーで殴られたら簡単に死ぬわ。
「で?貴様らはなんの「ル・ナ・君?」貴方様方はどのような用件でいらっしゃったのですか?」
危ない、あと少しで死ぬ所だった。ソルの怒りだけは買ってはいけない。
「ぶはっ!お前がビビってんの、初めて見たかも!」
「ふふふっ......俺も......ぶふっ」
笑うなよ。俺にだってビビる時はあるさ。特にソルが怒った時は、マジで怖い。
普段は温厚なだけに、怒った瞬間はソルの背後に修羅が見えるんだ。
時々、修羅じゃなくて師匠の顔が見えるけど。
「はぁ〜、笑った笑った。それと用は無いぞ?ただガーディと森で蝉集めをしていたら、お前の声が聞こえただけだ」
「シェルフラグメント、美味しいですからね。オススメですよ?」
「へぇ、そうなのか。じゃあまた遊ぼうな」
俺は後ろへ振り返り、リルを抱っこして歩こうとするとマサキに止められた。
「待て、待つんだルナ助......俺達も一緒に遊んじゃダメか?」
「ダm「いいよ」......いいですよ」
うぅ、俺の天使達がぁ......いや、切り替えよう。本当にナンパが来た時だけ、殺意を全開にしよう。
今日くらいは、友達と一緒に遊ぼうか。
「サンキュ!ならガーディ、今日はルナ達と遊ぶぞ!」
「あぁ!蝉取りなんかより、断然楽しいだろうしな!」
「リル助、メル次郎、行くぞ!」
「あ、分かりました!では父様、また後で!」
「じゃ〜ね〜」
娘2人と友達2人が海の方へ走って行った。
そして俺とソルは、ゆっくり歩いて4人の方へ向かった。
「ソル、鬼嫁」
「ふふっ、もっとワガママしてもいいよ?旦那様。私がぜ〜んぶ、受け止めてあげる」
「ヴッ......いいです。自重しますよ」
ヤバいな......旦那様の破壊力、ヤバいな。
俺の心臓、ちゃんと動いてるか?実は止まってたりしないよな?
ヘイ、マイハート。ビート刻んでる?
俺は胸に手を当ててみると、ちゃんとビートを刻んでいる事が分かった。
「ルナ!行くぞ〜!!」
「は〜い。行きますよ〜」
こうして、海水浴に2人の仲間が増えた。
だんなさま!
実はメルちゃんって、魔法のみでの戦いにおいては最強格の強さを持っています。
理由は勿論、相手の魔法を食べる事が出来るからなんですけどね。
まぁ、宵斬桜の攻撃のような手数の多い魔法には弱いので、使い所が限られますね。
では次回、後編でお会いしましょう。では!