その指輪って、婚約指輪?
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「ん......」
現実時間朝7時。俺はゆっくりと目が覚めた。
起きて体を動かそうとする前に目を開けると、目の前が真っ暗で何も見えない。いや、正しくは何かに顔を埋めているから何も見えない。
それを少し理解した俺は、そ〜っと顔を後ろに引こうとすると、後ろにもまた別の何かがあり、後ろに引くことが出来なかった。
取り敢えず、昨日の記憶を呼び覚まそう。
確か昨日は体が戻った後、夜になって寝てログアウトしたんだ。
それで陽菜を家に呼んで、ご飯を一緒に食べて、え〜っと......何があったっけ。
ん?陽菜を呼んだ?って事は前が見えないの、陽菜が居るからでは?
「ひな〜......あさだぞ〜」
「んぅ......」
ダメだ。起きないみたいだ。これはマズイぞ。
このままぐっすりおやすみ展開になると、生活リズムがカオスになり、夜寝て朝起きる事が出来なくなってしまう。
俺は仕方なく、顔を前に持って陽菜を離そうとした。
すると顔に、柔らかいものが当たる感触をキャッチした。
やぁみんな!月斗お兄さんだよ!今の月斗お兄さんの状況を簡単に説明すると、目が覚めたら彼女に抱きつかれていたんだ!
そう、頭をガッツリホールドされているんだね!だから、後ろに下がって体を起こす事が出来なくなっていたんだ!
そして反対に顔を前に持った瞬間、月斗お兄さんの顔には“おにゃの子”の2つの山が、僕の顔に当たったんだ!
そうだね!アレ、だね!やらかしたね!おっぱい!
おい待て。頭の中の月斗お兄さんを出してくるな。
ここは俺の思考領域だ。この感触は独り占めするしかないんだ......勝手に出てこないでくれ。
「陽菜......起きろ......」
「や〜......」
「嫌じゃない。起きてくれ。今の状況がとんでもなくヤバいんだ」
「......ない」
「いやヤバいんだって。このままだと陽菜に襲われるレベルでヤバいんだって。お願い......起きてくれ」
「なら襲う」
「!?」
陽菜が急に頭を抱き締めてきた。
今言えることは......そう。凄く......プニプニです。
って言うかコレ、陽菜は起きてるんじゃないか?
寝たフリをして俺を待ち、ハエトリグサの如く俺を捕まえに来たのでは?
ん〜でも確証が持てない。取り敢えず陽菜を引き剥がさないと。
そして陽菜を剥がそうとすると、思いっ切りプニプニを掴んでしまった。
果たして俺は、テンプレラッキースケベの様に、陽菜にシバかれるのだろうか。
「ひゃっ!......え?月斗君?」
「あ、起きた」
「ど、どどどどうして私のおっぱいを?......シたいの?」
「朝だぞ。それに、陽菜が俺を捕まえたんだぞ?陽菜が『襲う』って言って......」
「あ、あら〜?記憶にござらん」
「寝ぼけてんだな。取り敢えず......おはよう」
「うん、おはよう」
陽菜がおはようのキスをしてくれた。
「えへへ」
ヴッ......その表情は俺の心臓が爆発するぞ!!いいのか!?
しかも『えへへ』て!『えへへ』て!......くぅ!可愛すぎる。何でこんなにも可愛いんだ陽菜はぁぁ!!
──落ち着こう。ここで感情大爆発を起こしても、陽菜を扇情するだけだ。
ここは我慢。今はまだ、綺麗なままでいよう。
「じゃ、朝ごはんにしよう」
「うん!」
俺はベッドから降り、陽菜の手を引いてリビングまで連れて行った。
それから、簡単なオープンサンドを作り、陽菜と一緒に食べた。
途中、椅子に座って待ってる陽菜がフラフラしていたので心配したが、まだ少し寝ぼけていたようだ。
本当に気を付けて欲しいものだ。もし陽菜が倒れでもしたら、俺の心臓が止まってしまうからな。
「あの覚書って、やっぱり日本ポジションの国のやつかな〜?」
「だと思うぞ。入手条件は知らんが、そっちのクラーケンでは落ちなかったんだろ?」
「うん。イカとシェルフラグメントとスキル書だったね」
スキル書......あぁ、そういえば俺もゲットしてたな。
「使わない海魔法のスキル書あるし、後で渡すよ。残りは......マサキ達にでも送り付けようか」
「何個も出たの?まぁ、あのレベルなら納得するけど」
「3つだ。だから1つは陽菜に。もう1つはマサキ達に。最後は......アテナ達かな。ニヒルで魔法を使うのって、ピギーのイメージしかないけど」
「確かに。1人は物理、1人は魔法、1人は戦略......バランス良いよね」
「あぁ」
そして言われて思った。『俺の居場所無いじゃん』と。
いや、前向きに考えよう。俺は3つとも出来ると、そう考えよう。うん。
「あ〜、暑くなってきたよなぁ。プールでも行くか?」
「行きたいね!月斗君を水着で悩殺してあげよう」
「ほう......でもナンパとか怖いな。けど悩殺されたい......けど、う〜ん......う〜ん」
「ふふっ、凄く悩んでるね!」
いやぁ、これは悩むだろう。陽菜の水着姿とか、芸術品になる程綺麗だろうし、とても見たいんだ。
でも、陽菜にナンパする奴が怖い。陽菜は自衛出来るから大丈夫だと思うけれど......彼氏として、婚約者として心配だ。
あ、そうだ。
「陽菜がナンパされない方法、思い付いた」
「え?そもそもナンパされないと思うけど......どんなの?」
「指輪。左手の薬指に指輪を付けてたら、流石にナンパされないだろう」
「え゛っ」
我ながら良いアイデアだと思う。
相手は陽菜の手を見てナンパを止めるだ......いや、そもそも陽菜の水着姿を誰にも見せたくないな。
ちくせう。考えれば考えるほど沼に浸かっていく......!
「うん、指輪なら大丈夫だろう。陽菜はどう思う?」
「え!?えっと、その......あ〜、うん」
「ん?どっちだ?」
「えっと......いいと......おもいます」
どうしたのだろうか。凄く歯切れが悪そうに答えていたが。
「ち、ちなみに月斗君......その指輪って......婚約指輪?」
「あ゛っ」
陽菜のその言葉で、俺がやる事の、2つ目の意味が生まれてしまった。
そうじゃん!陽菜だけ左手の薬指に指輪をしてたら、それは婚約指輪じゃん!
うわぁ、やらかした!めちゃくちゃ恥ずかしいぞ!
「陽菜」
「はい!」
「今はまだ、指輪は無しでいこう」
「......はい」
「でも、プールには行こう。2人の夏の思い出を作ろう」
「うん!絶対行く!」
これで良し。またゆっくり、プールに行く日は決めようじゃないか。
「じゃ、ユアストやるか。狐っ娘陽菜ちゃんの水着姿、期待しても?」
「ふっふっふ......力作ですぞ。楽しみにしておれ」
「あぁ。楽しみにしてる」
そうして朝ごはんで使った食器を片付け、俺達はユアストにログインした。
◇ ◆ ◇
「帰ってきた世界。おはようワールド!」
「何言ってるんですか?父様」
「おはよ〜」
「おはよう、2人とも。いや、3人とも」
リルとメルの頭を撫でていたら、ソルもログインした。
「ソルちゃん、降☆臨」
ソルが決めポーズをしながら現れると、リルは溜め息をついてから反応した。
「何言ってるんですか?母様」
「おはよ〜」
「......ルナく〜ん!!!」
2人から全く同じ言葉を貰ったな、ソル。狐耳がペタンと垂れてて、とても可愛い。
「よしよし。取り敢えず覚書を読んで、その後は遊んで、遊んで、遊ぶぞ」
「「「は〜い」」」
そうして3人を連れてリビングへ行き、俺は『覚書:東の島国の貿易者』を机の上に広げた。
俺は机の上で手をゲン○ウポーズにして、リルをガン見しながら言った。
「ではリル君。読みたまえ」
「え?父様?」
「読みたまえ」
「あのっ」
「読・み・た・ま・え」
「あっ、はい。では読みます」
「「圧が......」」
ちょっとしたお遊びさ。それに文字を読むのは良い事だ。
新たな知識や、脳の活性化に繋がる。これでリルも、より賢くなれる事だろう。
「えっと、では......『此度の積荷は刀。我が国【刀国】の刀鍛冶が作った、妖刀を運ぶ。
何でもこの刀は、装備者の血を飲み、強くなるそうな。
そのような物を作る刀鍛冶にも驚くが、それを求める者が居ることもまた不思議だ。
道中、烏賊の妖に気を付けよと刀鍛冶に言われたが、果たしてそのような妖はいるのだろうか。
妖刀は非常に貴重な物だと様々な人から言われたので、少しでも船に不調があれば、刀国に帰るとしよう。
今回の航路は南からロークスに入り、届けるようだ。
南の海は魚がよく捕れる故、釣りでもしようか』......以上です」
リルが覚書を読み終わると、ワールドアナウンスが鳴った。
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『東の島国【刀国】が解放されました』
刀国は【東の海岸】より、船で行く事が出来ます。
船は一律10,000Lですので、ご注意ください。
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「「おぉ〜」」
遂にもう1つの国が開放された。名前的に、刀が重要そうな国だな。
まぁ、考える前に言う事がある。
「リル、よく読んだな。偉いぞ」
「ありがとうございます!えへへ〜」
「じゃあ次は称号の確認か。え〜っと?なになに〜?」
俺は称号のウィンドウを出して、みんなに見せてみた。
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『王を束ねし者』
・『王』の名前がつくスキルの効果が1.8倍。
・『四王の威光』を統合する。
『王』の名前が付くスキルを5種類習得する事で獲得。
【海の帝王単独討伐者】
・『クラーケン』に与えるダメージが2倍。
・『クラーケン』から入手出来る、『シェルフラグメント』のドロップ数が2倍。
【帝王クラーケン】を単独で討伐する事で獲得。
『冷酷』
・毒で与えるダメージが1.1倍。
毒でモンスターを倒す事で獲得。
『水帝』
・水属性の魔法攻撃力が1.8倍。
・水泳速度が1.25倍。
特殊クエストの報酬で獲得。
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「ルナ君......昨日の内に見てたら地獄だったね......」
「それは俺も思った。スキルだけじゃなく、毒も使われてたら本格的にマズかっただろうな」
まぁでも、皆で戦えば勝てる奴だったからいいけど。
「まぁまぁ、過ぎた事は置いておいて......称号の確認もしたし、遊びに行かないか?」
「おぉ、急展開。でも行く〜!」
「今度は父様も一緒に遊びましょう!」
「あっそぶ〜」
それからフー達に遊びに行く事を伝え、4人で東の海に来た。
東の海にした理由は幾つかあって、その内の1つはやはり『刀国』だ。
船がどこから出るのか、空を飛んで行けるのか、など、色々と気になる所が多いからな。
そして砂浜に足を踏み入れると、目の前に真っ白な魔法陣が出てきた。
「ッ!『クロノスクラビス』」
俺が咄嗟に魔法を使うと、目の前の魔法陣は弾けて消えた。
誰だ?誰が俺に魔法を使った?
サーチによる魔力反応は一切無かった。なのに何故魔法陣が出てくる?意味が分からない。
誰かが詠唱したにしても、聞こえない距離からここまで魔法陣を飛ばすことは出来ないはずだ。
あれは数メートルならまだしも、それ以上離れた場所に魔法陣を出すことは出来ない。
じゃあ、何かの特性か?
「酷いじゃないか。だが......腕を上げたな、ルナ」
すると後ろから、久しく聞いていなかった声が聞こえた。
「あっ......アルカナさんでしたか」
「あぁ。たまたま見かけたから話しかけようとしたのに......全く、私の魔法陣をかき消すとはな」
あの魔法陣は空間魔法の陣だったようだ。
道理で詠唱も何も聞こえない所から魔法陣が出てきたんだな。
「で?何か用があるんですか?アルカナさんが俺に話しかけるとか、嫌な予感がするんですけど......」
「ふっ......お前、暇か?」
あぁ、コレ面倒臭いヤツだ。何とかして断ろう。
「いえ、これからソルとリルとメルと遊ぶので暇じゃないです。誰か連れてくならランザをどうぞ」
「よし、暇だな。少し付き合え」
「嫌だ!ソル、助けてくれぇ!!」
「問答無用。『転移』」
「ちょっと待っ......」
俺はアルカナさんに手を掴まれ、どこかに転移させられた。
俺......この人に何かしたっけ?
あぁ、面倒臭いエルフと出会ってしまいましたね。
せっかく遊びに来たのに.....もう!
そして1回目の魔法陣を消したの、ファインプレーですね。もし、あのまま放置していたら、そのまま連行されていましたよ。
次回『空間魔法』お楽しみに!