丸一日ぶりの体
◇反転の空中神殿、反転の間◇
「いや〜、2人に頼みたい事があってさ、良いかな?」
「良くない。神界に帰れ」
「冷たっ!僕、君に嫌われるような事したかな!?」
「いや?してないぞ。寧ろ俺からの好感度はかなり高い。だがな......今の俺の状態を考えて、お前の面倒くさそうな頼み事を受ける気にはなれんのだ」
早く反転効果を戻したいんだ。いつものルナ君ボディに帰しておくれ。
いや、待てよ?ここでオケアノスの提案に乗って、早く元に戻す方法を知るのが良いんじゃないか?
「ソル、ソルはどう思う?アイツの頼み事に耳を貸すか?」
「う〜ん、断ったところでって感じだし、受けるかなぁ」
「じゃあ受けよう。オケアノス、内容は?」
「君の手首、骨が入ってないんじゃないの?」
「まぁまぁ。細かい事を気にしてると禿げるぞ。で?内容は?」
「全く......で、内容は簡単さ。『帝剣:海閃』と『帝衣:海の衣』を僕に渡してくれ。この2つの入手方法は......かなり厳しいよ?」
あるぇ?凄く聞き覚えのある言葉が耳に入った気がするぞ?
「オケオケオケオケアノス。少しいいか?」
「どうどうどうどうどうしたの?」
「その帝剣って、もしかして真っ青な刃の剣か?」
「そうだけど......もしかして?」
あ〜、やっぱりあのゲソ剣なんだな。把握した。
「じゃあ海の衣って、もしかして蒼くて綺麗なドレスになったりするや〜つ?」
「そうだけど............嘘でしょ?」
俺は右手に海の衣を、左手に海閃を出した。これをオケアノスに渡せば、依頼......じゃない。試練はクリアかな?
「はい。これで試練を終わりか?」
「本物だ、これ......ねぇ、レベル1000越えのクラーケン、倒したの?」
「あぁ。ソルと遊びに行った時に、バカみたいに強いクラーケンと戦ったよ」
「えぇ......ちょっと待ってて。飲み込んでくる」
「剣を?」
「状況を、だよ!ばか!!!」
ありゃりゃ。怒って玉座の方に戻ってしまった。
「ふふふっ、中々に思考を乱すツッコミをしたね、ルナ君」
「まぁな。アイツとは気が合う感じがして、ついついイジってしまう癖がある」
「限度を持って、ね。にしてもあの剣とドレスが必要だったなんて、思いもしなかったね」
全くだ。運営としては帝王を倒すのは、かなり先を想定していたんだろうが......殺ってしまったものはしょうがない。
今は潔く、オケアノスの特殊クエストを遂行しよう。
「はぁ......早く元に戻りたい」
いつもの視点から、ソルを抱き締めたいよ。大好きな人に抱っこされるのは嬉しいけど、俺としては抱っこする側が良い。
周りから見れば小さな事かもしれないが、俺からしたら死活問題だ。
「大丈夫だよ。直ぐに戻れるから。それにもし戻れなくても、リアルの方で私と遊んでたらさ、この効果時間は直ぐに終わるよ?」
「そう......だな。リアルでも遊ぶか」
「うん!それに同棲についてのアレコレとか、色々と準備したいからね」
「あぁ。待ってる」
それから2人で手を繋ぎ、オケアノスが帰ってくるのを待った。
その際、いつもは小さいと思っていた手が、今の俺には大きく感じた。
「お待たせ!一応試練は完了とするね!」
どうやらアレでもクリア扱いらしい。
クエストフラグが建つ前にアイテムをゲットしていたが、問題が無いようで何よりだ。
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『特殊クエスト:海神の試練』をクリアしました。
<報酬>
・反転効果の消滅
・『反転の横笛』×1
・称号『水帝』
『反転の横笛』
称号効果の反転、容姿の反転、STRとVITの反転が
任意で行える横笛。
実は海神オケアノスの特製品らしい.....
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ウィンドウが出てくると俺とソルは光に包まれ、俺の姿がいつもの男に戻っていた。
「あ......戻った。『雷霆』......良し!」
雷霆を使って反転効果が消えている事を確認し、俺はソルを見た。
「ふふっ、私も戻ったよ。ルナ君、ちょっと顔をこっちに近付けて」
「ん?......あぁ」
ソルがブリーシンガメンを外し、両手に持ったのを見え、俺の首にかけてくれるのだろう。
そう思っていると、俺にブリーシンガメンを付けた瞬間、ソルが優しくキスをしてきた。
「「「「「「あ」」」」」」
丸一日ぶりの元の体だ。俺もソルに応えよう。
ソルの柔らかい唇を優しく包み返し、俺の愛の大きさを主張する。
それに対し、ソルも負けじと包み返してくれる。
大人しいソルからは想像も出来ない程の大人なキスだ。
まだ心が子供の俺には刺激が強いが、これを機にステップアップしようじゃないか。
そして数分程キスをした後、ソルが優しく微笑んでから口を開いた。
「──んふふ......おかえり」
「あぁ、ただいま」
最後に軽くキスをして、惜しい気持ちを抑えながら、俺達は離れた。
「2人とも......もしかしてすっごく関係進んだ?」
「そうですよ。四六時中イチャコラしてますよ」
「してるね〜」
「してる......と言えばしてるわね」
「あ、アルテミスちゃん。お久〜」
「久しぶりね。今はセレナよ」
「そっか。う〜ん......どうしよ。本来ならここで皆を送り返すんだけど、何かそれは癪だなぁ......ま、いっか!」
オケアノスがフー達と話してる内に、俺はリルとメルを呼んだ。
「父様?どうされました......」
「パパ、どこかおかしか......」
リルとメルを、2人一緒に抱き締めた。
やっぱりこの体じゃないと、大切な人を抱き締める事すら出来ない、と。そう痛感した。
「もう、寂しがり屋さんですね、父様」
「そうだよ。俺は究極の寂しがり屋だ。そうなったのは、全部お前達のせいだぞ?お前達が可愛いあまり、一緒に居たいと思うんだ」
「......それはわたしも。パパやみんながいないと、わたしもさびしい」
「ははっ、俺達は元々、1人だったからな......1度人の暖かさ知ると、もう戻れないんだよな」
ソルと深く関わるようになって、俺もそれを自覚した。
例えば、ご飯を食べる時──
例えば、暇な時間が出来た時──
例えば、寝る時──
例えば、起きる時──
近くに誰かが居る暖かさは、少し離れただけでよく分かるものだ。
1人でご飯を食べる時の寂しさ。
1人で過ごす、暇な時間。
1人で寝る時の、空気の冷たさ。
1人で起きる時の、光の冷たさ。
大切なものは、失ってから気付くとは言ったものだな。
俺は今回の『反転の空中神殿』で、それを痛い程理解してしまったよ。
まぁ、俺が味わったのは『大切な人を抱き締められない』という事だけれど。
「さ、そろそろ帰ろうか。神殿に関しては、もう懲り懲りだ」
「そうだね。後は海で遊んで過ごしたいよね」
「全くだ」
「じゃあ皆を砂浜に戻そうか。ルナ君、ソルちゃん。ここまで来てくれてありがとね!」
「あぁ。じゃあ、またな。オケアノス」
「バイバイ、オケアノス君」
「うん!それじゃあ、また」
オケアノスが手を前に出すと、目の前にウィンドウが出ると同時に光に包まれた。
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『南の海岸』へ転移します。
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名前......そのまんまやん......
「今日はもう帰ろう。称号の確認とか、覚書を読んだりしたいしな。ソルはどうだ?」
「私もそれでいいよ。また明日、いっぱい遊ぼう」
「あぁ。じゃあ皆、戻ってくれ。リルとメルはそのままでも良いけど」
リルのメテオラスで、メルと一緒に乗れるからな。
「ではこのまま。メルちゃんと一緒に空を飛びたいと思います」
「のる〜」
「じゃ、お家へ向けて......レッツラゴー」
これにて幼女&最弱イベントは終了です。
次回から話が進み、遂にあの場所について進み始めます。
次回『島国?そんな事より水着だよ!』お楽しみに!