反転の空中神殿
「神殿行くべ。海岸から近い所にあるぞ」
「ん〜、私は水着作ってていい?ビキニ作りたい」
「分かった。飛びっきり可愛いのでオナシャス」
朝ごはんを食べた後、モスベリーの紅茶を飲みながらソルに神殿に同行するか聞いてみたが......水着を出されちゃあ、俺は何も言えん。
「じゃあ行ってくるかな。リル、メル。ソルのお手伝いとお留守番を頼む」
「「は〜い」」
「行ってきます」
「「「行ってらっしゃい!」」」
俺は家を出て、農場に居るセレナの元へ来た。あと、チェリに血をあげに。
「セレナ、俺は少し出掛けてくる。何かあったらアルスを通じて俺を呼べ」
「分かったわ。気を付けてね」
「あぁ......ほれ、チェリ。血をあげるぞ〜」
付喪神の居なくなった愛剣を腕に刺し、チェリに血を浴びせた。
「いいね。少しずつ大きくなってる。頑張って大きくなれよ〜」
そうだ。出掛ける前に鑑定していこう。
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個体名:チェリ
種族名:宵斬桜
成長段階:2/6
生命力:900,000/900,000
魔力:131,257/500,000
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成長段階が1上がっている。頑張って血をあげてる甲斐があるというもんだ。
「っし、『フラカン』」
俺は農場から魔法を使い、南の海にある、海底神殿の上まで飛行した。
◇◇
「アレか。誰も来てないっぽいし、一番乗りさせてもらおう。ダーイブ!」
空から海へ飛び込み、再びフラカンにて海を潜って行く。
そしてサーチに引っかかった魔力反応の元へ来ると、逆さになった門が海底に刺さっている、変な建造物が目に入った。
異常だ。何故門だけでなく、神殿本体であろう建物も逆さになっている?
まぁ、入れば分かるっしょ。
そして門がを進もうとすると、ウィンドウが出てきた。
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『海底神殿の鍵』を使用する事で入れます。
『海底神殿の鍵』を使用しますか?
【はい】『いいえ』
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はいはい、使いますよ〜。
鍵を消費して門を抜けると、俺は神殿の中で立っていた。
「......は?」
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『反転の空中神殿』に入りました。
『容姿反転』が付与されました。
『称号反転』が付与されました。
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ウィンドウが出たので、自分の手を見てみると──
「またロリになってる......あ、カメラで見ないと」
数秒前からとても低くなった視点と、小さくなった手でウィンドウを操作し、カメラを通じて自分の姿を見てみた。
「......う〜わ。今までにないロリ化だ」
髪の色は金に、目は銀色に変わり、髪がロングからショートになっていた。
「やべぇ......取り敢えず進むか」
何故かこのゲームは俺の性別をめちゃくちゃにしてくるが、めげずに頑張ろうと思う。
「シリカ達は顕現させたら笑われそうだな。良し、魔法と糸でやるか」
多分、イブキとアルスは笑わないだろうが、幻滅されたら俺が泣いてしまう。
身を守る為に、1人で戦おう。
「ほぇ〜、この効果は1週間続くのね......人生終わったな」
あぁ、泣きたくなってきた。今の状態で帰ったら、ソルになんて反応をされるだろうか。
「耐えろ。前を上だけを見ろ、俺」
普段着から天使シリーズに服を変え、俺は歩みを進めた。
『グギャ!』
「ゴブリンかよ。通路進んだらゴブリン居るとか、不思議だな。『サンダー』......え?」
お得意のサンダーを使おうとしたら、魔法陣が弾けて消えた。
『ギャ!』
「ッ!?......痛すぎだろ!」
ゴブリン一体の攻撃で、HPの2割が持っていかれた。
「あぁもう!『魔闘術:魔炎』」
ペチッ!
「はぁ!?」
『ギャ!』
「クソ......足も重いし攻撃は入らんし、何なんだよここ」
流石に色々とおかしいのでステータスを見てみると、ステータスが有り得ないくらい落ちていた。
「称号反転......マジかよお前」
俺のステータスや攻撃力は、基本的に称号で爆上げされている。
【戦神】と【神を従えし者】が良い例だな。
俺のステータスは大きく下がり、モンスターに与えるダメージは極限まで減った上に、モンスターから受けるダメージが極限まで引き上げられた。
「俺キラーなダンジョンじゃねぇか。リル達のステータスなんて4分の1だし、付喪神ゲーになったか?」
『ギャ!』
「ふんっ!」
最悪だよ。ゴブリンの攻撃を避けるのに全力が必要とか、俺はレベル1の初心者より弱いぞ。
『『『ギャギャギャ!!!』』』
「あっ」
ゴブリンから距離を取ろうと後ろを振り返ると、背後には3体のゴブリンがやって来ていた。
『ギャ!』
「グフッ......カスタム」
『グギャ!』
「ぺぷしっ!」
『ギャギャ!』
「アミグダリンッ......さらば......」
俺は潔く、ゴブリンに殺される事を選んだ。
「あ、ベッドスタートか......寝よ」
まだお昼にもなっていないが、俺はベッドで寝る事にした。
13時間もデスペナが続くし、俺はクソザコナメクジになったし、ふて寝だ。
◇◇
「ん......」
誰かに頭を撫でられる感覚がして、俺は目が覚めた。
「あ、起きた?あと確認なんだけど、ルナ君......だよね?」
「あぁ、ソルか。おはよう」
「おはよう。もう夕方だけどね。いつまで経っても帰って来ないから心配してたんだけど......何かあったの?私に言えることなら、何でも話してね」
有難い。今の俺、神殿の効果で金髪ショートロリになってるからな。
「クラーケンを倒したらさ、海底神殿の鍵が手に入ったろ?」
「うん」
「それを使って、海底神殿に入ってみたんだ」
「うん」
「そしたら、海底神殿が実は『反転の空中神殿』って名前で、俺の見た目と称号効果が反転したんだ」
「うん?」
「そしたらHPが減った時に発動する称号はHPが多い時に、俺のステータスを馬鹿みたいに減らすし、魔法が扱いやすくなる【雷神】なんか、俺に雷属性魔法を使うことすら、許してくれなかった......」
「う、うん」
「それで、俺は合計595レベにも関わらず、雑魚ゴブリンに袋叩きにされる道を選んだんだ......」
つらい。どうして大好きな人の前で、自分が弱くなった事を話しているんだ。俺はソルの前でくらい、強い人間で在りたいのに......どうして......
涙がポロポロと零れ落ちる。
何でかな、性格まで反転したのだろうか。
「よしよし。ルナ君は頑張ったよ。初めての縛りで、上手くいかなかったんだね」
「......悔しい」
「うんうん。悔しいって感じるのは、まだルナ君が出来ると分かってるから悔しいと感じるんだよ。ここから頑張れば、神殿の攻略も絶対に出来るよ」
「あぁ......少し、傍に居てくれ」
「ふふっ、ご飯の為に呼んできたんだけど......分かった。ルナ君の気が済むまで、隣に居るね」
「ありがとう」
「じゃあリルちゃん達にルナ君が帰ってきた事と、明日までこの部屋に入らないように言ってくるね」
「うん」
こんな情けない姿、リル達に見られたくないしな。
ソル、気を遣ってくれてありがとう。そういう優しさ、凄く暖かいよ。
そして数分後にソルが帰ってくると、そのまま俺の隣に寝た。
「ほら、もっと聞かせて?何がダメだったのか、これからどうするのか、ルナ君の考えてる事を全部ぜ〜んぶ、私に聞かせて?」
「あぁ──」
俺はソルに全部話し、ソルはその全てを聞いてくれた。
◆◆
「よしよし。明日は私も行くからね。初めてルナ君でもクリア出来ないエリア......そんなとこでも、2人ならクリア出来るよ」
「すぅ......」
「もう。今のルナ君、完璧に女の子だよ。リルちゃんといい勝負してる」
「大丈夫、大丈夫だよ。ルナ君は1人じゃないよ」
ソルは頭を撫でながら語り続けた。
「今度は私が守るからね......」
「おやすみ。愛してるよ、ルナ君」
次回、『2人なら』お楽しみに。