どくのいぶき!
楽しんでいってくださいね〜!
◇イベント前日◇
「ねぇ、ここで龍の血を混ぜたら良いんじゃない?ほら、こっちの毒も熱に強いからさ、混ぜるなら今でしょ」
「お前が女神か?助かる」
「えへへ」
ソルと新たな毒の開発を初めて3時間。完成の兆しが見えてきた。
今回、俺達が毒を作るのに使った材料は、老鷲獅子の腐肉、魔毒肉、バジリスクモドキの劇毒液、麻痺劇毒の鱗粉、そして『龍の血液:異常魔力』だ。
この龍の血液が、毒と毒の繋ぎに使える事が判明したので、2人で沢山実験してみた。
そしてこれで最後。ドロっとした常温の毒に、仕上げをする。
「よし、俺の血をドバーッ!」
シリカを顕現させ、短めの剣に変化させてから腕を切り、毒に俺の血を入れた。
「あ、ルナ君!見て!」
「おぉ、毒々しい」
血を入れて5秒後、毒が赤紫色の光を放ち、数秒で収縮した。
毒の色が紫から赤に変わり、鍋を揺らした感覚では、ドロっとしたペースト状から、サラサラとした液体になっている。
「瓶に入れて......よし、完成だ!!」
ポーション用の瓶に入れ、毒物鑑定を使ってみた。
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『呪毒:神殺し』の毒物鑑定結果
・毒(継続10ダメージ)
・猛毒(継続25ダメージ)
・劇毒(継続100ダメージ)
・絶毒(永続300ダメージ)
・麻痺毒(行動不可)
・麻痺劇毒(行動不可&継続100ダメージ)
・木材腐食(木製アイテムの耐久値減少効率上昇)
・金属腐食(金属製アイテムの耐久値減少効率上昇)
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「出来た......出来たぞソル!ありがとう!!」
俺は嬉しさのあまり、隣に居るソルを抱き締めた。
「えへへ〜、もっと感謝してくれたまえ」
「あぁ、勿論だ。もっともっと感謝するぞ!」
ここまで約2週間、一向に出来なかった毒が遂に完成したんだ。それもソルのアドバイスがあったからこそ、完成したんだ。
毒液の小さな変化や、混ぜ方のアイデアなど、ソルやフーが居てくれたから分かった事なんだ。
とても感謝している。これで今までにない、新たな武器が作れるからな。
「むぅ......ぎゅ〜だけ?」
「ぎゅ〜だけだ。これでも沢山感謝してるんだ」
「足りない……もっと欲しい。ルナ君、もっとちょうだい?」
ソルが上目遣いで求めてきた。
……お兄さん、どこまでソルにあげたらいいのかな?
正直、全部あげたい気持ちでいっぱいだけど、流石に今は不味い……くっ!どうすれば…………!
『あの、シリカも居るからね?そういう事をするならシリカも席を外したいんだけど……出て行こっか?』
そう言えばそうだった。俺の血を入れる時にシリカを使ったんだった。
「うぅぅ……またやっちゃったよぉ……ルナくぅぅん!!」
「よしよし。まぁ、今はこれで我慢してくれ。ほら」
俺はソルの頬にキスをして、また抱き締めた。これなら満足してくれるだろう。
「ありがとうございます。元気出ました」
『うわ〜、走り出したい空気になってる。お兄さん、もう良いかな?もう戻っても良いかな?』
「良いぞ。来てくれてありがとうな」
少し短めの剣になっていたシリカを人に戻し、お礼を言った。
「全く!イチャイチャを見てるこっちの身にもなってよね!お兄さんはそこまで求めないけど、狐ちゃんがすっごくお兄さんを求めるんだから、『わぁ、今のにどう応えるんだろう』とか、『次はどんな言葉を掛けるのかな?』とか色々考えちゃうんだからね!
全くもう!お兄さんも狐ちゃんを求めてもっとハグとかキスとかしなよ!!!」
何か……熱く語られてしまった……これはどう答えるべきなのか、俺には分からない。
王女の時にフーが壊れたように、ウチの付喪神は何かしらの事で熱くなるのかな。
「えっと、まぁ……愛してるよ、ソル」
「ひゃい!私も愛しています!」
ソルが顔を近付けて来たので、たっぷりとキスをした。
シリカ、これで良いか?もっとしろと言うのなら、もっとするぞ?……節度を持って。
「あ、あわわわわ……し、失礼しました〜!!!」
「「あ」」
シリカが顔を真っ赤にして走り去って行った。
「あはは、強炭酸だったね……次はどうする?」
「刺激が強い事を強炭酸とは言わないだろう……次は武器作りだ。早速この毒を使わせてもらうよ」
「むぅ〜!私も手伝う!飛びっきり強い武器にするもん!」
「あぁ、よろしく頼むよ」
そうして直ぐに、『呪毒:神殺し』を使った武器制作に取り掛かった。
◇◇
カーン! カーン! カーン!
鍛冶場には玉鋼を打つ音だけが響き、他の雑音の一切が消え去っていた。
カーン! カーン! カーン! ブシュッ!
叩いては延ばし、折り、血を飲ませてはまた延ばす。
俺は今、呪毒と玉鋼、そして神月の桜の花弁の合金である『神呪ノ怨嗟』を打っている。
この鋼の特徴は、地獄を連想させる程に赤黒く、常に黒いオーラを重く発し、見ているだけで気が重くなる。
そして何よりも、『鍛造の際に血が必要』という、ホラゲー的要素を持っている鋼だ。
血を飲ませる度にソルに回復してもらい、俺は淡々と鋼を打った。
カーン! カーン! カーン! ブシュッ!
飛び散る火花は桜の様に、血に渇く鋼は砂漠の様に。
腕をクトネシリカで切り、指先に血のポリゴンが伝う感覚にも慣れてしまった。
神呪ノ怨嗟が赤黒く輝くと、ソルは俺に回復魔法を掛け、待機する。
これを繰り返す事5時間。遂に刀が完成した。
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『神呪ノ血刀:満月二咲ク夜桜ノ舞』
Rare:──
製作者:ルナ
攻撃力:20
耐久値:∞
特殊技:【夜桜ノ舞】
付与効果:【神ヲ呪ウ毒】『不壊』『吸血回復:生命力』
『月光強化』【刀術補正:特大】『顕現』【降臨】
【使用者固定:ルナ】
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【神ヲ呪ウ毒】
・『毒』『猛毒』『劇毒』『絶毒』『麻痺毒』『麻痺劇毒』『木材腐食』『金属腐食』の複合効果。
『吸血回復:生命力』
・刀身に血を吸わせる事で装備者の生命力が500回復する。
・血は傷を付けた相手のみ有効。
【使用者固定:ルナ】
この効果に名前の書かれている者以外、触れる事すら叶わない。武器が主を決め、最後まで傍に居る事の啓示。
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【夜桜ノ舞】
・武器が血を浴びた時に任意で発動可能。
・血を武器に纏わせ、攻撃力を1,000上昇させる。
・装備者の血を纏わせる事も可能。
・1度切った場所に、不可視の刃による8連撃が追加される。
・不可視の刃の攻撃力は、装備者のDEXに依存する。
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白く、一片の穢れもない美しい鞘に納められた刀身は、鞘の美しさを裏切るかの如く、赤黒く、罅割れている。
「「ふぅ……お疲れ様」」
俺とソルは互いに労い、刀が出来た達成感に包まれた。
『ルナ様。お久しぶりでございます』
俺の手にある刀が、聞き覚えのある声で語りかけてきた。
「久しぶり、愛剣のおじ様。ようやく降臨出来たな」
『はっ。ルナ様とソル様に鍛え上げられたこの刀、私めには勿体ないと感じます』
「何言ってんだ。そこは貴方の特等席だ。俺の1番の相棒である愛剣に、最初に宿った付喪神に相応しい場所さ。
壊れる事が無く、捨てられる事も無い、貴方だけの席だ」
「私は回復魔法しか掛けてないから、何とも言えないけどね」
それは違う。例え製作者の欄には載って居なくとも、この刀は紛れも無く、俺とソルの合作だ。
例え回復魔法による手助けだとしても、その魔法に込められた気持ちが大切なんだ。
『いいえ。私は見ておりました。ソル様がルナ様を想う気持ち、そしてルナ様がソル様を想う気持ちにより、この刀が生まれた所を。この身は紛れも無く、御二方によって生み出された物です』
「あ、ありがとうございます?」
「ありがとう」
流石だ。やはり愛剣に宿った付喪神は良い人しかいない。
フー然り、おじ様然り。
俺や俺の周りの人を思ってくれる、優しい人だ。
『ははっ、事実を言ったまでですよ。それとルナ様、降臨しても宜しいでしょうか?』
「勿論だ。貴方の名前を決めたり、旧名を教えてくれ」
夜桜さん(仮名)は降臨すると、如何にも『執事長』と言えるような、威厳を放つ姿で降臨した。
白髪に丸眼鏡の長身の翁……この人、王女の所のセバスチャンを、少し老けさせた感じだ。
「初めまして。旧名を『トト』申します。それと、どうか私には砕けた口調でお願い致します」
「分かった」
トト......あれか。神龍が神界に連れて行かれた時に、声だけおばさんが言っていた事か。
この人も多分、上級神とやらなんだろう。
「よし、名前決めた。『イブキ』だ。空母伊吹から名前を取った」
「はっ。これより私は、『イブキ』を名乗られせて頂きます」
「決めるの早いね〜。元から決めてたの?」
「いや?イブキのこれまでを考えたら、空母伊吹と似たような......似てないような感じがしてな」
空母伊吹は元々、重巡洋艦として起工されたのだが、建造中に空母に変更されたのだ。
その伊吹を元に、アイアンソードから刀になったこの人を考えて、イブキという名前にしたんだ。
「アルス、来い」
「ここに」
「イブキ、コイツはアルスと言う。お前より先に執事になっているが、歴としてはイブキが長い。だけどこの家や周辺に関してはアルスが長い。
これからは2人で協力して、生活してくれ」
「「御意に」」
「ルナ君......執事キャラに慣れた?」
「慣れた。暇な時間にアルスをボコボコにしてたら、大分執事という存在に慣れてしまった」
あれから結構な頻度でアルスと遊ぶようになったのだ。
時には魔法を縛ったり、時には魔法だけで戦ったり......俺が時々負けるくらいには、アルスも成長した。
拳で語る言葉ってのも、中々に楽しいものだ。
「じゃ、明日のイベントに備えるか。今日はリル達と遊べて無いし、ソルをもっとモフりたいし、帰ろう」
「うん!」
「ではルナ様、どうぞ」
イブキが扉を開けてくれた。
コイツ......本物だ。モノホンの執事だ。俺が動く前にイブキが動いている......不味いな。
このままだと俺、ダダ甘人間になってしまう。
「あ、ありがとう」
取り敢えず今日は、ダダ甘人間でいよう。
そして、イブキの紹介やリルのブラッシングをして、イベント前日は過ぎていった。
「おやすみ、皆」
「おやすみルナ君」
「おやすみなさい、父様」
「ぐっどないと。パパ」
ようやくですよ.....ようやく愛剣のおじさん(お爺さん)が出てきましたよ。
ヤンチャなアルスに変わって、イブキさんはマトモな執事然とした方です。
次回から本格的にイベントが始まります。
お楽しみに!
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