夏だ!海だ!イベントだ!
イベントじゃ!
「ただいま〜なのじゃ〜」
「おかえり〜なのじゃ〜」
家に帰ると、ソルが庭でしゃがみこみ、何かをしていたのを見かけたので後ろから近付いてみた頭を撫でてみた。
「な〜にしてるの?」
「ん〜?これはね〜......ほら、見て」
「どれどれミファソラ?」
ソルが指した場所を見ると、庭の芝生に何かが生えていた。
「何ですか?これは」
「これはね......何だと思う?あ、鑑定は使っちゃダメだよ」
「えっ......この名状しがたい形の植物は......何だろ。トレント?」
「う〜ん......大まかに言えば間違ってるけど、厳密に言えば合ってるのかな」
「何やそれ......でも、大まかに言えば合ってる、か」
この変な苗木......苗木か?どっちかって言うと芽の様な見た目か。
大まかに言えばトレントだけど、厳密に言えばトレントでは無い、と。
よく分からない。
答えを聞いちゃおう。
「答えはなんと!『ピクシー』です!」
「うっ......感謝と恐怖の象徴か......でも何でここにそんな奴が?種でも拾ったか?」
「ううん。これはテイムしたの。いや、正確に言えば召喚?」
「召喚?何?このゲームって召喚獣の要素もあるのか?」
俺、テイマーからサモナーになれるのかな。なる気無いけど。
でも召喚獣ってロマンあるよなぁ。自分だけの最も強い最強なパワフルスーパー召喚獣とか、ワクワクするよなぁ。
「これ、妖術のやつね。稲荷ちゃんから教えてもらった『式神召喚』って言うのが、ようやく使えるようになったの」
「妖術か。ってことはコイツ、モンスターと言うより妖怪か?」
「それはそうなんだけど、ピクシーだから妖精かな。今の状態は休眠状態でね、太陽光を浴びて力を貯めてるの」
「充電式か。充電式神か」
「ふふっ、そうだね!」
耳をピコピコさせて可愛いなぁ。よし、もっと撫でちゃお。
あ〜、撫でてたら気にしたらダメな言葉が浮かんでしまった。これだけは口に出しちゃいけないな。
最悪、ソルを傷付けてしまうから。
「ルナ君。今さ、『このピクシーは何に使えるんだ?』って思ったでしょ」
「敢えて俺が言わなかった事を言うスタイル、流石です」
「ふっふっふ。ルナ君の撫でるペースから推測したまでですよ......それでこの子はね、庭の掃除のお手伝いかな。フーちゃん達の仕事を減らして、代わりにこの子が入るの」
「成程。戦闘に関しては?」
「ダメダメだね。STRが5パーセント下がるデバフしか使えない」
「おっふ......お掃除妖精だな」
「でしょ?えへへ」
でも、このピクシーが大量に居れば、また話は変わるんだよな。式神召喚とやらがどれ程の難易度なのかは分からないが、今までやっていなかった所を見るに、相当難しいのだろう。
余計な事は言わないようにしよう。
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『運営チーム』より、イベントのお知らせです。
現実時間で7月1日〜8月31日に、サマーイベントを実施します。
タイトル『夏の思い出』
イベント期間に入手出来るアイテムを使い、武器や防具、服、アクセサリーからインテリアの作成。イベント限定テイムモンスターやイベントレイドボスなど、様々な要素が盛り込まれております!
詳細▼
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「「なんか来た」」
イベントの通知のようだ。限定アイテムが何かをまだ見ていないが、中々に良さげなイベント......かな?
「ルナ君ルナ君!水着、水着が作れるよ!」
「え?マジで?これまでの水着モドキではなく、本物の水着が作れるのか?」
「うん!詳細のここ、ここ見て!」
そう言ってソルがウィンドウをぶん投げてきた。危ね。
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詳細5:『衣服に関するイベントアイテム』
本イベントにて入手出来る『シェルフラグメント』を使用することで、水中にて強力な効果を発揮する水着が作れます。
使用方法は『シェルフラグメント』を粉末にし、生地に振り掛ける事で水着として使用可能になります。
『裁縫』スキルをお持ちでない方は、各街にある『服屋』より、素材と代金を渡す事で水着が入手出来ます。
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「フムフム。さて、シェルフラグメントなる物はどのようにして手に入れるので?」
「それはこれ!」
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詳細1:『イベント限定モンスターに関しての情報』
本イベント期間中、様々なイベントモンスターや限定宝箱があります。
<地上>
・大きな貝の形の宝箱『シェルボックス』
・シェルボックスに擬態するモンスター『シェルミミック』
・森の木々に止まっている『蝉時雨』
・夜に出現する『幽冷』
・波打ち際に稀に現れる『ラピスクラブ』
・倒すと大量の経験値が手に入る『スケルトンドラゴン』
<海中>
・出血攻撃を扱う『エンドルフィン』
・大きな貝の形の宝箱『シェルクレート』
・猛烈な速度で泳ぐ『横ツナ』
・猛毒攻撃を扱う『ミミックオクトパス』
・イベントレイドボス『クラーケン』
上記のモンスターは全て『シェルフラグメント』をドロップします。
また、『クラーケン』は何度も出現するので、腕試しでチャレンジしてみましょう!
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「名前で遊んでんな〜、運営」
「ツッコミどころ多いよね。私も思った。えへへ」
「可愛いなぁ。もう」
ソルの頭を撫でながらモンスターについて考えた。
その結果、取り敢えずクラーケンをぶちのめせば良いと理解したぞ。
イカかタコかは知らんが、焼きイカとかタコ刺しにすれば美味しくシェルフラグメントをドロップしてくれるだろう。
って言うか、シェルフラグメントって何?
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詳細2:イベントアイテム『シェルフラグメント』について
本イベントで出現するモンスターから入手出来る『シェルフラグメント』は、様々な用途があります。
代表的な使用例は、『武器制作』『防具制作』『水着制作』
『アクセサリー』『インテリア』とあります。
使い方は千差万別、装飾として貼り付けるも良し、粉末にして効果を抽出するも良し。使い方はあなた次第です!
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「広いなぁ。ソルの心くらい広い説明だ」
「小さいね!」
「そんな事ないさ。俺をこうして、優しく包んでくれる、大きな心だよ」
そう言って俺はソルの手を握り、胸の前まで持っていった。
この小さな手が俺を救い、この小さな手が凄まじい力を持ち、この小さな手が、俺は大好きなんだ。
「うへへ......ぎゅ〜」
「はいはい」
ソルが立ち上がってハグを求めて来たので、俺も立ち上がって応える。
あぁ、暖かい。優しく心を温めてくれる、そんな温もりだ。
「あの......ソルさん?」
「うゅへへ......あったか〜い。大好き〜!」
中々ソルが離れようとしない。不味いぞ。
ここは外から丸見えの庭だ。もし今、庭を覗かれでもしたら大変な事になる。
これ以上続けるなら、流石にリビングに......
「あ」
「あ」
「「「「「「あ」」」」」」
庭の先に、マサキが......いや、マサキのパーティとニヒルのメンバーがやって来ていた。
う〜ん、死んだな。俺。
「えへへ〜、ルナく〜ん......えへへへ〜、大好きだよ〜」
ソルはまだ気付いていない。ずっと抱き続けるのがこんなに大変だとは、今まで思った事も無かった。
でも残念だったな!俺はもう、恥ずかしさメーターが振り切っているんだ。今なら何をしても、恥ずかしくない!!
「俺も大好きだぞ。でもな......アレを見てくれ」
「え〜?なに〜?プレゼ......ン............んんん!!」
ソルが現実を受け入れられず、俺に抱きつくことで視界を遮った。
「『フラカン』......やぁ皆。ウチまで何か用か?」
俺はそっとソルを抱きしめたまま空を飛び、皆の所へ飛行した。
「あ〜、その〜......なんだ。日を改めた方がいいか?」
「いや?別に気にしなくていい。ちょっとレアな、ソルの甘えん坊モードだからな。リルやメルに比べたら貴重だから、このまま聞くよ」
「うぅぅぅ」
ソルが唸りながら頭を擦り付けてくるが、今の俺にとってはご褒美でしかない。
いいぞ?もっと甘えてくれ。甘々になってくれていいんだぞ?
「で?何用だ?ニヒルも居る事を考えるに、相当デカい事なんだろ?」
「そうだよ。一応、発案者は僕とマサキ君ね」
「翔とマサキか......イメージ的に、修学旅行で女湯を覗く計画を企むコンビみたいだな」
「「何でだよ!!」」
「いや、絶対に共感者居るって。なぁピギー、ガーディ君。どう思う?」
そして2人は互いに頷いてから口を開いた。
「「まぁ......分かる......」」
やっぱりな。
マサキと翔って、少し似ているところがあるんだ。
表情の裏にある悪戯心とか、かなり似ている。
「ほらな?」
「「..................」」
「諦めな。それで、何がしたくてここまで来たんだ?俺とソルの貴重なハグシーンを見たんだ。絶対に吐けよ?」
ソルがこんなに弱々しく抱きついて来ているんだ。俺は忘れないぞ?......別の意味で。
「うぅぅぅ......恥ずかしいよぉ......」
「大丈夫だ。俺が隣に居るから、ゆっくり立ち直るんだ」
「......うん」
やばい、可愛い。皆にバレないようにソルの耳を触ってるけど、 このモフモフが凄く癒しになる。最早ガッツリと触ってやろうか。
「ルナ、目的は単純だ。僕達とレイドボスに挑んで欲しい」
「どいつ?」
「クラーケンだぞ」
「なら断る。まだ始まってすらいないイベントのレイドボスに、今から備えるとか嫌だよ」
自分の目で動きを見て、自分なりに回避方法を考えて、そうして時間をかけて倒していくのがゲームという物だろう?
何故最初から俺の元へ来るんだ。
1週間も待てないようじゃ、クラーケンとの戦いで、相手の攻撃を待てなくなるぞ?
「いいか?俺はレイドボスってのは、最初に1人で行く物だと思っている。運営の情報にもあったように、『腕試し』になるからな。
相手のを力量を把握し、自分の出来る事を把握し、そこからようやく、ボス戦が始まるんだ。
そして、どうしても勝てないと思った時。周回が目当てのプレイヤーが集まった時。そこで、他プレイヤーとの協力が必要になると、俺は考えている」
自分でやろうとしないで、最初から誰かに頼るの......良くないと思わないのかな。
確実に、100パーセント無理だと分かっているなら別に良いが、『もしかしたら』がありそうな相手だ。自分の力を信じて、1度は1人で挑むものではないか?
そして2人が黙りこくっているので、アテナに聞く。
「アテナ。俺が今言った事は間違ってるか?」
「いんや。お前の意見は最もだし、運営からしたら1番良い考え方だと思うぞ。
自分達が作ったゲームを、小さく小さく経験を積みあげる事で上に登る......控えめに言って、最高だろ」
「そっか。ありがとう」
やっぱり裏の考えとしては、俺とアテナは似ているな。
戦闘狂の犬ゴリラから、優しい犬ゴリラに進化したな、アテナ。
「じゃ、クラーケンに勝てなくなったらまた来い。それに相談とかだったら受けるから、フレンドチャットで言ってくれ。いつでも答えよう」
「ありがとう」
「助かるぜ」
「ん。じゃあ戻るから。ボス前のレベリングをするなら、ドゥルム鉱山を進むと出る、裏ドゥルム鉱山がオススメだ。特に『ララ・バジリスク』はな。お前らの活躍の起爆剤になるだろうよ。またな」
最後に情報を渡し、俺はソルを抱き締めたまま家に戻った。
「復活した!」
「そりゃ家だしな。好きなだけ抱きつけるぞ?」
「なら今すぐ!!」
「はいはい」
そうして、ひっつき虫となったソルと共に、イベントまでに必要な物をリストアップした。
「......頑張るか」
「大丈夫。私も居るから、絶対成功させるよ」
「あぁ。イベントまでに、これを終わらせないとな」
俺とソルは、夏の思い出が始まる前に、『毒』を作ることにした。
マサキ君と翔君、断られちゃった。
ルナ君はノーが言える人なので、自分の流儀と相手の事を思って断るんですよね。
ですので、もしあの場にアテナが居なければ、もしかしたら結末は変わっていたのかもしれません。
では次回、『新たな武器』お楽しみに!
ここのところ1日1本ですが、どうかお許しを(´;ω;`)