執事の悩み 後編 上
どうしてもイチャついてしまうんですよねぇ.....
◇ルナside◇
王都から東に向かって飛び、ペリクロ草原を抜けると、大きな海に出た。
この、青い大地とでも呼ぶべき海は、見る者の悩みなど、ちっぽけなものだと言ってきそうなものだ。
俺は堪らずお姫様抱っこ状態のソルに言ってみた。
「おぉ!海だ!海だぞソル!!」
「ふふっ、海だねルナ君!」
綺麗な笑顔で返された。ずっとこの笑顔をさせてあげられるように、頑張っていこうか。
「父様、あの砂浜で遊ぶのですか?」
「そう......だな。人も殆どいないし、アルスと戦うのにも丁度いい」
広い砂浜には、チラホラとプレイヤーが見えるが......何百メートルか間隔があるので、大丈夫だろう。
「アルス君と戦うの?」
「まぁな。本気で殺しに来るらしいから、俺も楽しみなんだ」
俺がそう言うと、ソルは俺の首に手を回してから、潤んだ瞳で訴えてきた。
「死んじゃ......やだよ?」
はい、死ねなくなりました。ありがとうございます。
何なの?この破壊力は。
首から伝わるソルの体温とか、ルビーより綺麗な紅い瞳とか、重くないのに存在を感じさせてくれるところとか......もう、全部好き。
「任せてくれ。友達が親友になるくらいだ。アルスと戦って、人柄や性格なんかを見てくるよ」
「うん......見てるからね。頑張って」
「勿論。ソルが見てるなら、俺も全力で戦わざるを得ない」
「もう....大好き」
「俺もだぞ?お姫様」
そうして砂浜に降りると、俺はさっそくアルスを呼び出した。
「主、早速やりますか?」
「待て待て。フー、シリカ、セレナ。降臨じゃ〜」
俺は付喪神ズを降臨させ、砂浜に集めた。
「お〜!海ですね!」
「海だね!強いモンスターとかいるかな〜?」
「いるわよ?きっと。私は雑魚狩りじゃないと怖いから、その点、海は半分しか活躍出来ないわね」
あ、もしかして漁に使えるの?セレナって。
「よし、これでいいか。アルス、お前の武器はなんだ?」
俺はソルをゆっくりと降ろしてから、アルスの武器を聞いてみた。
「我の武器は、何でも......ですね」
「何でも?」
「はい。我の作る雷から、武器が作れますので。我はそれで戦います」
「おぉ!いいな、それ!俺も真似するとしよう」
「真似?」
俺は『指南書:桜器』を取り出し、使用した。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
技術『桜器』を習得しました。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
「よし、これで良いだろう。アルス、これで俺の武器も『何でも』になった。まぁ......花びらの数次第だけど」
「今のは......」
さぁ、気になる桜器ちゃんの実力はこちら。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
【桜器】
神の御業とも呼べる錬金術を扱えるようになる技術。
1枚の花弁から1つの武器を創造し、1枚の神の花弁からは、
1つの聖具、魔具を創造する。
その身に限界など無く、使用者の意のままに振れる武器は、
維持に魔力を消費する事だろう。
『新月の桜の花弁』消費時、桜器の錬成。
『神月の桜の花弁』消費時、宵斬ノ桜器の錬成。
武に通ずる者が扱えば、それは武神とも例えられよう。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
桜器とは、錬金術の技術の1つらしい。でも、血神の武器は、れっきとした『血魔術』から作っていたが......違いが分からんな。
「ソル、見てて。こうやって新月の方を手に出すじゃろ?」
「うん」
「で、このちっちゃい花びらに......『太刀』と言えば、ほれ」
俺は新月の桜の花弁に桜器を使い、桜色の刀身をした太刀を作った。
「凄い!綺麗だね!」
「だろ?ただ、毎秒......幾つだ?これ。10かな。それくらいMP持ってかれる」
「って事は......サーチとの併用は」
「無☆理」
正確に言えば『範囲が狭くなる』って感じだな。これじゃあ半径100メートル程しかサーチ出来な......十分っすね。
「あらま。それじゃあその刀、強いの?」
「ん〜微妙。ほら」
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『桜器:人知れず咲き誇る太刀』
Rare:15
攻撃力:550
耐久値:∞(MP消費)
特殊技:〖鏡花水月〗
付与効果:『桜器』『斬』『魔纏』
◇---------------------------------------------------◇
『桜器』
・『新月の桜の花弁』から作られる武器。
・耐久値は、絶えず消費するMPになる。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「シンプルだね。シンプルに強いね。シンプルに綺麗だね」
「シンプルお姉さん、帰っておいで」
「お姉さん......良きかな。帰ってきました。ソルお姉ちゃんです」
ソルが耳をピコピコと動かしながら帰ってきた。可愛い。
「はいはい。ソルお姉ちゃんは可愛いですね〜」
「くっ!......うへへ。もっと撫でてくれたまえ」
「はいはい。ソルは立派なお姉ちゃんですよ〜、可愛いですよ〜」
「えへへへへ」
そしてソルを撫で終えると、皆とは少し離れて、俺はアルスと向き合って言った。
あ〜あ。もっとソルを撫でていたかったな〜
「じゃあアルス、やろうか」
「御意に」
「審判はフーが頼む」
「分かりました!」
ソルが見てるんだ、頑張ろう。絶対に、絶対に適当にやらないようにしないと。
そう、これは殺し合いだ。リルの時とは少し違うが、それでもこれは殺し合いなんだ。
「では、両者構えてくだすぁい」
「......」
「......」
待て、ツッコむな。フーがポンコツなのは今に始まった事じゃない。
おいアルス、肩がピクピクしてるぞ。大丈夫か?
「ごほん......では。始め!」
フーから合図が来ると、アルスは体に雷を纏った。
「主よ......我は本気でいきます」
「あぁ。是非とも本気で来てくれ。じゃないと楽しめないからな」
「......主は本気で来てくれますか?」
「え?まぁ、本気だぞ?早くしないとリル達と遊ぶ時間が短くなっちゃうからな。本気で首を落としにいくぞ?多分」
「......多分、ですか」
「いやまぁ、本気で来る奴ってさ......もう殺しに来てるはずなんだよなぁ。『斬』」
バチィ!
「ッ!」
俺はアルスに一気に近付き、首の高さで刀を真横に振るった。
「あらあら、肩から血が流れてるではないか。どうしたアルス。早く来い。雷神とはそんなものか?」
「いえ......『雷器』......いきます」
アルスは雷で作られた直剣を持ち、突っ込んできた。
これは......突きに見せかけた切り上げかな?なら横に避けよう。
ブォン!
速いな。見てから動いていたら真っ二つにされていたぞ。
速い......速い、ねぇ?なら動きを止めてやろう。
「アクアスフィ「させませ......」
パチン!
残念、その詠唱は完全にブラフだ。早めに決めよう。
「『斬』」
「『雷盾』!」
バチバチと音を立てながら、アルスは首に雷の盾を出現させ、俺の刀を弾いた。
「『魔糸術:停糸』『戦神』『魔刀術:炎纏』」
「ぐっ!これしき......んなっ!」
「『蔦よ』〖鏡花水月〗......王手だ」
クロノスクラビス、魔糸術、蔦ちゃんの拘束からの鏡花水月。
これで決まらなかったら、また1から練り直そう。
「『不死鳥化』『焔』」
俺はアルスの背後に回り込み、真っ赤に染まった太刀をアルスの心臓に突き刺した。
「負......けま......した..........」
「うん。俺の勝ちだ。再戦はいつでも受け付けよう。ソルをモフっている時以外、だけどな」
そしてアルスは光となって、俺の中に戻って行った。
「勝者、ルナさん!」
「いぇ〜い」
案外あっさり勝ててしまったな。まぁ、理由は分かるが。
アルスはスピードタイプ故に、剣で受けたら勢いで押し負けるかもしれない。そう思い、剣で受けなかったのが俺の勝因だろう。
アルスの雷は、防御に使う面には大丈夫だろうが、攻撃で使おうとすれば、多分剣で受けた瞬間に痺れるだろう。
カラーズの時のように、離れた位置から痺れるのではなく、完全に間合いで痺れたら......まぁ死ぬわな。
これからはアルスと戦闘訓練でもしようか。攻撃の雷に防御の雷、色々と学べるかもしれない。
「お疲れ様、ルナ君。あっさりしてたね」
「ありがとう。まぁ、鏡花水月もあったし、それも原因だろう」
「それ!それ気になってたの!その特殊技ってなんなの?」
「体験した方が早いぞ。ほら、〖鏡花水月〗」
俺は鏡花水月を使い、ソルの背後に回った。
「ルナ君?」
ソルはまだ正面を向き、首を傾げている。
「......ここだぞ」
「ひゃう!」
ソルの後ろから抱きついて、耳元で囁いてみると、とても可愛い反応が返ってきた。
「あれ?目の前のルナ君は......触れない!」
「そう。これは俺の幻影を作り出す特殊技だ。見えるが触れない。聞こえるが触れない。斬っても斬れない......良い技だろ?」
この技、フェイントなどの不意打ちには強いだろうが、1度バレたらもう使えない、という欠点がある。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
〖鏡花水月〗
・MPを500消費し、使用者の幻影を作成する。
・1度幻影と認識されると、その相手には再使用できない。
・幻影を作成した後5秒間、完全に透明化する。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「アレだね......エッチだね、これ」
「それはソルの思考がやばいぞ。どう考えても戦闘用だろ、これ」
「でもこれ、お風呂とか覗けそうじゃない?」
「安心しろ。ソルなら一緒にお風呂に入れば全て解決する」
「確かに!!!」
全くもう......大体、昔は一緒にお風呂に入っていただろうに。
......小2くらいの話だけど。
今だとめちゃくちゃ緊張するだろうな。ドキがムネムネする。
「何言ってんですかね、あのバカップル」
「面白いよね!あはは!」
「愛されてるわねぇ〜」
「ここまで来ても、まだ臆病ですね。母様」
「ん。ママはもっとパパをしんじるべき」
うわ、なんか横からショットガン撃たれた。俺にもソルにも刺さりまくってるんだけど。痛い、痛いよぉ!
「もう、私はルナ君を信じてるよ?ただ、信じた上でそういう事をするのかを聞いてるの。少年心を失わずにいるのか、それとも大人の考えをしているのか。それを知りたかったんだよ!」
「で、ソルさん。答えはどうでした?」
「想像の5倍はエッチだった!」
「それは......ルナさん、どう思います?」
そこで俺に振るか!?このピンク狐をどうしろと!?
「フー、お前自分で火をつけた松明を俺に向かってぶん投げてきたな。俺は今日いっぱい、お前を許さないだろう」
「いやいや!ソルさんをそんな思考にさせたルナさんが原因でしょう!?」
「いやいや。ソルに感想を聞いたフーが原因だろう?」
「なっ!それなら、ルナさんを信じるべきと言ったメルさんはどうなんですか!?」
「お前、メルは子供だろ?そんなメルに責任を擦り付けるのか?大人気ないなぁ、フーは」
「かぁ!あぁ言えばこう言いますね!?大体、ソルさんはルナさんの女でしょう?」
「それがどうした。ソルは俺の女だ。何か文句あるなら言ってみろ。その文句、全て叩き斬ってやるからな。
というか早くしてくれ。ソルの尻尾が俺をシバいてきて痛いんだ」
現在、後ろからソルに抱きついているのだが、ソルの尻尾が俺の横腹をぶん殴ってくるのだ。モフモフのサラサラだが......尻尾の骨がとても痛い。
実はHPが10程、一撃で持っていかれてる。
どんな威力で尻尾振ってんだよ、ソル。可愛すぎだろ。
「はぁ......何か、言いたい事全部忘れました」
「そうか。ところでソル、尻尾抑えてもらっていい?」
「む、無理!ルナ君が抱きついてる限り、おさまらないの!」
「......離れたくないしなぁ。どうしようか」
不味いな。究極の二択だ。
1、尻尾が痛いのでソルから離れる。
2、尻尾を我慢して抱きつき続ける。
ちくせう。1も2も、同じくらいの強さをしてやがる......!!
こんな時、どうすれば......あ!アルスに聞こう!
『アルス。おい、アルス!聞こえるか!』
『はい、主。如何なされましたか?』
『ここでソルから離れるか抱き続けるか、どっちがいいと思う!?』
『......主の好きな方にすれば良いかと』
『それが決めれないから聞いてんの!なぁ、どっちがいいかな』
『う〜ん......分かりません。申し訳ありません。このアルス、主からの命を遂行することが出来ません。ですが、1つ、良い案があります』
『何だ!?』
『思い切って接吻すれば良いかと。さすれば意識が乱れ、尻尾も落ち着くでしょうし、抱き続ける事も出来るかと』
『お前......天才だな』
『いえ。主の方が、より良い選択を取れるでしょう』
『いや、今回は助かった。ありがとな!』
『復活の方が出来れば、また何時でもお呼び下さい。このアルス、主に付いて参ります』
「ソル、ちょっとこっち向いて」
「なぁに?......んむ」
俺はアルスの教え通り、ソルにキスした。可愛いな。何秒くらいすればいいのか、聞くのを忘れていたな。
とりあえず10秒くらいでいいのかな?分からない。
「「「「「あ」」」」」
「ん〜!んっ............」
ソルが強制ログアウトされてしまった。
「何が原因でソルは落ちたんだ......!!」
「どう考えてもお兄さんが殺ったんだよねぇ」
「今のは父様が不意打ちしましたからね」
「たいせいのないママには、クリティカルヒット」
「しかも、かなり長かったしね......アレは幸せでしょうね、ソルも」
くっ!皆して俺が原因だと言い張る!酷......くない!
「ルナさん、ソルさんに会いに行って下さい。それと、ごめんなさい。まさかキスしに行くとは思いませんでした」
「えっ......あ〜、うん。じゃあ、行ってきます」
でも、もう少し海で遊ん「早く行ってください」
「は〜い......アルス、後で一緒に反省会だ」
『......御意』
そうして俺は、ログアウトした。
はい、桜器さんの登場です。
ここに来て『新月の桜の花弁』と『神月の桜の花弁』が出てきました。
違いは宵斬桜との戦闘にて、メルが拾ったのが『新月』ルナ君がドロップで入手したのが『神月』です。
次回は執事の悩みが解決したのち、アレが始まります。
お楽しみに!