執事の悩み 前編
今回は完全アルス視点のお話です。
この『執事の悩み』でのメインキャラです。
楽しんで頂けると嬉しいです!
◇アルスside◇
我はアルス。旧名、インドラ。
神界にて雷神として、戦神として生きていた神だ。
だがある日、我は下界に堕ちたのだ。魔物として。
理由としては、良き相棒であり、良き好敵手であるヴリトラが下界へ降りて行ったのが原因だ。
ヴリトラとは何万年も共に戦い、共に技術を磨き、共に研鑽を積んで来たのだ。そんな相棒がある日、我から逃げるように下界へ行った。
それに我は激怒し、狂い、魔に堕ちた。
憎悪に身を焦がしたのだ。当然の報いだろう。
今まで共に居た者が、我から離れていったのだ。
これまでも喧嘩や言い争いなど、見るに堪えない様な事は何度も経験したが、離れる事は無かったのだ。
自分達の何が悪かったのかを最終的に認め合い、受け入れ、共に成長していたから。
そんな相手が、ある日、完全に我から離れた。
我の心は深く、大きく揺らぎ、心には怒りと恨みの薪をくべてしまった。
それ故だろう。我が虎として下界に堕ちたのは。
◆◆◆
「フー様。少々よろしいでしょうか」
「どうしましたか?」
「我に、主の事を教えて欲しいのです。我はここに来てから1番日が浅い上に、それほど主の事を知らない......そう思い、1番最初に主に仕えたという、フー様に主の事を教えて頂きたいのです」
「ルナさんについて、ですか?」
「はい」
「そうですねぇ......ルナさんは何と言いますか、不思議な人ですね」
「不思議......」
「はい。戦闘に関しては凄まじい速度で思考をするんですけど、それ以外に関しては鈍感なところが多いんですよ。例えば料理。ルナさんってば時々、買い物を忘れちゃうんです。以前に自分から『○○を買おう』って言っていたのに、10秒後には忘れていますからね」
「それは、まぁ」
「そんなルナさんですけど、戦闘に関しては、アグニさんも認める程強いです」
「アグニ様!?あの戦神の最高神にもなった!?」
「えぇ。ノリで因子も渡していましたし、相当気に入られてますよ?ルナさんは」
「それ程まで......やはり、我と戦った時は全力では無かったと......」
「当たり前ですよ!あの人、アルスさんとの戦いの時、手を抜くにも程がある戦闘をしていましたよ?魔法で遊ぶわ弓で遊ぶわ、余計な事考えて攻撃は食らうわ......中々に酷かったです」
「あれで......遊び」
「まぁ、私が見ているのは......後は人柄でしょうかね」
「人柄、と」
「はい。ルナさんは語り人より付喪神を大切にしてくれるんです。以前、付喪神の宿った武器を、ルナさんが強盗犯から取り上げたんですよ。それも、ボロボロの武器を」
「ほう」
「それをルナさんは......どうしたと思います?」
「そうですね......主なら、自身の武器に移させた、とか?」
「うわぁ、最悪の回答ですね。正解は『修理し、補強し、持ち主に返した』のですよ。その際、付喪神の方には優しく接して、武器のために、わざわざ自分で素材を取りに行きましたからね」
「なんと!」
「いやぁ、中々に格好良かったですよ。私も刃こぼれとかするなら、是非ともルナさんに治してもらいたいですね。えぇ」
「......?」
「あ、今のは気にしないで下さい。創造神に怒られるのは、もう懲り懲りなので」
「そう、ですか」
「とまぁ、そんな感じで、ルナさんは優しい人ですよ?アルスさんを含め、私達を大切にしてくれますから」
「大切に......ですか。我は主に仕える、唯一の男ですけど、大丈夫なのでしょうか......嫌われませんかね?」
「何言ってんですか。ルナさんはソルさん一筋なので、私達すら女として見てないんですよ?中々に傷つきましたけど、あの愛の深さなら仕方がないと、そう思いましたよ」
「成程。では今度、主と話してみようと思います」
「えぇ、それが良いでしょう。頑張って下さいね!」
「はい。ありがとうございました、フー様」
「いえいえ〜!」
◆◆
フー様に主の事を聞いてみたが、イマイチ良く分からなかった。
ただ分かったのは『最高の戦神も認める強さ』と『付喪神に対する優しさ』だ。
後は『忘れっぽい』という事らしいが、我はそうは思えない。
いや、そう思うほど、主と共に過ごしていない。
こうなれば、次に過ごした時間の長い、シリカ様に聞いてみよう。
我と同じ戦神であり、上級神でもあったシリカ様なら、何か分かるかもしれない。
◆◆
「シリカ様、聞きたい事があるのですが、よろしいでしょうか」
「アルス君?なになに〜?どしたの?」
「主の事について、聞きたいのです。シリカ様は主を、どのようなお方だと認識していらっしゃいますか?」
「ん〜とね〜、優しいお兄ちゃん、かな?あと強いし上手い!」
「上手い、とは?会話ですか?」
「は?何言ってんだ?お前。文字通りの意味で、戦闘の上手さだよ。アルス、お前は経験した事があるか?お兄さんの上手さを。人間が神獣を殺す戦闘を」
「ッ!?......無い......です」
「だろうな。じゃないと『会話ですか?』なんて最悪な事、言わないだろうからね」
「すみ......ません......」
「ううん!じゃあ、お兄さんの戦闘の上手さについて話そっか!」
「は、はい。よろしくお願いします」
「うん!まずね、刀の扱いの上手さかな?アルス君、君は刀を使うなら、納刀している時の刀の向きは、どうしてる?」
「刀の向き、ですか?......すみません、分かりません」
「はぁ......まぁいいや。えっとね、刀は基本、刃を上に向けて装備するんだよ。これは抜刀の速度の問題なんだけど、お兄さんは抜刀術をメインに使うからね。速度重視なんだ!」
「そう、なのですね」
「それで、この前あった桜の幻獣との戦いで、お兄さんは基本的に抜刀した状態で戦っていたんだ!フー姉ちゃんは刃を上に、私は下に向けて、ね」
「シリカ様のみを下に向けて?」
「そう。お兄さんは自分の癖を分かっている。お兄さんはフー姉ちゃんを基本的に使うんだけど、私は防御や魔刀術でよく使われるの。この違い、分かるかな?」
「......攻撃速度の違い、ですか?」
「半分正解かな。1つはさっきアルス君が言ったように、攻撃速度の違い。正確には抜刀の速度ね。お兄さんはね、攻撃に関しての速度は『最速』を狙うけど、防御に関してはそうじゃないの」
「何故ですか?」
「多分、フェイント対策だと思うよ。お兄さんは自分の癖で、つい早めに防御しがちになる事を理解しているの。だから.....っていうかアルス君。早めの防御を敵に悟られていたら、どうなると思う?」
「相手がタイミングをずらし、防御の隙を突く.....ですかね」
「そ。それを理解しているから、私は敢えて『ゆっくり抜刀される』の。相手の攻撃に完璧に合わせて弾き、続く二の太刀で相手を斬る......もうね、見ていて最っ高に楽しいの!」
「なるほど。では、もう片方は?」
「それは単純。『攻撃力の違い』だよ!私、クトネシリカは布都御魂剣より強い。だから、お兄さんは『確実に決める』時は、私を使うの。魔刀術の補正や強さだけを見たら、実はフー姉ちゃんの『神度剣』の方が強いんだけどね」
「そうなのですか?具体的にどれ程かを聞いても?」
「最高の状態で、私の6倍は強いよ。フー姉ちゃんの気が乗らなかったら、私より弱くなるけどね!」
「それ程ですか!?今までにその剣を抜いた時は、どのような敵だったので?」
「ヴリトラだよ。あと神龍もかな?まぁ、神に近い者を斬る時に、お兄さんは神度剣を抜いたね!あと、あの刀は不安定だからね。ここぞと言う時しか使わないんだ!」
「ヴリ......トラ......!!」
「あの子はもう助からないよ。ダンジョンボス......不死の呪縛とも言うべきかな?もうあの子は、この世が果てる時まで、外に出ることは無いよ」
「......そうですか」
「じゃ、それぐらいかな!」
「ありがとうございました」
◆◆
恐ろしい。やはりシリカ様はアレス様そのものだ。姿形は変わろうと、その根源は紛れもなく『戦神アレス』だった。
我が誤った回答をした時のあの威圧感、正に我の知る戦神だった。
そんな方がメイドをしているなんて、主は一体、何者なのだろうか。
我はまともに主と戦っていない故、主の強さも上手さも分からない。
我が主を理解する日は、来るのだろうか。
ブチ切れシリカ、怖い( º言º )
次回はログインしたルナ君も出てくるので、お楽しみに!
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