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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
第2章 アップデートと仲間
24/492

エリアボス、マネーレトレントと月斗の過去

めちゃくちゃ長いです。前回も長かったです。すみません。今回は月斗の過去も書いているので、内容はギッチギチです。誤字脱字がありましたら教えて下さると助かります。

 

 昨日(雷の曜日)は大変だった。


 狩の後、街に入ってソルに宿屋を紹介した。

 そして今、宿屋からソルと一緒に出たとこだ。


 うん、別に何も起きてないよ? そもそもシステム的に起こせないし......



「今日はマネーレトレントの討伐に行くぞ」


「いよいよだね。って言っても始めたの昨日だけど」



 そうだな。しかもリアルの方じゃまだ『今日』だ。



「ま、これと言って準備することはない。ひとつ不安なのはマネーレトレントが何処にいるかだな。北に『アルトム森林』がある事だし、北の方にいると信じようか」


「そうだね。あ、朝ごはん食べようよ」



 それもそうだな〜。あ、そういえば



「俺、ユアストで何も飲んだり食べたりした事ないな」


「えっ?」



 ソルが『お前マジか......』って目を向ける。



「言い訳をすると、満腹度とかまだ実装されてないじゃないか。だから必要無いかな〜って」


「そうだとしても、こっちで食べない習慣がついたらリアルでも食べなくなっちゃうかもしれないでしょ? ダメだよ。ちゃんと食べなさい」



 あぁ......ソルの、いや、陽菜のオカンモードが入った。



「はい、分かりました。3食とまではいかないが、宿に泊まったら朝ごはんは食べることにするよ」



 それで許しておくれ......特に今は、巫女服の為にお金が必要なんだ。



「それでいいよ。と言うより、どこかのお店で『料理』スキルを習ってくるよ。私がルナ君のご飯を作るね!」



 あぁ、天使がここに居る......!!!



「ありがとう。その時は是非とも頂こう」



 誰かが作ったご飯を食べること自体、久しぶりだ。高校に入ってから1人暮らしだからな。ご飯も結構寂しい。



「ふふふ......これであっちでもご飯を......」


「ん? なんて? 聞こえなかった。すまん」


「いいの! 気にしないで!」



 ラブコメでよくあるようなやり取りをしつつ、適当な屋台を探す。



「お? アレなんかどうだ?」



 そう言って指を指したのはサンドイッチを売っている屋台だった。



「サンドイッチは良さそうだね。栄養を考えても、食べやすさも問題ない。良いね!」



 Oh......ママァン。


 ちょうど店の前から客がいなくなったので注文した。



「すみません、これとこれ、ください」



 そう言って注文したのは普通のハムとレタスなんかを挟んだサンドイッチと卵のサンドイッチだ。



「はいよ! 彼女と仲良く食べな!」



 店主にそう言われながらサンドイッチを受け取った。このサンドイッチ、かなりデカい。食パン2枚分くらいかな?


 そしてお値段なんと! 1つ150L!



「ありがとうございます。でも、ちゃうねん」



 関西弁が出てしまった。東京に来てから封印していたのに!封印が解け始めているのか!?



「はい、ソル。どっちがいい? 食べながら歩こうか」


「ありがとう! それじゃあこっちの卵サンドで!」


「「いただきます!」」



 ちゃんといただきますを言ってから俺は食べる。



「あ、美味しい、これ」



 ハムとレタスの間のソースがパンと合ってて、めちゃくちゃ美味しい!



「こっちも美味しい。卵の味付けが絶妙だね」


「マジで? 1口交換しない?」


「えっ!? 良いよ! はい、あーん」


「あーん。......うん、マジで美味しいな。あの店主すげぇぜ」



 この卵の味付けはなんだ!? パンとの相性が良すぎる! 薄くもなく、濃すぎない、でもハッキリと『分かる』この味は何だ!!



「あっ俺のもどうぞ、あーん」


「あーん......美味しいね! これレベルのサンドイッチを作るのは至難の業だよ!」



 そう言って交換した後に気づいた。



「あ、あはは。なんか気づいたらあーんをしていたぜ......」


「えっ! 無意識だったの!?」



 うわぁぁぁぁん!! 何やってんの俺ぇえ!!



「他のプレイヤーは見ていなかったか? 見ていたら死にたいんだが」


「た、多分見ていないよ! だから死なないで!」



 あ、ソルの目が泳いでる。これは分かるぞ、見ていた奴がいたな。



「おめでとう、俺。語り人になって最初の死だね。あはは!」


「だめだめ! 待って! だめだから! 落ち着いて!」



 ソルがサンドイッチをインベントリに仕舞って俺の両手を掴んで言う。



 無理だ。俺の心のHPはもう0だ。後は体のHPを0にしたらいいんだ...



「落ち着いてるぞ? 俺は冷静だ。冷静に俺は自分自信に剣術をぶっ放すだけだ」


「絶対落ち着いてないよね!? 極めた剣術を自分に使わないでぇ!!」



 ダメじゃないかソル。そんな大声を出したら周りにスキルレベルがバレるだろう?



「良い子だ、ソル。だから落ち着いて手を離してくれ。そうすれば俺は楽に逝ける」


「ダメぇ! その気持ちをマネーレトレントにぶつけよう? きっとこうなったのも全部マネーレトレントのせいだよ!」



 あぁ、パニックで何も考えられない......もう、ソルの言う通りなのかも。



「本当に? だったらは俺はマネーレトレントを許さない。俺をこんな気持ちにさせたトレント野郎を滅ぼしてやる」



 怒りが湧いてきた。あぁ、この怒りを、こんな気持ちにさせたマネーレトレントにぶっ放したい!



「うん! そうしよう? だから行こう? ね?」


「あぁ! トレントを許さん!」



 絶対に倒してやる! 待ってろ枯れ木野郎!



「......ふぅ。私も恥ずかしかったのに、先に壊れるとは思わなかった......私が先に爆発すると思ったのにぃ............」



 なんかソルが言ってるが気にしない。



「さぁ行くぞ! トレントを細切れにしてやる!」








 そうして俺達は、インフィル草原の北の、今まで来たことが無いほど奥に来た。







「まだなのかな? そろそろ森に入りそうなんだが」



 100mくらい先には森が見える。

 するとウィンドウが出てきた。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

『インフィル草原』のエリアボス『マネーレトレント』と戦いますか?

 ━━━━━━━━━━━━━━━


「もちろんだ!」



 ウィンドウの下の『はい』『いいえ』を押すまでもなく、声で答える。



 すると......




 ビキビキビキ! バキッ! ボキッ!




 と、木が折れる独特の音を立てながら地面から木が生えてきた。





『グォォォォォォオ!!』





 木の癖に雄叫びをあげやがった。



「はっ、レベル15のボス対、レベル34の最弱の戦いだな」



 ソルには後方から弓矢で援護するように言ってある。



「よし、行くぞぉぉ!!!」



 両手で剣を持ち、トレントを全力で袈裟斬りに振り下ろした。



『グォォォ!!』



 ポリゴンがトレントから散る。そしてトレントには剣の跡が思いっきり付いていた。



「ははは!! お前を切り倒してやろうか??」



 今の俺は殺る気に満ち溢れている。

 トレントがこんな奥に居なければ、もっと街の近くにいれば! きっと、他のプレイヤーが倒しただろうに!!



「お前が!!」



剣で切りつけていく。


 ザシュッ!!



「もっと!!」



 ザシュッ!!!



「近ければぁぁ!!」



 ガスッ!



『グォォォォオオ!』




 2連続で斬り、3撃目で剣で突いた。



「甘いわ朽木が!」



 トレントが大暴れして枝を振り回すが、俺は後ろにダッシュしながら、ショートカットインベントリを操作して剣を仕舞い、弓矢を出す。


 この間、操作時間は0.4秒!! 完璧な操作だ。



「おらぁ!」



 ザザザザンッ!と音を立てて4本の矢が刺さる。



「もういっちょ!」



 ザザザンッ!と3本の矢がトレントに刺さった。



「クソ!1本外した!!」


『グォォォォオ!!!』



 そろそろトレントも限界なのだろう。木全体がボロボロだ。



「次の剣戟で決めてやるよ!」



 俺はそう言って弓を仕舞い、剣を出す。

 もう完璧に操作できるな。自信を持つとしよう。



「じゃあなトレント!」



 そう言って俺は、剣で()()()()()



「ただで逝けると思うな!!」



 そう叫び、何度も叩きつけた。こっちの方がダメージが少ないからな。



叩きつける度にポリゴンが散る。



「最初のスライム戦を思い出すなぁ!!」



 あの『剣術』スキルを持ってないのに剣を使い、叩きつけた時を思い出す。



「今じゃ立派な剣士だよ!」



 街を出る時、心配そうな顔をした門番の人は気づいてた。あの時の俺が『剣士(笑)』だと!



「これでトドメだ!!!」



 ザンッ!! と綺麗に回転斬りをした。



「ストレス発散に付き合ってくれてありがとな」



 そう言った後、マネーレトレントはポリゴンになって、花火のように散った。


 ━━━━━━━━━━━━━━━

『インフィル草原』エリアボス『マネーレトレント』がプレイヤー『ルナ』、『ソル』によって討伐されました。


 エリアボス討伐により、『アルトム森林』が解放されました。

 ━━━━━━━━━━━━━━━


 あぁ、これワールドアナウンスか。



「なぁソル、今のアナウンスは全プレイヤーに行ったよな?」


「行っただろうね。全プレイヤーに名前が知られちゃったね」


「いや、名前だけなら問題ないだろう? 容姿とか、そこら辺がバレて無ければ大丈夫だし、俺達がトレント討伐に行ったの知ってるやつはいないだろう?」



 そう、『名前だけ』なら全然問題ない。他のプレイヤーにも同じ名前のやつはいるだろうしな。




「いやいやルナ君、私たち、サンドイッチを食べた時に結構大きな声でトレントのせいにしたよ?その時はもう既に、そこそこの数の人が集まってたから、バレてると思うよ」




「そうか。......そうか、バレてるのか.........」


「ル、ルナ君?」


「討伐に行ったのをバレてる上にワールドアナウンスか......そうか」


「ちょっと! ルナ君!!」


「どうしたんだ? 陽菜。俺はもう、ダメみたいだ。武術大会とかでの敗北とかならまだしも、完全に恥ずかしいとこ晒して、その名前が全プレイヤーに知られたんだぞ?この気持ちをどうすればいいんだ?

 恥ずかしい気持ちとは違う、なにか、こう......大切な物を失った感じだ............」


「だ、大丈夫だよ! 例え他の全プレイヤーがルナ君を笑っても、私だけは傍にいるから! 大切な物を失ったなら、新しい大切な物をを作ろうよ!!」



 心の中の大切なものを失うのはもう、嫌なんだ......



「だめだよ、それじゃあ。また失ってしまうよ」


「なら、私と一緒に作ろう? それなら二人で一つだから、片方が無くしても、もう片方にはあるでしょ?」




 陽菜(ソル)は俺に抱きついて言った。




 そうか......二人ででも、怖い。......けど、信じたいなぁ。



 もう馬鹿正直に生きようかな。




「信じてもいいか? ソル」



 ソルに馬鹿正直に聞いてみた。



「うん! 私を信じて!」



 綺麗な笑顔でソルは答えた。あぁ、懐かしい......



「懐かしいな......道場に通い始めてすぐの頃、似たような事があったよな............」


「そうだね、あの時のルナ君は心が死んでいたよ」




 俺は道場に通い始める前、小学1年生の時に、イジメにあった。初めての学校、初めての教室、初めての授業、初めてのクラスメイト。そんなこれからの楽しさ溢れる1年生の時に俺は、信じていた友達に裏切られ、イジメられた。


 今思い返せば中々に酷かった。本当に小一ですることか?って事が多かった。自分の物が盗られたり、椅子や机に小さな落書きがされたり。話しかけても無視されたり。たまに遊びに誘われても、ボール遊びの的になったり。


 俺は悔しかった。何をしたらいいか分からず、誰に頼ったらいいかも分からず、ひたすらに耐えた。そしてある時思ったのだ。『今までの全部をやり返しはしないが、次やられたらやられた分だけやり返したい』と。


 そのために『力が欲しい』と思った。少しでもやり返す力になると考えたから。それを両親に話した時、両親は学校に急いで連絡してくれたなぁ...2日後にはイジメた奴らの家族が謝りに来たな。


 嬉しかった。自分の味方が居ることに。

 そして悔しかった。自分に力がない事が。


 その気持ちも全部、包み隠さず、馬鹿正直に両親に言った。そうしたら『力を付けよう。学校では付けられない力を付けよう』って言って、師匠の道場に連れていかれた。入会手続きみたいなやつだな。


 それでも俺の心はまだ死んでいた。

 何故か? ......それは、まだ俺へのイジメは続いていたからだ。それどころか、今度は暴力を振るってきた。


 ここで考えた。例えイジメた奴の両親がウチに謝ったとしても、イジメた本人の考えが変わらない限りはこの地獄は終わらないと。


 この時はもう、両親以外全員が信じられなかった。イジメには参加していないクラスメイトも、担任の先生も、皆、信じられなかった。



 そんな地獄の学校が金曜日になり、家に帰った俺は両親に言われた。



『月斗、今日から道場だぞ。月斗と同じ、今日から入る子もいるそうだ。同い年の可愛い子だぞ。その子と一緒に強くなるんだ。いいか?』


『う......でも、僕にはできるかわからない。僕には力はないよ......』



 そう答えた。でも父さんはこう言った。



『月斗。お前は強くなりたくないのか?力を付けたくないのか?弱いと感じる今のままでいいのか?違うだろう?少なくとも月斗は違うと思ったから、力が欲しいと言ったのだろう?

 いいか、大切なのは向上心だ。常に上を目指し、その高みに至ることを考えろ。そうすれば自然と月斗は強くなれる。向上心のないやつには一生、何もできない』



 涙が出た。父さんはどれだけ俺の事を思ってくれているのだろうと。そして道を作ってくれた。常に上を目指し、その高みに至ることへの大切な『向上心』という燃料まで付けて。



 母さんも言ってくれたな。



『大丈夫だよ月斗。月斗ならできると信じてるよ。そういえば月斗はどうして『月斗』という名前なのか知ってる?知らないよね、言ってないもん。

 ふふっ、そう怒らないで落ち着いて。月斗と言う名前にはね、『お月様のように、優しく人を照らして欲しい』って言う願いをこめて、お月様から名前を取ったの。そこで思うでしょ?『なら、月斗の斗』はどこから来たのかって。

 それはね、『北斗七星』って言う星座があるんだけど、その星座はね、『七剣星』って呼ばれていてね。カッコイイでしょ?そこから取ってきたの。

 だから、月斗には『強く、優しく人を照らして欲しい』という願いをこめて、『月斗』という名前にしたのよ。今は覚えられなくてもいいの、いずれどこかで、夜空に浮かぶ月と北斗七星の事は知るはずだから。

 だから月斗。自分を信じて強くなりなさい。それは人を優しく照らす、力になるから』



 生まれて初めて感動というものを実感した。

 あぁ、俺の名前にはそんな願いが込められていたんだと、初めて知った。両親がどんな想いで俺を育ててくれているか、心の底から知った。



 そして泣き止んだ俺は両親に『行ってきます』と言って、道場に行ったんだ。




 そしてその道場で、陽菜と出会った。




 第一印象は、太陽のように明るい雰囲気を放つ子だと思った。それと同時に、『自分とは真逆の存在』だと、そう感じた。


 暗く、寒い夜に浮かぶ『月』と、明るく、暖かい昼に浮かぶ『太陽』



 そして道場での稽古が始まる前に、陽菜は俺に近づいてきた。そこで初めて言葉を交わした。

 


『きみ、なまえは? わたしは陽菜! よろしくね!』


『僕は......月斗。よろしくね、陽菜ちゃん』



 そして稽古が終わり、帰る用意をしようか、と言うとこで陽菜が話しかけてきた。



『ねぇ、月斗くん。月斗くんはどうしたの? すごくくらいかおをしているよ?』



 そう言われた時、考えた。陽菜にイジメられている事を話してもいいものか、陽菜に話したら笑われないだろうか、そもそも陽菜を、信じられるだろうか。と。


 そこで一縷の望みに賭けて、陽菜に全部馬鹿正直に話した。すると陽菜は、



『大丈夫。大丈夫だよ。例え皆が月斗君をイジメようと、私だけは味方でいるよ』



 と、抱きつかれながら言われた。それに俺は、



『信じてもいい? 陽菜ちゃん』



 そう馬鹿正直に聞いた。それに陽菜は、



『うん! 私を信じて!』



 花が咲いたように笑った。


 この時から、俺の世界には色が着いて見えるようになった。家にしか着いてない色が、目の前の光景全てに着いていた。空は蒼く、花は綺麗だった。


 それから俺と陽菜は道場に通い、力を付けた。

 陽菜が道場に通う理由は分からなかったが、俺は常に『向上心』を持って、稽古に励んだ。


 そして小学2年生になって数週間経ったある日、俺をイジメてた奴と公園で出会った。この時の俺はよく1人で、師匠からどうやって技を盗もうか、どうやったら師匠のように強くなれるかを考えるため、広く綺麗な空をスケッチブックに考えを纏めていたのだ、公園で。




 そんなふうに考えていたら、声が掛けられた。




『おい、月見里! おまえ、なにしてんの?』


『考え事。君にはそこまで関係ない事だよ』



 そう、()()()()関係ない。むしろこの時に、俺と師匠と陽菜を巡り合わせてくれた事に感謝しているくらいだ。


 こんなやつなんてどうでもいい。師匠から1本とる方が重要だ。陽菜と一緒に組むなら、どういう連携で隙を突くか、それを考える方が圧倒的に楽しかった。


 すると奴は


 ドンッ!


 顔を殴ってきた。



『お前、やっぱりムカつくな』



 クッソしょうもない理由で殴られた。この時、忘れかけていた記憶が戻った。



『次やられたらその分やり返す』





『1回、殴ったね』



 そう言って俺は殴り返した。1発だけ。


 だが、力が違う。1年少し足りないくらい、師匠から教えられた格闘術だ。並の小学2年生のパワーではない。


 もう、そこからは酷かった。


 1発殴られては1発殴り返し、1回蹴られたら1回蹴り返した。




 そこで気づいた。『しょうもない』と。




 自分の力は誰かを優しく照らすためにある。母さんが言ってくれたことを思い出し、殴り返すのを辞めた。その代わり、殴った回数や蹴った回数は全部覚えて帰ったけどな。


 そして家に帰った時、両親に何故そんなボロボロなのか聞かれた。そこで全部答えた。あいつと出会った事も、あいつから殴ってきたことも、そして殴り返し、蹴られては蹴り返したことも。仕舞いには『しょうもない』と思い、力を振るわなかったことも。


 それを聞いて両親は警察に電話した。

 学校ではなく、警察に。そこからはとんでもなかったな。あいつの家族が来たかと思えば、謝るだけ謝って直ぐに帰った。そして次の日、学校であいつに会うかな〜と思い、教室に入ったらあいつが転校したという話で持ち切りだったのだ。




 まぁ、そうして俺へのイジメは終わったのだ。



 だが、道場には通い続けた。週に1日だった通う日も、週に3日に増やしたり。陽菜はずっと俺と一緒だった。小学校は違ったが、中学校は一緒で、そこで勉強や道場について、あとはゲームについて話していた。


 俺は小学校4年生くらいの時に、ゲームにハマった。それはもう、体調を崩すぐらいに。

 そこで解決案として出た、陽菜が見守るというのが中々にめんどくさくもあり、楽しかった。


 そして中学3年になった時、俺は両親に言った。




『俺、一人暮らししたい。出来れば都会で』




 それに両親は――



『いいよ、それが月斗の力になるなら、応援する』



 そう答えてくれた。そしてもう1つ言った。



『ただし、高校を卒業したら、1回帰って来なさい。多分、その時は月斗がかなり大きい問題を抱えているから』



 と。かなり大きい問題とは何かを聞いても答えてくれなかった。今でも分からない、なんだろう。


 そして俺は夏休みの最終日、最後の道場の日だった。そこで俺は陽菜に言った。



『今日で道場を辞めるんだ、受験のために。今までありがとうな』



 これを言うのはめちゃくちゃ辛かった。

 もう師匠に会えない、それより陽菜と道場で会えないのはもっと辛かった。自分を救ってくれた、暖かく照らしてくれた太陽の元を去るのは、嫌だった。



『そうなの......でも、大丈夫。また会えるよ』



 決意に満ち溢れた顔で陽菜は返してくれた。

 そして師匠は──




『お前らが辞めるとなると、この道場も寂しくなるな』




 と言っていた。その言葉に俺は疑問を持った。



『お前『ら』って、陽菜も辞めるんですか?』


『あぁ、そうだぞ。理由は月斗と同じだ』



 知らなかった。まぁ、言われなかったからな。




 そして最後の稽古が終わった。結局、8年と少しでは、師匠から1本取ることは叶わなかった。





『『ありがとうございました!』』





 この言葉で、俺と陽菜の道場時代は、幕を下ろした。

どうでしたか?実は始業式での再会を書くより前に、このお話はあったのです。そして月斗の名前の由来。陽菜と初めて会った時のこと。そして高校のこと。全部繋がっています。もちろん、タイトルもですよ。そこも含めて、楽しんで頂けると嬉しいです。


さてさて、次回、『報酬とアルトム森林』です!


お楽しみに!

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[良い点] 甘すぎるところ [一言] 主人公ちょっと精神不安定?
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