お義父さんと呼ばんかぁ!!!
お義父さん!?おギフトさん
「じゃあ、また来るわ」
「お邪魔しました!」
今日は、昼ご飯を食べて実家を出て、陽菜の両親に会ってから帰る、という予定になった。
という事は、この帰省で1番のイベントが来てしまった訳だな。
こわい。
「何時でも来ていいからな?陽菜ちゃん1人でも、実家だと思ってまた来てくれ」
「月斗の恥ずかしい話、聞かせてね!」
「はい!沢山のお話ししますね!」
「辞めておくれ......俺のライフの上限値を削らないでくれ......」
恥ずかしい話を作らないように、俺はこれから頑張っていこう。
「でもよ、月斗。減ったライフの上限は、陽菜ちゃんに回復してもらうんだろ?」
「......まぁ」
「ならもっと、恥ずかしい話を作るといい!父さんが全部、文字にして保存してやるぞ!」
「なるほど。下げて下げて下げる作戦か。やるな、父さん」
「まぁな!」
俺の父親は生粋のデバッファーのようだ。酷いね。
その点陽菜は、バフもヒールも戦闘も家事も出来る、ある意味最強の存在だな。頼りにしよう。
「じゃあ、陽菜のとこ行ってくる」
「行ってきますね!」
「おう!ちゃんと挨拶してこいよ?」
「そのまま婚約してもいいのよ?ウチはオッケーだから!」
ねぇ、ラスボスにバフ掛けるの辞めない?その上で俺の心にデバフを掛けるの、悪質すぎないか?
「......あっちが認めてくれたらな」
「大丈夫だよ、月斗君。何かあったら私が守るから!」
陽菜よ。それ、『絶対に何かある』というフラグだぞ?
「分かった。頼りにしてるよ、これからも」
「うん!」
「ほら、覚悟決めて言ってこい!......じゃなかった。行ってこい!......でも無かった。逝ってこい!!!」
「骨は父さんが拾うわよ〜」
この2人......ちくせう。いいぜ、やってやる。俺は負けないからな?
「「行ってきます」」
「「行ってらっしゃい」」
そうして俺達は手を繋いで、陽菜の実家へと向かった。
「はぁ......言わないとダメだよなぁ」
「まぁ、私が月斗の為に東京に行ったのは認めてるし、普通にオッケー貰えるんじゃない?」
「おかしいなぁ。タダの帰省のはずだったのになぁ......何で婚約の話になったんだろう」
「そりゃあ......もう夫婦だからだよ」
「まだだよ!」
「まだ......ふへへ」
何だこれは。話せば話すほど地雷をばら撒き、その全てを踏み抜いてしまうぞ。
......でも、陽菜の両親には、ちゃんと自分の気持ちは話しておかないとな。付き合っている身として、意識はハッキリさせておいた方がいいだろう。知らん
「──着いた。着いてしまった。ラスボスの家に......」
俺の実家から歩く事30分。陽菜の実家に着いてしまった。
「月斗君。覚悟はいい?」
「え?そういうスタイルで行くの?マジ?」
「覚悟はいいね?セーブポイントはもう無いよ?回復アイテムは持った?武器は?防具は?」
の、乗ってやるよ!
「回復アイテムは陽菜が。武器は陽菜。防具も陽菜」
「なるほど。防具も......じゃあ抱きつきながら入る?」
「すみません嘘です覚悟決めましたんで許してください」
流石ラスボスの娘......強い。俺のような木っ端の魔王じゃ、この勇者には太刀打ち出来ない。
でも、やるしかない。
ピンポーン!
陽菜がインターホンを鳴らした。
『はい』
「お父さん。私!陽菜だよ〜」
『おぉ!待ってろ、今行くから!』
「は〜い」
そして鍵を開けて出てきたのは、見た目25歳くらいの、若々しい男の人だった。
「陽菜!......それに月君!?」
「お久しぶりです。太一さん」
この人は鈴原太一。陽菜の父親だ。いつも明るい人で、陽菜は太一さんの、そういう所を受け継いでいる。
「これは......まさか?」
「まさかだよ、お父さん」
「おっほほほぉ......楽しみだねぇ。さぁ、入ってくれ」
「ただいま〜!」
「お邪魔します」
あぁ、遂に来てしまった。ラスボスの城だ。ラスボスに出迎えられ、そのまま乗り込んでしまったぞ。
そして太一さんに言われてリビングで待っていると、陽菜のお母さんが来た。
「久しぶりね〜!月斗君!」
「お久しぶりです。陽奈さん」
陽奈さんはアレだな......陽菜をそのまんま大人にした感じの人だ。
もしお稲荷さんがリアルにいたら、2人はとても仲良くなれると、俺は信じてる。
「月斗君が来たって事は......まさか?」
「まさかだよ、お母さん」
「おっほほほぉ......楽しみね!とりあえずお茶出すね!」
「頂きます」
「ありがとう!」
タイムリミットが刻一刻と近付いてきた。
次に太一さんと陽奈さんが来た時が、全ての始まりだ。
......緊張して気持ち悪くなってきた。
「月斗君、大丈夫?」
「だいじょぶ......じゃないかも。豆腐メンタルにはキツい」
「う〜ん......ならこうしよう!」
そう言うと、陽菜は俺の隣の椅子に座り、手を握ってきた。
すると驚く程気持ちが軽くなり、落ち着いてきた。
「どう?落ち着いた?」
「......あぁ。ありがとう陽菜」
「ううん!私も緊張してるからね、一緒だよ!」
確かに握られた手は、震えていた。やっぱり陽菜も緊張してするんだな。
「頑張ろうか」
「うん!」
そして数分後、太一さんと陽奈さんが、4人分のお茶を持ってきて椅子に座った。
「ありがとうございます」
「いいのいいの!それにしても、月斗君が来るのは久しぶりねぇ」
「多分......5年ぶりか?」
「そうですね。中学1年のとき以来ですかね」
「おぉ、ジャストだ!」
太一さん、明るいなぁ。俺もこんな人になれたら、陽菜を優しく照らせるようになるのだろうか。
「それで陽菜、上手くいったの?......大体分かるけどっ」
「うん!でもそれに関しては......月斗君が言う?」
「ん?あぁ、そうか。その方が良いか」
バッサリいこうか。後からダラダラやって野垂れ死ぬより、ここでバッサリ斬られた方が気持ちが軽い。
「太一さん。陽奈さん。陽菜を俺にください」
「「「え?」」」
「え?」
待て。なんで陽菜まで『え?』って言ってるんだ?こっちが困惑するんだが......
「つ、月斗君!?付き合ってる報告じゃないの!?」
「............ア゜」
やらかした。死んだ。終わった。俺の人生バッドエンドだ。
そうじゃん、まず付き合ってる事を言うんじゃん。それからこれを言うんだろ!?なにやってんの俺!
あぁ......死って、こういう事なのか......
「おぉ、凄いな......予想の15倍くらい上の言葉だった」
「陽菜。結婚する前に花嫁修業する?」
「ま、ままま待って!?いいの!?」
「お母さんとしてはいいのよ?.....いやぁ、まさか結婚まで話が進んでるとは......お母さん、嬉しくて泣きそうよ?」
あ、あれ?大丈夫......っぽい?
本当に?本当にいいの?
「た、太一さ「お義父さんと呼ばんかぁ!!!」......」
......危うく机を蹴りあげるところだった。とてつもない気迫だ。
「いいか?月君。いや、月斗君」
「はい」
「そこまで話が進んでいるなら、これから僕の事は『お義父さん』と呼びなさい」
「......はい」
「それで月斗君は今、こう思っている事だろう。『結婚式のお金どうしよう』って」
「いえ。お金は数億ほど稼いでいるので心配ないです」
「「「え?」」」
「え?」
また幻の地雷を踏み抜いたぞ。やったね月君!心が消えるね!
「......本当かい?」
「はい」
「合法なのよね?」
「はい」
「月斗君のお金なの?」
「あぁ」
こうなったら全部話すか。その方がスッキリしてくれるだろう。
「お金の出処を言いましょうか?」
「あぁ。今の君の言葉が本当なら、こちらも色々と考えないとならないからね」
「分かりました。では、このお金はゲームで稼ぎました。中学の時からやっていたゲームの大会で優勝して、チームに......20億だか30億だか、それぐらいの賞金が出たんです」
「「20億......」」
「それで、俺のチームは俺含め、4人しかいないので簡単に分配出来たんですよ。特にプロチームでもないから、事務所とかに払わなくていいので、そのままマルっと」
「そ、それで?」
「ですので、お金に関しては心配しなくてもいいです。式のお金も、生活費も、暫くは俺が出せますので」
立て。ちゃんと心を立てて言え。目的、理由、後の事。その全てを話せ。
「今回俺の言いたい事は、『陽菜との婚約』です。理由としては、『陽菜の良い所、悪い所、その全てを愛しているから』ですね。小さい頃から知っている事も、高校に入ってから知った事も、全てを受け入れています。そしてそれは、『生涯変わらない』と、断言します」
引くな。進み続けろ。.....フェンリル戦より緊張するが、耐えろ。
「......なるほど。では最後に質問をしてもいいかな?それに僕が満足すれば、陽菜との婚約を許そう」
「はい」
ラスボスとの最終決戦だ。命を懸けて答えよう。
「では......月斗君。陽菜の事は好きかい?」
「いいえ」
「「えっ?」」
「続けて」
「はい。陽菜の事は、好きではありません。『愛しています』
好きなんて次元じゃありませんよ?陽菜の良い所も、悪い所も、ほんの小さな癖からその心の持ち方まで、全てが好きで、大切なんです。ですので、『好き』ではありませんね」
紛れもない本心だ。
正直、陽菜が居なかったら俺は、俺は......精神的に死んでいただろう。
例え肉体は生きていても、心は死んで、何もせずにただ時間を浪費して朽ちていく、ただのゴミに成り下がっていただろう。
でも、それを陽菜は食い止めてくれた。
それどころか、隣にいて、一緒に歩いてくれた。
例え1人で遠くに行っても、陽菜は追いかけてきて、また隣に来てくれた。
そんな人と一緒に居たいと思うのは、悪い事なのだろうか。
許されない事なのだろうか。
.....そんな世界なら、俺は今すぐにでも逃げ出したい。陽菜を連れて。
「......」
「......」
太一さんが真っ直ぐに見つめるので、俺も見つめ返す。
口が滑った事から始まったとはいえ、多少の順序が入れ替わっただけだ。
もし順序が正しくても、俺は一言一句、同じ事を言うだろう。
『陽菜を愛している』と。
「......分かった。陽菜との婚約を許そう。陽菜の事を、これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、陽菜に頼ってしまう事が多いと思いますが、幸せにしてみせますよ」
言ったぞ。ちゃんと俺は言ったぞ。陽菜には言えてないが、太一さんにはちゃんと言えたぞ。
「月斗君......ありがとう」
陽菜が横から抱きついてきたので、頭を撫でながら、出来る限り、優しく言った。
「まだ陽菜には言えないけどな。これからもよろしく頼むよ」
「うん!よろしくね!」
やっぱり陽菜の笑顔は綺麗だな。陽菜をずっと笑わせられるような、そんな人にもなりたい。
この人の為に、俺は生きたい。
「はぁ......陽菜が結婚かぁ......もうそんな時期なの......?」
「ふふふっ、最初からそれは分かってたでしょ?陽菜が月斗君と出会ってから、どれだけ変わったと思ってるの?」
「でもさぁ......まだ高校生だよ?早くない?」
「確かに早いけど、月斗君なら大丈夫だよ。ちゃんと陽菜を幸せに出来るし、寧ろ陽菜が何かやらかさないか心配よ?」
「んなっ!?私はやらかさないよ!?」
おっと、その反論はよろしくなくってよ?
「路上でキスした事はやらかしに入らないと?」
「あ、あれは......その......」
「「へぇ?路上で、ねぇ?」」
「あの、その..........え、えへへ」
可愛いな。でも、外でそれはやらない方がいいんだよな。
もし学校なんかでやらかしてしまえば、教員にバレた瞬間に人生が終わりそうだ。
「月斗君。こんな陽菜だけど、よろしく頼む」
「勿論です。こんな陽菜だからこそ、俺は大好きなんですよ」
「良かったわねぇ、陽菜。普通なら嫌われてもおかしくない事よ?ちゃんと月斗君に感謝しなさいよ?」
「も、勿論だよお母さん!いつもお礼のぎゅ〜をしてるもん!」
「「それがダメなんだけど......」」
お礼のぎゅ〜、最高ですよ?天にも昇る思いになれますよ?
「でも月斗君は喜んでくれるもん! ね!」
「そうだな。いつも一緒に居てくれるし、ぎゅ〜は暖かいし、俺は幸せだよ」
「ほら!」
「「大丈夫かな、うちの娘」」
最高ですよ?お宅の娘さん。俺が保証します。
これはYARAKASHIですネぇ.....お付き合いの報告ではなく、婚約の話にジャンプするとは.....
次回、帰ります。ユアストに戻れ.....ると信じてます。
楽しんでくださいね!( 'ω' و)و"♪