魔王の息子は白雪王子?
う〜ん、好き。
屋敷となった実家の和室にて──
「久しぶりね、陽菜ちゃん。いらっしゃい」
「お邪魔してます!」
「うん!ゆっくりしてってね〜」
俺は今、魔王に監禁されている。そしてそんな俺を面白そうな顔で見る父さんは、龍王とも言えるだろう。
月見里月斗、ピンチである。
存在もしない地雷を踏み、その爆風が魔王の領域まで届いてしまった。そして、それに気付いた魔王は俺の元へやって来て、こう言った。
「ねぇ、陽菜ちゃんとどうなったの?」
と。
「......お付き合い......させて頂いてます」
瞬間、魔王の目の色が変わった。あれはそう、魔眼だ。
一睨みするだけで人は死に、植物は枯れ、朽ち果てる。
二度睨まれれば海は乾き、大地は燃え盛る。
三度睨まれれば、その存在は消滅する。
「どこで、いつ、どっちが告白したの!?」
一睨みされてしまった。
「......東京の、公園で......春に、俺から......」
「月斗君が告白した後に、私も告白しましたよ!」
「あらまぁ!で、で?どこまで進んだの?チューした?」
二度、睨まれてしまった。喉が乾いてきた。
「......しました」
「しょっちゅうしてます!」
「んまぁ!良いわね!それで、月斗はどこまで考えてるの?」
三度睨まれた。これに答え、俺は消滅するのだ。
「......俺は......俺は......俺.........は......」
「何も考えてない、何て事はないんでしょう?言ってみなさい」
四度睨まれた。鼬の最後っ屁だ。全部ぶちまけよう。
「結婚まで考えています!大丈夫!!金はある!!!!」
「「おぉ......」」
「月斗君......」
さらば、世界。もし俺が死んだら、来世は孤島の民族に産まれさせてください。誰にも見つかる事ない、寂しい人生を歩ませてください。
「最後のが無ければ、中々に良かったのにねぇ」
「でも、事実金はあるかるなぁ。後は陽菜ちゃん次第だろう。後、陽菜ちゃんのご両親」
あぁ、勇者よ。どうかあの魔王を斬って参れ。褒美はない。
クソみたいな正義心、尽きることのない承認欲求を満たすため、なんでも良い。あの魔王を斬っておくれ。
「私も結婚まで考えてますね!寧ろそうじゃなかったら、どうして東京まで行ったんだ?ってなりますし」
勇者はここにいた。ただ1つの溢れんばかりの愛情を持って。
「おっとぉ月斗選手、人生ハッピーエンドまで後1歩だが、どうする!?」
「あらあら、お父さん。そんなに急かさなくてもいいでしょ?月斗と陽菜ちゃんの人生なんだから、私達は見守っていよう?」
「だな。月斗、マイペースに頑張れよ!陽菜ちゃんも、何か困った事があったら遠慮なく言ってくれ」
「はい!」
「......うん」
俺は勇者の背中に隠れてこう言った。
「勇者よ。俺はもう、ダメみたいだ......」
「ひゃう!......って、えぇ!?ここで寝ちゃうの!?」
「これは寝るんじゃない。親の顔を見ずに、意識をシャットダウンするんだ。その時に、ちょっと陽菜を枕にするだけ」
もう、今日は朝から大変だったから疲れたんだ。ちょっとくらい、癒しが欲しい。
「いや、それにしても背中を枕にする人はいないでしょ!ほら、お膝の上で寝かせてあげよう」
「......ん、そうする」
そうして両親の顔を見ないように陽菜の膝の上に頭を乗せると、直ぐに俺の意識はフラカンで飛んで行った。
「ふふっ、いつもと逆になっちゃった」
◆◆
「凄いな月斗。両親の前でイチャついておきながら、そのまま膝枕で寝るとは......魔王をも恐れぬ所業だな」
「陽菜ちゃん、しんどいでしょ?枕持ってこよっか?」
「いえ。時々私も膝枕をしているので、慣れてます」
「「おぉ....」」
「普段は私がしてもらっているんですけどね。今日は私が大阪に行こうって言ったので、これぐらいはしてあげたいです」
「後半は分かるけど、普段から?」
陽菜は月斗の頭を撫でながら答えた。
「はい。いつも一緒にゲームをやっているんですけど、そこでですね。ゲーム内の作業の空き時間とか、ちょっとした休憩の時に膝枕をしてくれるんです」
「「へぇ、月斗が?」」
「そうですよ。普段は月斗君の方から、『耳触らせて〜』って来るので。まぁ、最終的には私の要望に全部答えちゃってるので、全部が全部、月斗から、という訳ではないですけどね」
(本当に。リルちゃん達がいない時は、キスまで許してくれるもん。大好き)
「耳......耳かぁ。陽菜ちゃんのは月斗も好きそうだしなぁ」
「耳は特殊ねぇ。私、息子の性癖に驚いちゃった」
「おばさん、ゲーム内での私は狐の耳が生えてるので、それを目当てに月斗君は触りに来るんですよ」
「あ、そうなの?てっきり普通の耳を触るのかと思ってた」
「普通の耳もめちゃくちゃ触りますけどね」
ルナがソルをモフる時、獣耳と尻尾の間くらいで、普通の人間の耳を触る事が結構な頻度で行われる。
「それだけ陽菜ちゃん自身が、大好きなんだろうなぁ」
「そうね!陽菜ちゃん、これからも月斗をよろしくね?」
「もちろんです!ずっと傍で支えてあげるつもりですから!」
「「ええ子や......」」
「月斗は多分、陽菜ちゃんと出会うってことに、人生の全ての運を使ったんじゃないか?」
「ホントにね。息子に対し、彼女が良すぎないかしら?」
「いえ、そんな事はありませんよ?私も月斗君と出会う事に全ての運を使ったので、フェアなんですよ。こうして月斗君が私の膝枕で寝てるのも、全部、2人で進めたからなんです。どっちか片方じゃなくて、2人で」
(今まで何気なくやってきたけど、月斗君はそれを考慮して一緒に歩いて来てくれた。それでも、私は半歩ほど後ろに下がっていた......だから、もう少し、もう半歩踏み込んで、私は月斗君と同じラインで歩きたい)
陽菜の言葉に身を傾けていた2人は納得し、改めて月斗の寝顔を見た。
「ウチの魔王は幸せ者ね。勇者に助けられて」
「あぁ。陽菜ちゃん無しじゃ、もう生きていけない魔王だな」
「ふふふっ、でも月斗君は魔王っていうより、白雪姫ですよ?」
「「白雪姫?」」
「はい。月斗君は時々、凄く深く考え込む事があるんですよ。道場で師匠から技を教えて貰っている時とか、師匠と打ち合いをする時とか」
「ふむふむ」
「その時の月斗君って、言わば『思考の沼』に足を踏み込んでいるんです。どっぷりと」
「沼......ねぇ」
「思考の沼にはまりこんでいる月斗君って、基本的に何をしても起きないんです。美味しい料理を目の前に出そうと、お客さんを目の前に連れてこようと、膝の上に子どもが乗っていようと......」
「子ども!?陽菜ちゃん、子どもいるの!?」
「待て待て母さん。それについては俺が知っているから、後で話すよ」
「ほ、本当に?大丈夫なんだよね?」
「ゲームでの話だからな」
「あぁ、そういう......ごめんね、話を遮っちゃって」
「いえいえ。それで、何もしても起きない月斗君ですけど、一つだけ、すぐに起きる方法があるんです」
「......なるほど」
「そういう事ね」
「はい!私がキスをすれば、パッと起きるんです。それはもう、毎回面白い反応をしてくれるんですよ?驚いたり、微笑んだり、謝ってきたりと......1回だけ、物凄い反応の時がありましたが」
「「物凄い反応?」」
「そうです。クイズにしてみましょうか。なんだと思います?」
「う〜ん......月斗の事だし、反射的に魔法を使ったとか?」
「なら私は、反射的に陽菜ちゃんを殴ったとか?」
「何故暴力に走っているのか凄く疑問ですけど......間違いですね。寧ろ、優しいですよ?」
「「あちゃ〜」」
(あ、この2人わざと外しにいってる。こういう所を月斗君は受け継いだんだなぁ。面白い!)
「答えはですね......反射的に私に思いっきりキスをしてきましたね。10秒くらい、抱きついて」
「男だな、月斗」
「やるわね。チャンスに猛攻撃って感じかしら?」
「えへへ......まぁ、そんな感じで、月斗君は魔王というより、白雪姫......白雪姫王子?って感じなんです」
「「なるほどぉ......フヒヒ」」
(あ、月斗君、ごめんね。もしかしたらおじさんとおばさんに、白雪王子で弄られるかもしれなくなっちゃった)
陽菜は申し訳無さそうに月斗の頭を撫で、そっと唇を指でなぞった。
それを見ていた月斗の母は立ち上がり、優しく言った。
「さ、そろそろご飯にしましょうか。陽菜ちゃん、月斗を起こしといてもらっていい?」
「いいですよ!任せてください!」
「いいぞ陽菜ちゃん。ガッツリいっちゃえ!」
「はい!」
そうして2人が去ったのを見ると、陽菜は月斗の頭を撫で始めた。
「ふへへ......ご両親から許可もらったじぇ......!」
(ご両親公認だし、もう何があっても許されるんじゃないかな?いや、ダメか。流石に節度は持たないと。もし何かあった時に月斗君を困らせたら、私の人生バッドエンドを迎えてしまう)
「......月斗君、一緒に幸せになろうね」
(待ってばかりじゃいられない。私からも前に出て、一緒に歩いていきたい。だから、高校を卒業したら言おう。今度は、私から)
そうして陽菜はゆっくりと膝枕を辞めて、月斗の顔に自分の顔を近付けた。
ちゅ
「お目覚めですかな?月斗くんむっ!!!」
月斗は陽菜に抱きつき、キスを続行した。
(待って!ここでまさかの2回目の反射キス!?)
そして15秒後──
(え?長くない?呼吸が出来ないんですけど?月斗君、お〜い月斗君!起きて!お願い!このままじゃ幸せ過ぎて死ぬ!!)
「ん......あれ?陽菜?」
「ぷはぁ......し、死ぬかと思った......」
「......なんか陽菜、近くない?」
「そりゃそうでしょ!20秒近くキスしてたんだよ!?」
「え?」
◆◆
う〜ん、ちょっと言っている意味が分からない。寝すぎたのだろうか。いや、そこまで時間は経っていないし、寝すぎとは言えないだろう。
「ふむ。20秒とな?何があったんだ?」
まずはそこからだ。何があったか、改めて状況、原因の整理といこう。
「おばさん達がご飯作るから月斗君を起こしといて、って言うから、キスで起こしたの。そしたら月斗君の方からたっぷりしてきました」
「ふむ......記憶にござらんな。ちくせう、何で覚えないんだ俺ェ......!!」
貴重な記憶は陽菜だけのものになってしまった。ズルい。
俺にもその記憶を共有させてくれ。
「もう!あんな寝惚け方、人類で月斗君だけだよ!?」
「まぁ待て。これは陽菜がキスで起こそうとした事に原因があると、私はそう思います」
「仕方ないじゃん!月斗君を起こす前に、白雪王子の話が出たんだから!」
ん?......おかしいな。それって、とてつもなく恥ずかしい話をされた、という事じゃないか?
「ど、どこまで話した?」
「全部」
「俺、死んだ。もう一生両親の顔が見れない」
絶対弄られる。あの魔王達なら絶対に弄ってくる。
もうダメだ......彼女にキスして起こしてもらう?そんな事があの2人にバレたら終わりだ。
「考えてもみてよ。意識がある時点で、私の背中を枕に寝ようとしてたんだよ?別にもう、今更って感じでしょ?」
そう言えばそうだった。
そうだ、開き直ろう。『家族の前でも陽菜とイチャイチャします』と、そういう精神でいこう。それならもう、気にする必要はないじゃないか。
「ごめん。これからは陽菜にベタベタするようにする」
「ふっ......良かろう。ほれ、今度は起きた状態で膝枕をするかえ?」
「あざ〜っす!!」
そうして、父さんと母さんが料理を持ってくるまで......いや、持ってきてからも膝枕を堪能した。
「「大丈夫かな、うちの息子」」
前回、今回、次回、次次回はリアルでのお話となっているので、ゲーム要素はありません。( 'ω')
ただ、今は夏です。夏です(大事なry)つまりは、アレがあるのです。
では、お楽しみに(^・ェ・^)/