神月二咲キ誇ル幻ノ桜 上
月明かり
咲いて誇るは
桜の木
美しくあり
儚くもあり
「おい見ろ!マジで桜が咲いてんぞ!!」
ニクス山への飛行中、山頂に巨大な桜が咲いているのが見えた。
「綺麗......ですね」
「でもあれ、かなりつよそうだね」
「あぁ。今まで挑戦した語り人は、み〜んなあの桜に殺されてるからな。それで、俺達の任務内容は覚えてるな?」
「はい!花びらを集める事です!」
「......そのために、こうげきをゆうはつさせる?」
「あぁ、2人とも正解だ。良い子だぞ」
俺は抱きかかえてる2人を褒め、更に加速した。
『お兄さん、もう気付かれてるよ!』
『ですね。1本の枝がこちらを狙っています』
「飛ばしてくるか?」
『いえ、それは無いですね。あのトレントには、そもそも枝を飛ばす力が無さそうなので』
「把握した。ありがとう」
今回はフーは刀に、シリカは太刀になってもらっている。
これまでの経験的に、シリカは太刀になってもらった方が、抜刀速度、攻撃力、攻撃速度、納刀速度の全てが俺と合うのだ。
今回の戦いは皆浴衣を着ているので、刀と浴衣、桜と月と、とても見栄えが良くなり、戦っていて楽しいだろうからな。
「そうだ。ここから録画していくか。後でソルに見せてあげよう。『ボイスチェンジ』......よし、リル、メル、準備はいいな?」
「「はい!!」」
「じゃあ行くぞ?......ゴー!」
合図を出して録画を開始し、2人を下ろして桜に近付いた。
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『神月穿樹:宵斬桜Lv???』との戦闘を開始します。
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『また人間が来たか。これでもう何百人目か......本当に、愚かよのぉ?』
ウィンドウが出てきた瞬間、小夜さんのような声が聞こえた。
『リル、メル。俺の後ろに来い』
『『はい!!』』
ちょっと忘れていた事があったので、2人を念話で呼び戻した。
「そういえば、幻獣は喋るんでしたね。初めまして、ルミです」
まずは挨拶だ。出来ることなら俺は、交渉して花びらを手に入れるのが最善だと、今考えた。
『お?私に話しかけるとは、何とも不思議な者よのぉ?』
「不思議ですか?私としては、あなたと話す人は沢山いるとと思いますけど」
カカカカカン!!!バキィ!!
話しかけていたら、5本の枝を刃の様にして攻撃してきたので、布都御魂剣とクトネシリカで全て弾いた。
う〜ん、音が気持ちィィ!!
『おぉ!これを防ぐか!本当に不思議な者よのぉ?お主』
「そうですか?それで、宵斬桜さん。花びらを少し、私に分けきて頂けませんか?ほら、この可愛い娘達に贈りたいんです」
俺はそう言って、チラッと後ろのリルとメルを見せた。
『ほう?私と同格の獣と......神に近い......いや、近かった龍か。お主、何者だ?』
「そんな怖い声を出さないでくださいよ。私はただ、この子達の親をやっている語り人ですよ?」
ガッツリ2人の正体がバレてるが、俺は出来る限り、当たり障りのない口調で話しかけた。
ガガン!カカカン!!ガガガガガガン!!!
2連、3連、6連撃と飛んできたが、この数ならまだ余裕で弾く事が出来る。
『ふむ......強いな、お主。我を殺す事が望みか?』
「いいえ、違います。花びらを少し、分けて欲しいのです。あなたの命を奪うなんて、考えるだけ無駄じゃないですか」
『ほう?何故無駄と思える?私は私の価値を自覚している。故に、人間が私を襲うこともな。それ故に、何故お主は、私を殺すことを無駄と言える?私には理解が出来ないぞ』
ガガン!バキッ!!
俺は宵斬桜の質問に、満面の笑みで答えた。
「だってあなたを殺したら、二度と花びらが取れないでしょう?」
すると宵斬桜は、約35本もの枝を刃にし、斬りかかってきた。
『リル』
『はい!』
リルを隣に呼ぶと、リルはツクヨミさんを構え──
俺と一緒に、全ての枝を弾いた。
「──あぁ、宵斬桜。枝の音がとても気持ちいいです。もっと私に聞かせてはくれませんか?」
『それがお主の本性か!!』
「いいえ?私の本性は花びらを集める方です。今は、そう......ちょっと、このタイミングで枝を飛ばさないでください!」
人が話しているタイミングで20本も後ろから斬りかかってくるな!危ないだろ!!
「全く......メルちゃん。花びらを集めてください。私とリルちゃんで、何とか......何とか攻撃を防ぎたいと思います」
「は〜い」
『まだまだ余裕の癖に、ぬかしおる』
それからは、リズムゲーが始まった。宵斬桜が枝を伸ばし、俺が弾く。そして背後からの枝は、左手の布都御魂剣で弾き、正面はクトネシリカで弾く。
それだけならまだ、リズムゲーとは言えない。だが......
カカカン!ガンガン!!カカカカカン!!!
「3・2・5、ですか。あなたはもしや、『ディレイ』というのをご存知なくて?」
そう、全ての攻撃がブロック分けされているのだ。
1つのブロック攻撃と、次のブロック攻撃の間には必ず0.15秒の間隔があり、まるでリズムゲーをやっているかのような、綺麗なテンポで枝が弾けている。
『でぃれい......とな?もう時期散る花だ。最後に私に教えておくれ?』
「散るのは私ですか?あなたですか?」
『無論......お主よのぉ?』
ガガガン!!!カカカン!!ガガガガン!!!!
重い攻撃と軽い攻撃、そしてまた重い攻撃。
普通ならこの組み合わせも、相手を翻弄する事が出来るのだろうが......残念ながら、布都御魂剣とクトネシリカの前じゃ、ただのリズムに変わってしまう。
「いいですよ。ディレイを教えてあげましょう。ディレイとは......そうですね。こうです。『魔力刃』」
バシッ!バシッ!......バシバシッ!!バシッ!
『ぐぅ!!』
宵斬桜に5つの斬撃痕が刻まれ、その体を大きく揺らした。
「あつめてくるね!」
「行ってらっしゃい......さて、ディレイと言うのは先程のように、一定間隔で繰り出される攻撃の間に、ワンテンポ遅らせて攻撃することの名前です」
俺は懇切丁寧にディレイについて教えてあげた。
ガン!カカカン!!ガン!!
『ぬぅ......難しいものよな、『でぃれい』とは』
「そうですね。あなたのような単細胞な木偶の坊では、ディレイを交えた攻撃は出来ないでしょうね......嗚呼、悲しきかな悲しきかな」
『お主!私を舐めるのも大概にしろ!私にも出来るわ!!』
ガガガン!!!ガガガン!!!......ガガガン!!!
「はい......全くもって、出来ていないのです。嗚呼、なんと哀れな桜なのでしょう。化け物の身になり、戦おうとも、何も得られはしないなど......」
この煽り方、結構気に入ってしまったぞ。コイツ相手にはこれからも使ってみようかな。
『......お主、私を化け物と言ったなぁ!!!!』
「えぇ、言いました。だって、桜のトレント......それも幻獣など、化け物以外の何者でもないでしょう?あなたは少し、ご自身を客観的には見ては如何ですか?」
ガガガガガガカカカカカン!!!!!
おぉ、今までで1番良い攻撃だ。重く、軽く、強く、速い斬撃だった。
『殺す......殺してやる!!!』
「あら、沸点が低いですね?そんな事では、ご自身の体は発火してしまいますよ?『イグニスアロー』」
バキィ!!
宵斬桜はイグニスアローを、自身の枝を犠牲にする事で、幹に当たる前に叩き落とした。
『何としてもお主は殺す......私を化け物と言った事、その身が果てるまで切り刻んでやる!!』
「おぉ、怖い怖い。この化け物は、なんと恐ろしい事か。私、チビってしまいますわよ?」
「父様、煽りすぎです。お陰で攻撃が単調になってるのはいいですが、メルちゃんが動きにくいです」
「おっと、それはいけませんね。では1つ」
パチン!
確かにメルが遠くから見ることしか出来ていなので、クロノスクラビスで動きを止めさせて頂いた。
『何!?動かせない!?』
「メルちゃん?花びらは集められましたか?」
「うん!ほら、こんなに!!」
そう言ってメルはインベントリから花びらを出し、俺に全て渡してきた。
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『新月の桜の花弁』×517入手しました。
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『お主!いつの間に!?』
「ありがとう、メルちゃん。お友達情報によると、200枚の花弁で1つのインゴットだそうですので、これで揃いましたね?」
「うん!がんばったよ!!」
「はい。良い子ですね。よく頑張りました」
俺はメルの頭を撫で、クトネシリカを構えた。
「それじゃあメル、俺の中に戻りな。こっからは武器のないメルにはキツいからな」
「え〜、わたしもたたかう〜!」
「なら1発、ここから魔法を使ってみろ......全力で。それで全て分かるさ」
俺の予想だと、あの桜......多分魔法が効かない。だって魔力刃で試した時、2つほど火属性と雷属性で放ったんだが、一切燃えたりしなかったのだ。
だからここで、メルには戦うのが厳しい事を伝えた。
「うん!『滅光』......うそ!?」
宵斬桜に当たった滅光は、綺麗に霧散していった。
「やっぱりな。アイツには、拘束系の魔法以外は物理しか効かない。魔法メインで攻撃するメルとは相性が悪い......すまないが、ここは引いてくれ」
「......うん。こんどわたしにも、刀をつくってね」
マジか。まぁ、良かろう。集めてくれた花びらを使って、メルの刀を作ってやろう。
「分かった。じゃあ、俺の中から見ててくれ」
『うん!』
そうしてメルが光となって俺に入ったのを確認し、リルに合図を送った。
「メインミッション完了につき、これからサブミッションを進める。リル、全力でやれよ?」
「勿論です、父様」
じゃあここからは、ボイチェンも切って、本来の俺で行こうか。
「宵斬桜、お命頂戴すぅゆ」
「......」
『パパ......』
大事なところで噛んじゃった。
次回もすぐに出ます。楽しんでください(小声)