新月二咲ク幻ノ桜 拾壱
おやすみと
おはようだけを
繰り返す
その幸せを
分からないのか
「天狗になってたのは俺だったか......」
毒が......出来ない。組み合わせが......分からない。
今までやってきた殆どの事はぶっつけ本番で出来ていたから、俺は何でも出来ると勘違いしていた。
「誰か毒のスペシャリストとかいねぇかなぁ」
「ルナさん、神界に行けばそこそこ居ますよ」
「流石に神界は......はぁ。遊びたいなぁ」
調合室でフーと一緒に毒の研究をしている。主に人を殺す毒を、だ。そして毒肉やら毒液やらを調べていたんだが.....毒、猛毒、劇毒と、種類が多すぎて流石に1人じゃ無理と判断した。
「割とマジで魔毒肉食うか。アイデアが出るかもしれん」
「......どうぞ。あ、そっちの席で食べてくださいね。太陽光が当たるので」
「ほいほい。では......いただきマンモス」
デバフ回復の為に太陽光を浴びながら、魔毒肉を生のまま食べてみた。
「毒った......けど美味しいな。馬刺しみたいだ。フーも食べるか?」
「私を殺したいなら、このお口にぶち込んでもいいですよ?ほら、あ〜ん」
「ならいいや。それと、1個の肉では俺は死なないみたいだな。新たな発見だ」
HPとMPが物凄い勢いで減っていったが、浴衣の効果とブリーシンガメンのお陰で、1つの肉では死なない事が判明した。
「これ、肉汁はどうなんだ?.....どっちかって言ったら血なんだけどさ」
「さぁ?気になるならやってみましょうか。ほらほら、こっちにセットしてください」
「あ〜い」
フーの目の前にある、成分を抽出する道具に魔毒肉をセットし、ハンドルを回して、肉から液体を取り出した。
そして液体を4つのコップに均等に分け、横に並べた。
「飲みますか?」
「いや、4つに分ける。そのまま飲むのと煮沸してから飲むのと、凍らして食べるのと腐らしてから飲む」
「正気の沙汰とは思えませんが、分かりました。煮沸と冷凍はしておくので、腐らせるのと常温はどうぞ」
「ありがとう。『プログレス』」
俺は新作の自然魔法、『プログレス』を使い、1つのコップの中の血を一瞬で腐敗させた。
これは本来、味噌を作る用に作ったのだが......こういう使い方も出来るのだ。
「では生を......うげぇ、ゲロマズ」
不味い上に猛毒と劇毒と魔毒の状態になった。これは地獄だな。
魔毒のせいでMPがゴリゴリと削れ、劇毒の効果でHPも削れていった。
「ふぃ〜じゃあ次、腐敗」
悪臭のする血を飲んでみた。
「......ん?......臭いが美味いぞ、これ」
「本当ですか?......ってこっちに近付けないでください!」
「何でだよ、美味いぞ?」
「臭い物を近付けないでください!」
「ならチーズはどうなんだ!あれも臭いだろ!!」
「あれは美味しいのでノーカンです!」
「この血も美味いんだからノーカンだろ!」
「そんな物誰が飲むんですか!!!」
「......さぁ?俺はもう飲まんぞ」
「不味いんじゃないですか......ばか....」
いや、美味いっちゃ美味いんだよ。そう、例えるなら豆乳の様なイメージだ。砂糖や他の味付けをすれば更に美味しく感じる様な、こう......プレーンな足がするんだ。
ただ、俺はこの1杯で満足だな。
「そういえば、毒は?」
「あ〜、無かったぞ。ただ臭くて美味かった」
「時間経過......ですか。ではシャーベットをどうぞ」
「さんきゅ。 ......やばい!『不死鳥化』」
あ〜シャリシャリしてる〜って思った瞬間、猛毒と劇毒、麻痺劇毒と魔毒の症状が出た。
これは流石に、癒しの光で回復しても死ぬので、不死鳥化を使った。
「グッバイ俺の切り札。頑張れ夜の俺」
現在は朝の8時だ。不死鳥化の残りは約16時間......切れるタイミング的に、戦闘中に切れそうだ。
「そんなに効果が高まりましたか。では煮沸したのをどうぞ」
「サンクス。 ......?」
「どうされました?」
「う〜ん、毒になるっちゃなるんだけど......魔毒が消えてる」
「おや、まさかの毒抜きですか。成程、魔毒は熱に弱いと」
「猛毒は残ったがな。まぁ、もう回復しなくていいか」
これにて血の検証は終了だな。次は『俺の血』だ。
「フー、俺の血飲む?」
「え?.....あ、そういう事ですか。頭狂ったのかと......」
「元々狂ってる。で、飲んでみる?」
「......その権限はソルさんにあげたいですね。なんか、嫌な予感がするので。
逆に、私の血をルナさんが飲んでみますか?」
「そうするか......ってか会話の内容エグすぎない?」
「元々毒物の実験ですので、多分大丈夫ですよ」
そうかな?会話の内容的に、完全に吸血鬼のソレだったけど。
まぁ、とりあえず『生物の血液』が、どれほど人体に有害なのかを検証していこう。まず『魔毒肉の血』は『扱い次第で劇毒に変化』としておこう。
「じゃあコップに入れますね〜」
そう言ってフーは神度剣を取り出し、自身の腕に突き立てて血のポリゴンをコップに入れていった。
「......散らないんだな」
「え?どうされました?」
「いや、何でもない」
ボソッと呟いたが、何故かこのポリゴンは消えない事に疑問が生まれてしまった。
......もしかしたら今までの血も、地面には吸われているだけで残っているのかもしれない。
こういう考察は、怖いけどワクワクする。
「ほれ、『癒しの光』」
「あ、ありがとうございます!」
「うん。じゃあ飲むか......怖いけど」
今更だけど、フーは人じゃないんだよな。この実験で使っても大丈夫なのだろうか。
「まぁいいや。よし!飲みます!」
「複雑な気分ですけど、どうぞ召し上がってください」
俺はゴクッと、1杯のコップに入った血を一気に飲み込んだ。
「うわぁ......血の味がゴブゥ!!」
フーの血を飲み込んで数秒後、味の感想を言おうとしたら、俺自身の血のポリゴンが口から行ってらっしゃいした。
「ルナさん!?」
「......あ......や...ば......」
血を吹いて倒れ、今度は体が動かなくなってきた。
「と、とにかく!ソルさんを呼んできます!ですので耐えてください!!」
「......」
返事も出来ない。
さっきからHPが1になっては回復し、また1に戻るという、面白い挙動をしている。
あぁ、目も見えなくなってきた。足音は聞こえるが、かなり聞き取りづらい。
「......ナ...ん!ね...ナく...ん!!」
小さくソルの声も聞こえる。けれどごめん、体が全く動かないから返事が出来ないんだ。本当にごめんよ。
一旦ログアウトしてもいいが、なんかそれは嫌なんだよな。
自分から始めた事を途中で投げ出すみたいで、気が引けるんだ。だからこの症状がいつまで続くのかは知らんが、できる限り耐えるつもりだ。
「!......!!」
遂に声も聞こえなくなってきた。背中に置かれてる手の感覚も、多分リルやメルも来たのか、3本くらいはあったのに......今はもう、分からない。
おぉ、体が引き摺られて太陽光の当たる位置に持ってこられたが、全然回復しない。寧ろ減る時のスピードが『スーッ』って感じから『ガクンッ!』って、一気に減ってる。
なんでや?我、太陽光で回復するんやで?何で減るスピードが早なってんの?
そして俺は、気絶の状態異常になり、そのままおやすみした。
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『種族変化』を実行します。
Error:実行できませんでした。
打開策:『限界突破』を実行します。
Error:実行できませんでした。
打開策:『種族進化』を実行します。
Error:実行できませんでした。
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『緊急メンテナンスを開始します』
プレイヤーの皆様を強制ログアウトします。
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こんなウィンドウが出てる事も知らずに、俺は目が覚めた。
俺は寝転がったまま目を開くと、果ての見えない草原に寝転がっている事が分かった。
「うぅ......ここは私?何処は誰?」
「ここは開発者用ルームだよ!」
「......?」
キアラさんの声が、どこからともなく聞こえた。
「幻聴かな」
「いやいや。ルナくんの後ろに立ってるんだけどね!」
そう言われて横に転がって仰向けになると、確かにキアラさんが立っていた。
「やぁ!ルナくん。緊急メンテナンスルームへようこそ!」
「何ですか?それは。まるでアニメのラスボスが使う、異空間にある部屋に閉じ込めたみたいな言い方は」
「正にその通りだよ!ここはユアストのゲーム内だけど、あの世界には無い場所だからね!」
マジかよ。キアラさんラスボスだったのか。
「緊急メンテナンスルームって、何ですか?」
「お、気になる?まぁ、気になってもらわないと困っちゃうんだけどさ!それでここはね、言っちゃえば『バグやエラーを治す為に、打開策を練る場所』だね!」
それってさ
「それは開発陣が入る場所であって、俺がいる意味ないじゃないですか」
「......正論パンチ、クリーンヒットしたね」
「まぁ、それでも俺がいるって事は、何かさせられるんですよね?テストとか、垢BANとか」
「テストはするけどアカウント停止はしないよ!!!」
「あ、良かったぁ」
『貴様は知りすぎたようだ......消えてもらおう』って展開ではないみたいだ。良かった。
「それで?一般ピーポーの俺に何をさせるんですか?」
「一般ピーポーじゃあないけどね。それでね、ルナくんには種族の変化について、テストをしてもらおうかと」
「パンピーで無いのも気になりますが、種族の変化ですか?」
パンピーなのは確かだが、種族の変化は分からない。
あ、もしかして俺の今の種族が『人間』だから、色々な種族に『変化』できるとか?
今までは限界突破、及び種族の『変更』だったけど、それが『変化』になる......的な?
「大正解だよ!!凄いね!!」
「あ......もしかして口に出てました?」
「ううん!私の方で頭の中の考えを垂れ流してるの!!」
「イッツ、情報漏洩。あーゆーおk?」
「のーおk」
「......普通に犯罪では?」
「いやいや、利用規約にもあるでしょ?『ゲーム改善の為に思考をスキャンする事がありますが、第三者の手に渡らせない』旨の事をさ!」
「......覚えてねぇっす」
まぁ、それでゲームが良くなるならいいかな。一人のゲーマーとしてそう思う。
ただ、今のところ気になるのは宵斬桜の事だな。それどころの話じゃないのは分かってるが、この為にそこそこ動いてきたんだ。気になってしまう。
もし新月が過ぎてたら、また何日も待たないといけなくってしまうからな。
「あ、それは大丈夫だよ!全員のログアウトを確認したら時間の進行を止めてるから!」
「そうなんすね。ってか言っちゃって良かったんですか?」
「ゲーム改善の協力者に、何の対価も渡さないと思ってるの?」
「そういう見方ですか。分かりました」
はい、逆に言えば『もう情報渡したんだから逃げるなよ?』って事ですね分かりますちくしょう。
「それじゃあ早速テストを始めるよ! カズキ!」
「おっす。こんにちは、ルナ氏」
「あ、どうも。お久しぶりですカズキさん」
そう言えばカズキさんはモーション担当なんだっけ?知らんけど。
「ちゃっちゃと進めるぞ。まずルナ氏、君に何があったのかを話そうか。それが今回のメンテナンスの原因だからな」
何があったか......か。めちゃくちゃ知りたいな。
「お願いします」
お〜まいが〜、緊急メンテ入っちゃった.....
何があったのか、それは次回に分かるかと。( 'ω')
さぁ、新月二咲ク幻ノ桜の、真の始まりはもうすぐです。あと少し、お付き合いくださいませ。
では、次回も楽しんでいただけると嬉しいです!
★誤字報告、いつもありがとうございます!★