新月二咲ク幻ノ桜 捌
蛇の子よ
そなたは糧に
成り果てて
色の子達は
光り輝く
アンバー渓谷のダンジョン、第19階層にて──
「──という訳で、セレナは私の武器なんです」
『そう!ルミの武器なの!』
「神......なんだね。ビックリした」
「ルミさん。セレナさんはどれくらい強いんですか?あ、弓じゃなくて人の方で、です」
蒼さんからセレナについての質問が飛んで来た。
「セレナはどれくらい強いの?」
『弓はルミより上手いよ。他は全部負けてるけど』
「ですって。狩猟神の強さが伺えますね」
まぁ、俺の『王弓』ってまだ進化出来るんだけどね。
べ、別に悔しくなんてないんだからね!!
「ルミさんより......ですか......凄いですね」
『まぁね〜!っていうかルミの付喪神って、何かしら特化してるでしょ?』
「そうだ......ね。でもセレナの旧友の元イシスは、私の方が刀の扱いが上だと言ってたけどね」
口調が崩れてきた。頑張って立て直さないと。
やっぱり俺、演技が下手だ。相手を傷つける嘘ではなくて、自分を守る為の嘘をつけないのは危ないよな。
『ホント?っていうかあの子の本職は魔法でしょ。あ、先に大きいのいるよ』
「知ってるよ」
「「「「大きいの?」」」」
あ......サーチについて話してないな。でもこれ、話したらバレないか?いや、ルナの妹を公言したんだし、教えてもらったって事にするか。
「階段の手前ですよ。ドラゴンサイズの敵がいます」
「......ドラゴンと戦ったことあるの?怖くない?」
「えぇ、兄に連れてかれました。それと、中々に楽しかったですよ?ワイバーンと扱いは殆ど変わりませんし、何よりドラゴンのお肉は美味しいですからね!最高でした」
そう言えばドラゴンの肉、大分減ってきたんだよな。
脂身が少ないからヘルシーで、それでも食べ応えのある旨みたっぷりのお肉だから、つい沢山使っちゃうんだ。
「美味しいんですね!知りませんでした!」
「ドラゴンは魔力たっぷりのお肉ですから、柔らかいんですよ......ほら、アレです」
お肉について話していると、サーチに引っかかった魔力反応のもとへやって来た。
『ギュギュギュ!!!』
「あ」
ララバジ先輩だ。お前こんな所に出てきていいのかよ。
『ギュ......』
不味い、破壊石が光り出した!ビームが来る!!
「避けて!!!」
「「「「......え?」」」」
パチン!
ズッバァァァン!!!!!
超ギリギリでクロノスクラビスが間に合い、カラーズは守れた。
「大丈夫ですか!?」
「うん......でも、アイツ何?」
『ギュギュギュ!!!』
パチン!
一旦クロノスクラビスで動きを封じた。
「アレは『ララ・バジリスク』と言って、虹色蜥蜴の数十倍以上の経験値が貰えますが、さっきの通り、とても強い攻撃をしてきます」
「そんな奴がいるんすね......」
「あと言っておきますけど、アイツに物理、魔法攻撃は99パーセント効きませんよ」
「「「「はい?」」」」
「気になるなら試してみてください。今は動きを封じてるんで、試すなら今のうちです」
すまんな、流石にコイツは舐めプして勝てる相手じゃないから、試すなら早めにして欲しい。
「じゃ......私が」
真白さんがダガーを取り出し、一気に近付いて連撃を繰り出した。
ガガガガガガガン!!!!
「嘘っ!?」
「蒼さん、魔法を試しますか?」
「は、はい!『アイスローズ』」
蒼さんはララバジ先輩に氷で出来たバラを飛ばした。
「......『ボム』」
バリィィン!!!!
凄まじい音と共にバラが弾け、ララバジ先輩に刺さったかと思ったが......
「ギュギュ!」
「......強いですね」
「私もやるっす!!」
「私もだよ!!『魔剣術:破纏』」
翠さんが連接剣に闇属性の、それもVITのデバフ特化の魔剣術を発動させた。
「茜ちゃん!やるよ!」
「はいっす!『魔刀術:水纏』......『霧雨』」
ガキン!!!
デバフからの魔刀術の技でも、ララバジには傷がつかなかった。
「「「「無理......」」」」
『ふ〜ん。弱いね、君達』
「こら!直接言わないの!傷つくでしょ?」
『でも事実じゃん。この子達じゃこのキモイトカゲは倒せないよ。ルミだって分かってるでしょ?』
セレナは正直に全部言うタイプか。好かれるか嫌われるか、二つに一つの思われ方をする性格だな。
「あのね、分かってても言っていい事と悪い事があるからね?ちゃんとカラーズの皆の事を思って発言して」
流石に可哀想すぎるからな。まぁ、全部ララバジが悪いんだよ。ララ子が悪いんだよ。
『......言い過ぎたかも。ごめんね』
「......気にしないで。事実だから」
「レベルの差を痛感しましたからね。仕方ありません」
「もっとレベル、上げなきゃっすね!」
「良い狩場を探すんだよ!」
ええ子や。ええ子達や。
「じゃ......帰ろっか」
「「「うん」」」
「え?倒さないんですか?ララバジは経験値美味しいですよ?」
「ルミ......倒さないんじゃなくて、『倒せない』の」
『それが倒せちゃうのが、ウチのルミなんだよね』
「......ホント?」
「まぁ、過去2回倒してますしね。結構弱いですよ?」
外殻が硬いだけで、HP自体は低いからな。もしかしたら毒武器で完封周回されるかもしれん。
「......どうやるの?」
『ルミ、私を使って。固定ダメージの強さを見せてあげる』
「なるほど。じゃあやりますか」
『ギュ......』
パチン!
ちゃんと神器となったアルテ....いや、セレナは、5000の固定ダメージの弓になったんだ。
これならきっと、ララバジにも刺さるだろう。
「じゃあね、ララバジ君。『魔弓術:雷槍』......にする意味は無いんだった。『魔力矢生成』......ふっ!」
バスッ!!!
魔力で出来た矢が刺さり、一気にララバジを貫通し、奴の後方の地面に突き刺さった。
『ギュ......』
ララバジ先輩がポリゴンとなって散った。
「強いね、セレナ。正直ビックリした」
『凄いでしょ?あれぐらいの雑魚なら、この弓なら余裕だわ。私、神獣......じゃなかった。幻獣クラスと戦いたいわね!』
「それ、逆に固定ダメージが仇となって、倒すのに時間がかかるよ?神龍なんて数千万もHPあったんだし、5000でチマチマ削るのは骨が折れるよ」
『......そうだった。私、やっぱり雑魚狩りでいい。幻獣先には連れてこないでね』
「えぇ......?ちゃんと使うから自信を持って。さ、次の階層に行きましょ......って、アレ?」
セレナを下ろし、階段を進もうとしたらカラーズの皆が来ていないことに気付いた。
どうやら皆、リザルト画面で固まっているみたいだ。
「......何この経験値」
「私......遂にレベル100に......」
「私もっす......」
「カラーズ全員、限界突破出来るんだよ......」
「あの〜、進まないんですか?」
何やらブツブツ呟いていたので、先に進むのかどうかを聞いた。
「ルミ......あなたのレベルは幾つなの?今の戦闘で、どれだけレベルが上がったの?」
「さぁ?私は狩りが終わってからチェックする設定にしてるので、どれだけ上がってるかは分からないですね」
多分、100レベ近く上がってるんじゃないだろうか。
夢の古代魔法まで、結構遠いんだよな。
ってか運営よ。俺に古代まほーを使わせる気はあるのか?
初期で消費MP20万、それとマナ効率化で10万に落ちてるが、10万のMPを溜められるのか?
こだいまほー......マジでエンドコンテンツだな。
「そうなの?......多分ルミも、限界突破出来るよ」
「そう......ですね。自分の限界は超えたいものです」
俺、もう限界突破は出来ないんだ。これが最後の種族『人間』なんだ。
成長の限界がない。故に限界突破が出来ない、そんな種族。
あるのは心の限界だけだ。自分で決めたゴールしかない、永遠の課題を背負う種族だ。
「じゃあ、行きましょうか。次がラストっぽいですし、気を引き締めて行きましょう」
「......その前に限界突破していい?」
「そうですね。なら一旦、休憩にしましょうか」
「ありがとうございます、ルミさん」
「いえ、種族を選ぶのに時間がかかるでしょうし、私もやりたい事があるので丁度いいです」
「そうなんですね!では、少し考えて選びたいと思います!」
「はい!」
そうしてカラーズと少し離れ、俺は土魔法で作った椅子に座った。
「『サウンドカーテン』......なぁセレナ、気付いたか?」
『当たり前よ!あの子達、ここで限界突破を選んだのは最適解ね』
「あぁ。この下の奴、ヴリトラなんかと比にならない、それこそ幻獣クラスの奴だぞ」
俺が階段を1歩進んだ時、サーチにバカでかい魔力反応が引っかかった。
アレは下手したらヴリトラの倍、もしかしたら神龍と肩を並べるかもしれない敵だ。
『う〜ん、でもあの子達、多分死ぬよ?』
「まぁな。流石に戦う前に、死んだらパーティを解散することを伝えるさ」
『最善ね!流石私の可愛いルミよ!力強い口調もカッコイイわ!』
「どうも。じゃあ飴玉バフ掛けて、カラーズを待つか」
『飴玉?』
「そ。これ」
俺はそう言って、インベントリから飴玉を取りだした。
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『ルナちゃん&ソルちゃん特製☆つよつよ飴玉』
Rare:25
効果:口に入れてから3時間、STRとDEXが1.5倍になり、1分につきHPが1,000、MPが500回復する。
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『何その飴玉......本当に強い......流石ルナね!』
「ソルとの合作だ。マジで強いぞ」
これは俺が作った沢山の飴をソルが溶かし、全部を混ぜて作ったら出来た、二度手間キャンディだ。
味はフルーツ味で、時々感じる酸味がとても美味しいのだ。
「う〜ん、おいちい。ソルの女子力は天下一だな」
『あの子、器用だもんね〜!』
「あぁ。ソルの器用さはとても尊敬している」
無論、DEXの値のことを言ってる訳ではない。
陽菜が持つ、本来の器用さを俺は尊敬しているのだ。
「あぁ.....明日の夜までに毒の調合しなきゃならんし、今日も徹夜かなぁ。はぁ......」
例えゲーム内でも、徹夜する事に抵抗を覚えてきた。
リルやメル、ソルと一緒に寝すぎたからかな?同じベッドに誰かいないと、結構寂しく感じるようになってきた。
『ちゃんと寝ないとソルにも怒られるよ?語り人だからって無理しちゃ、私やフーが心配するわ』
それはフーも同じ事を言うだろうな。
「はは......お前ら、謎に母性あるもんな。心配してくれてありがとう」
『そりゃあ、これだけ付喪神を大切にする人なんていないからね。私、知ってるからね?他人の付喪神を助けた事』
「あ〜あれか。あれは気まぐれだよ。もうやらん」
嘘だけど。俺がフーとシリカ、そしてセレナとじいさんを大切にしてる以上、どんな付喪神でも見捨てるつもりはない。
『嘘ね。ルナは絶対に付喪神は助けるわね。じゃなきゃ私も付喪神になんてならないもん。フーが、イシスが認めた人なんだし、私の考えは当たってるはずよ』
「......言ってろ」
『もう......素直じゃないね。ま、そんなとこも可愛いけど!』
「うるせぇ」
『ほら、口調を戻して。あの子達が来るよ』
「分かったよ、セレナ」
どうやら、カラーズの皆は限界突破を終えたようだ。
「お待たせしました!それでは行きましょうか!」
「はい!気を引き締めて行きましょう!」
「「「おー!!!」」」
「......おー」
そうして俺達は、アンバー渓谷のダンジョン、第20階層まで来た。
あ〜.....特に書くことありませんね。
では次回、第20階層のお話です。お楽しみに!