新月二咲ク幻ノ桜 伍
約束を
守るためなら
命さえ
賭けているなら
私はいない
王女の抜刀術を、片手に持った木刀で弾いた。
「んなっ!?......やりますね」
「減速、遅いですね。構えもブレていますし、王女......本当にそれで刀を?」
滅茶苦茶だ。体の芯がブレ、剣が真っ直ぐに振れていない。
「これは師匠から教わった物です」
「はぁ......その事をあなたの師匠が耳にすれば、さぞ悲しむでしょうね。あぁ、可哀想」
「ッ!......侮辱する気ですか?」
「まさか!その師匠を侮辱してるのは貴女でしょう?あぁ、いえ。もし貴女の師匠が『体を揺らし、剣をブレさせ、迷いのある一刀のもとに振りおろせ』などと言っていたなら、話は別ですが」
当然、俺はそんな事は言っていない。寧ろ『やってはダメだ』と何回も教えたからな。
「貴様!」
......カン!!......カカカン!!!!
納刀からの抜刀、さらに3連撃が来たが、全て弾いた。
「3連撃、遅いですよ。これならウチの子の方が、10倍は早く打てますね」
「何を!!」
「まぁ、そう感情的にならずに。『魔纏』......使わないんですか?」
「何故それを貴女が!?」
「秘密です。さぁ、使いなさい?コチラは木刀ですよ?」
「......死にますよ?」
「殺せるとお思いで?......笑わせんなよ」
ニコニコ笑顔から一気に冷めた顔にした。王女、本当に弱くなったな。稽古をつけたお兄さん、とても悲しんでるよ。
「ッ!......『魔纏』」
「うん。さぁ、先手はどうぞ」
「はぁ!!」
ガンッ!!ガガンッ!!!!
軽いなぁ。重いのは音だけだ。
「ダメですね。そもそも魔纏の仕方が悪すぎます」
「魔纏の......仕方?」
「えぇ。その刀、ルビーが使われているでしょう?それも、魔力を宿した物が」
「......えぇ」
「なら、魔纏には何通りも魔力の纏わせ方があるのを、貴方は理解しているはずです」
「魔力の通り方?」
これはフーに教えられたんだけどな、魔纏って何パターンも魔力の纏わし方があるんだ。
大きく分けて、3つだな。
まず、剣の柄から剣先までを、徐々に覆うパターン。
次に、剣先から柄までを覆うパターン。
最後に、大量の魔力を消費して、剣自体を一気に魔力で覆うパターン。
これらにはそれぞれ、メリットとデメリットがある。
1つ目のパターンは、『剣速は速くなるけど威力が落ちる』纏わせ方だな。
柄から魔力を纏わせるので、必然的に柄の方に魔力が集まる。
だから『剣を振る』事に対しての補正が大きく、『剣で斬る』事に対する補正が小さいのだ。
2つ目は、1つ目の全くの逆パターンだな。
3つ目は1番大事だ。『剣速も速く威力も上がるが、剣が重く、振りにくくなる』という物だ。
これは単に、刀身を覆う魔力の量が多いので、その分重く、振りにくくなる。
但し、STRの値によって強く、早く振れると、その分凄まじい威力が出るという事だな。
「おかしいですねぇ。貴女の師匠は『全体的に纏わせろ』と言うと思うのですが......どうして貴女は『柄から纏わせてる』んですかねぇ?」
「そ、それは!」
「節約......ですか?それならば、相手を選ぶべきでしたね。私は貴女が節約した攻撃で勝てるほど、甘くないですよ?」
燃費悪いからなぁ、3パターン目。俺はブリーシンガメンがあるから屁でもないけど、普通の人が使う分には『必殺技』とも言えるやり方だからなぁ。
「......そうですね。私は貴女を舐めていました」
「気付くのが遅いですよ?ほら、貴女の全力でかかってきなさい。王女道場......なんて呼ばれてるらしいですけど、これじゃあ道場を名乗るのも烏滸がましいですからね」
「えぇ......いざ!」
ガンッ!ガガガガガン!!!
抜刀からの5連撃、いいね。重いよ。
「まだ!」
ガゴン!......ミシミシ......
「あらあら。木刀ちゃんが限界を......『魔纏』」
流石に木刀も耐えきれなくなったらしいので、俺も魔纏を使う。
すると木刀は、淡い紫のオーラを纏った。
「綺麗......ですね」
「そうですか?まぁ、経験ですね。でもこの子、魔力を宿さずに作ったものですから微妙な感じですけどね」
「それで微妙ですか......」
多分、魔刀術使ったらぶっ壊れるんじゃないかな。諸刃の剣とはこの事か?
「ほら、早く来なさい。魔刀術でも何でも、使える手を全て使って私を殺しに来なさいな」
これは稽古中にもやった『全力で俺を殺しに来い』ってヤツと一緒だな。
まぁ、死にたくなかったから全部弾いたんだけど。
「師匠のような事を言いますね」
「きっと同じような考えなのでしょう。弱い者に教える時、1番勉強になるのは『強い者を殺す事』ですからね」
だってレベルが上がるもん。ステータス的にも、精神的にも。
「私は......強いです!!」
「いいえ、弱いです。強いと言っている内は、自分の力に酔えますからね。そう思いたくなるのも無理は無いでしょう」
「何をさっきから!!......『魔刀術:雷纏』......」
「お?では次で決めますか。勝者は最後に立っていた方、という事で」
「えぇ......」
いいね、ちゃんと集中してる。口から涎を仕舞い忘れてるぐらい、深い集中だ。
「ではこちらも。『魔刀術:雷纏』」
あ、戦神は使わないぞ。だって、使ったら確実に俺が『ルナ』である事がバレるだろうからな。
女装して来ている事がバレたら、黒歴史どころの話では無くなりそうだからさ。隠したいんだ。
「......『電』」
「『雷』」
バギャァァァァン!!!!!
2つの刀がぶつかり、凄まじい破壊音を発生させた。
「はぁ......はぁ......やった............倒した!」
「あ〜あ。やっぱり木刀折れちゃった。調整ミスったなぁ」
「え?」
王女が這いつくばって勝利を噛み締めている所に、棒立ちの俺の独り言がこんにちはしてしまった。
危ない危ない。ちゃんとロールプレイしなきゃ。男口調を隠さないと!
「では、立っていたので勝利は私ですね......それと」
俺は王女に近づき、耳元で囁いた。
「俺の弟子なら、さっき言った事全て直せ。もし次会った時に治ってなかったら、また地獄のドラゴン狩りにするぞ」
「ル......ルナさ......ん?」
「『ボイスチェンジ』......では、また会いましょう。王女様?」
「は、はい!!!」
そうして、王女道場へのカチコミは無事に終了した。
そうして王女から離れると、プレイヤー達に質問攻めにされた。
「お前マジか!!」
「お姉さん、凄いよ!!初めて王女に勝った人だよ!!!」
「嬢さん、あんた本物か?」
「うおぉすげぇ!!なぁ、俺にも刀教えてくれよ!!」
「一緒に戦いましょ!!ね!!いいでしょ!!!」
「いえ、私は弓使いですので。後衛しか出来ないんです」
「「「「「嘘だ!!!!!」」」」」
「本当ですよ。私は対人戦なら刀は扱えますが、モンスターは怖くてですね......その......遠くからじゃないと、震えちゃうんです」
震えちゃうんです.....(殺したくて)
なんてな。流石に嘘がデカすぎたか?
「ならウチのパーティに来てくれ!頼む!!」
「私のとこに!是非!後衛が足りないの!!」
「俺のところにぃぃ!!お願いしますぅ!!」
ピュアだな、皆。
どうしようかな。野良パーティってのも、悪くない気もしてきたぞ。
いやでも、他の人といたら正体バレるよな?
あ〜もう!どうしよう!!
「はぁ......なら、ジャンケンで勝ったところに、今回だけ入りましょう。条件はアンバー渓谷のダンジョンに入れるならそれで」
「「「「「いよっしゃぁぁ!!やるぞぉぉ!!!」」」」」
コイツらどんだけ俺を誘いたいんだ。不思議でならないぞ。
そしてジャンケン大会が始まったので、訓練場の端っこに突っ立っていたら、ソルからボイスチャットが飛んできた。
『ねぇルナ君。今掲示板を見てたんだけどさ』
『うん』
『王女道場で初めて王女が負けたっていう書き込みを見たの』
『うん』
『それでね、写真もあったから見たんだ』
『......うん』
『これ、ルナ君だよね?』
『......そうだな』
『ルナ君、調合してるんじゃなかったの?』
『......これにはマリアナ海溝より深い訳があるんだけど、聞いてくれる?』
『うん。口調はそのままなら、ちゃんと聞くよ』
それから俺は、ソルに魔毒肉が足りない事を話した。
『あ〜......なるほどねぇ。じゃあ、お出かけはどうなるのかな?ねぇ、どうなっちゃうのかな?』
『......リアルの方で補填という形には『出来るけど出来ない』っすよねぇ......』
リル達が納得しないもんな。あ〜あ、やっちゃったね、俺。
『まぁ、桜との戦闘も控えてるし、リルちゃん達には何とか説得するよ』
『すんません......お願いします』
『次は無いよ?多分。私とはいつでも会えるけど、リルちゃん達はここでしか会えないんだから、そこは理解してあげてね』
『はい。お土産も持って帰るんで、何とかします』
『よろしい。じゃあ野良パーティでの攻略、頑張ってね。それとプライバシー設定で名前を変えるの、忘れちゃダメだよ?』
『何それ』
『パーティに表示される名前を変えられるの。これをしてなかったら、ルナ君がルナ君である事、バレちゃうよ?』
『設定した』
『早いね!?』
『名前は『ルミ』だ。アルテミスから取った』
『偶数番目の文字を取ったんだね。なるほど。じゃあ、頑張ってね!』
『あぁ。大好きだよ』
『私も!』
そうしてソルとのボイスチャットが終了した。
「お姉さん!私、勝ったよ!!!」
エメラルドグリーンの髪に紫の目の女の子が、ジャンケンで優勝したようだ。
「そうですか。では招待を送ってください」
そうして女性プレイヤーから招待が送られてきた。
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『翠』からパーティ招待が届きました。
承諾しますか?
『はい』『いいえ』
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もちろん『はい』と。初めての野良パーティ、楽しみだ。
「よろしくお願いしますね、翠さん」
「よろしくね!ルミさん!」
こうして、俺は翠さんの臨時メンバーとなった。
ちゃんと女装バレを阻止するソルさんマジ女神。
次回は野良パーティでのお話です。楽しんでくださいね!
(^・ェ・^)/