その天使、化け物につき 後編
天使(女)(男)(71kg)(高校生)(元世界6位)
現在、森エリアを疾走中──
「あと10人か。皆今なんキル?」
「5だ」
「はち〜」
「よ〜ん。アルは?」
「18だ。合わせて35キルか?そこそこって感じだな」
タリナイ......血ヲ......モット、血ヲノマセロォォ!!
って感じだからな。『35キルはそこそこ』なんだよ。
「3割殺ってるんだけどな。普通ならお腹いっぱいだわ」
「足りないぞ......だって!」
「私達!」
「ニヒルは!」
「「「キルが大好きなんだもん!!!」」」
「仲良いな、お前ら」
「えへへ」
褒められちゃった。我らにニヒルは仲良しなのだ。
仲良し虐殺者なのだ。フーハハハ!!!!!
「「「なに今の可愛い」」」
「仲良いな、お前ら」
まぁ、姿が天使なのだから仕方がない。最強なのだ。
可愛ええやろ?でも惚れたらアカンで。あの子のパパさん、めっちゃ怖いらしいから。
少しでもいやらしい目で見たら、炎の槍が飛んでくるらしいで。
バゴォ!!!!!
「ん?撃たれてんな。弾痕的に右からの射線だ」
「「「了解」」」
地面の抉れ方から敵の位置を割り出し、皆に報告した。
う〜ん、この穴の深さからして、多分スナイパーライフルで撃たれたんだろうな。
でも少し、穴が深すぎないか?いくらサナでもここまでは抉れない。
......となれば──
『アイツ物資武器持ってる。しかも神の目インドラだよ』
「やっぱりな。最強武器とか怖すぎだろ」
10分に1度、衛星から射出される『サプライポッド』がエリアに降りてくるのだが、そこには様々なアイテムが入っている。
このポッドに入っているのが、武器が4種のうち1つ。
最高級品の回復アイテムか、そのワンランク下の回復アイテムが1つ。
防具が最高級品のヘルメット、又は防弾ベストがどちらか1つ。
そして最後。低確率で入っている『神の目』というスコープだ。
これは射線が通っている限り、どんな敵でもエイムを合わせることの出来る、公式チートアイテムだ。
『インドラとかクソ過ぎんだろ。しかもゴッダイとか......アイツ、上半期の運全部使ったな』
「わかりゅ。とりあえず頭抜こうか。ピギー行けゆ?」
『無理。アイツ宇宙服ヘルメだもん。やり切れない』
「りょ。なら俺がやる」
宇宙服ヘルメとは、補給物資であるサプライポッドに入っている、最高級品ヘルメットの事だ。
見た目が完全に宇宙服のヘルメットな事から、そう呼ばれている。
ちなみに、サナとインドラ以外のヘッドショットを耐える、化け物性能となっている。
「位置出せる?」
『無理。顔出したら死ぬ。さっきみたいにコッキングしてなきゃ100パー無理』
『僕も。ドール貫通するし怖すぎて無理』
『俺もだな。ゴッダイインドラは流石にキビい』
ゴッダイは『神の目』を『ゴッドアイ』に変換し、それを縮めた略称だ。
「ったく、しゃねぇなぁ。この天使様が直々に見てきてやるよ。ついでに頭ぶち抜いてくるわ」
『『『逝ってこい!!!』』』
「任せなベイビー」
そう言って木の影からちょっとだけ体を出した瞬間──
ドゴォォ!!!!!
右腕にインドラが命中し、マイライトアームがぶっ飛んで行った。
「ンヒィィ無理ぃ!インドラ掠っただけでHP8割持ってかれたぁ!!!」
『乙。死ななかったって事は手に当たったか?』
「Yeah! 右腕ガ吹き飛びましたネ!」
『アルの利き腕じゃん。どうする?流石にヤバいよ?』
「いや......やる。まだ左手は生きてるからな」
インドラ......ポッドの4種の神器である、ハンドガンの『ゼウス』ショットガンの『ヘラ』アサルトライフルの『ヴリトラ』そしてスナイパーライフルの『インドラ』
インドラはボルトアクション方式のライフルで、
装弾数は5、威力は生身の胴体なら一撃、最低品質の防弾ベストでも一撃という化け物威力。
弾はポッドからしか入手不可の、30発の特殊マグナム弾。
スコープは好きな物が付けられ、アイアンサイトも見やすい神仕様だ。
それに公式チートアイテムの神の目が付いているだと?
「いいじゃん......萌えるねぇ!燃えるねぇ!」
『お前も大概戦闘狂だよな』
『鏖殺天使、アルテミス』
『それいいね!ピギーセンスある!これからアルは鏖殺天使だ!』
コイツら......俺の名前で遊びやがって......でもセンスが有るのは認めよう。
いや、寧ろ気に入った。
化け物呼ばわりされるより、『鏖殺天使だ!』って呼ばれた方がマシだからな。
「じゃあ録画するか。後で運営に送り付けようか、アテナが」
『俺かよ!......で?タイトルは?』
「『鏖殺天使、神の目インドラにサナ・エクシトゥムで勝利したwww』だな。昔の動画っぽく、草を3つ生やそう」
『おk。なら後でデータくれ。編集して送るわ』
俺は録画を開始した。
これなら俺の視点からの映像と、試合後のリプレイ映像の2つの視点から試合をチェック出来る。
FSの動画配信者は、皆2つの映像を組み合わせてキル動画を作成している。
「頼んだ。公式クリップに採用されたらユアストでお前らに武器作ったるわ」
『『『マジで!?』』』
「あぁ。こういうのがあった方が盛り上がるだろ?」
『アル、アンタは最高だよ....!』
『私達の、日本の希望だ......!』
『アルしか勝たん!』
「まぁ、採用されなかったらナシだからな。とりあえず、やれるだけやる」
『『『頑張れ!!!!!!』』』
コイツら......ったく、じゃあねぇなぁ。べ、別にアンタのために作るんじゃないんだからね!
ば、罰ゲームだから!勘違いしないでよね!!
公式が鏖殺天使を認めた時の罰ゲームなんだから!
そんなツンデレ思考と共に、どうやってアイツを倒すか考えた。
失った右腕、全快したHP。方向的には街からの狙撃。
距離は不明、だがやるしかない。
そうだ。弾丸と弾丸をぶつけたらいいんじゃね?
「なぁ、誰か弾丸と弾丸がぶつかった時の反応知らね?」
『待ってろ、今試す............マジかよ!?』
「どうだった?」
『消滅した。両方の弾丸が、綺麗に弾けて消えた』
ビンゴ。だけどまだ足りない。
「それは同じ弾でだろ?違う弾ならどっちが勝つ?」
『アル、消えたよ。今7ミリと9ミリ弾をぶつけたけど、どっちも消えた』
「ナイス翔。それが聞きたかった。じゃあ俺、やるわ」
『......マジで言ってんのか?』
「あたぼ〜よ。世界6位、日本1位を舐めんなよ?」
『いくらボルトアクションじゃないからって、マジでやる気なの?流石に私も正気を疑うんだけど......』
「サナを信じろ。ピギーくらいの砂使いなら、サナを信じてやれ」
『アル、失敗した時のことは?まさか僕に丸投げ?』
「そうだぞ。俺の死体から5ミリを回収して戦え。あと使いたかったらサナも使ってくれ」
『......まぁ、成功する事を祈ってるよ』
今回ばかりはガチの賭けだ。ソシャゲの新キャラ排出率1パーセントのガチャ?え?0.005パーセント?
ぬるいぬるい、こちとら天文学的な確率に挑むんだ。格が違う。
でもな、運も実力の内。FPSにおいて『運=実力』でもある。
常人がやって天文学的な確率......なら化け物が、『鏖殺天使』がやれば?
きっと、天文学的に低い確率から、一気に現実的な確率になるだろう。
「俺は......やれる......よし、やるぞ」
相手の位置は、経験と勘によりビルの屋上と推定する。
これが間違ってたら、まず俺は死ぬ。
だけど当たっていたら、今度は相手の射線を読む。
ほんの1ミリメートルでもズレれば、その瞬間に俺は死ぬ。
最後にサナを2連射した時に、ヘッドショットじゃ無ければ次弾で俺は死ぬ。
チャンスは1度だ。楽しんで行こう。
「ふぅ................ゴー!」
木から出てサナを左手で構える、そして0.8秒待ち、経験と勘による判断で3番目に高いビルの屋上にエイムを合わせる。
そして0.18秒後、2回引き金を引く!
ババンッ!!!!
「ピギー、確認を」
一言そう言い、俺は地面の草に寝転がった。
『......死んでる......アイツ、死んでる!!!』
その言葉を聞いた瞬間、とてつもない達成感に包まれた。
「ッシャァァァ!!!!俺の勝ちだぁ!!!!!!」
そう叫ぶと、3人が俺の所へやって来た。
「やりやがった......マジでやりやがったよコイツ......」
「これ、逆に運営が公式で出さなかったらヤバいよね!」
「うん。今のは大会優勝とか、そんな事と比にならない、歴史的瞬間だからね」
「やったぁぁぁ!!!!やったよぉ!!!!!」
嬉しい、楽しい、最高だ!!!あぁ、このゲームをやっていて良かった!このゲームを楽しんでいて良かった!
このゲームが、好きで良かった!!!
「じゃあラスト9人、オールキルするぞ。アル、立て」
「うん!!!」
よし、ここからは街での戦いになりそうだし、気を引き締めていこう。
そうして俺達は街に向かい、最終的に残りの敵全てをキルする事が出来た。
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YOUR WINNER!!! おめでとう!
【アルテミス】«MVP»23kill
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【4thenA】8kill
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【Piggy】8kill
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【翔タイム】6kill
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上記の者がバトルロイヤルで優勝した!
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「やっちまったな、俺。神プレイを録画した上に、ウィンナーも取れた」
「今回のお前は確実に『鏖殺天使』だった」
「うんうん。最っ高に可愛くて、最っ強に強かった!」
「最早1周回って化け物に帰っていたね。今回の事全てを動画にするなら、タイトルは正に、『その天使、化け物につき』って感じだね」
試合後、広場に転送される前に雑談をした。
「いやぁ、このゲームやってて良かった。次の公式大会とかあるなら、一緒に出ようぜ?」
「そうだな。ストレリチアを抜けてでも、お前らと一緒に出たいな」
「私も出る!ニヒルの2連覇、成し遂げたい!」
「いいね。僕の通り名がまた有名になるのは、少し楽しみだよ」
次の公式大会、いつだろうな?また賞金も9桁か10桁は出るだろうし、お金稼ぎ的にもやりたい。
いや違うな。このゲームをもっと『楽しむ為に』、大会で勝ちたい。
そう思い、決意を固めてると、俺達は広場に転送された。
「......っし、アテナ、今の試合の俺視点、送っといたぞ」
「ん。受け取った。じゃあ後でリプレイと一緒に編集して、YouBrownと運営に送っとくわ」
「おう!任せたぞ、ベストフレンド」
「任されたぞ、ベストフレンド」
俺とアテナは固く握手をした。
「絵面ヤバいよ?幼女とガチムチの男の握手とか、犯罪の臭いがするんだけど」
「確かに。でもこれの面白い所って、ガチムチの男より幼女の方が強いとこだよね」
「そうだね。翔の言う通りだね!」
そんな2人の会話が耳に入ってきたが、気にしない。
「じゃあ満足したし、俺は落ちるわ。ユアストで俺ん家に来たら武器作ってやるから、公式動画のチェックは忘れずにな」
「「「了解」」」
「じゃあな。お疲れ様」
「乙〜」
「お疲れ!」
「楽しかったよ。お疲れ様」
そうして俺はFSからログアウトし、VRヘッドセットを外した。
「......そうか。確か陽菜にキスされた困惑から始めたんだっけか」
今になって、どうしてFSをやったのか思い出した。
「ファーストキス......だよな。なら、アレだ。アレしかない。いや、別にファーストキスとか関係ないけど、単なる理由の1つに過ぎないけど、でもいい。俺は決めた!」
父さん、母さん。俺、これからの人生を選ぶよ。見てて。
「陽菜と結婚する。それが俺の、これからの目標だ」
陽菜に助けられてから救われた俺の人生、全部陽菜にベットしようじゃないか。
辛い時に傍で支え、楽しい時は一緒に楽しむ。
そんな笑顔溢れる人生を、陽菜と一緒に過ごしたい。
これは俺の人生だ。高校を卒業する時、ちゃんと言おう。
それまでは、今までのような恋人関係でいよう。
最初から最後まで、ツッコミどころ満載でしたね。
そして月斗君の人生の第一目標が決まったようですね!
2人が幸せになる事を祈ります。頑張れ
では、次回『鏖殺天使、爆誕』お楽しみに!