守るとは、殺すという事
思いは重く、気持ちは軽く。
「これより!語り人『ルナ』VS、語り人『ジル』の決闘を開始する。構え!」
闘技場を借り、あのクソ男と共に決闘を申し込んだ。
闘技場の内部は以外にも狭く、観戦席が大半を占めるような構造となっていた。
そしてその観戦席には、ソルとリル、メル。そしてラキハピさんが見ているが、他の席もほぼ満員にまでなったいた。
どうやら、ラキハピさんの配信を見てやって来たらしい。
「ジル......君はそんな名前だったんだね」
「だから何だよ?ここでお前を殺す!!」
何でそんなに殺意に満ち溢れているんだよ。
狙った女に彼氏がいただけだろ?それの何がおかしいんだよ。
それに、彼女が欲しいならゲームじゃなくて、リアルで自分磨きをしろよ。
「始め!!!」
「ほら、早く来なよ」
「黙れ!!『ファイアウォール』!!」
お、まず壁を作ったか。この子、意外にも頭が回る?
パチン!パキパキ......
クロノスクラビスにより、ファイアウォールは氷の粒となって消えた。
「んなっ!?『アイスニードル』!」
パチン!ポトッ......
切り返しで放ったアイスニードルも、クロノスクラビスによって空中で停止し、そのまま地面に落っこちた。
「はぁ......君にはガッカリだよ。ソルが欲しいんだったら俺より強い人じゃないと。
......そんなんじゃソルが守れないだろう?」
「うるせぇ!!」
お、どうやら剣で攻撃を仕掛けてくるようだが......後ろに隠している短剣を、俺は知ってるぞ?
......何せ、毒が塗られているからな。
「ふっ!死ねぇ!」
予想通り、途中で歩みを止めて短剣を投げてきた。
「『フラカン』......ふ〜ん?これもアダチェウス製の短剣かな?『斬』」
飛んで来た短剣を魔法でキャッチし、布都御魂剣を抜刀した。
スパン!!カランカラン......
「はっ、脆いなぁ。こんなんで刺そうと思ったの?ねぇジル君。君、こんな脆い短剣で俺を殺そうとしたの?......笑わせんなよ?」
せめて『不壊』は付いてないと、布都御魂剣で簡単に斬れちゃうぞ?
「うっ、クソっ!『フレアボム』!!」
「弱いよそれ。『戦神』『ファイアウォール』」
ジル君の飛ばしてきた炎の爆弾は、綺麗に俺のファイアウォールに吸い込まれて消えてった。
「なっ!?」
「ほらぁ、次の手はぁ?もっと強い魔法がぁ、ぼくは見たいなぁ?」
「くっ......」
めっちゃ歯軋りしてる。そんな事をしてると歯が削れるぞ?
もっと自分をいたわりなさい。
「はぁ......つまんなくなってきたな。フーとシリカはどう思う?」
『元からこの男がつまらないです』
『うんうん!お兄さんから狐ちゃんを取ろうとしただけでもバカなのに、お兄さんを殺そうとしたのもバカだよね!!あはは!!!』
「良かったなジル君。シリカにはウケたぞ」
「うるせぇ!!!!」
つまらないな。
何せ、『うるせぇ!』『死ね!』しか言わないもん。
FSプレイヤーの掛け声的なのは、もっと凄かったぞ?
『あれれ〜?君の弾、僕に当たらないねぇ?でも、僕の弾は君に当たるねぇ?』
とか
『いや〜ごめんごめん。君、全然動かないから頭当てちゃった☆てへぺろッ!』
って、頑張って弾を避けてるプレイヤーをめちゃくちゃに煽りながら撃ってくる奴もいるぞ?
ユアストでも、もっとセンスのある掛け声を聞きたいものだ。
「ま、もういいや。『蔦よ』」
「ふんっ!」
「おっ」
おや、俺の蔦ちゃんを斬ったか。まだ冷静なのかな?
「じゃあこんなのはどう?」
俺は布都御魂剣を納刀して、空いた左手で行動詠唱の設定をし、右手でそれぞれのアクションをした。
親指を立てたり、握り拳を作ったり、そんなアクションを。
すると、どこからともなく、大量の蔦と茨がジル君に襲いかかった。
「嘘っ!」
ん?最後『クソっ!』って言ったのか?よく聞こえなかった。
「あ〜あ。綺麗な緑のボールになっちゃってまぁ......」
今、この緑の球体の中で茨ちゃんによってジワジワとHPが削れている事だろう。
「さ、これの出番だな」
俺は『龍神魔法』のスキル書を取り出し、使用した。
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『龍神魔法』を習得しました。
『龍魔法』が進化しました。
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うむうむ。ちゃんと進化のログも出るようになったね。
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プレイヤー『ルナ』が『魔級』の魔法を習得しました。
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「お、ワールドアナウンスが出ちゃった。ってか魔級なのな」
初めての最高位魔法だ。メル、ありがとう。
「じゃあこの、あらかじめ貰っておいた魔法陣を見て......と」
どこかのタイミングで龍神魔法を覚えた時の為に、事前にメルに魔法陣を書いてもらっていたのだ。
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『インフェルノブレス』を習得しました。
『グレイシア』を習得しました。
『テンペスト』を習得しました。
『滅光』を習得しました。
『終焉開始』を習得しました。
『終焉終了』を習得しました。
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消費MPはそれぞれ上から、6000、6000、5000、1万、10万、30万となっている。
感情強化によって増えたMPを考えて、滅光までが使えるな。
ソル、大好きだぞ。
「じゃあやるか。『戦神』......そして本邦初公開、『グレイシア』です!!」
もう懐かしく感じる、俺の足を持って行った魔法だ。
バキバギバキ......バキン!!
凄まじい勢いでリングが凍りつき、ジル君のいるはずの緑のボールは、蔦がそのまんま凍った様な、美しいアートに変わっていた。
「ふぉぉぉ!!!めっちゃ綺麗だな!」
『これは美しいですね!』
『アレに薔薇が生えてたら、もっと綺麗になるね!』
「氷の薔薇か......それは確かに綺麗だな」
シリカ、君の美術センスは最高だ。尊敬する。
「ではここで、蔦ちゃん達を解除してみましょう」
パチン!
指を弾くと同時に、蔦ちゃんと茨ちゃんを解除した。
「う......うぅ......って何だよこれ......」
分厚い氷の丸い部屋に閉じ込められた、囚われのジル君が完成した。
「ほらほら〜、今回復してあげまちゅからにぇ〜『戦神』『エリアヒール』......さらにぃ、『リジェネレーション』!!」
INT爆上げからの範囲回復、その上に持続回復効果をジル君に掛けた。
「さぁジル君。元気になったところでそこから脱出しよっか。ほら、立って立って!その脆く、弱く、製作者の愛を踏みにじった剣で、この氷を砕いてぇぇ!」
あの剣の耐久値を見た瞬間、『小春』という人が可哀想に思った。
小春さんが作った剣を、コイツはメンテナンスもせず、乱暴に扱い、高い耐久値を半分近くまで減らして放置していた。
そりゃああの剣も脆くなるだろう。弱くなるだろう。
武器に対し、真摯に接しない奴の剣なんて、木の枝よりも弱い。
ガン!ガン!......ガキン!!
「あれれぇ?全然壊れないねぇ?ほら、もっと力を入れて?ほら、ワン、ツー!ワン、ツー!」
「うるせぇぇぇぇ!!!!!」
「ぼくちゃんの為に、チアダンスを踊ってあげようか?まぁ俺、1度もチアダンスを見たことないんだけど」
『ぷぷっ......ならどうしてチアダンスを......ぷぷぷ』
こういうのはノリと勢いなんだよ。察せ。
ガン!ガン!
「はぁ......それ以上やると、その剣が折れるぞ?」
「黙れ!!」
ガン!ガン!
俺が忠告しても尚、ジル君は氷に剣を突き刺した。
「チッ......『クロノスクラビス』グレイシア、解除」
「んなっ!?動けねぇ!!」
ジル君を拘束し、グレイシアを解除した。
「この剣は貰うぞ?......ほら、もう耐久値が15しかないじゃないか。これは俺が責任をもって修理し、製作者である小春さんの元へ返そう」
「んなっ!?それは俺の剣だ!!」
「そうか?でもこの剣は、君を主と認めて無いみたいだよ?」
この剣を改めて手に取り、よ〜く確認してみると、なんと付喪神が宿っていたのだ。
『そこのお主!助けてくれてありがとうなのじゃ!』
剣からお姉さんの声が聞こえてきた。
「どういたしまして?かな。知らんけど」
『おや?その声は狐子さんの声じゃないですか?』
『あ〜!シリカ知ってる!10年くらい前に神になった下級神の子だよね?』
『ですです。狐子さ〜ん、お久しぶりです〜』
どうやらフーとシリカの知り合いだったようだ。後輩かな?
『あぁ......もしかして、イシス様とアレス様でございますか?』
『はい!』
『本当に付喪神になられて......という事はこの人間......』
『そうですよ。私とシリカさんのご主人様である、ルナさんです!』
「何言ってんだよ......そんな大層なもんじゃないんだし......」
わざわざご主人様だなんて言わんでええわ!
『ルナ様......先程の無礼な言葉、お許しください』
「なんで俺は付喪神に謝られてんだよ。寧ろアイツから奪った側だぞ?」
マズイ、情報量が多くなってきたぞ。俺の頭が限界を迎えそうだ!
『いえ、あのイシス様が付喪神になろうとする方には最大限の敬意を、と思いまして......そしてそこの男は、我が友である『小春』から、この剣を奪った男です......』
飲み込め、頑張って情報を飲み込め俺ェ!!!
「へぇ......盗品か。これは益々小春さんに返さないといけなくなったなぁ?」
「ち、違う!!俺は小春から貰ったんだ!!」
『否です。彼奴は小春から私を奪い取り、私で小春を刺し殺した後、逃走しました......』
「お前......マジで終わってんな」
強盗殺人か......クソの極みだな、ジル。
「付喪神さん、君の今の名前はなんだ?」
『わ、私ですか?私は......『小夜』という名前を小春から頂戴しました』
「小夜さんね。分かった。俺が君を小春さんの元へ返そう。それまでは俺が持つが、我慢してくれ」
俺は剣に軽く頭を下げ、お願いした。
『そ、そんな!頭を上げてください!助けて頂いた上に、小春の元へ返してくれるなんて......私......嬉しくて、涙が止まりません......』
小夜さんは元々、小春さんの付喪神だ。
少しの間でさえ、俺が持つのも申し訳なくなる。
「じゃあインベントリで待っていてくれ。ちゃんと修理した後、小春さんを探して送るから」
『はい......ありがとう、ございます......』
そう言って俺は『アダチェストソード』をインベントリに仕舞った。
『はぁ......付喪神に優しすぎませんか?』
『ホントにね!シリカ、結構驚いたよ?』
いや、死にかけなのよ?あのアダチェストソード。
「あの子の耐久値の減り方的に、あの子に対する扱いの酷さや、小春さんが小夜さんに対して、どれ程の思いかを知ったからな。
せめてもの礼儀だ、これは」
『はぁぁぁぁ......こんな人に愛されるなんて、ソルさんが羨ましいですねぇぇ!!!』
ふふ、そう言って貰えて嬉しいぞ。
「じゃあ、早く終わらせようか。おいお前、死ぬ覚悟は出来てるな?」
ここまで結構痛めつけたし、もう終わらせよう。
それで、さっさと小春さんの元へ小夜さんを送ろう。
「最後だ......何も出来ず、死ぬ恐怖を味わうといい。『アクアスフィア』『クロノスクラビス』」
男の首から下をアクアスフィアで包み、クロノスクラビスで凍らせた。
「じゃあな、人間の屑。これからは真っ当に生き、人には真摯な態度を取り、1度ゲームから離れるといい。『斬』」
男の首を斬った。
「そこまで!!!勝者『ルナ』!!!!」
『オォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!』
武術大会と同じか、それ以上の歓声が上がった。
「さ、帰るか。ラキハピさんには、もう解散するように言おう」
『そうですね!そうしましょう!』
『お疲れ様、お兄さん!』
「あぁ。2人ともごめん。それとありがとう」
『『えへへ〜』』
あんな奴との戦いに2人を使った事、申し訳なく思う。
そして闘技場を出ると、ラキハピさん達と合流した。
「ルナさん!今日はありがとうございました!」
「あ、あぁ、はい。最後は胸糞展開になっちゃいまして、すみません」
「いえいえ!あの男も倒してくれましたし、何よりルナさんのソルさんへの想いが、とっても強く分かりました!」
なんか......実の父親に言われると恥ずかしいな。
「まぁ、これでソルへ手を出す輩が減ることを祈ってます」
「そうですね!ソルさんも、こんなに強い彼氏さんに守られて羨ましいですね!」
「えへへ、ルナ君は私の光ですから!」
おい、それは後から悶えるヤツだぞ。言葉は慎重に選びなさい。
「ふふふっ、では!今日の配信はここまでです!皆さん、ご視聴ありがとうございました!」
「「ました〜!」」
って言ってもな?今挨拶をしたリスナーの何十人か、俺達の周りにいるんだわ。
「じゃあね!ルナさん!!!」
そう言ってラキハピさんはログアウトした。
「ルナさん!さっきの戦闘見ました!!凄かったです!!」
「俺もあんな風に戦いたいです!!!」
「終盤、誰と話してたんですか?気になります!」
「すまん!『フラカン』」
俺はソルとリル、メルを空に飛ばし、質問責めを回避した。
「はぁ......帰るぞ〜」
「「「お〜!!!」」」
『『お〜!!』』
そうして俺達は、王都ロークスへ......家へ帰った。
どう見ても放送事故ですありがとうございます。
でも、これでソルちゃんに手を出す人はいなくなるでしょうね。
何せこのラキハピさんの放送、同接250万人を超えてましたから.....
炎上というより、急上昇に載った感じですね。多分。
他にも色々語りたいですが、グッと堪えます。
では次回、『修理・テスト・夏休み!』です!お楽しみに!