愛する人を、守るため
おやおや、またタイトルが不穏ですな。ふぉんふぉん
「じゃあ粗方探索しましたし、ディクトで解散しますか!」
次の目的地が決まり、そこで解散するようだ。
「了解......ってラキハピさん、何も出来てないよな?」
「殆どルナ君が暴れたからね」
「ふむ。やはり配信が映えないとダメか......ラキハピさん、決闘でもする?」
「え、えぇぇぇ!?無理無理!無理ですよ!100パー負けますって!!」
「いや、流石にハンデ付けるって。ラキハピさんでも勝てるルールでやるさ」
「ま、まぁ......それなら?」
こういうのって、バチバチに戦った方が華があるよな。
「辞めといた方がいいよ?ラキハピちゃん」
「そうですね。父様なら、例え『1歩も動かず、目隠しと耳栓をして、武器を使わない』というルールでも、余裕で勝ってしまいますからね」
「わ〜辞めたいな〜......でも、リスナーのコメントが『やれ』『逃げるな』『胸を借りろ』ってとてつもない数が......」
「まぁ、今リルが言ったような温いハンデではやりませんよ。もっと縛ります」
「今のが温いって......でも、分かりました。やります!!」
うんうん。これなら配信にも使えるし、何より、俺達が楽しめるだろう。
「じゃあどこか、広い場所を探さないと」
「あ、それならディクトの闘技場を使いましょう!あそこならプレイヤーでも簡単に使えますし!」
「分かった。じゃあ飛んで行きますか」
「......はい」
そうしてラキハピさんの案内で、俺達は『和平の街ディクト』まで来た。
「おぉ、いかにも異世界って感じだね〜」
ディクトの雰囲気は、異世界モノでありそうな、大きめの村......って感じだな。
見ただけで分かる完全木造の家や、両端だけ整備されている土の道、これらが良い雰囲気を出している。
「だな。エルフとかドワーフとか、色んな種族もいるな」
耳の尖った、色白なお兄さんや、身長が低い筋骨隆々なおじさんが目に入る。
「ここはそういう街ですからね!ドワーフさんの鍛冶屋とか、エルフさんの弓術道場とか、中々しっかりしてる物が多いですよ!」
それは中々に面白そうだ。解散したら行ってみるか。
「あそこが闘技場です。よくプレイヤー同士の決闘に使われてるんですよ」
「「へぇ〜」」
かなり遠くにある大きな建物が闘技場のようだ。
多分、普通の円形闘技場かな?コロッセオに似ているな。
「ってかこの街、水路がめっちゃ綺麗だな」
街の中に、小川のような雰囲気の水路が流れているのだが、この水がとても澄んでいるのだ。
「この水、確かアンバー渓谷の川から引いているんでしたっけ。だから時々、翡翠とか流れてきたりするんですよ」
「それは凄い。でも採取効率は?」
「渓谷で採るのが1番ですね。リスナーさんも、渓谷の川で翡翠を集めて、それで金策しているようです」
「なるほど」
金策か......俺、金に困ってないしな......ソルへのアクセサリー用くらいかな?使うとしたら。
「では行きましょうか!先客がいないといいですねぇ〜」
そうして俺達はラキハピさんを戦闘に、闘技場へ向かって歩いた。
そして道中──
「お、そこの狐獣人ちゃん、君可愛いねぇ!」
青い髪の、いかにもチャラチャラしている犬獣人の男の人がソルに絡んできた。
「あ?」
「お、強気ぃ?いいねぇ、そういうとこも可愛いじゃん?」
そう言って男がソルに触ろうとした。
「おい。俺のソルに触ろうとすんな。お前にソルは合わないぞ」
俺はそう言ってソルを抱き寄せ、男の手を回避させた。
「あ?なんだよお前。邪魔なんだよ」
「邪魔はそっちだ。道の真ん中で人に絡むとは......さてはお前、周りが見えていないな?
誰かと話したいなら、声をかけ、道の端に寄ってから話せよ」
「ぷっ......ルナ君、正論......ふふふっ」
まぁ、バカに正論は通用しない。だってこういう奴は──
「うっせぇな!死ね!」
男は腰に提げていた片手剣を取り出し、真上から振り下ろしてきた。
「いいね」
ザシュッ!!!!
俺は自ら剣に当たりに行った。それも首に、な。
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『守護者の加護』が発動しました。
『最弱無敗』が発動しました。
『死を恐れぬ者』が発動しました。
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「ルナ君!?」
「「ルナさん!?」」
「父様!!」
「パパ......」
「お兄さん、思い切ったねぇ!」
皆が困惑する中、シリカだけが楽しんでいた。
流石元戦神、血が好きなのかな?
「なっ!?テメェ正気か?ってかなんで死んで「黙れよ」......」
「あのなぁ、お前が剣を出せば、俺も武器を出して応戦するの思ってんのか?」
「あ、当たり前だ!!普通は「バカだな、お前」な、なんだよ!!」
バカな上にアホだ。コイツは人間として終わってやがる。
「沢山の人が歩く道で、剣を出す?そして事もあろうに振り下ろす?......お前の方こそ正気か?何やったか自覚ある?」
「な、何って、その女を「黙れよ。人に指さすなよ」......」
「ったく、マナーもクソもねぇな、お前。人に剣を向けるわ、俺に向かって振り下ろすわ、しかも首を切る?お前、殺人犯になりてぇのか?」
「ち、違「違わねぇだろ」......ちがう......」
はぁ......コイツ、自分が何をやったかまだ分かってねぇのかよ。
「人の女を取ろうとして、その女の男を切って......もう満足か?なら散れよ。迷惑なんだよ」
「ち、違う......俺はただ......」
理解が遅すぎる。こんな奴がいるとは、悲しいな。
ってかラキハピさんよ、俺達は有名じゃなかったのか?
コイツ、俺やソルを知らないみたいだったぞ?
「はぁ......皆、行くぞ」
「ありがとうルナ君。カッコよかったよ。ヒーローみたいだった!」
ソルはそう言って抱きついてきた。
......はぁ、守れてよかった。もしソルに剣が当たっていたら、俺はアイツを殺していたかもしれん。
「でもルナさん、どうして剣に当たりに行ったんですか?私を使えば良かったのに......」
「んなもん、俺が武器を出したらアイツと同レベルだからに決まってんだろ?大体、好きな人を守りたいなら、武器ではなく俺自身の身で守るだろ」
本当に好きな人が危ない時、まず動くのは自分の体だ。
武器を出してる暇なんてないんだよ。
1秒でも、0.1秒でも早く自分が動くために、武器を出さないんだ。
「なるほど。でもそれだと、ルナさんが死んじゃいますよ?」
「俺の命でソルが守れるならいい。それだけの時間があれば、ソルは相手を倒せるからな」
「でも......私も辛いよ?ルナ君には死んで欲しくないもん......」
ソルがもっと強く抱きしめてきた。歩きにくいけど、暖かいな。
「そう簡単には死な「死ねぇぇ!!!!」
ドスッ!!!
俺のお腹から剣が生えてきた。痛い。
「ルナ君!!!!」
「コイツ!殺す!!」
「パパ、コイツ殺すね」
『動くな2人とも。この男を殺すな』
「「くっ......はい......」」
俺は念話で2人の動きを止めた。
街中で娘に殺人をさせる訳が無いだろ。
すると男が剣から手を離し、数歩後ろに下がった。
「ソル、大丈夫か?怪我はないか?」
「う、うん......でも、ルナ君......剣が」
「大丈夫だ。見てろ?......『不死鳥化』」
俺は不死鳥化を発動し、背中から炎で出来た二枚一対の翼を生やした。
「な......なんだよそれ......」
不死鳥化した状態の俺を見た男が、数歩後ずさった。
「お前が殺そうとした男がどんな奴か、教えてやる」
俺は痛みを我慢し、剣を後ろに押して体から引き抜いた。
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『アダチェストソード』Rare:9 製作者:小春
攻撃力:850
耐久値:4217/8000
付与効果:『高耐久』『刺突補正:中』『剣術補正:中』
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「へぇ、コイツが噂のアダチェウスの針で出来た子か......ほれ、返す」
俺は剣を男の足元に優しく投げた。
「ほら、俺を殺すんだろう?殺りたいなら殺れよ。......出来るもんならな」
コイツは運がないな。
まさか、この光景が全国に流れてるとは思いもしないだろう。
「う、うわぁぁぁ!!!!」
ドスッ!!ザシュッ!!!
男は剣を拾い、俺の腹を刺し、引き抜いてから袈裟斬りに切った。
「どうした。そんなんじゃ俺は死なんぞ?」
まぁ、今の俺の状態って神龍ですら殺せないんだけどな。
某黒の剣士のように俺は回復するし、それ以上に死ぬことがない。
俺は良いサンドバッグになるだろう。
「ちょ、ちょっとルナさん......ヤバいです」
「あ、年齢制限かかった?」
「い、いえ......皆、そいつを殺せと......」
「そうなの?じゃあコイツと先に決闘をするか。おい、そこの無駄に俺を切り続けているお兄さん、あそこの闘技場で決闘しようぜ」
俺はバカみたいに何度も切ってくる男に、そう提案した。
「......クソが!!それでお前は死ぬのかよ!!!」
「あぁ、勿論。決闘に勝てたら存分に俺を斬るといい。ソルを奪えなかったストレス、気が済むまで発散する事だ」
FPSにおける『死体撃ち』という行為がある。
これは相手を殺し、その死体を銃で撃つという行為だ。
やってる側の気持ちは分からんが、きっとストレス解消なのだろう。
それに、この行為は基本的に『勝者の特権』と考えるか『迷惑行為』と考えるかの2通りの考え方がある。
俺は死体撃ちはしないし、されても『まぁ、負けた俺が悪いか』と考えるスタイルなので、どちらかと言えば『勝者の特権』寄りの考えだ。
いや、まんまその考えだ。
「ほら、早く行くぞ。今の俺は、無性にムカついてるんだ」
俺の特別なソルに手を出そうとした事......いや、それならまだいい。ただのナンパと取れる。
だがな、俺とソルが恋人である事を知って尚、ソルに手を出そうとし、俺を殺そうとした事.....これが無性に腹が立つ。
「お前......楽に死ねると思うなよ」
いつの日かの公開処刑より、もっと酷く醜い戦いにしてやろう。
激おこルナ君
彼は静かにキレるタイプなのかな?口数が増えて、相手を言葉で追い込んでますね。
次回、『守るとは、殺すという事』では。
あ、誤字があったら申し訳ありません。<(_ _)>