強い者と、上手い者
誤字報告に感謝を捧げ、私はビッグ〇ックを食べた。
「リル、鬼ごっこしに行くぞ」
「はい!今日はどちらへ?」
「今日はアルトム森林だ。もちろん、ペリクロ草原も走りながらだぞ?」
「ふっふっふ。もちろんです!」
胸を張って答えるリル、中々に可愛いな。
「じゃあソル、メル。行ってきます」
「行ってきます!」
「「行ってらっしゃい!」」
現実時間で今日しか鍛える時間がない。全力でやろう。
「......よし。王都の調査もしながら行くか」
「はい!ウィンドウショッピングです!」
流石に街中を走る訳にはいけないからな。王都を出るまでは、一緒に屋台を見て回るのが日課だ。
「にしてもトカゲの素材が増えてんな。皆ディクトに行っちゃったからか?」
「でしょうね。最近はここも、ちょっぴり人が少ないように感じます」
「俺のレベルが上がったら、ディクトに行ってみるか?」
「はい!沢山の種族がいる国のようですから、楽しみです!」
「だな。......じゃあリル、鬼ごっこやるか」
「えぇ、今日も勝ち逃げさせてもらいますよ?」
「あぁ、今日こそは捕まえてやる」
鬼を決める時、最初の方はジャンケンにしていたのだが、リルがステータス全開放の超反応をすることで100パーセント勝つので、諦めて俺が鬼をやることになった。
「くれぐれもスライムには気を付けてくださいね?......まぁ、死ぬ前に助けますけど」
「そん時は頼むよ。ほれ、走れ!3秒後に行く!」
「はい!では!!!」
ビュン!!!
草原の草が舞う程の速度でリルは走り出した。
「ふぅ......よし、ゴー!!!」
俺は全力の70パーセント程の速度で走り出した。
いつも草原では目視すら出来ないので、今回も森林で仕掛ける。
「お〜、リルが通ったとこの草、思いっきり禿げてんじゃん」
リルの小さな足跡が深く刻まれ、その周囲も軽く削れている。
一体どんな馬鹿力で踏み込めば、こんな深い足跡が出来るんだ?
そうして走っていると、サーチに反応があった。
「ワイバーンか。ん?違うな......人も乗ってる?」
ワイバーンの大きな反応の上に、人間の小さな反応があった。
「......テイムしたのか。なるほど、空の移動手段になるんだな、ワイバーンって」
それにしても、よくあの凶暴なワイバーンをテイムしたもんだ。
俺、とてもじゃないが、仲良く出来そうにない。
「......っと、もう森林か。リルの反応は......よし」
どうやら月の映る池の近くにいるようだ。
ここからは全力ダッシュだ。凸凹の地形、数歩歩けばぶつかる木、その全てを把握して進んで行く。
「はははっ!森はやっぱり楽しいなぁ!」
道場時代を思い出す。師匠の山で駆け回った記憶、陽菜と鬼ごっこをした記憶、師匠に全速力で追いかけられ、鼻水垂らしながら逃げた記憶。
「ははははは!!」
楽しくて楽しくて仕方がない。
『子どもみたいだ』と言われたっていい。これが俺だ。
「はははっ!......はぁ、ゴブリン2、オーク1、ピクシー1。死角はココォ!!」
木々の隙間を縫いながらサーチで索敵し、完璧な死角を突き進んで行く。
「オワタ式なんだ、速すぎるのも遅すぎるのもダメ。的確なタイミングを......突く!」
そうして何度もモンスターの塊をすり抜け、森に入って20分。月の映る池まで来た。
「お待たせ、待った?」
「はい、待ちました」
リルが花の冠を付けて三角座りしていた。
......まるで昔の俺だな。虐められていた時、一人で遊んでいた時の俺にそっくりだ。
「可愛いぞ。リルに良く似合ってる花だ」
「えへへ、ありがとうございます。では、始めますか」
「あぁ。『不死鳥化』」
俺は不死鳥化を発動し、リルと向き合う。
「強者の力を見せてあげます」
「弱者の這い上がりを見せてやろう」
ここからは鬼ごっこ兼、戦闘訓練だ。
俺は闘術オンリー、リルは使える手を全て使う、クソゲーだ。
ステータス差、は最低のVITで480倍、最高は1640倍のHPだ。
こんなクソゲー、他に無いだろう。
でも......やるしかないんだ。俺と、リルのために。
「すぅ......『サウンドエンハンス』......」
その手は知っている。耳を塞がせてもらおう。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
リルが叫ぶと、そこから凄まじい衝撃波が生まれ、周辺の地面が抉れて吹き飛んでいった。
これ、耳を塞いでなかったら鼓膜が消滅するんじゃないのか?
地面が抉れる程のボリュームなんだし、鼓膜どころか体が消えるか?
何にせよ、叫び終わった今が攻め時だ。
「ふっ!シッ!......はぁ!ッハ!」
右フック、左スレート、右ジャブ、回し蹴りだ。
「見切るのが容易です。速度をあと30倍は早くしましょう」
全て避けられた......速すぎなんだよ、リル。
一旦距離を取り、対策を練る。
「ではこちらから。『ファイアアロー』『ウォーターソード』『ウィンドブラスト』『アイスレイン』......ふふっ、全て20個です!」
「いいぜ?飛ばしてきな」
一見したらカラフルな魔法陣が80個浮いてるだけだが、賢いリルは魔法の生成タイミングをズラし、的確なタイミングで撃ってくるのだ。
この魔法陣の数、何も知らない人が前に立てば、2秒でこの世に絶望するだろうな。
一つ一つがバカみたいな威力を誇る魔法が80本。
それも完璧な操作で放たれるんだ。
それこそ、魔法が飛ぶルートが分からなければ、直ぐに諦めるだろうな。
「では」
リルはそう言って、全ての魔法を0.1秒感覚で飛ばしてきた。
あららら......1番有効な風属性を囮に使ったのか。
「すぅ......『魔拳』」
これは魔闘術のスキルレベルが90で開放される技だ。
ただ魔力を、1MPだけ拳に纏わせるのだが、これが大事なんだ。
「これ、違う。これ、これ、これ、違う」
魔法を一つ一つチェックし、自分に当たるルートの魔法だけを叩き落とした。
ただ殴るだけじゃ腕がやられるからな。ちゃんと受け流し、自分に当たらないようにするんだ。
「これとこれ、これ、違う。これ、後ろ」
氷の針が後ろから飛んできたが、全て『見て』いる。
「ほっ、ほい。ほいっ!違う。これ、それ、最後!」
そうして80発全ての魔法を捌き切ると、今度は更に魔法陣を増やして飛ばしてきた。
いいね。いつもはここで弓に切り替えてたけど、今回は魔法を続行か。
まぁ、弓って矢を掴めるから弱いんだけどな。
特に魔弓術の矢は魔拳で叩き落とし易い。
流石にリルも学習しているか。
「じゃあリル。勝負といこうか」
「勝負......?」
「あぁそうさ。いくぞ?『龍神魔法』」
「えっ!?『レジストエンハンス』『ディフェンスアップ』『ロックドーム』」
俺が龍神魔法の詠唱をしようとすると、急いで防御耐性を取り、ロックドームで完全に自身を覆った。
あ〜あ、引っかかった。これで王手だぞ?
俺はドームに急接近し、目の前で待った。
「解除......あ、あれ?魔法は?」
ドームが解除され、周りを見渡したリルが困惑していた。
そして俺は、後ろからリルの背中をタッチした。
「俺の勝ちだ」
「あ......あはは。負けちゃいました」
何とも簡単な手に引っかかってくれたもんだ。驚きだ。
「最後のは何があったので?」
「リルが勝手に自分の動きを制限したんだよ。考えてみろ?今の俺のMPは10、龍神魔法とかいう、最低5000MPは使う魔法が撃てると思うか?」
「あっ......確かにそうですね。という事は私......」
「あぁ。ちょっと足りなかったな。相手の手札が2枚で確定しているのに、幻の3枚目に踊らされたな」
「むぅぅ!!悔しいです!まさかそんな手で負けるなんて!」
ふくれっ面のリルの頬っぺを押し、空気をプシュ〜っと抜いて、頭を撫でた。
「ほれ、今日はもう帰るぞ。次はメルも巻き込んでやろうか」
「はい!メルちゃんにも鬼ごっこを教えてあげましょう!」
「これは大分特殊な鬼ごっこだけどな。......俺は命懸けだし」
今日は不死鳥化状態で帰れるし、ラッキーだ。
この鬼ごっこ、普段なら12時間は続けているからな。
死なずに帰れるのは嬉しい(5敗)
......俺はスライムを許さない。
「父様父様!今日はこれから何をして遊ぶのですか?」
「今日は勉強かな?テストに備えたい気持ちがある」
「そう......ですか......」
花の冠を付け直してまで露骨に落ち込まないでくれりゅ?
自制心が全力で俺を止めにかかってるんだからな?
「もう。ほら、肩車してやるから帰るぞ『戦神』」
「は〜い」
悲しいよな。戦神を使わないとリルを肩車する事すら出来ないステータスなんだぜ。
俺、本気で今からレベルを上げようか悩んでるぞ。
「「ただいま〜」」
庭にフーがいた。いつものように箒を持ってなかったし、何かあったのかな?
「あ!おかえりなさい。今お客様が来てますよ?」
「客?ランザとか王女か?」
「いえ、ピグレットさんです」
......マジか。まさかの家凸か。勇者だな、ピギー。
「分かった。ありがとう、フー」
「いえ!では私は戻ります。それと今はソルさんがリビングでお相手してますよ」
「了解じゃ〜」
玄関前でフーと別れ、リルを肩車したまんま家に入り、リビングの前まで来た。
そしてドアノブに手を乗せて俺は固まった。
「......なんか、入るのに緊張するぞ」
「では私が開けましょうか?」
「いや、いい。......いざ!!!」
意を決し、扉を開けた。
「た、ただいま〜」
「ただいまです!」
「「おかえり〜」」
「おかえりパパ。リルちゃん」
机の上でソルとピギーが勉強をしており、メルはソファーで寝転がって魔導書を読んでいた。
「えっと、これは何か言った方がいいか?」
「そうね。いつから私の事に気付いてたの?」
あ、そっち?もっと恐怖を感じる話題かと思ってたぞ。
「それは教室で顔を合わせた時だ。だから今日だな」
「え?」
「とりあえず俺も混ぜてくれ。今日は初めてリルに勝てたからな。あとの時間は勉強に使いたい」
「いいよ〜私の隣においで〜」
「はいよ」
リルを降ろし、ソルの隣に座った。
「ま、リアルが分かったからって特に何も変わらないさ。これからもよろしくな?ピギー」
「う、うん」
鬼ごっこの実態と、ピギーとの小話でしたね!
最初のピギーの言葉、普段の明るい感じから、少し警戒したような冷たい感じになってるのがこだわりです(^・ェ・^)
誤字報告、本当にありがとうございます!