神なる龍は、龍を嫌う8
ペネロピさんをお迎えしました。
イベントコンプ、楽しかったです。
「お、頂上だな」
空を飛んで山を登ること数分、何事なく山頂に着いた。
山頂は、いかにも『岩山』という感じのゴツゴツとした地面が広がっていた。
「母様は......いませんね」
「チャットにも反応無いし、割とマジでヤバめだな」
「どうしますか? また東へ飛びますか?」
「う〜ん......どうしたものか。シリカ、フー。顕現」
三人寄れば文殊の知恵と言うし、4人に増やせばより良い意見が出るんじゃないか?知らんけど。
「おぉ、神界ですか! 久しぶりに来た感じがしますね〜!」
「だね! この空気の薄さ、魔力の濃さ、空気の流れ......確実に神界だ!」
よく分かるのぉ、お二人さん。
「シリカ、フー。ソルが消えたから探してるんだけど、何か案はないか?神界出身の2人の意見が欲しいんだが」
「私は一つだけ心当たりがあるくらいですかね」
「私も!」
「マジ? 教えてくださいな」
流石元女神。流石元戦神。頼りになるよ、2人とも。
「多分シリカさんと同じ場所を言うと思いますよ? 私」
「シリカも! じゃあ一緒に言おっか? せ〜のっ!」
「「稲荷さん所です! / 稲荷ちゃんの所!」」
「やっぱりね! 多分、稲荷ちゃんが狐ちゃんを持ってたったんだと思うよ? お兄さん」
あ〜、なるほど。前ならちょくちょくシリカが言ってた『稲荷ちゃん』とやらがソルを誘拐したと。
「ほんほん。ってか稲荷って『お稲荷さん』か? 狐の神様の」
「そうですね。本来は下界の神社か......」
「ここから別の神界に行けば会えるね、稲荷ちゃんは」
「「別の神界?」」
え? 神界って複数個あるの? どういうことだってばよ?
「はい。神界とは『もう1つの世界』と思ってください。ですから、この山をから草原までを下界の基準で考えるなら......そうですね......」
どういう基準なのだろう。気になる。
「あ! いい例えを思いつきました。この山からあの草原は、『家のリビングからキッチン』程度に考えてください!」
「えぇ?」
「それで、別の神界というのは『お隣さんのお家』って感じです!」
「って事は何だ? リビングから別の部屋に行く通過点はどういう感じなんだ?」
「それはこの島の端に行けば分かります。ふふっ」
「だねだね! このまま東にず〜っと行けば稲荷ちゃんのエリアに出れるよ!」
島......ねぇ? いつもの所を『下界』と呼んでるくらいだし、神界は浮島なのかな。だとしたら、相当景色が良いんじゃないか?
「じゃ、2人は刀でよろしく。リル、行くぞ」
『『「は〜い!」』』
ちゃっちゃと行こう。早くソルに会いたい。
そしてリルを抱え、東へ飛ぶこと5時間。遂に島の端に着いた。
「「おぉ〜!!」」
足元の草原がプツリと途絶え、眼前には雲海が広がっていた。
「凄いなこの景色! こんな雲海、初めて見たぞ!」
「雲が地面の様になっていますね! 綺麗です!」
「これはアレだな。雲の上を歩くしかないな」
「え? 雲って歩けるんですか!?」
『リルさん、無理ですよ。普通に下界に落ちて、そのまま死にます。まぁある意味神界に昇るんですけどね』
「誰が天国行きや。俺のちょっとしたジョークだろう?」
『『「え?」』』
「え?」
『ルナさん......本気で言ってるかと思いました......』
「私もです」
『シリカも。お兄さんならやりかねないからね』
「......そうか」
俺は普段、みんなからどう思われているのだろう。能天気おバカで強いプレイヤー? モフりスト?
「それでフー。このまま真っ直ぐ飛べばいいのか?」
『はい。ちょっとした条件はありますが、ルナさんはクリアしてるので全く問題ないです』
「条件は何だ? 知っておきたい」
『簡単です。『狐獣人を見た事があるか』という事ですよ。神にはそれぞれルーツやコンセプトがあるので、それに対応する条件を満たすだけです』
「んなぁ〜るほど。少し理解した。じゃあ飛ぶぞい!」
お稲荷さんの所へ行く条件を満たしている事を確認し、俺はリルを抱っこして東へ飛んだ。
「はい、飛んでから気付きました。これは何時間フライトなんだろうか」
また数時間かかるなら精神的にかなりキツい。
『このままの速度でしたら、大体3時間程じゃないですかね? シリカさんはどう思います? 私、結構前に神界を降りたせいで感覚が鈍ってるかもしれないので......』
『ん〜? シリカも同じかな』
「うぃっす。ご意見感謝でござる。『ウィンドボム』」
ブリーシンガメン頼りのボムボムエンジンで加速する。
『これなら30分もかからないでしょう。寧ろどうして今まで使わなかったのですか?』
「ただ単に忘れてたって話する? 俺、40分くらいかけて説明出来るぞ?」
『説明しなくていいので黙って飛んでください』
「は〜い」
基本的な事ほど忘れがちだ。ボムボムエンジンくらいは無意識で発動できるようにしようかな?
そして雲海を飛ぶこと20分。切り取られた様な森林の島に着いた。
「上陸、と。ここがお稲荷さんのホームか?」
『そうですね。この森の先にとても高い山があるんですけど、その山頂の神社に住んでますよ』
「オッケーオッケーオケアノス。なら飛んでくか」
フーからお稲荷さんの居場所を教えてもらい、東に飛ぼうとしたら──
『呼んだ?』
「「!?」」
少年のような声が聞こえてきた。
『ルナさん、この声は『オケアノス』さんの声ですよ。さっきのルナさんの言葉を聞いて、声をかけて来たのでしょう』
『お? その声はイシスちゃん? 付喪神になったって聞いてたけど......本当だったんだ』
また神の会話が始まっちまった。こうなると俺、何も出来ないんだよな。
『お久しぶりですね、オケアノスさん。私は見ての通り、ルナさんの付喪神になりましたよ』
『おぉ! んじゃあ今の声が『ルナ』って子? どれどれ、少しお話しようじゃないか!』
目の前に水色のスカートを履いた女の子が出てきた。
「ややっ! 初めまして! 僕は『オケアノス』だよ! よろしくね?」
「ルナです。失礼ながらお聞きします、あなたは男性ですよね?」
「お? おぉ!? よく気付いたね! その通り、僕は男だよ!」
声も見た目も女の子だが、何か違和感を感じたので聞いてみたら、見事に当たっていた。
「父様......よく気付きましたね。私は女の子かと思いました」
「娘ちゃんが普通だよ? 逆にルナ君、君はどうやって僕が男だと気づいたの?」
「え?......う〜ん......」
改めてよくオケアノスを見てみた。
エメラルドグリーンの髪に空色の瞳。整った顔は完全に女の子。
だけど、何か違和感を感じる。
「あぁ、分かりました。足ですよ、足」
「足?」
「えぇ。少しがに股というか、筋肉の付き方が男性なんですよ。ですから違和感を感じたんです」
刀術の稽古の時に、筋肉の付き方を知ったから気付けた。
人生、思わぬ所で学び、思わぬ所で活躍するもんだな。
「おっほぉ......もしかしてルナ君、普段から色んな女の子の足を見てる?」
「いえ。稽古の時に知ったのでそれで。それに見てるのはソルの足だけです」
外では巫女服かローブを着てるけど、家じゃ普段着を来ているからな。時々見てます。はい。
「あ〜、聞いた事あるね、その名前。確か狐獣人ちゃんだっけ? ヘラのお気に入りナンバー2の」
『そうですよ。ルナさんとソルさんは恋人なんですよ』
オケアノスの言葉にフーが返答した。
「なるほどね。そりゃ全身見るよね、納得した。それでルナ君はこれから何処に行く予定なの? 適当にほっつき歩いてるなら、僕の所に来ない?」
「すみません、それは出来ません。今からお稲荷さんの所に行ってソルを返してもらう所なんですよ。お誘いは嬉しいですが、またの機会に」
「それは......はははっ! ならまた今度、雲海の中の海においで。歓迎するよ!......後これ、お近づきの印に」
オケアノスは1冊の本を俺に渡した。
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『スキル書:海魔法』を受け取りました。
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「え?......えぇっ!? これ、スキル書......」
「うん! それはプレゼントだよ! んじゃあ恋人探し、頑張ってね! ばいば〜い!」
「あ、はい。また今度」
オケアノスは俺にスキル書を渡し、すぐに去っていった。
『思わぬ出会いでしたね。しかもオケアノスさんって上級神ですし、本当に幸運ですね』
「上級神が何なのかは知らんが、中々面白い人......神だったな。まさかの男の娘だったし」
『あれ、オケ君本来の姿だからね。お兄さん、本当に幸運だよ?』
「本来の姿? どゆことっすかシリカパイセン」
『そのままの意味だよ! 神というのは姿を隠したくなるものなの。だから本来の姿を見れる人って本当に限られてるの』
「ん〜?」
『それは説明不足ですね。ルナさん、神は本来の姿を見られることを嫌います。理由としては、それが弱点になるからなんです』
「弱点に? 姿を見られることが、か?」
『はい。神の使う魔法には、『見たものに作用する』魔法なんかもありますから、その対策なんですよ。昔、それで戦争があって、それ以来からですね。変装するようになったのは』
「怖いな。それは俺も姿変えるわ。変えれるのか知らんけど」
『あ、人間には効かないので大丈夫ですよ。人間や語り人、それにリルさんとか神の因子を持たないので、概念系統魔法は効きません』
ま〜た変な単語を言いやがりまして。
あまり難しい言葉を使うなよ......分からないだろ?
「そっか。なら良かったわ。じゃあそろそろ本格的にソルを取り返しに行くぞ。囚われのお姫様を助けるど〜」
「あのお家的に、姫は私では?」
『ですね。ソルさんは王妃様ですかね?』
『王妃を取り返しに行く王......おかしいね!』
「いいんだよ、姫で。女の子は誰でもお姫様だろ?」
『『「まぁ、そうですね / そうだね」』』
ソルは可愛い可愛いお姫様なのです。
「じゃあ、行こうか。最悪戦闘になるが......そうならない事を祈って」
オケアノス君!?
次回は囚われのお姫様(笑)を救い、遂に.....!
お楽しみに!