神なる龍は、龍を嫌う 5
今回はずっとリル視点です。楽しんで頂けると嬉しいです!
「........................え?」
父様が何を言っているのか分からない。
殺し合い? 何故? どうして? 理解できない。父様は私が嫌い?......いや、違う。嫌いならそもそもこうして抱っこなんてしてくれない。
考えよう、どうして父様が『殺し合い』を望むのか。
「リル。最低条件として言うぞ? 俺は語り人だ。そしてリルはテイムモンスターだ」
やめて。そんなことを言わないで。父様は人間で、私は娘。お願い、そう言って......
「だから、俺は死んでも生き返るし、リルが死んでも生き返る。これが今回、俺とリルが殺し合いをするに当たって、知っておくべき事だ」
生き返る? それがどうしたと言うのか......復活するまでの時間を作る......とか?それならもう、私は必要ないと言うこと......?
違う、考えるんだ。きっと何か意図があるはず。諦めちゃいけない。
「それとな、終わった後に答え合わせをしよう。リルは今、どうして俺が殺し合いを望むのかを考えているんだろ?」
「......はい」
「うんうん。それでいい。よく考えて、どうしてこんな事をしようとしたか当ててくれ」
「絶対に当てます」
当てたい......いや、当てないといけない。普段の父様じゃこんな事は望まない。なのにどうしてそれを望んだのか。
大好きな父様を失望させない為に、絶対に当てる。
そして考えている内に森林に着いた。着いてしまった。
場所はアルトム森林の、私と父様が出会った月の映る池だ。
「半月か......まぁいい。リル、フェンリルでも人でも、好きな方でいいぞ」
「ではフェンリルで」
私はフェンリルに変身し、父様はステラを出した。
「......あの時みたいに、愛剣でやりたかったな......」
父様が何か呟いていた。
あのアイアンソードを使わないのはどうしてだろう? 壊れる事を心配しているのだろうか。
「準備はいいか?」
『はい』
「なら殺ろうか。先手は譲ろう」
え? どうして? 私の方が圧倒的にステータスが......いや、違う。それでも父様は上を行く。ならここは有難く貰おう。
『行きます』
私はあの時のように、最初に飛びかかった。
ズバン!!
『んっ!』
やっぱり蔦を忍ばせていた。あの時のように転んでしまった。
「遅いぞ。『イグニスアロー』」
『ふっ!』
父様がいつもの魔法を使ってきたので爪で弾き......きれなかった。
痛い!
『えっ!?』
「ちゃんと『見ろ』。魔法は2つだ」
そうだ。今の矢の魔法、魔法の後ろにもう1つ一緒に飛ばしていたんだ。だから1本目を避けても、もう1本が......
「ほら、早く立て。殺しに来い」
『ふぅ......『月魔法:月華』』
私は父様に、初めて魔法を使った。魔法で出来た桜の花びらを大量に舞わせる魔法。
しかも、花びら一つ一つが高い攻撃力を持つという魔法。
これで父様はやられてくれる......かな?
でも、現実はそんな甘くなかった。
「『鼓舞の光』『魔纏』」
父様は剣に魔力を纏わせると、花びらを1枚1枚斬り落とした。
『そんなっ!』
「おい、何してんだ? 魔法を使ったら直ぐに追撃をしろ。確実に死んだのを確認しないと、やられるのは自分だぞ?」
何で花びらの軌道が分かるの? 何で喋りながら斬ってるの? 何で戦い方を教えてくれるの?
そして私はただ父様を倒すために、爪や牙、体当たりなんかも試した。
「リル。お前、弱くなったか? あの時の方が動きにキレがあったぞ?」
『そんなことありません!』
「そうか? なら一撃は当ててくれ」
『んなぁ!』
違う、落ち着いて。挑発に乗ってはいけない。だって父様は既に魔法を構えている。ここで無闇に突っ込んでも魔法を喰らうだけだ。
『『月魔法:月兎』......はぁ!』
落ち着いて魔法を使って私自身を強化する。
この魔法ならAGIが1.5倍になる。流石に父様でも......
キン!!
爪が剣で弾かれた。嘘でしょ? 見えてるの?
カン! キキン!!
3連撃も弾かれた。
「早いな! でも動きが悪いぞ。その速度なら相手を翻弄するように動くといい」
アドバイスまでくれた。ならその通りにしよう。
私は父様の周りを4点の正方形に飛びながらランダムで攻撃した。
「上が疎かだ。今後は俺以外にも空を飛ぶやつは増えるはずだ。その時に対処出来なければ一方的にやられるぞ」
3回目の攻撃を空を飛んで避けられた。
あれ? 今の父様は翼を出していない......ならあの魔法を使ったはず。
え? いつ詠唱した? 分からない。
『なら!『月魔法:偃月』!』
三日月状の魔法の刃。これなら避けにくいはず!
「『魔纏』『魔剣術:炎纏』『イグニスアロー』」
パァン!!
魔法が粉砕された。魔剣術に魔法を同時に使われて、月魔法が蒸発したんだ。
......そうか。父様なら避けるだけじゃなく、『迎撃』する事もできるんだ。失念していた。
「よっ......と。リル、あと3分の内に攻撃を当てられなかったらこっちから行くぞ」
父様は着地してからそう言った。
不味い、今の父様でも防戦一方という訳じゃないんだ。それに父様は私に、敢えて攻撃をさせているんだ。
何故? 剣での打ち合いのように、交互に攻撃するのではなく、何故私に攻撃させている?考えろ、考えるんだ。
......分かった。私の攻撃を『見て』いるんだ。
私の癖、攻撃力、速度、思考、タイミング......全て『見られている』んだ。
ではどうすれば?
猛攻撃......かな?
『はぁぁぁ!!!『月魔法:月華』!『ウィンドボム』『サンドエリア』『ウォーターウォール』!』
私は辺りを砂地に変え、その上に水をばら蒔いて泥にして父様の足を止めた。
さらに月華の花びらをウィンドボムで加速させてぶつける。
パチン!
父様が指を弾くと、泥が一瞬にして消え、足を止める事は出来なくなっていた。
「いいぞ、その調子だ。風魔法を使うのは良いアイデアだ、素晴らしい......だがな、足を取りたいならもう1つ策を練るべきだったな。オススメはファイアウォールだ」
なるほど、一瞬足を取られ、それでも抜け出した先に壁があれは......父様、上手い。
「じゃあ少し早いけど、俺も攻撃するぞ?」
『......はい!『アイスニードル』!』
不味い、本当に不味い。もっと考えて魔法を使って攻撃しないと!
「そうだ。ハンデを付けるわけじゃないが、ブリーシンガメンは外すぞ。これを付けていたら、リルは俺を殺すのに躊躇いそうだしな」
殺......す? 躊躇う?
「だろ? 瀕死になろうとも回復し続けていたら、殺す前に回復を待つだろう? リルはそういう、優しい考えを持っているからな」
『な、何を?』
何を言っているの? 父様は。
「だけど殺し合いでそれはただの『甘え』だ。俺のFS時代を覗き見したリルなら分かるだろう? FPSで......戦いにおいて甘えは負けだ」
分かる。父様はいつも、潰す時は徹底的に潰す動きをしていた。
それはこの世界でも同じだった。
モンスターを殲滅する時は確実に殲滅したいたし、剣を作る時も、刀を作る時も、母様や私の箒を作る時も、最高の物を作り上げていた。
「じゃあ、行くぞ?『イグニスアロー』『アウラ』アルテ、『魔弓術:風槍』」
父様は炎の矢を何十本も出し、矢を放つと同時に全て飛ばしてきた。
バスッ! ドスドスッ!!!
『くっ!』
炎の矢を避けても、異常なまでに早い矢が私に刺さる。
「リル、よく軌道を『見ろ』イグニスアローは全て、お前を避けているんだぞ?」
『え?』
そう思い、一瞬立ち止まってみると、確かに炎の矢は私を避けていた。
「分かるか? イグニスアローでリルの避ける方向を誘導して、その先に魔弓術を偏差撃ちする......作戦に乗せられているぞ?」
だから矢が異常なまでに早く感じたのか!
よくこの一瞬でそこまで思い付く。私も......私もそんな風に戦ってみたい!
「ほら、第2射いくぞ〜?」
父様は左手で何かを操作しながら、詠唱無しでまた矢を飛ばしてきた。
分かる、この矢は私に当たらな──
ドスッ!!!
「同じ作戦を使うほど、俺の手札は少なくない」
思いっきり炎の矢が刺さった。私の生命力が一気に4割も削られた。
『......忘れていました』
「リル。お前だって手札は沢山あるんだ。攻撃は緩めるからよく考えて攻撃してみな」
『......はい』
これは......本当に殺し合いなのか? 父様は私を殺す気があるのか?
これは──
『まるで、稽古ですね』
「それも兼ねている。この戦いはリルの覚悟を試しているんだ。頑張ってくれ」
『はい!』
語り人で最も強い父様に稽古を付けてもらえる......こんなの、母様くらいじゃないと出来ないのでは?
この機会に、強く、上手くなって父様を倒したい!
......よし、良いアイデアが出た。これを試してみよう。
「はぁぁ!!!」
「お、刀か」
私は変身して人になり、ツクヨミさんを抜刀する構えで走り出した。
そして間合いに入った瞬間──
『はぁ!!』
「ぐはぁっ!」
フェンリルに変身し、一気に体当たりした。
すると父様は、森林の中まで飛ばされて行った。
『やった! 当てられた! 父様に当てた!!』
変身スキル、これは相手を騙すのに使える!
「っふぅ......いいぞ、そうやって思い付いた事を試せ。新たな試みはリルを強くするぞ」
『はい! ありがとうございます!』
父様は凄い、本当に凄い。この僅かな時間で私に作戦を『見せ』『教え』『させて』くれた!
もっと、もっと強くなりたい! 父様と同じところまで!
「......よしよし。その調子だ。リルは強いぞ」
褒められちゃった! これからも父様に褒めて貰える作戦を考えよう!
『『アイスエリア』『ロックドーム』』
さっき父様が言っていた事を『パチン!』......させてはくれなかった。
「おいおい。俺が教えた作戦の穴は大体知っているつもりだぞ? さっきみたいな、俺の知らない、俺の使えない方法で殺しに来い。人を見ても、自分を忘れるのはダメだぞ?」
なるほど。これは相当苦戦しそうだ。私は、私だけの作戦を考えないと。
そしてそれから1時間、作戦と作戦のぶつかり合いが続いた。
遠くから魔法で狙っても撃ち落とされ、魔法に見せかけた物理攻撃も見破られた。
逆に、父様のフェイントも4割は見破れるようになったし、普通の矢の素早い弾き方、剣の取り方、そして魔法への対処法もある程度分かってきた。
「はぁ......はぁ......そろそろ決着にしよう」
全身から血を流しながら、父様は笑ってそう言ってくれた。
『はぁ......えぇ、そうですね。そろそろ帰りましょう』
私も私で、あと2回斬られたら死にそうだ。
次の一撃で決める。確実に父様を倒すんだ。
「『魔刀術:雷纏』『戦神』」
不味い、父様の最速の抜刀術が来る! 確か父様は父様から見て左から右へ抜刀する。なら私は父様から見て右へずれ、左手の爪で刺せば......殺れる!
「『雷』」
すると父様は凄まじい速度で接近し──
ドンッ!!
回し蹴りをしてきた。
『うっ......『サンダー』』
最後の足掻きとして、私は父様に魔法を使った。
バリバリバリ!!! バヂィィィ!!!!!
私の魔法は父様に直撃した。
「......よくやった............」
笑顔でそう言って、父様が光の粒になって消えた。
「うぅ......うぅぅ......うわぁぁぁぁん!!!」
殺してしまった。父様を、大好きな父様を殺してしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!! 父様ぁぁぁ!!!」
「いた!! リルちゃん!!!!!」
どこからか母様がやって来て、私の元へ来た。
「母様ぁぁぁ!! 父様がぁぁぁ!!!」
「ど、どうしたの!? 何があったの?」
「私がぁぁ! 父様を私がぁぁ!!!!!」
「ほら、大丈夫。大丈夫だから、落ち着いて」
母様はそう言って抱き締めてくれた。
「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」
「うんうん。よしよし......」
そうして泣いていたら、いつの間にか私は眠ってしまった。
「あらら、寝ちゃったか......う〜ん、とりあえずリルちゃんは見つけた事を伝えて帰るしかないか......ルナ君、どこに行ったんだろ?」
まさかのリルちゃんの勝利でした。ルナ君の無敗伝説、ここに破れたり!!
さて、ルナ君は一体、どういう意図でリルちゃんと戦ったのでしょうか?気になりすぎて、夜しか眠れません。
では次回もお楽しみに!(^・ェ・^)