王女と執事と素の会話
執事要素少なめです。
雑談回とも言います。
「すみません、ワイバーン持ち込んでいいですか?」
「「「は?」」」
『馬鹿正直に言いましたね〜』
城を守る衛兵さんにワイバーンの持ち込みが可能かどうかを聞いてみたら、何故かフーに罵倒されてしまった。
「まぁ、ダメと言われても持ち込むんですけどね」
「「「ちょちょちょ!!」」」
3人の衛兵さんが俺を止めてから言ってきた。
「身分証を出してください! それとどうしてワイバーンを持ち込むんですか!? しかも、えっ、ど、どうやって!?」
おう......真っ当な意見だ。俺が逆の立場なら、同じ事を言っただろうな。
でも、ごめんなさい。もう引く事は出来ないんです......本当にごめんなさい。
「身分証は......はい。それと、こちらは王女イベリス・ロークスからの依頼で動いてるんですよ。えぇ。通してもらいますよ?」
『うわぁ〜うぜぇ〜』
それは俺も思った。俺が衛兵なら、こんな事言われた瞬間にぶん殴ってるかもしれない。
「そ、それなら少しお待ちください! 直ぐに許可を取ってきますので!!」
「はいはい。でも早めにね〜? 王女に『昼までに持ってこんかい!』って言われてるんで」
「は、はいぃ!!!」
『そんなこと王女様は言ってないですけどね。完全にルナさんの妄想です』
そうして5分程が経ち、衛兵さんが帰ってきた。
「......通ってください。許可が降りました」
「うぃ。失礼しマンモス〜」
『言動がいちいち腹立ちますね。ルナさん、そういう才能あるんじゃないですか?』
「要らねぇよ、そんな才能。そんなヘイトスピーチ専用の才能より、ソルを幸せにする才能が欲しいわ」
『え? もう持ってるじゃないですか』
違うな。俺が言いたいのは『ソルを幸せにし続ける才能、もしくはこれから先も、ずっと幸せで居させる才能』が欲しいんだ。
言葉足らずですまん、フー。
「無いぞ。だから俺は努力して勝ち取らなきゃなんねぇんだ。相手を想い、相手の為になるように頑張るんだよ」
『そ、そうですか。まぁ普通は自分の事を過信して相手に接し、最後には相手に嫌われるってのが定石のはずなんですがね。ルナさんの言う通りにすると』
「何言ってんだ。過信してる暇があったら自分を磨くさ。今の自分に満足出来るほど、俺は自分に溺れてない.....と思う」
それからもフーと話しながら歩き、氷漬けのワイバーンを庭に置いてから城の玄関に入り、王女の部屋を目指して更に歩く。
『......ま、溺れてないのは良いことです。ソルさんには溺れてますが』
「う、うっさいわ! 好きで悪いか!?」
『悪くないですよ? どうぞ溺れてください。ただ、時と場合と場所は弁えてくださいね?』
「問題ない、弁えている」
大丈夫。TPOはしっかりと弁えている。
『え?......本気で言ってます?』
「え?」
『これが恋ですか......おっそろしいですね......本当に盲目になってらっしゃる......』
「いやいやいや。別に外でイチャついたりしてないだろ?」
『え? いやいやいや。外でお姫様抱っこしてた人がそれを言います?』
「あっ............いや、大丈夫だね。何の問題もない」
『今認めましたよね!?『あっ』って言いましたよね!?......まぁ、どうぞお好きに。周囲からどう見られようと、私は知ったこっちゃ無いのでね』
周囲から変に見られてる奴の家でメイドしてたら、もっと変な目で見られそうだがな。クハハハハ!
そうして王女の部屋に着いたので、サーチを使って出待ちの確認をしてからノックした。
「はい、どうぞお入りください」
「うぃ〜っす......あ、セバスさん。こんにちは」
『1やらかしポイントゲットですね!』
軽い気持ちで王女の部屋に入ったらセバスさんもいた。不味い、超不味い。
セバスさんの前で、王女に失礼な態度を取ってしまったぞ。
「ふふっ、ルナ様。大丈夫ですよ? セバスは全て理解してますから」
「はい。ルナさんの人柄は大体把握してます」
『やったねルナちゃん! 評価が落ちたね!』
おいやめろ。フー、そのネタはやめろ。人類のトラウマだ。
「え〜......そうか。なら、これから完全に素で話してもいいか? 変に遊ぶのも、変に敬語を使うのも辞めてさ。どう?」
結構思い切ってみた。でもプレイヤーならタメ口で接してる人が多そうなんだよな。だから許してちょんまげ。
「私はそれでも構いませんよ? その方が接しやすいですし、コミュニケーションが取りやすいのは良いことですから。セバスはどうですか?」
「私もイベリス様と同じ考えです」
っしゃぁ!! 完全勝利だ!
「じゃあ改めて......俺はルナだ。種族は天使でCランク冒険者をしている。それと、ギルド『ヴェルテクス』のギルドマスターだ。あと、武術大会の剣術、刀術、魔法、総合部門で優勝している」
こうして並べてみると、結構肩書き的なものは沢山あるな。この自己紹介をするのは、これが最後にしたい。面倒だから。
「す......凄いですね! 天使とか、色々と気になるところが.....私、総合部門を優勝している事しか知らなくて、他にも3部門、それも魔法部門で優勝されてるのですね!」
王女がめっちゃ食い付いてる。結構びっくり。
「あ〜......まぁ。でもあの武術大会はレベルが低かったからな。次の大会が本番とも言えるだろ」
「ルナ様、そのような事はありませんよ? 幾ら周りのレベルが低かろうと、数の力には負けますからね。それでも勝ち残ったルナ様は、本当にお強いと思います」
何故かセバスさんにめっちゃ褒められた。
でもなぁ、刀術はそもそも刀を持ってる奴が少なかったし、剣術は......普通か。魔法は『強い魔法を作ったモン勝ち』だったからなぁ。何とも言えん。
「でも足りないんだよ。槍術も糸術も闘術も、何もかも足りないんだよ。だから次が本番だ。これからも鍛えたいんだ」
より上を目指す。今、登ることが可能な頂点に着こうが、まだ足りない。更に上を目指すのだ。
それも、楽しんで勝たなきゃいけない。かなり高難易度な課題だな。
「凄まじい向上心ですね......尊敬します」
「えぇ。私も執事として、向上心を持って励みたいと思います」
「そりゃどうも。それじゃあ魔法の稽古、付けようか?」
「是非とも! 宜しくお願い致します」
依頼にある『魔法を教える』という言葉。『既存の属性の新魔法』なんて在り来りなことはしない。
上級魔法を教えてやるんだ。
「ではセバスさん、訓練所はどこですか?」
「ご案内致します」
何か、セバスさんには敬語で接したいな。どうしてだろうか。大人の威厳?でもそういう感じでもないんだよな。なんだろう。
「あっ、できれば1度、玄関前を経由して貰っていいですかね? ワイバーンを回収したいんですけど」
「勿論でございます。では玄関を出て、外から参りましょう。ではイベリス様、ご支度の方を終えましたら訓練所にいらっしゃってください」
「はい」
そうしてセバスさんに着いて行き、ワイバーンを回収した。
「ほ、本当にワイバーンを......失礼、まだ確認していない物でしたから、驚いてしまいまして」
「いや、俺だって家の庭にワイバーン持ってこられたら驚きますよ。というか、驚いて粉砕しますね」
『私なら斬りますね〜』
知らない奴に超危険物を持ってこられて、驚かない方が無理がある。
「『フラカン』あとは訓練所に運ぶだけですね」
「......分かりました。ご案内致します」
セバスさんの反応が少し遅れていた。どうしてだろ?
そう思いながら歩いていたら、フーが小声で言ってきた。
『ルナさんルナさん、セバスさんは多分、魔法について驚いてるんじゃないですかね?』
アハ~ン、なるほど。納得した。大きな物が浮く魔法なんて、多分無いんもんな。
「そういや言ってなかったな......まぁいいや」
言ったところで使えるの、アルカナさんくらいだろうし。
そして訓練所に着いた時には、既に王女は着替えて準備していた。
「ルナ様、宜しくお願い致します」
「もっと軽く接してくれていいぞ? 正直に言ってな、敬語を頭の中で分解するのが面倒だ。友達感覚で軽く喋ってくれ」
特に魔法は集中力を使うからな。敬語を一々分解していたら、魔法に集中できん。
「私......友人が居たことが無くて......分かりません」
わお。小中と高校1年の時の俺と殆ど同じか。
「なら大丈夫だ、俺にも経験がある。それにな、俺が真に友人と言えるのは1人だけなんだ。だからお前とそこまで変わらん」
「え? そうなのですか? あれだけ注目されていれば、仲のいい友人の2人や3人......」
「居たら良かったな。ま、俺の話はどうでもいい。お前の話だ。とりあえずその敬語を取っ払おう」
そこまで年齢も変わらないだろうし、問題ないだろう。
「え、えっと......こうですか? ではなく......こう?」
「そうだ。それと『ルナ様』ってのも辞めてくれ。そこまで持ち上げられるような人間ではない」
天使だけど。
「分かりました......分かった。ルナ......君?」
「......これは重大な問題だ」
俺の事を『ルナ君』と呼ぶのは今のとこ、ソルだけだ。......確かそうだよな? 犬子さんとかは違うし、キアラさんも少し違った言い方だからな。
「面倒だ。ルナと呼べ」
「えっ!? それは恐れ多いです!」
「王女が何言ってんだよ。国の頂点に立つ人間が、俺なんかに恐れ多いとか言うなよ」
「......分かり、分かった。ルナ、これでいい?」
「あぁ。俺はお前の事を王女と呼ぶからな。それは最初に言っておくぞ」
「どうしてです......じゃなくて、どうして名前で呼んでくれないの?」
「名前で呼ぶの、嫌だから」
ソルのセンサーに引っかかるのが怖い、というのが本音だ。それに様付けで呼んだところで、王女に敬語を辞めるように言った俺が出来ていないなんてアホらしいからな。
「分かった。では宜しくお願いします、ルナ」
「はいはい。じゃあ魔法のお稽古と行こうじゃないか」
かなりぎこちない敬語にダウングレードしたが、これはこれで引っかかるというかなんというか.....
まぁいい。これでようやく始められる。長かった。
......長くしたの俺だけど。
「まずは何から始めるの? 火魔法?」
「いや? 全然違う。それなら今回、俺がこいつを持ってきた意味がないだろう?」
俺はそう言って訓練所の裏に置いておいたワイバーンを空から持ってきた。
「ひいっ! な、何ですかそれ!?」
「アイスワイバーンだ、多分。昨日俺達が帰ったあと直ぐにニクス山で捕まえてきた」
「い、生きてる?」
「モチのロン。これから王女にコイツを倒してもらって、『龍魔法』を覚えてもらう」
「りゅ、龍魔法!? それ、伝説の魔法ですよ!?」
は? 伝説ぅ?
「何言ってんだ? 伝説もクソも、コイツをぶっ倒せばスキル書が手に入るぞ?」
「そんな訳ありません! そんな事で手に入るなら、兵の全員が持ってるはずです!」
「そうか? まぁ、とりあえず倒せ。ほら」
そう言って表面のアクアスフィアを一段解除した。
「えっえっ、えぇ!? こ、これをどうしろと!?」
「殺せ。魔法でも剣でも、何でもいい。動き出したら俺が止めるから安心しろ」
「無、無理無理! 無理ですよ!」
「無理無理言うな。そんなんで魔法が覚えれると思ってんのか?」
「基本属性で十分ですから!!!!!」
『王女様の言う通りですけどね。無理して龍魔法を覚える意味って、あんまり無いと思いますが』
フーの言う事も一理ある。だがな、手札の中に1枚のジョーカーを忍ばせておけば、それで命を拾うことがあるんだよ。
「フー、剣術が使えて魔剣術が使えない兵士と、剣術と魔剣術の両方が使える兵士。どっちが強いと思う?」
『そりゃ後者の兵士でしょう。魔剣術1つで状況が変わるなんて、よくある事ですよ』
「なら基本属性の7つが使えるの兵士と、基本属性7つに龍魔法が使える兵士。どっちが強いと思う?」
『......一概に後者とも言えませんが、まぁ後者でしょうね。高燃費高火力ですから、龍魔法は扱いが難しいですよ』
「でも、無いよりはマシだろ?」
『そうですね。戦場では何が輝くか分かりませんからね』
「そういう事だ。俺は王女が切れるカードを増やしたいんだよ」
『理解しました』
分かってくれて何よりだ。ただ、俺の言う事が全てあってる訳じゃない。俺としては王女に龍魔法を覚えて欲しいが、厳しそうなら基本属性の魔法を考える。
「あの、ルナさ......ルナ。少々......ちょっといいで......いい?」
「どうした? 敬語を抜くの、難しいなら別に気にしなくてもいいぞ? 徐々に慣れていけばいい」
「分かりました。それで、少し聞きたいのですが、ルナさんはあのワイバーンを倒すなら、どのようにして倒しますか?」
様付けからさん付けに落ち着いたな。よしよし。
それで、俺がコイツを倒すなら......か。
「そうだな。コイツを......布都御魂剣を使って首を切り落とすか、魔法で倒す」
「それでしたら、実演しては頂けないでしょうか? 倒しきらなくても、どのようにして戦うのかを見たいです」
そうか。とある軍人さんの言葉に『やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ』とある。
まずは『やってみせ』をしないといけないな。
「分かった。日の出てる内は何度でも見せてやる。だからよく『見ろ』」
「はい!」
道場時代に師匠がしてくれた事を、今度は俺がやる番か......相手はAI、されどこの世界では『生きている』
1人の人間として、弟子として教えてみようか。
これから王女の依頼をバンバンこなす事になりそうですね!
案外すぐにイベントが終わるかも?
そう言えば書き忘れてましたが、第6章は短めの予定です。
このイベントが話の9割の予定ですからね。王女とルナ君の関わり、それとイベントの結果が今後にどのように関係するのか、楽しんで頂けたら嬉しいです。
次回、『王女育成ゲーム』お楽しみに!