氷漬けの、記憶とワイバーン
夜寝て朝起きる生活に幸せを感じています(^・ェ・^)
「ざ、ざむ゛い゛でず、ルナざん......」
ニクス山に着いて早々、フーが泣きついて来た。
「自前の魔法は無いのか?」
「無いのでばやぐまぼうを......」
もはや何を言っているか分からないが、寒いと言いたいという事は分かった。
だって、もう日が沈みかけてる雪山だ。昼間とは圧倒的に気温が低いだろう。
「『サーキュレーション』ついでに『イグニスアロー』」
フーの周囲に風を纏わせ、外気温をシャットアウトした。そしてついでに、弱くしたイグニスアローをカイロ代わりに近くに飛ばした。
「ありがとうございます! 優しいですね!」
「お前なぁ、本当に優しいやつは最初からこうしてるぞ?」
「そうですね! なら、この鬼畜! 鬼! 悪魔! 堕天使!」
「そうかそうか。サーキュレーション、解除」
「びゃぁぁぁぁ!!! すみません! それだけは辞めてぇぇ!! 寒いですぅぅ!!!」
「『サーキュレーション』」
なんでフーはこうも極端なのか......俺もか?
「ワイバーン、探すぞ」
「あの~、探してどうするんですか? 下見って言ってましたけど、倒さないんですよね? それに、見つけた所で他の人に倒されたら意味が無いですよ?」
「でぇじょうぶだ。氷漬けにして家に持って帰る」
「うわぁ......それって、ワイバーン死にません? っというか王都がパニックになりません?」
「大丈夫だろ、多分」
「また適当なこと言って......私は一緒に怒られませんからね?」
「別にいい。王都で暴れたらフーで真っ二つにするだけだ」
「うへへ......真っ二つに出来るという信頼......いいっすねぇグへへ」
「うわキモ」
「酷いです!」
ソルが時々する、外でしちゃいけない表情をしていた。怖い。
「ほら、フー。こっち来い。空飛んで探すぞ」
「は〜い......ってお姫様抱っこですか!?」
「あっ......なら手だけ掴んで「いや! そのままで!」......面倒くせぇ〜もう魔法だけでいいんじゃ」
「いやぁぁ!! 夢がぁぁぁ!!!」
今度はリルみたいな事を言い始めた。
俺はフーを抱っこして、そのまんま真上に飛んだ。.....全力で。
「なぁ、ワイバーン見えるか?『サーチ』」
「見えるわけ無いでしょう! バカなんですか? 高く飛びすぎですよ! 雲より高いところから見えたら変態ですよ!?」
そう、ちょっとした遊び心で雲より上に飛んだのだ。
「ん?......おい、雲の上飛んでんじゃん、ワイバーン。ここまで来て正解だったな」
「嘘でしょ!?」
サーチを使って下の方を見てたが、景色に違和感を感じて顔を上げると、雲の上をワイバーンが飛んでいた。
これからワイバーンを狙う時、ここぐらいまで飛ぶのが良さそうだな。
「じゃ、行くぞ。『ウィンドボム』」
俺はワイバーンの方に体を向け、足の裏にウィンドボムを炸裂させた。
「きゃぁぁぁぁ!! 早いぃぃぃ!!!」
何時ぞやのニクス山激突事件を彷彿とさせるが、俺も学ぶ男だ。ボムに注ぐ魔力を調節して、狙ったところまでしか飛ばないようにしている。
『ガァ!? ガァァァァァ!!!』
ワイバーンは一瞬驚いていたが、俺達の存在に気付くとブレスを吐いてきた。
「『クロノスクラビス』」
ブレスは魔法によって消え去ったが、問題がある。
「フー、邪魔だわ」
「えぇぇぇ!? 嘘ですよねぇ!?」
という訳でフーを刀に戻した。
『何で......何でこんな事に......』
「いや、指パッチンが出来ないと行動詠唱に設定してる意味が無いし、フー重いし」
『嘘だ。貴様は嘘をついている!! 私は断じて重くない!!!』
「そうか? 何キロあるんだ?」
話してる間もワイバーンがブレスを吐いてくるが、クロノスクラビスで消滅させる。
『私はよんじゅ......何言わせようとしてんですか!』
「そういや体重計ってあったっけ? ってか言おうとしたのはお前だ。聞いたのは俺だが」
『体重計はキッチンにありますよ......計りと同じ所に』
「はぇ〜知らなんだ。でさ、そろそろアイツ氷漬けにしていい?」
『勝手にしてくださいよ。そろそろご飯の時間ですよ? 怒られても知りませんからね!』
もう21時に近いらしい。早く帰らないと、ソル達を待たせてしまう。
「ふぅ......『アクアスフィア』『クロノスクラビス』」
『ガグァ!?......ガ、ガ......』
ワイバーンを覆い尽くす程のアクアスフィアを出し、その『魔法自体を凍らせた』こうすることでワイバーンの氷漬けができる訳だ。
「あ、『フラカン』......あっぶねぇ、落とす所だった」
『落としても良かったですけどね!......で? それ、どうやって持って帰るんですか?』
「ん? インベントリに......入らないわな。知ってた。とりあえずウチの庭まで浮かして持ってく」
『そうですか。がんばれ〜。ふぁいとぉ〜』
「クソほど適当な応援、ありがとう」
そうして氷漬けのワイバーンを城の庭まで持ってきた。
「――よし、これでいいだろう。念の為に......『アクアスフィア』『クロノスクラビス』『アイスウォール』『アイスエリア』」
二重のアクアスフィアとそれを入れる箱の様なアイスウォール。仕上げに庭を凍らして完成だ。
「あ〜あ、お庭が凍っちゃってまぁ......」
「すまん。マジですまん。でもこうしないと溶けそうじゃん?」
「ルナさんが解除しなければ、丸一日は持ちますけどね......その辺、勉強不足ですよ?」
「すんません」
今知ったわ。魔法ってそんな長い時間持つのか。
「とりあえず家に入るぞ。寒い」
「自業自得なんですけどねぇ?」
そうして晩御飯を食べ、庭に置いてあるワイバーンの氷像(生きてる)を皆で見ていた。
「ルナ君......掲示板でとんでもない事になってるよ?」
「知らん。別に王都を荒らす気で持って帰った訳じゃないし、溶けたら責任は全部俺持ちだし、いい」
「いやね? そういう危惧をされてる訳じゃなくて、『何かあの人、一段とヤベぇことしてる』って感じの意見が大半だね」
「へぇ〜......皆、楽観的に見すぎでは?」
「違うよ。ルナ君なら大丈夫って、信頼されてるんだよ」
「信頼、ねぇ......?」
そうして皆でリビングに戻り、いつも通りゴロゴロしていた。
「そうだ。リル、おいで」
「はい、何でしょう?......んにゃっ」
俺はソファに座っていたのでリルを呼び、近付いてきたリルを抱きしめた。
「どうしたんですか? 父様」
「そうだよルナ君! どうしたの!?」
「ん〜? いやな、リルの生い立ちを知ったからな。感謝の気持ちだ」
「「生い立ち??」」
「そう。リルがフェンリルになる前の、『普通の狼』の時の事を知ったんだよ」
リルは俺にテイムされた時、『普通の狼として死ぬ運命から救ってくれた』と言っていたが、きっとアルテミスが何かしたんだと、俺は思う。
多分、神の権能的な力で、アルテミス自身の事を忘れさせたんじゃないかな......
「父様......それは本当ですか?......どこまで知っていますか?」
「『狼の厄災』の時、だな」
俺がそう答えると、リルはこちらをじっと見てから聞いてきた。
「その事を知った時......父様はどう思いましたか?」
リルの目には涙が浮かんでいた。
きっと怖いのだろう。既に人を食っている事が。
それに俺がどう反応するかが、もっと怖いと思ってるはずだ。
「そうだな......感謝、かな?」
「感......謝?」
「そう。リルが生まれた事に感謝したよ。アルテミスに殺されず、フェンリルとして育てられた事に感謝したし、あの時アルトム森林で出会ったことに感謝した」
「うっ......うぅ......」
リルが泣いて抱きついてくるのを、優しく受け止めた。
「あの時にお喋りした事にも、戦ったことに感謝した。そしてテイムされてくれた事にも感謝したさ。......それとな、もっと感謝した事があるぞ」
「うぅ......なん、ですか?......」
んなもん決まってる。このゲーム内で、俺の中での1番大きな物だ。
「リルが娘として、一緒に居てくれる事に感謝した」
「うわぁぁぁん......父様ぁぁ!!......」
リルが大泣きして抱きしめてくる。それに優しく力を入れて返した。
「ルナ君......リルちゃんの何を知ったの?」
「後で教えるさ。リルがどんな風にしてフェンリルになったのか、少しだけな」
少しだ。本当に、本当に少しだけだ。あの絵本にリルの全てが描かれているなんて思ってはいけない。
きっと、あれ以上につらい経験や苦しい経験をしたはずだ。
それをあの絵本で全て知った気になって話したら、俺は終わりだろう。
そうして15分程リルは泣いたら、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。
「ソル、このゲームのストーリー......というか、歴史について知ってるか?」
「ううん。何にも知らない」
「だよな。でさ、歴史といえば本が思い付くだろ?」
「そうだね」
「王都に本屋......あったか?」
「え?......確かに無いね。どうしてだろう?」
「ゲーム的に言えば、それはこの世界の歴史を知るに相応しくないからだろう。俺達が読んだ本って、魔導書くらいだろ? それも、魔法の理論が書いてある本だ」
「うん。じゃあ何処で歴史を知るんだろ?」
「さぁな。でも今回のイベントで知れたぞ......フェンリルが生まれた経緯の絵本をな」
それから絵本の内容について、細かく話して言った。
「......なるほどね......だからリルちゃんはこんなに泣いて......」
「あぁ......フーに聞いたが、それも何百年も前らしいし、そもそもそこまで覚えてないらしい」
「そっか......」
するとソルは俺の隣に座り、尻尾を9本出した。
そして尻尾をリルの上に乗せ、手でリルの頭を撫で始めた。
「可愛いリルちゃんの壮絶な過去......私達に受け止められるかな......」
「さぁな。でも、リルが本当に聞いて欲しくなった時は逃げずに聞くさ」
「うん。私も一緒に聞く。リルちゃんは私達の子だよ」
「(仮)......なんだがなぁ......一応」
「ゲーム内くらい、いいじゃん。家族の練習だよ」
「......そう......だな......」
ソルの尻尾が暖かくて、俺もそのままソファで眠ってしまった。
そして朝――
「ふわぁ......おはよう」
「......お、はよぉ......ございま......」
目を開けると俺の上にリルが乗っており、その上にはソルの尻尾が乗っていた。
「暖けぇ......2度寝したい............ってそうじゃなかった! 王女の稽古!」
俺がギリギリで2度寝を自制して叫ぶと、ソルが起き始めた。
「んむぅ......ケイコ? だぁれ?」
「人の名前じゃないぞ。クエスト内容だ」
「ん〜......ちゅ〜「しないわ!」」
なんで寝ぼけたソルとキスするんだ! 恥ずいわ!
「ほら、起きろ! 朝ごはんにするぞ!」
「「は〜い」」
そうして2人を起こし、皆で朝ごはんを食べた。
「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」
「フー、王城行くぞ。俺も龍魔法で新しいの作りたいから、知識をくれ」
「は〜い、分かりました〜!」
「えぇ〜! フー姉ちゃんばっかりズルい〜!」
フーを連れて行こうとすると、シリカが駄々を捏ねてきた。
「じゃあシリカ、お前は人に魔法を『分かりやすく』教えられるか?」
「んぐっ......む、無理だね......はぁ、諦めるよ」
「すまんな。ってかシリカは何が出来るんだ?」
「戦闘だね! これでも元戦神だし、戦闘なら得意だよ!」
戦闘か......そういえばシリカの武器はまだ作ってなかったな。
「そうか。ならリルに体術を教えてやってくれ。きっと今後の戦闘に役立つだろうからな」
「何かそれ、前にも言われたような気がするけど......うん、分かった! リルちゃんにみっちり仕込んどくよ!」
「あぁ、ほどほどに頼むよ。それじゃあ行ってくる」
「「「行ってらっしゃい」」」
3人に見送られ、俺達は城を出た。そして氷漬けのワイバーンの前でフーに言った。
「フー、刀で。賄賂作戦はもうやらないからな......『フラカン』」
『は〜い......その魔法、好きですねぇ』
「飛行と浮遊ができる魔法だぞ?好きにならない理由がない。これは全魔法使いの夢が詰まってるんだ」
『さいですか。まぁ、そのワイバーンを落とさなければ何でもいいでしょう』
最後は適当になったな、フー。
そして城門前まで来ると、衛兵さんがきちんと警備していたので軽く会釈してから言った。
「すみません、ワイバーン持ち込んでいいですか?」
ルナ君、衛兵さんに対するロールプレイモドキは辞めちゃったんでしょうか.....
それにリルの記憶のズレやアルテミスとの関係.....うむむ.....
さてさて、次回から本格的にイベントクエストを進めるようです。楽しみ!
次回、『王女魔強化計画』です!お楽しみに!.....ふふ。