打ち上げとイベント告知
第5章のエピローグ的な何かです。
「フェンリル討伐、お疲れ様〜!!」
「「「お疲れ〜!」」」
俺の出したアクアスフィア製の水で乾杯する。
「「「「ん〜......水!!!!」」」」
現在、家のリビングでフェンリル討伐の打ち上げパーティーを始めたところだ。
ソルが用意してくれたご飯を出して、皆でチマチマとつついている。
「いや〜ルナの城、広いね! ソルちゃんも『小さめだよ?』って言ってたけど、普通に大きいよ? ここ」
「それな。あの大会の優勝でこれって、中々に太っ腹だよな。俺も出たかったな......勝てる自信はあるぞ?」
「う〜ん、アテナが出たとこで、ルナの勝利は揺るがないのでは?」
「翔、それは無いぞ。あの時の俺はレベルがウン十の時だし、今でも普通に負ける可能性はある」
今の勝率は8〜9割ぐらいだろうが、大会の時なら3割あればいい方だろう。アテナの戦闘センスやステータス的に、あの時の俺なら普通に負ける自信がある。
「そうかな? まぁ、僕なら糸術だけ出て総合は諦めるね。取れる報酬を狙いに行くよ」
「それがいい。翔は堅実なアドリブタイプだからな」
翔は想定外の場面でも頭が回るから、総合部門でも上位に残りそうだけどな。
どっかの誰かが広範囲殲滅とかしなければ、上位の中でもトップ3には入れるだろう。
「そうだ、ねぇルナ。フェンリルに使ってた動きを止める魔法、あれ何?」
「言いたくない......けど言ってもいい気がするな」
自然空間魔法とかいう部類だし、言ったところで理解できないだろう。
......よし、ここは実演と行こう。行動詠唱にセットして、と。
「現地でも言ったが、この魔法は魔力の動きを止める魔法だ......アテナ、試しにファイアボール撃ってみ?」
「いいのか?......『ファイアボール』」
パチン!
パキパキ......パリン!
「「「おぉ〜!」」」
「こんな感じで、火の魔法なら凍らせることも出来る。しかも、魔法が展開する前の魔法陣の状態なら、その魔法陣を破壊する効果になるんだよ」
「これがルヴィちゃんの言ってた奴か〜......ヤバいねぇ」
ん? ルヴィ?
「ピギー、ルヴィさんと知り合いなのか?」
「うん、そうだよ。知り合いって言うかリア友だね」
「へぇ〜」
何か引っかかるな。......何だろ?......う〜ん、何か大切な事な気もするんだが......
「あ! もしかしてルヴィさんの観戦の招待、ドタキャンした人!?」
「ぶふぅ!......まぁ、言い方は酷いけどその通りだね。武術大会の同時視聴配信をする為に、ルヴィちゃんのお誘いは断ったよ」
なるほどな。そういうことだったのか。
「ならピギーにも感謝だな。お前がドタキャンしたお陰で、ソルが観戦席に行けたからな」
感謝の気持ちでいっぱいだ。拳に乗せて贈りたいくらいに。
「ん〜? 別に観戦席って誰でも行けるよ? あのチケットって、大きい部屋用のチケットだから」
「え? そうなん?......知らんかった」
「翔、これが大会優勝者らしいぜ。笑い物だな」
「ホントに......ねぇ?」
「いや、ちゃうねん。だって「父様?」......リル?」
俺が弁明しようとしてたら、リビングの扉が開き、リルが入ってきた。
「起こしちゃったか?」
「いえ......私はずっと起きてましたので。母様は寝てます」
「そうか。おいで」
「はい!」
リルがちょこんと、俺の膝に座った。
この、モフモフの尻尾と人の温もりを感じさせる物体は人類が守るべき宝だと思う。少なくとも、俺は命を懸けてでも守るぞ。
「ルナ、その子は? お前の妹か?」
「あ、もしかしてその子が幼馴染? ちょっと年齢的に危ないよ? 大丈夫?」
酷い言い様だな。
「私はリルです。父様の娘です」
「「娘ぇ!?」」
「そう言えば2人には言ってなかったね。この子はルナとソルちゃんの子供だよ」
「(仮)が付くけどな......まぁ、仲良くしてあげてくれ」
ソルがピギーにどこまで話したのか知らないが、リルの存在は知ってるようだ。
......そういや今のリル、初めて見る服を着ている。
モコモコのパジャマだな。暖かそうだ。
「リル、そのパジャマはソルが作ったのか? よく似合ってるぞ」
「はい! 母様お手製です。防御力が800もありますので、寝てる時にモンスターが来ても安心です」
「「「「800!?」」」」
高すぎだろ! それ、パジャマって言うより防具じゃん!
「父様の倒したドラゴンと、以前に皆で狩ったワイバーンの皮を加工したようです」
「えぇ......なんでその2つがモコモコパジャマになったのかは知らんが、凄いな」
ゲーム特有の謎技術か? 魔力打ちといい、魔糸化といい、生産する時の固有技術が凄まじいな。
「暖かいでしょう? 父様」
そう言ってリルが体をくっ付けてくる。
「暖かいよ......多分」
天使シリーズを着てるので、その上のリルの暖かさはそこまで分からない。だが心の温もりは多分に感じる。
「むぅ......母様だったら分かりますか?」
「上に座る前に暖かいだろうからな」
「ずるいですねぇ......」
ズルくないもん。プラシーボ効果的なやつだもん。
「......なんつーか、お前、家族してんなぁ」
「思った。彼女ってより家族じゃん」
「ね! 幸せそうだね」
「「幸せだな / 幸せですね」」
一緒にゲームして、一緒にご飯食べて、一緒に過ごして......これを幸せと言わずになんと言う。
「そうだ、ルナ。僕、今度は1人でフェンリルと戦ってみたいからさ、攻略法とかあったら教えてよ」
「いいぞ?......でも、今回のフェンリルはめちゃくちゃ弱かったからなぁ。正直に言って、参考にならないと思う」
「父様、そのフェンリルは私より弱かったのですか?」
「そうだな。リルがフェンリルなら、アイツは犬だよ」
「なるほど......そんなフェンリルはフェンリルの風上にも置けませんね」
「「「私より?」」」
「あ〜......ネットに流さないってんなら話す」
「「「流さないから早く吐け」」」
まぁ、そう言うなら。
「リルはな......フェンリルだ。お前達も見た、俺のフェンリル戦の時の相手だな」
「ですです」
「「「......」」」
皆ポカーンとしてるな。予想通りだ。
「ほらリル、こっちのお芋も食べるか?」
「頂きます」
リルはパクパクとスティック状に揚げられた芋を食べている。ハムスターみたいな食べ方とは、こんな感じだろうか。非常に可愛い。
「......驚きすぎて意識飛んでたわ......確認だけど、今のマジ?」
「マジ。リルと戦った時の方が、今回の数億倍は難しかったな。まぁ、あの時はレベル20とかそこらだったし、ソロだったってのもあるだろうけど」
そう言いながら俺も芋を食べる。うん......美味しい。
「「「化け物だ......」」」
「お前らも同じ部類の癖に、なに自分の事を棚に上げてんだか」
『ニヒルに人間はいない』......周りからそう言われてたじゃねぇか、全く。
「ま、翔よ。とりあえずぶつかってみるといい。今のフェンリルなら、ちゃんと予備動作を見て動けば勝てるだろう」
「う、うん」
「なら私、なんで負けたんだろうね!」
「ピギー、お前はフェンリルにいきなり攻撃したりしたんじゃないか?」
「するに決まってんでしょ? 殺しに行ってんのよ?」
「それが敗因だな。俺がリルと戦った時、まず最初に会話をしたぞ。会話することで、相手の癖や思考をできる限りインプットするんだ。今回だと、拘束した時に煽ったのはその為だな」
「「そんな意図が......」」
「僕も同じようなことはするね。まずは相手の情報を集めないと」
おぉ、翔は分かってくれるか! 嬉しい。
「えぇ〜でもそんな簡単に分かる〜?」
「「分からないに決まってんだろ」」
「「なら何でそんなことを!?」」
はぁ......それこそ1番分かってない。
「あのな、2人とも。何も俺達は、100パーセントの情報をそこで集めてる訳では無いんだぞ?」
「そうそう。0パーセントを10パーセントにしたんだよ。それがどんなに大切か、流石に分かるでしょ?」
翔、ナイスアシスト。全く以てその通りだ。
「「......まぁ」」
「お2人は思考する戦いに向いてないのでしょう。父様とそちらの方は、戦闘中にもちゃんと考えてますね......理解出来たかどうか、それが証拠ですね」
「「うっ......」」
リルに追撃貰ってんの、オモロイな。
「でも、父様も時々思考放棄して戦いますよね」
「何言ってんだ、最初から考え無しに動いてるさ」
「それは嘘ですね......まぁでも、母様と居ると放棄しやすいですよね?」
「当たり前じゃん。あんな可愛い子を前にして、戦闘なんて考えてられるか!」
以前ソルが言っていた、『集中したい時に好きな人がいるとそっちを見ちゃう』という言葉が、今はよく分かる。
「「「バカだなぁ......」」」
3人がニヤニヤした顔で見つめてくる。
「うっせ。これでもまだ完全に死んだことは無いんだから、いいんだよ」
HPは0になったが、ポリゴンになって散ってないからな。実質死んでない......うん。
「強いな〜ルナ。僕も強くなりた〜い」
「森林かドゥルム鉱山でレベル上げをしたらいいさ。森林はモンスターの数が多いし、鉱山は経験値の質が美味い」
「分かった。今度行ってくる」
そんな感じで、長い間雑談を楽しんだ。
そして時は流れ、朝5時頃──
「あれ? ルナさん?......と、そちらの方々は?」
「おはよう、フー。こいつらは前に言ってた旧友だ。話してる内に寝た」
リビングの机に突っ伏して3人とも寝てる。
因みにリルは俺の膝の上に座り、抱きつきながら寝てる。
「そうですか......あ、おはようございます」
「ん。この時間に会うのは初めてだな」
フーはいつもこの時間に起きてメイドとして仕事を始めるのだろう。
「そうですね! 結構嬉しいです!」
「そかそか。シリカは?」
「シリカさんは......いつも6時くらいに起きますね。私より1時間遅いです」
「そうなんだな、ありがとう」
2人とも早起きだな。俺、ユアストではいつも7時か8時に起きてるぞ?
「こいつら......どうしようか。起きるかな?」
「あ、ならここはルナさんに任せます。私は先に会議室の掃除からしてきますね」
「はいよ〜」
任されてしまった。
「......ふっ、リルは起こさないでいいか。可愛いし」
すぴーすぴー......と、可愛い寝息を立ててるリルはそのまんまで、この3人を最初に起こそう。
「『ボイス』......『起きろぉぉぉ......起きないとビリビリするぞぉぉぉ......』」
ボイスを使い、3人の耳元で呪いのモーニングコールを流す。
「「「ん......」」」
「残念。俺は有言実行マンだ。『ショックボルト』」
バチバチッ! と少し強めの静電気を浴びせる。
「「「んぎゃぁぁぁぁ!!!」」」
「『アクアスフィア』」
「「「もがぁぁぁぁ!!!」」」
アクアスフィアで顔を洗ってやった。優しいね、俺。
「ル、ルナァァ!! 殺す気かぁぁ!!」
「ま、マジで死ぬかと思った! 鬼!」
「ちょっと......死を覚悟した......魔糸術を受けたモンスターの気持ちが分かった......」
「ははっ☆ ごめ〜んねっ?」
謝る気など微塵もない。
「うぅ......父様?......おふぁようござまふ」
「はいおふぁよう。リルも顔を洗うか?」
「はい......」
「「「辞めといた方が......」」」
はっ、お前らと同じサイズの水を出す訳がなかろう。丁度いいサイズでしか出さんわ!
「はい、『アクアスフィア』」
「......ありがとうございます」
リルの前に、桶1杯程度の水を出すと、リルは真っすぐに顔を突っ込んだ。
「ブクブクブクブク」
「こ〜ら。行儀悪いぞ?」
「ずみ゛ま゛ぜん゛」
意地でも顔を離さないようだ。水に突っ込んだまま返事をしてきた。
「......ぷはぁ! ありがとうございます、父様」
「はいはい......『イグニスアロー』『アウラ』『サーキュレーション』」
便利な魔法達でリルに温風を浴びせ、乾かしていく。
「ありがとうございます!」
「「「これが魔法か......!」」」
「ほら、皆で片付けるぞ。ソルが起きる前に、机を綺麗にするんだ」
「「「は〜い」」」
そうしてソルが起きてくるまでに、何とか掃除は終わった。
途中で攻略情報や肉が美味しいモンスターの話なんかをしたせいで時間がかかったが......本当に何とか終わらせた。
「おはよ〜るなくん」
「おはようソル。客が居るから早めに目を覚ますんだぞ〜」
「るなくんがさまさして〜」
目が半開きのソルが、トボトボと俺のところに歩いてきた。
「どうやって覚ますんだよ」
「ちゅ〜」
「無理に決まってんだろ! コイツらが居るんだぞ!?」
ヤバい、寝ぼけてるソルは危険だ。一刻も早く何とかしないと......!!!
「「「あ、気にせずどうぞ」」」
「違うだろぉぉ!!!」
「るなくん、ちゅ〜」
ヤバいヤバいヤバい! ソルの黒歴史が出来ちまう! 早く阻止しないと!!!
「起きろ!『アクアスフィア』!!」
「もががががが......ぷはぁ!」
ふぅ、危なかったぜ。こんなとこでファーストキスや黒歴史が生まれるところだった。
「うぅ......ルナ君? あれ?」
「おはよう。とりあえず、黒歴史を未然に防げて良かったよ」
「え?......あ、あ......あぁぁぁ!!!!」
ソルが周りを見てから悲鳴を上げた。
「うわぁぁぁん! ひどいよぉぉぉ!!」
「よしよし。悪いのはあの3人だからな。3人が居なければ、頬っぺくらいならしてたよ」
「「「酷いなコイツ!!!」」」
いや〜すまない。ソルにも申し訳ないし、3人にも申し訳ない。
まさかソルがこんなに寝ぼけて来るとは思わなかったし、3人の前でソルがこんな感じになるとも思わなかった。
「取り敢えず朝ごはんにしよう。ソルはリルと座ってな。俺が作ってくるよ」
「......うん。リルちゃん、おいで」
「はい、母様」
そうして俺が朝ごはんを作っていると、皆落ち着きを取り戻し、普通に話していた。
「はい、出来たぞ。サンドイッチだ。中身はドラゴンの肉と野菜、後は市販のソースだな」
「「「「「おぉ〜!」」」」」
「シリカ、フー、顕現」
「「は〜い!」」
朝ごはんは皆で食べよう。
「じゃ、いただきます」
「「「「いただきます!」」」」
「「「え?」」」
う〜ん、美味しい! ブリザードドラゴンの肉、かなり薄くスライスしてから焼いたが、食べやすくて丁度いい。
「あ、この2人はメイドの子ね。俺の武器でもある。手を出そうもんならお前達の首が物理的に落ちるから、宜しく」
「フーです。よろしくお願いします」
「シリカだよ〜!」
「「「よ、よろしく......」」」
流石にピギーも2人のことは知らなかったか。ソルが秘密にしてくれていたようで安心した。
それから2人のことを3人に説明しながら、朝ごはんを食べた。
「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」
「賑やかになったな、今日は」
「そうだね! 4人が7人になると、一気にわちゃわちゃするね!」
そんな感じでソルと話していたら、ウィンドウが出てきた。
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Your story運営です。
今回は、第2回イベントの告知です!
イベント名:『姫を守る騎士』
開催期間:本日〜5月31日まで
本イベントは『王都ロークス』にある、『ロークス城』に住まう王女、『イベリス・ロークス』から受けられる、『イベントクエスト』をクリアするイベントです。
イベントクエストの内容はプレイヤーによって変化しますので、皆さん奮ってご参加ください。
また、本イベント中は、ギルドカード等の身分証を出すことによって『ロークス城』に入れるようになります。
受けたイベントクエストによって様々な報酬があるので是非、楽しんでください。
Your story 運営より
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「ほう、クエストクリア系のイベントねぇ?」
「楽しそうだね!」
あまりこの手のイベントは好きじゃないが、ユアストなら固有の要素もあることだし、楽しめそうだ。
「いいな。俺達にとっちゃ初イベントだ」
「だね!」
「僕も楽しみ。確かロークス城って、噴水の奥にあるでっかい城だよね?」
「そうだぞ。ここよりデカい所だ。......もう始まってるみたいだが、お前ら行くか?」
「「「もちろん!」」」
早いなぁ。俺、もう少しゆっくりしてから行くよ。
「俺は後で行くから、先に行ってこい」
「え? ルナは行かないの? てっきりソルちゃん達と一緒に、6人でやると思ったんだけど......」
「少し準備するだけだ。それに今回、完全に個人イベントっぽいし、そこまで一緒に出来ないと思うぞ?」
プレイヤーによってクエスト内容が変わるらしいし、一緒に出来るとは限らないからな。
「......そっか。じゃあ3人で行ってくるね!」
「じゃあな、ルナ。ありがとな!」
「ありがとう。また来るよ」
「おう! 気を付けてな〜」
3人は城を出て、王城の方へ向かって行った。
「で? ルナ君、準備って何?」
「王女様だぜ? 土産が要るに決まってる。だから、ちょっくら鉱山まで行ってくる」
「私も行く!」
「わ、私も行きます!」
お〜お〜、これは皆で行くパターンか。
「ならフー達も誘って、全員で行くか。『ヴェルテクス』初めての全員での行動か?」
「そうだね! 楽しもう!」
「あぁ」
そうだな、楽しもう。
そうして俺達は王女に渡す土産を取りに鉱山へ向かった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
次回から、第6章『姫の騎士』がスタートします!
第6章は完全三人称視点でお送り出来たらな、と思います。
これからも楽しんでいただけると嬉しいです!(^・ェ・^)
宜しければ評価やブックマーク、お願いします(*`・ω・´)