買い物ってなんですか?
ほのぼの回です。これは嵐の前の静けさとも言えます。
──王都上空を飛行中
「今日の晩ご飯は何にするんだ?」
「カツサンドかな。お米とかがあれば定食になるんだけど......」
「お米......見た事がありませんね」
お米か。カレンさんの故郷の『東の島国』とか言われてたところなら、ありそうだな。
「お米はエリア解放を頑張るか、キアラさん達の慈悲を待つしかないな」
これからは冒険者のランク上げついでに、ニクス山の攻略をしよう。特段手掛かりになるとは思っちゃいないが、他に良い物が見付かるかもしれん。
「そういやこれ、何処に向かってんだ?」
「イニティのオバチャンのところ! いつもあそこで買ってるの」
「あ~、あの関西弁のオバチャンか......久しぶりだな。リルも久しぶりか?」
「私は母様に着いて行ったので、時々来てました」
イニティに帰ってないの、まさかの俺だけだった。
そうして空を飛び、イニティの広場に着地した。
「まぁ、変わってないよな」
「そりゃそうだよ。変わったのはお店に並んでる物が増えたくらいだからね」
「へ〜」
そう言えばアップデートで追加されたんだっけか。そもそも店自体に来ないから、何が無くて、何が追加されて、どれだけの値段がするのか分からない。
適当に2人と雑談しながら歩いてたら、すぐにオバチャンのとこに着いた。
「「「こんにちは〜」」」
「いらっしゃい! あ、ソルちゃんにリルちゃん! よう来たなぁ! お、旦那さん連れてきたんか! ラブラブか〜?」
相変わらずのマシンガン。言葉で蜂の巣にされそうだ。
「お久しぶりです」
「せやなぁ! 元気しとったか?」
「はい! 今はソル達と、王都で元気に過ごしてますよ」
「そっか! あ、今日はダンジョン産のお肉、入ってんで〜!」
ダンジョン産? そういえばインフィル草原にダンジョンがあるんだっけか。もう攻略されたのかな......?
「おばちゃ〜ん、今日はこれ〜」
ソルがもう買う物を決めていた。早いな。
「相変わらずはっやいなぁ! 普通、もっと迷うもんやで?」
「買う物は予め決めてますからね! それに、早く帰ったらルナ君に......そうだ、ルナ君いるんだった!」
「ん〜?」
リルと一緒に、適当に商品を見てたらソルが何か言ってた。
「ル、ルナ君と買い物デートが......」
「はっはっは! ソルちゃんおもろいなぁ! 自分で連れて来といて忘れるなんて、相当やで?」
「やっちゃったよ〜......もう」
「まぁ、また今度ゆっくりすればいいだろう。いつでも付き合うぞ?」
「うん!」
その時は2人っきりで行きたいな。
「おぉ、普通は『また今度』って言ったら喧嘩になると思うんやけど、アンタらは違うねんなぁ」
「「まぁ、普段からこんな感じですし」」
「息ピッタリやな! 羨ましいわ!」
また今度、また今度と先延ばしになることがあるが、永遠にやらない、なんてことが無いからな。
例え忘れていても、どちらかが思い出したらすぐに実行される。正に俺達は、『.exe』ファイルの様なフットワークをしている。
「ほな、これで以上か?」
「うん!」
どうやら買い物が終わるようだ。早かったなぁ。
「おおきに! 旦那さんも、また来てな〜!」
「「「ありがとうございました!」」」
また来よう。スーパーに来る感覚で来ようかな。
「ど、どうしよう......もう帰り道だよ......」
「まぁまぁ。ここから飛ばずに、歩いて帰れば長く居られるぞ?」
「そ、それだ! 歩いて帰ろう!」
「ってか今まではどうやって来てたんだ?」
今は箒で空を飛べるが、それまでの買い物はどうしてたんだ?
「普通に走ってたよ?......指輪使って」
「んおぉい!! それ、周りの人間は大丈夫なのか!?」
ステータスが100倍を超えるんだぞ!? 何人か轢かれてない?
「大丈夫だよ。ちゃんと人のいない所でしか使ってないから」
「......なら良いけど」
――そうしてイニティを出て、インフィル草原を歩いて帰ってる最中
「父様、後ろから付けられてます」
「マジ?『サーチ』......ホンマや。しかも30人もいる」
「え〜どうするの〜?」
多分PKだな。既に魔法を撃とうとしてるようだ。
パチン!
「どうしたものかね。魔法は使わせないが、矢は飛んでくるからな」
「う〜ん、どうしよっか? 倒す?」
「私が消してきましょうか?」
「いや、いい。放置でいいだろう。......邪魔するけど」
皆大好き雷属性魔法で脅しをかけよう。
「『マグナ』『サンダー』」
ピカッ! ドバァァァァァァァァァン!!!!!!!!!!
「「「え?」」」
やっちまった。INTが倍になってるのを忘れて、普段の威力で使ってしまった。
いや、大丈夫のはずだ。誰も死んでない......よな? マグナで調整したから、当たってはないはず......
「「「うわぁぁ!!!」」」
「大丈夫そうだな。帰ろう」
尻もちを着いて悲鳴を上げてたし、大丈夫だろ。
「「可哀想に......」」
ビュン!!
「おや」
矢が飛んできた。戦闘する気なのかな。
ビュン! ビュン! ビュビュン!!!!
「めんどい。『アウラ』『サーキュレーション』『ウォーターウォール』『アクアスフィア』」
後ろに壁を作り、俺達は空気のあるアクアスフィアに包まれた。
「凄いね! 水で威力を減らして、さらに包み込んで、その上空気を用意する......よく頭が回るね!」
「ありがとう。でもこれだと敵が強ければ意味が無い。ほら――」
バシュン!!
「な? こうやって威力の高い矢は貫通する」
足元に矢が刺さった。怖い。
「『フォイアウォール』『アイスウォール』」
ウォーターウォールとアクアスフィアの間に氷の壁を出し、1番外側にファイアウォールで矢を燃やす。
バキン!
「これでもアカンか。しゃ〜ないなぁ。全解除」
「解除しちゃうの?」
「まぁ見てろ。俺の集中力の限界を試す」
俺、今からやる事にロマンを感じてるんだ。
「『イグニスアロー』『戦神』」
イグニスアローを70本出し、戦神でINTを上げる。
「......来た」
マルチショットによる何十、何百もの矢が飛んできた。
「燃やせ」
イグニスアローを飛ばし、矢と矢をぶつけた。
「『イグニスアロー』」
どんどんイグニスアローを生成し、飛ばし、矢を消し飛ばしていく。
「「すごい......」」
うぅ......サーチにある小さな反応を狙うの、超難しい。
でもこれ、魔法のAIM練習に最適だな。楽しい!!
「ははっ! 頑張れ俺!」
こうして1対30の遠距離戦を続けていく。
「変わり種も欲しいだろう?『アイスニードル』」
イグニスアローに紛れてアイスニードルも飛ばす。
パキン! バシュッ!!
「あっぶな。アイスニードルは弱いな」
普通に砕かれ、貫通した矢が飛んできた。
「『イグニスアロー』『不死鳥化』」
不死鳥化してイグニスアローの威力を上げよう。
そうして、大体30分ほど迎撃戦を繰り広げた。
「お、弾切れか。逃がすと思うなよ?『マグナ』『サンダー』」
バチバチッ! とうるさい雷の壁をアイツらの後ろに作った。
「ルナ君、今の何?」
「サンダーの壁。一瞬しか現れないけどな」
「へぇ〜」
単なる遊び心でやった事だ。実用性は求めてない。
「ま、アイツらの矢も完全に無くなった事だし、行くか」
「うん! そうしよう!」
「はい、行きましょう」
こうして俺達は手を繋いで草原を進んで行った。
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PK side
「クソッ! 何だよアイツ!」
「あれ、この前の大会の優勝者じゃないっすか?」
「知るか! おい、お前ら! 殺しに行くぞ!」
「「「おう!!」」」
そんな凶暴な大男に、1人の少年プレイヤーが言う。
「えぇ......やめとこうよ。ってかPKもやめない?」
「何言ってんだ? お前。殺してこそ、このゲームは楽しいんだろうが」
「確かに、戦うのは楽しいよ。でも、敵でもない人を不意打ちで殺すのは良くないよ?」
「い~や、違うな......ってか、何でお前みたいなガキがここにいるんだ?」
「え?......そりゃあ戦うのが楽しいからだよ?」
「あ? お前も殺したいからこそ、ここに居んだろ? なら何でそんな面倒な事言うんだ? あぁ?」
ガタイのいい大男に言われた少年は笑って言う。
「ははは! 僕ね......戦うのが大好きなのさ!」
「あ?」
「特に、君みたいな中途半端に頭が回る、カスみたいな人間と戦うのが大好きなのさっ!!」
「何言ってんだお前? バカか? 殺すぞ」
「いいよ。殺れるものなら殺ってみるといい。僕を殺せないようじゃ、あのプレイヤーは殺せないからね!」
「お前、本気で言ってんのか? 29人にボコられて、本気で勝てると思ってんのか?」
「もちろん! 僕は4対96に何度も勝ってるからね! 君達の様なおマヌケさんより、もっと賢く、強い人達と戦ってるんだよ? 負ける訳が無いね!」
「お前らぁ! このクソガキに教えてやれ! このゲームの楽しさをなぁ!?」
「「「おう!!!」」」
「はぁ......アル、ロールプレイも楽しいよ? ユアストは......」
そう言って少年は『鋼糸』に魔力を纏わせる。
「『魔糸術:糸雷』」
バチイ!!!!
「「「「ギャァァァ!!!」」」」
「よし、PK全員処理完了! これでCランクになれる!」
少年は一撃で29人を倒し、笑顔で鋼糸をインベントリに仕舞う。
「ピギーの配信を見る限り、アテナだけかな。まだなのは」
「さぁ、ロールプレイ中の翔タイムを、アル......いや、ルナは受け入れてくれるかな?」
久しぶり、翔タイム!これでユアストに出てきていないのはアテナだけですねぇ.....彼、どうなってるんでしょうか。
では次回!『脱・紙装甲』です!お楽しみに!