昇格と意思
珍しくストーリー
「はい! 依頼完了ですね! これでルナさんとソルさんはDランクです! おめでとうございます!」
「「ありがとうございます」」
今日はスライム20体討伐の依頼と、ボア10体の依頼を受け、無事にEランク冒険者からDランク冒険者となった。
「あ〜すみません。俺達でも受けられる、ドゥルム鉱山での依頼ってありますか?」
ちょっと鉱山に行きたい。フーの刀のために。
一応まだ玉鋼は残ってるんだが、万が一の事を考えて、予備の砂鉄を用意しておきたい。
それと、脇差が欲しいので、単にもう一本の刀が欲しいという感じだ。
「......Cランクの依頼ならありますが、受けますか?」
キタ、キタキタキター! そういうのを待ってた!
そういう、少し難しそうなやつを!!
「是非とも! 内容は?」
「こちらです」
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『クエスト:ロックゴーレム×5の討伐』
受注条件:C(D)ランク以上
人数制限:5人まで
場所:ドゥルム鉱山
報酬:5,000L
概要:ドゥルム鉱山に出現するロックゴーレムの討伐。物理、魔法共に強いため注意。
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「......なぁソル。これって......」
「うん。簡単だね。私達なら、発見した瞬間に倒せるね」
「だよな」
少し難しそうとか思った俺が馬鹿だった。
そうだ、まだDランクやCランクなんだ。
60レベのソルや、そろそろ80レベになる俺がまともに苦戦するとは思えない。
「受けます。この依頼のポイント増加量ってどれくらいですか?」
「20ポイントですね。ルナさんは昇格したばかりで0ポイントですので、これと同等の依頼を10回こなされますとCランクに昇格となります」
おぉ、何ポイントで昇格するのかを今から見ようと思ってたが、受付嬢さんが教えてくれた。
配慮、感謝します。
「ありがとうございます。ではすぐに行ってきます」
「はい、お気をつけて」
そうして俺達は、馬車で鉱山に来た。
「着いたぞ!」
「「「ありがとうございました〜」」」
「おう! 頑張れ!」
馬車のおっちゃん、優しいな。街の人から好かれてそうだ。
「じゃあ少し砂鉄を集めるわ」
「オッケー! なら私も準備運動とかしておこっかな」
「私も母様と〜」
「はいはい。気を付けてな」
「「うん! / はい!」」
よし、それでは砂鉄採取のお時間だ。ドキドキワクワクタイムだ!
「『マグナ』」
以前より格段に魔法の操作は上手くなっている。採取効率も爆上がりだろう。
そして数分、マグナで砂鉄を集め、容器にぶち込んでいたところ――
「お、おぉ? なんだこれ?」
何かがマグナに張り付いていた。
「なにこれ? 不思議なやつだな〜」
マグナに張り付いていた、黒い、プヨプヨしたものをそこら辺の木の枝でつついた。
「なんかあれだな。昔、見た事あるぞ。あれだ、磁石スライムだ」
磁石スライムとは、スライムを作る時に砂鉄を入れて、『磁石を近づけるとくっつく!』みたいなやつだ。
「マグナを調整してっ......と」
マグナの磁力を弱め、手に取ってみる。
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『鉱山の思念』を入手しました。
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「は?」
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『特殊クエスト:鉱山の意思』を開始します。
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「は?」
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『特殊クエスト:鉱山の意思』
特殊アイテム『鉱山の思念』を持って、『鉱山の意思』を入手しよう!
報酬:『斬鋼ノ御魂』Rare:――
成功条件:鉱山内のどこかにある『鉱山の意思』の入手
失敗条件:『鉱山の思念』の破棄
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「はぁぁぁぁ!?」
おいおいおいおい!『斬鋼ノ御魂』って、フーの元になったやつじゃねぇか!
「ど、どうしたのルナ君!」
「大丈夫ですか!?」
2人が駆け寄ってきた。
「大丈夫。俺には何ともない。いや、何ともあるけど問題は無い」
「ど、どうしたの?」
「なんか、偶然拾ったアイテムがとんでもねぇ特殊クエストのトリガーだった」
「え? どんなの?」
「これ」
2人にクエスト画面を見せた。
「報酬のこれ......なに?」
「布都御魂剣の材料、と言えば分かるか?」
「「えっ!?」」
「フ、フーちゃんの妹!?」
「妹ですか!? 弟ですか!?」
「お前ら想像力豊かだな〜」
確かに神器になるだろう。でも付喪神になるとは......限らないと思ったが、今の俺って4人分の付喪神のストックがあるんだった。
「もしかしたら有り得るな」
でも、まだ問題が残ってる。
「『鉱山の意思』って、なんぞや?」
「「さぁ?」」
そう、クエスト成功条件にある『鉱山の意思』これが何か、全く分からない。
「字面通りなら思念体、つまりはゴーストやピクシー的なやつなんだろうけど、このクエストトリガーが意味わかんねぇんだ。そう簡単にはいかないだろう」
「「うんうん」」
「何としてもフーちゃんの妹を作らないとね!」
「ですです!」
妹を作るって、言ってることやべ〜
「ま、とりあえず思念は捨てないから、ゆっくり探すか」
「「うん! / はい!」」
「よし、なら早速行こう。依頼もあるし、今日中に見つかればいいな」
「そうだね!」
「頑張って見つけましょう!」
こうしてゴーレム狩りと意思探しが始まった。
「よし、これで終わりっと」
「お疲れ様! 依頼分は終わったね!」
「後は意思ですね!」
「ですな」
ゴーレムってソルでも一撃、リルなら粉砕、俺なら魔法で一撃だから、5体なんてあっという間に終わってしまった。
「意思かぁ......呼びかけたら答えるか?」
「どうだろう? でも、意思だけじゃ喋れないよね?」
「それもそうだな」
思ってるだけじゃ伝わらない。声に出すか、何かに書いて伝えないと。
......ん?『声に出す』か『何かに書く』だと?
「頑張れば魔法で出来そう」
「どうしたの〜? 見つけた〜?」
「見つけた見つけた。ヒントのヒントのヒントっぽいやつ」
「ホントに!?」
ホントです。まぁ、合ってるかどうか知らんけども。
「『ボイス』こいつに似たような魔法を使えればいいわけだろ?『気持ちを声にする魔法』をさ。そうすれば場所も分かるし、すぐに終わるだろ」
「にゃるほど!」
とりあえず録音して、鉱山の奥の方に垂れ流すか。
「あーあー、マイクオッケー『鉱山の意思さ〜ん、聞こえますか〜?聞こえてたら返事をくださ〜い。
聞こえてなかったら『聞こえてないよ!』って返事してくださ〜い。
今から頑張って魔法を作るので、出来れば魔力反応を出していてくださいね〜! 迎えに行きま〜す!......あ、悪い人間じゃないので、安心してくださいね〜』」
「ふふふっ、『休んでいる人がいたら手を挙げてくあげてください』みたいな感じの理不尽な要望だね!」
「せやな。まぁ、意思にこちらの存在が伝わればいいからな。『サーチ』」
意思に聞こえていた時の為にサーチを使っておこう。それにちょっと、探索範囲を広げておこう......10倍くらいでいいかな?
「おぉ、毎秒30MP......重いぜ」
範囲を10倍にしても消費量は3倍なの、優しい。
ありがたいよサーチ君。これからも宜しく。
「ん?......ん〜? ん〜〜?? これ、意思じゃね?」
サーチ君の範囲ギリギリに小さな点があった。本当に小さな点だ。麻婆豆腐の中の鷹の爪くらい小さい。
「見つけたの?」
「分からん。けどとりあえず行こう。リル!」
「はい! 今行きます!」
「全力ダッシュで行くぞ。近づけばどんどんサーチを小さくしていくから、なんとか間に合わせてくれ」
「「はい!」」
それから鉱山内を全力で走り、点のあったポイントまで来た。
「ははっ......嘘だろ?」
「ははははは! な〜にこれ〜!」
「神獣よりは弱そうですが、明らかに通常のモンスターとは桁違いの強さだと思います」
「「見ればわかる」」
点のあったポイントには、ジュエルゴーレムを真っ黒にしたような、そんなゴーレムがいた。
『イシ......シネン......ハカイ......』
「喋ったぁぁぁぁ!!!!」
やべぇ、ついあの伝説のCMを再現してしまった。
『オマエ......シネン......モッテル......コワス......』
ゴーレムはそう言うと、俺がギリギリ認識出来るスピードで突っ込んで来た。
バガァァン!!
「あぶなっ!」
『シネン......ハカイ......』
「ちょ、ちょ待てよ。お前、これが欲しいんだろ?」
そう言って俺は『鉱山の思念』を見せる。
『シネン......!!』
「これ、君が何故破壊するのかを教えてくれたら、あげてもいいぞ?」
『ハカイ.......キケン』
お? 意外にも話せるタイプか?
「どう危険なんだ? 言ってみろ。口に出して伝えろ」
『シネン......モンスター......アツメル......ドラゴン......クル』
「それはワイバーンではなく、『ドラゴン』なんだな?」
『ドラゴン......』
「じゃあなんで思念はモンスター、それもドラゴンを集めるんだ? それを知っているから、お前はこの思念を破壊したいんだろ?」
『シネン......カミニ......キラワレテイル......ハライセ......モンスター......ヨブ』
「その腹いせは、何か意味があるのか?」
『ドラゴン......マリョク......アツマル......ツヨイ......ダンジョン......ツクル......ヒト......ヘル』
あ〜これ、良くある『魔力が集まってダンジョンが作られる』ってやつか。
そしてドラゴンは魔力が多く、より強いダンジョンを作り、そこに挑む人間を殺そうと言うわけだな。......腹いせで。
でもな、情報源が1つってのは信用しにくいぞ〜?
「なるほど。お前の言い分は分かった。でもこの思念はどうなんだ? この思念は、本当に腹いせで、自分の意思でモンスターを集めているのか?」
『フメイ』
「じゃあ、聞いてみよう。思念、喋れるか?」
左手に出している『鉱山の思念』に聞いてみた。
『......神は私を嫌っている』
「喋ったぁぁぁぁ!!!!」
『......貴方が聞いた』
「せやな」
この特殊クエスト、めんどくせぇ〜
「それで? 君はなんでドラゴンとか集めるんだ?」
『......私が集めてるんじゃない』
「じゃあどうしてあのゴーレムは、君がドラゴンを集めたと言っているんだ?」
『......私の存在が、魔力が強すぎるから......だからドラゴンが私を食べに来るの』
お前が原因じゃねぇか
「はぁ......で? 思念ちゃんはどうしたいんでちゅか?」
『......生きたい』
「今生きとるやん。ってかそれな鉱山の外に出るなよ。たまたま俺が引っ張り出したけど、あのまんまじゃ食われてるぞ?」
『......貴方の魔法、逃げれない』
「んな訳あるか。で、具体的にどうやって生き残りたいんだ?」
『......普通に、鉱山として生きたい』
鉱山として生きたいって、言葉の意味が分からねぇ。
「何か方法はあるのか?」
『......神獣』
「ん? 神獣がどうした?」
『......神獣の素材があれば、魔力を分散できる』
うっわぁぁぁ!! クッソめんどくさいクエストじゃんこれ!!
普通のプレイヤーだったら99パークリア出来ねぇじゃん!!
「リル、牙渡してもいいか?」
「はい。もちろんです」
一応許可取らないとね。リルから貰った物だし。
「ほら思念ちゃん。『幻獣狼の牙』でちゅよ〜」
『......いいの?』
「いいぞ。だから早く魔力抑えとけ。生きたいんだろ?」
『......ありがとう』
そう言って『鉱山の思念』というなの磁石スライムは、俺が出した『幻獣狼の牙』を飲み込んでいった。
よく伸びるなぁ〜このスライム。
『シネン......ハカイ......オワリ......』
「あぁ。これでドラゴンも来ないんだろうし、君が思念を破壊する理由が無くなったな」
『オマエ......カンシャ......コレ......オレイ......』
そう言ってゴーレム君が俺に近づき、石ころを渡してきた。
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『鉱山の意思』を入手しました。
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「......はぁ」
嘘やろ? こんなしょうもないことある?
「鉱山の『意思』って......鉱山の『石』かよ......」
俺達、石ころの為にこんな怖い思いをしたのか?
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『特殊クエスト:鉱山の思念』を達成しました。
成功報酬:『斬鋼ノ御魂』を入手しました。
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『......ありがとう。君のお陰で鉱山が元通りになるよ』
「元通り? 今までは違うのか?」
急にフラグ建てないでくれる?
『......うん。本当はもっと大きな鉱山だったんだ。でも、私が狙われ続けるせいで、鉱山の維持が中途半端だったの』
あ、これ『裏ダンジョン』的なやつか?
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
『......うん。これで大丈夫。元の鉱山に戻った......』
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プレイヤー『ルナ』が『ドゥルム鉱山』を解放しました。
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あ〜あ。
『......じゃあね、お兄さん。助けてくれてありがとう』
『オマエニ......サチアレ......』
そういって『鉱山の思念』とゴーレム君がポリゴンとなって散った。
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称号『鉱山の解放者』を獲得しました。
称号『守護者の加護』を獲得しました。
称号『認められし者』を獲得しました。
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「うわぁ......」
そういうの、良くないよ。俺、そういうのはダメだと思うんだ。
これさ......オンリーワンの称号だよな? いいの? そんな事してさ。不公平では?
「まぁ......貰っておこう。特別にはなりたいし」
「ルナ君、何貰ったの?」
「称号を3つ。それも固有っぽいやつ」
「おぉ〜、どんどん強くなれるね!」
「だな......あっ」
閃いた。
「どうしたの?」
「いやな、他の誰かでもこの称号を取れると思ってな。これなら公平に楽しめるからさ」
「あ〜そういう事ね。でも、アレをまた見つけるの、無理じゃない?」
「せやなぁ。俺も偶然見つけたやつだし」
「父様父様、フーさんの妹さんは見つかりましたか?」
「まだ兄弟か分からんが、素材は貰ったよ」
「じゃあ、帰って作りますか?」
「あぁ。それにもうお昼だし、帰ってご飯食べよう」
「わかりました!」
「ごっはん〜!」
こうして俺達は、王都まで帰る事にした。
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○○side
「あらあの子。認められちゃったわね」
「え? ホント?......うわホントじゃん。こっち来るのかな?」
「さぁ? 来ないと思うわよ? だってほら、あの狐ちゃんにゾッコンじゃない」
「確かに。いや〜あんな両思いの人間、中々いないよね〜」
「そうね。でもいいじゃない、稲荷ちゃんが喜ぶわよ?」
「そうだね! じゃあ私、あの子の所に行ってくるよ」
「いいな〜私も行きた〜い!」
「ダメだよ。いくらあの2人がお気に入りでも、仕事放棄はダメ。私は仕事を終わらせたし、後継者もいるから行くんだもん」
「はぁ......しょうがないわね。もう少し我慢するわ」
「うん。それじゃあ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「ふふふ、お仕事頑張ろうっと。トトなら休憩時間に遊んでくれるかしら」
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最後の、一体誰なんだぁぁぁ!?
とまぁ、分っかりやすい人物が出てきちゃいましたね。
お姉さん口調の声と、元気な子の声。一体誰なんでしょうか。楽しみですね〜
ではでは次回、『神器の神器』リベンジです!お楽しみに!