アンチとご対面
今回は、人によっては胸糞悪いお話になるかもしれません。
ですが、ルナ君の心の在り方を、少し見てあげてください。
どうか、お願いします。
2021 05 26 一部表現を修正しました。(内容は変わっておりません)
「おはよう世界」
グッモーニンワールド。今日もよろしく。
「おはようございます、父様」
「おはようリル......ここどこ?」
知らない天井だ。
「お家ですよ」
「あぁ......そういえば家貰ったんだった」
家と言うより、城だけど。
「ソルは起きてるかな?」
「起きてますよ。朝ごはんを作ってますね」
「おっと、それは手伝いに行かねば。リルも行こう」
「はい!」
そして寝室から出て、リビングへ行く。
この廊下、凄く綺麗だ。床は大理石っぽい石で出来ていて、壁は真っ白な建材だ。真っ白故に、コーヒーとか零したらすぐに分かる。
「あ、おはようルナ君!」
「おはようソル。手伝いに来た」
「おはようございます、母様」
「おはよ、リルちゃん。お手伝いありがとね。でも、もうできるから、座って待っててね」
「了解。ありがとな」
間に合わなかったでござる。
もう少し早く起きれば良かったな。ソルと一緒にキッチンに立ちたかった。
「は〜い、出来たよ〜!」
「「おぉ〜」」
ソルがピザトーストを4人分持ってきた。
「あれ? フーは?」
「フーちゃんは庭の掃除に行ってるよ。『朝ごはん出来たら呼んでください!』って言ってたよ」
「了解だ。フー、顕現」
そういう事ならお安い御用。一緒に朝ごはんを食べようではないか。
「おはようございます。ルナさん、リルさん。『アクアボール』『ファイアハンド』『ドライ』」
「おはよ〜さん。いきなり魔法を使ったな」
「おはようございます」
なんかフーが、3つの魔法を使って手を洗っている。
「これ、手を洗うのに便利な魔法なんですよ。ルナさんでも簡単に出来ますよ?」
「そうか。今度試してみよう」
「じゃ、挨拶も済んだ事だし、食べよっか!」
そうだ。朝ごはんだ。ソルの作ったピザトーストを食べるんだ。
「「「「いただきます」」」」
「美味しいな」
「美味しいですね。これ、ベーコンはオークですか?」
「そうだよ〜」
「おぉ、久しぶりに物を食べます......美味しい!」
確かに......フーって何にも食べてないイメージがある。
「あ、そうだ。今日は依頼を受ける予定だ」
「依頼? 何を受けるの?」
「ランクの上がるヤツを片っ端から」
「おぉ〜、意外に大変そうだね」
「う〜ん、そうでもないと思うぞ? 俺達は前に、オークの依頼を受けたから、結構すぐにDランクになるはずだ」
前にオークの依頼を受けた時、アイスワイバーンの依頼も見せられたよな......いつか、倒してみたいものだ。
「まぁ、そんな訳で。今日の目標はDランク冒険者になる事だな」
「分かった! 2人でDランクになろう!」
「私も頑張ります!」
「私は......どうしましょう?お掃除ですかね?」
「フーは好きにしていいぞ? 今回は多分、ステラとアルテで武器は足りるから、そんなに出番は無いだろうし」
「ではお留守番しておきます。怪しい人が入ってきたら、速攻で魔法をぶち込みますね!」
「あぁ、頼むよ。何かあったらすぐに逃げてくれ」
「分かりました」
俺の方からフーを呼ぶ事は出来ても、フーの方から俺を呼ぶことが出来ない。
それに今のフーは、魔法以外に武器が無いからな。超危険だ。
だからせめて、護身用の武器を持たしておきたい。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
「ありがとうソル。美味しかったよ」
「うん!また作るね!」
「美味しかったです」
「元気の源ですね!」
「ありがとう!」
うんうん。平和だ。環境はガラリと変わったが、平和なのは変わらない。
そして皆で城の玄関まで来た。
「フー、ちょっとおいで」
「はい? なんですか?」
「はいこれ。俺の作った試作品『魔剣:ヨクツケール』だ。レイピアのように、刺突に特化した剣だ」
「おぉ......絶妙に弱い」
「それと、名前のせいで耐久値が貧弱だから、数回突いたら壊れる」
「おぉ......弱い」
「これを護身用として、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。まぁ......持っておきます」
「あぁ。使うことが無いのが1番だ。明日は鍛冶場に行く予定だから、フーの武器も作るよ」
「おぉ! それは楽しみにしてます。出来れば刀でお願いします」
「任せろ。ソルやリルの刀と同等の刀を作り上げよう」
ソルに渡した『陽刀:アマテラス』や、リルに渡した『月狼刀:ツクヨミ』と同じくらいの性能がいいな。
「じゃ、行くか。ソル、リル、いいか?」
「うん! バッチリ!」
「大丈夫です」
「オッケー。じゃあフー、行ってくる」
「「行ってきます!」」
「行ってらっしゃい!気をつけて!」
こうして俺達3人は城を出た......のは良いものの......
「門の前に、めっちゃ人がいねぇか?」
「いるね。20人くらい?煩わしいね」
「どうします? 消します?」
「「消さなくていい!」」
血気盛んだな、リルは。もう少し穏便に済ませようぜ?
「しゃ〜ない、行くしかない」
そして門の近くまで行き――
「皆、邪魔だぞ〜、人の家の前を塞ぐな〜」
『ふざけんな! このチーター野郎!』
『お前のせいで一瞬で負けたんだぞ!』
『運営に訴えたからな! 垢BANされろ!』
「おうまいがー、まさかのアンチだった」
「なんなのコイツら。殺していい?」
「ですね。このゴミが何言ってるのかは知りませんが、父様を侮辱しているのは分かります」
「まぁまぁ、2人とも落ち着きなさいな」
アイツらの気持ちも考えてみよう。
過去に公式生放送に出た経験があり、ワールドアナウンスは何回も出し、武術大会では全戦全勝。
チート疑う気持ちも分かる。
いや、分からんわ。俺ならただ、自分の弱さを再確認して、もっと強くなれるようにモンスター狩りに行くわ。
「はぁ。見聞きしていて凄く不快」
「ソル......」
ソルの綺麗な顔が、嫌悪感に塗れていた。俺、これ以上ソルにこんな表情をさせたくない。ソルには笑顔でいてほしい。
ならせめて、自分を盾として使おうか。
「大丈夫だよ。こういうのは慣れている」
「......慣れているって、どういうこと?......他にも、いじめられてるの?」
ここは敢えて、大きな声で言う。
「違う。別のゲームで、過去に公式大会で優勝した事があるんだ。『ファイアーシュート』という、通称『FS』ってゲームでな」
FSを知っているプレイヤーがここにいるなら、耳の穴をかっぽじってよ〜く聞け。
「俺は前に、『ニヒル』と言うチームで戦っていたんだ。世界ランキング6位の、『アルテミス』としてな......そこで今回みたいに、やれ『チーター』だの、やれ『クソ野郎』だの、自分で努力もしないでただ上に立つ人間を貶す、クソみたいな人間に多数出会ったんだよ」
あぁ、思い出したら腹が立ってきた。
頭も使わず、経験も積まず、練習もしないで上にいるやつを『チーター』だの『ゴミ』だの何だのと言うプレイヤーが大嫌いだ。
1つのチームを、1人のプレイヤーの努力を蔑ろにする発言、本当に酷い。
「いいかソル。こういう人間には2つの手が取れる。
1つはこのまま口論や戦闘に持っていく事だ。俺たちなら100パーセント勝てるゴミ共だからな。
もう1つは簡単だ。『運営に報告』というものだ」
「......でも、ここの運営はそこまで動かないと思うよ?」
「そうだな。でも大切なのは、『色んな人に知られる』事だ。俺達でも出来ること、あるだろ?」
これはあんまり取りたくない手段だ。俺が最も敬遠している存在。
「......掲示板?」
「そう。プレイヤー同士での高範囲コミュニティ。そこにコイツらの情報を流せば、俺をチーターではないと知ってるプレイヤーが、どう動くかな?」
「......特定?」
「それは前提だな......確か今回のアップデートで、プレイヤーが店を出せるようになっただろう? ならこいつらは、そこで何も買えなくなるとか、そういうもんだろ」
「......痛そうだね」
「だろうな......で? お前ら、まだここに居座るつもりか? 別に俺としては、武力行使でも全く問題ないぞ?」
『......クソっ!』
『死んどけゴミが!』
「お〜お〜、小学生みたいな事を言うじゃないか」
門の前にいたプレイヤーは、み〜んな帰って行った。
「ほら、もう大丈夫だから」
そう言ってソルを抱きしめる。
「泣いてくれてありがとうな? これからは、あぁいうのは気にしない方がいい」
「......無理だよ。ルナ君が傷付けられるのを見るのは、耐えられない......」
困ったな。あぁいう輩って、気にしないのが1番だからな。
「う〜ん......はぁ......思いつかん」
こういう時、何を言えばいいんだろう。
「リルは大丈夫か?」
「......」
「リルも......か」
リルは無言で泣いていた。見てるこっちがつらいよ。
「ほら、おいで」
「......はい」
左手にリルを抱っこし、右手でソルを抱きとめる。
「いいか、あれは言わば人間の闇だ。嫉妬心とでも言えばいいのか......そういう気持ちの塊だ」
「俺達は今後、嫉妬の目や疑いの目を向けられまくる。だがな、決して折れてはいけないぞ」
「『自分達は大丈夫』『自分は強い』『これくらいじゃへこたれない』......なんて思ってても、心の奥底では、どこか感じているんだ」
「だから言う。経験者として言う。
『あぁ、あいつらはなんて可哀想なんだ。自分で努力もせず、他人を見てばかりの寂しい人』と思え、と」
「2人は知っているはずだ。努力は誰にも見えない。誰にも感じない......だけど、必ず自分の後ろに付いてきている事を。だから、他人の言葉なんかより、自分の後ろを見てみよう」
「そこには今までに経験した、全てのことが付いて来ている。『自分で考えたこと』『自分で何か行動したこと』『自分によって変わったこと』......そういう、全ての『経験』が『努力』として付いている」
「だからもし、様々な人間にあらぬ言葉をかけられ、自分の心が折れそうな時、そういう時に後ろを見てみろ。それはきっと、2人を支えてくれるはずだ」
「だから、『折れるな』」
折れるな。
例え逃げても、例え負けても、それでも自分の心を、考えを折ってはいけない。
それは自分という、1人の人間を殺すという事だからな。
「ほら、そろそろ泣き止んだか? そろそろ冒険に行こう」
「嫌......今日はこのままがいい」
「えぇ? 抱きついたまんま?」
「うん......」
「リ、リルは?」
「......私もです」
「これは冒険には」
「「行かない......」」
う〜ん......想像以上にダメージを受けてるっぽいな。
「しょうがない。今日はもう休もう。皆でのんびりしよう」
「「うん......」」
結局この日は冒険に出ず、リビングでゴロゴロする事になった。
「掲示板は......今はいっか。それより2人のメンタルケアだ」
朝から強烈な経験をしてしまったな。2人には申し訳ない。
もっとも、大会で俺がまともに戦っていれば良かったものを......本当に申し訳ない。
これは過去に2度、私が世界ランキングに載った時に経験した事でもあります。
私の場合は特に、海外の方からの言われようが酷かったです。『チーター』ぐらいならまだいいんです。褒め言葉として受け取れますから。
でも、『クソ野郎』だとか、『死ね』とかを気軽に言う人がいました。他にももっとエグいのもありました.....
その時に1度、私の心はポッキリ逝きました。
そのゲーム、ランキングに載って2日でアンインストールしました。それほどに傷ついちゃいました。
あれだけ楽しんでいたのに、あれだけモチベーションがあったのに、『他人』に何か言われることで、結構簡単に折れちゃいました。
ですのでこれを読んだ方で、もし、ランキングやプレイヤーの名前が出るゲームをしている方に言いたいです。
『プレイヤーは尊重するもの』と。
『上にいる者を貶す』ことは絶対にやってはいけません、と。
特に前者を意識することで、自分も相手も、気持ちよくプレイできる環境が生まれるのです。
では、今回はこの辺で。次回は冒険です。よろしくお願いします。
あ、今ではそのゲーム、復帰してますよ〜(ランキングには載ってませんが)