魔法戦とは、駆け引きの連続である
初手独り言ですわよ。
独り言
意識してみて
やめてみる
3秒後には
独りごちてる
ゆじゅあみぇ
本戦前、控え室にて――
「う〜ん、無」
無である。
「正味、魔法に関しては作戦がないに等しい」
だって、行動詠唱から繰り出される魔法とか、動作後の一瞬現れる魔法陣でしか察知できないし、そもそも魔法陣を見たところでなんの魔法か分からない。
故に、その時その時のアドリブで行くのも手だと思っている。
「でもなぁ。流れは決めておきたいよなぁ」
試合の流れを決める。例えば、魔法の第1予選のように『注目を集めてから、雷で一網打尽』のよに、ある程度の流れは決めておきたい。
「流れ......流れ、ねぇ?」
『ルーレットの結果、本戦1戦目は『ルナ』さんと『イリス』さん。2戦目が『ルヴィ』さんと『阿吽のコキュートス』さんで戦うことになりました!!』
「1戦目か。それもイリスさんねぇ。どんな魔法を使うのか、全く知らねぇな」
とりあえず『サーチ』は全開で行くから、魔法を検知できない事はないだろう。
「......はぁ。何かをこの部門でやろうとしてたけど忘れちゃったなぁ」
早く総合部門に出て、家を勝ち取りたい。暖かいお家が欲しい。
とりあえず、考えよ。
「拘束......2重でしかけてショックボルトで感電させて、それからイグニスアローでトドメにするか」
イリスさんはこれで倒せるはずだ。だがルヴィさんはそう簡単には行かないだろうな。きっと、自前のスキルか魔法で避けるだろうな。
「とりあえず、イリスさんに勝とう。決勝で遊ぶのはそれからだ」
多分、というか確実にコキュートス君は負けるだろうな。
だって彼、そういう運命を背負ってそうだもん。
本戦1回戦目、及び3位決定戦で負ける運命を。
コンコン!
「は〜い」
「よ、ルナ氏。今回はすぐに出番だ。行ってくれ」
「はい」
カズキさんが来たと思ったら、もう出番らしい。
俺は控え室を出て、通路を歩いていく。
「なんでこんなにも虚無感を感じるんだろう」
思考も感情も、何かすっぽ抜けた感覚がある。
なんでだろう。いつ、こんな事になったんだろう。予選の1戦目までは、確かに俺はしっかりしていた。
でも今はどうだ?
どこか浮ついた様な考えで、どこかしっかりしない意識で、こんなんで楽しめるのか?
「......無、か。これが原因だな?」
虚無感のさらに奥、完全な無の感情。これがどこかおかしい自分を作っているのだろう。
「よし、行こう」
気持ちの整理は、控え室でやろう。
『そして入場するのは、圧倒的な強さを誇り、既に2部門の優勝を勝ち取っている『ルナ』さんです!』
『わぁぁぁぁ!!!!!』
歓声の種類が違う気がする。なんでやろ?
「イリスさん、よろしくお願いします」
「はい、お願いします!」
イリスさんに挨拶をする。......が、少し気になった事がある。
「イリスさん、その杖はなんですか?」
「はい? これは武器ですよ?」
「武器? 鈍器ですか?」
「えぇ!? 違います! 魔法の杖ですよ! 杖を持って魔法を使うと、威力が上がるんです!」
「へぇ、そんなのがあるんですね」
アルカナさんとかも使って無かったし、そういうのは必要ないもんだと思ってた。
まぁ、使わないけど。邪魔だし。
『それでは、魔法部門、本戦1回戦目を始めます!両者、構え!』
構えもクソもないけどな。けどイリスさんは何か構えている。
『始め!』
「『サーチ』」
「『ウィンドボム』!」
ほう、不可視の爆弾ね。でもサーチで見えるぞ。
「『アウラ』」
アウラでウィンドボムを飲み込み、バレないように上空で循環させる。
さぁ、作戦通りにいくかな?
俺は腕を振り下ろしながら唱える。
「『蔦よ』!」
そうすると蔦が地面の上から伸び、イリスさんに『真っ直ぐ』向かっていく。
「『ファイアウォール』!」
イリスさんはファイアウォールを出したが、それではダメだ。ファイアウォールは完全な1枚の壁だ。
つまり、『下は対処出来ない』
「きゃっ! なんで!?」
俺の行動詠唱に設定した『茨』ちゃんがイリスさんを拘束する。
「『ショックボルト』」
そう唱えると目の前には、小さく稲妻の走る魔法陣が現れ、イリスさんに向かって弱い雷が走っていく。
「くぅぅ!」
ショックボルトを受けた時点で、この試合の駆け引きは俺の勝ちだ。
「『イグニスアロー』最大出力」
俺はイグニスアローに1800程MPを込め、上空に待機させているアウラを経由させてイリスさんに落とす。
イグニスアローは赤からオレンジ、白と色を変え、イリスに向かい――
『試合終了!! 魔法部門、決勝進出したのは『ルナ』さんです!!! 一体どれ程強いんだぁぁ!』
「よし、OK」
これで次の試合、存分に遊べるぞ!
そして控え室に帰ってきた。
「あ、やっぱりいるんですね。カズキさん」
「お〜う。見てたぜ。決勝進出おめでとう」
「ありがとうございます」
俺は一旦控え室の椅子に座る。少し雑談といこう。
「カズキさん。カズキさんって魔法は使いますか?」
「使うぞ。特に火を使ってる」
「そうなんですね。では、火属性と他の属性を合わせて使ったりしますか?」
「いや? 俺は火単体だな。っていうか、他の属性と使うなんて事は俺の頭じゃ無理だ。同じ属性ならまだしも、他の属性は無理だな」
「そうですか。......魔法って、面白いですよね」
「ん? どうしたんだ? 急に」
「いえ、新しい魔法でも作ってみようかなって思いまして」
「ここでか?」
「ここでです」
「はっはっは! それはいいな! 決勝前に、新しい手札を用意するってか? それがルナ氏の強さの1つか?」
「何言ってんですか。1対1の試合なんて、強さが同格なら後は頭の問題ですよ。俺は人より、対人戦の経験があるだけです」
その密度は尋常じゃないだろうがな。
「まぁ、ステータスだとダントツで弱いもんな」
「はい」
強さとしては、俺は格下だ。だけど経験とアイテムでそれをカバーしている。
それに、一撃でもモロに喰らえば俺は一瞬でお陀仏だ。だから、戦闘における必要な技術が多すぎる。
「よし.........じゃあ、こんな魔法なんてどうでしょう。魔法作成!」
今回作るのは、『氷の魔法』だ。正確に言えば、『熱を奪う』魔法。
出てきた魔法陣の円は25個。上手くいくかな?
イメージを固める。その魔法は『熱を奪う』魔法。どうやって熱を奪うか、それは『魔力の振動を抑える』事で奪う。
そしてその魔法は、『炎も凍らす』魔法だ。
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
何か、今までとは圧倒的に違う音を立てて円が嵌る。
次に発動スピード。これは最速であり、最遅でもある。『魔力の停止』だ。
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
次は、最大MPか。このままでいい。ブリーシンガメン、頼むぞ〜
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
完璧だ。よくやった。次は、スキルレベル。これは『氷属性魔法』と『火属性魔法』、それに『自然魔法』のスキルレベルを参照しているはずだ。
どれも100だぞ?
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
さぁ、最後だ。名前だな。名前は――
「『クロノスクラビス』」
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
『ガン!』
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『自然○○魔法:クロノスクラビス』を完璧に作成しました。習得しますか?
『はい』『いいえ』
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なんで『○○』が付いてんだ? まぁ、いいけどさ。
俺は『はい』を押した。
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『自然○○魔法:クロノスクラビス(消費MP:30)』を習得しました。
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「完成しました」
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プレイヤー『ルナ』が魔法を完璧に作成しました。
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「負けました」
はい、しゅ〜りょ〜! もう終わりです! 決勝前に何やってたか垂れ流しです!
「や、やべぇなルナ氏。今の、大会の動画に使っていい?」
「えぇ?」
このタイミングでそれ言う? しかも、今の魔法作成を?
「何故です? 別に今のじゃなくていいでしょう?」
「い、いやな。こんな完璧に魔法を作ってるの、キアラくらいしかいねぇもんだからさ。『プレイヤーでも出来るんだぞ〜!』って証明に?」
「そ、そうなんですか?......まぁ、どうぞ。使ってください」
「ありがとう! ありがとうルナ氏!!」
「はい。とりあえず俺は魔法の練習してるんで、出番になったら言ってください」
「おう! 気をつけてな!」
映像くらいならいいだろう。そんなことより『クロノスクラビス』の練習だ。
控え室、結構広いから練習もできるんだよな。
「『ファイアボール』」
まず、ファイアボールを出し、そのまま待機させる。
「『クロノスクラビス』」
新魔法は『完全に目に見えない』魔法だった。
そしてファイアボールにクロノスクラビスが命中すると――
パキッ! パリン!!
「っし! 完璧!」
炎が凍り、床に落ちて砕け散る。
「次!『ウォーターボール』『クロノスクラビス』」
ウォーターボールでも実験してみる。予想通りなら、完全に凍り、床に落ちるはずだ。
パキッ! パリン!!
「ナイス! 最後だ、『イグニスアロー』『クロノスクラビス』」
さぁ、これでイグニスアロー君も凍ったら、クロノスクラビス君は現状最強の防御魔法だ。
そして結果は――
パキッ! パァン!!!
「あ、あっぶな!」
イグニスアローは一瞬で凍りつき、そのまま爆発した。
「これは......後でフーに見てもらうか。よし」
感情が大分戻ってきた。
おかえり感情。ただいま感情。
「では! このまま観戦して待ってますね! カズキさん!」
「お、おう」
テンションが上がってきた! ルヴィさんの魔法、しかと目に焼き付けるぞ!
時々、感情とか思考とか、全てが無に感じることありませんか?私はあります。
私はその状態のことを『虚無虚無プリン』と呼んでいるのですが、この状態、非常に鬱に近いんですよね。
まぁ、だから?って話なんですが。(オチなし)
次回、『魔法とは、ゴリ押しである』お楽しみに!