ルール内だよ、この戦い
あと少しで軽トラに撥ねられ、異世界に行きそうでしたが事故を回避して生きて帰ってきました。
本当に危なかったぜ.....!!
『3位が決定しました!! 剣術部門、3位入賞者は、『マサキ』さんです!!!』
マサキはガーディ君と戦い、無事に勝利した。
これで、俺と戦う前に言ってた『報酬の問題』はクリアされたな。
やったな、マサキ。
「う〜ん、ど〜しよっかな〜」
現在、剣術の決勝戦が始まるまで、黒の巣君との戦闘に使える作戦会議をしている最中だ。......1人で。
「う〜ん」
黒の巣君の対人戦における知識量が全く分からない。
これがマサキやガーディ君なら、一緒にパーティを組んで戦ったことがあるからある程度の動きは分かる。
そして、今日犬子君だってプロとして活動しているのだから、どの程度の技量を持っているのか、大体分かる。
でも、黒の巣君は分からない。
俺が右から斬れば、黒の巣君は左に避けるのか。はたまた、剣で防御するのか。
俺が左に動けば、黒の巣君は右に動くのか。それとも、同じ方向に動いて攻撃をするのか。
「お〜い、ルナく〜ん?」
1つ目の考えではリスク管理能力が分かる。
俺の攻撃に対し、自分の捧げる代償が何かで、その後の結果が変わってくる。
避ける選択を取れば、自分の体力を代償に俺との距離を取れ、思考する時間が取れる。
反対に、防御をする選択を取れば、剣の耐久値を代償に俺に攻撃するチャンスが増えたり、とな。
「ルナさん! ルナさ〜ん!」
これにより、未然に黒の巣君自身のHPが減る機会を減らせるのだ。
ちなみに、俺なら回避を取る。考える時間が増えるのは大きいからな。
だが、俺は剣を2本使えるので、そもそもの手札の数が違う。故に、一概に『コレだけを取る』ということは出来ないな。
果たして黒の巣君はどういう風に動くのか、本当に気を付けないといけない。
「いやん、ご主人「やめろぉ!」......気付きましたか」
考えが纏まったところで、とんでもない声が聞こえてきた。
なんでアイドル衣装の奴がご主人様と言うんだよ、危ないだろ?
「どうしたんだ? フー」
「いえ、キアラさんがお呼びですよ?」
「ん?」
ん?
んんん??? それってもしかして......
「ルナくん、出番だよ?」
やばいやばいやばいやばい!! 決勝戦に遅れるのはやばい!
「行ってきます。超ダッシュで」
「頑張ってね〜!」
「フー!」
『はいはい、忙しいですねぇ?』
急いでフーを刀に戻し、インベントリに送る。
「はぁしぃれぇ!! 全力ぅぅ!!」
通路を全力でダッシュする。もう、これ以上ないスピードでダッシュする。
『そして......あれ?......あ、来ました! 対するは、白い剣とアイアンソードで戦い、2部門続けて無敗のプレイヤー、『ルナ』さんです!!』
『おぉぉぉ!!!!』
「はぁ、はぁ......ま、間に合った」
ギリギリだ。本当にギリギリで間に合った。
「だ、大丈夫ですか? ルナさん」
「お、おう。ちょっと、全力で、走ってきた、だけ」
息を整えないと。やばいね!
「すぅ......はぁ......」
最初は浅く、段々深く息をする。それですぐに息は整う......はずだ。
「よし」
「あ、あの! 本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。別に舐めプをする訳でもないし、そんなに気にする必要はないぞ?」
ちゃ〜んと、正々堂々戦うさ......脳内シミュレーションでは。
『では。これより! 剣術部門本戦、決勝戦を始めます!』
『両者、構え!』
さぁ、黒の巣君。今回はスピード勝負だ。
『始め!!』
「っそい!」
まずステラを投擲する。......俺自身は黒の巣君に向かって走りながら。
「来た!」
だよな。投擲は対処できるよな? 大丈夫、ちゃんと迎撃することも読んでる。
だから、ステラが黒の巣君に当たる『直前に』顕現させ、手元に戻す。
「嘘っ!」
ステラを迎撃する気満々だった黒の巣君は、思いっきり剣を空振りしてしまう。
これ以上ないチャンスだ。
「......っ」
ザンッ! ズバッ!
思いっきり黒の巣君の右腕を切る。
「くぅ!!」
残念ながら切断することは出来なかった。
もし、ここで切断出来ていたら、俺の勝利は99パーセントにまで上がっていただろうな。
「ふんっ!」
怯んだくらいで攻撃は止めない。まだもう1回攻撃するぞ?
ギン!
「あ、あっぶね!」
防がれたか。でもね、黒の巣君。これは剣術の勝負だ。でも、『足技を使ってはいけない』訳では無いんだ。
俺は黒の巣君の足を引っ掛ける。
すると見事に黒の巣君は後ろに倒れた。
「んなぁぁっ!!」
「ステラ!」
剣で押しあっていた状態から黒の巣君を転ばしたので、右手が不安定だ。
だから左手にステラを顕現させ、斬撃を放つ。
「せいっ!」
ズバッ!
利き手じゃないので威力は落ちるが、それでもダメージは稼げた。
「ぐはぁっ! それ、ルール違反じゃ「ないぞ? 別にこれ、『闘術』を使っている訳じゃないからな!」
ステラを右手に顕現させ、また斬る。
「ぐばぁ!」
今のところ、闘術って基本的にパンチかキックにしか乗らないんだよな。
多分、これから修正されるだろうが、今は大丈夫だと思うので気にしない方向でいこう。
......大丈夫だよね?
「お、らぁ!」
ドスッ!!
転んだ状態から起き上がろうとしている黒の巣君に剣を刺した。
すると黒の巣君はポリゴンとなって散った。
『しょ、勝者『ルナ』!!! まさかの2連続優勝です!!!』
『おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!』
「......ふぅ。レイジさんがあぁ言うってことは、大丈夫そうだな」
今回の勝因であり、黒の巣君の敗因は簡単だ。
『避けなかった事』だ。
まず、最初のステラを避ければ良かった。
次に、剣での押し合いを避ければ良かった。
最後に、動きを止める事を避ければ良かった。
この3つが出来ていれば、俺は負けていたかもしれない。
だって、単純な防具の強さとHPの量の差が酷いもん。
黒の巣君が俺の攻撃を10回耐えても、俺は黒の巣君の攻撃を10回耐えることは出来ない。
むしろ、3回もしないで死ぬんじゃないか?
いくらブリーシンガメンでVITが2倍になってようと、流石にトッププレイヤーの攻撃はそう耐えられない。
『では! ルナさんにインタビューをします!』
そういえばそうだった。忘れてた。
「ルナさん! 刀術と剣術、両方の優勝、おめでとうございます!!」
「あ、ありがとうございます」
やべぇよ。試合の反省をしていたのに、急にインタビューに答えるのは難しいよ。
「では、今のお気持ちは?......また本音で答えてくれて構いません」
あ、そう来ちゃう? でも今回、特に残念とは思っていないな。
むしろ、そう。
「楽しかったです! 99対1とかいう地獄はありましたが、それさえ乗り越えれば、後は全部楽しかったです!」
「あ、ありがとうございます!」
「あと、これは勝手に思ってるだけですが、魔剣とかにある、HP回復効果ってあるじゃないですか。あれが使えないってのが、少し大変でしたね」
「あ〜、やっぱりですか?」
「はい。でも、これは改善できると思いますよ?『魔剣部門』と、そうでない剣の部門とかに分ける方法とかあると思います。でもこれって、最終的にとんでもない数の試合になると思うんですよ」
「そうですね。それは少し厳しいです」
「ですので俺は、そもそもあのルールを取っ払っても良いと思うんです。これからのユアストは、どんどん人口も増え、魔剣や聖剣を作れる人は増えるでしょう。
そうなれば、モンスターの素材で魔剣を作成する人が現れ、大会に出るプレイヤーが剣を買い、その剣で出場して戦う。
そして大会後にモンスターを倒し、採取し、製作者に素材を渡す......こういうルートが出来れば、生産に特化する人も、戦闘に特化する人も増えると思うんです」
より、このゲームを楽しめる人が増えるだろう。
ものづくりに興味がある者が生産し、体を動かす事が好きな人が、武器を買い、素材を集め、生産者に渡す。
これなら、ウィン・ウィンの関係だろう。
「今のコメント、大切にしたいと思います」
「いえいえ、俺が勝手に思ってるだけですので......このゲームをより良くするのは、運営者であるレイジさん達と、このゲームの沢山のユーザーです。俺一人の意見なんて、小さなものですよ」
「ははっ、そう思われている内は改善点が多いでしょうね」
さぁ、これで魔法部門か総合部門が選ばれるまで、俺はソル達とゆっくりできる。
「では、改めて。剣術部門優勝者は『ルナ』さんです!! 皆さん、大きな拍手を!!!」
『おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!』
歓声じゃん。いや、拍手と歓声、両方か。
「では、皆さんを転移しますね!」
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イベント会場(控え室)に転移します
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「ただいま、ソル。リル」
「「おかえり! / おかえりなさい!」」
ふぅ。2連続で出るだけでこんなに疲れるのに、よく前の俺は6部門も出ようとしてたな。
ルールに助けられたな。
前書きの事、本当なんですよ。青信号の道路を横断中、普通に軽トラが突っ込んできました。
反応速度が早くて助かりました。昔からFPSゲームをやってた甲斐がありましたね!
では次回、『癒しのひととき』お楽しみに!