強くなったね田中君
マサキとルナの戦い
「フー、しょうか〜ん」
控え室に来たので、話し相手を顕現させる。
「は〜い! 皆のアイドル、フーちゃんですよ〜!」
「は?」
出てきたフーは、何故かアイドルの様な衣装を着ていた。フリッフリのキラッキラの服を。
「どうですかこれ? 似合ってます? 結構時間かけて作ったんですよ!」
「インパクトが強い」
「そうですか?......そうですね!......あれ? これ褒められてる?」
アイドル衣装とは言っても、元々着てた巫女服に、華美な装飾を大量に付けたアイドル衣装って感じだ。
「まぁいいや、放送見よう」
「は〜い!」
テンション高いな。どうしたんだろ?
『剣術部門の本戦出場者は、ルナさん、マサキさん、ガーディさん、黒の巣さんとなります! アリアさん、あの試合を見ててどう思いましたか?』
『あれは......終盤の......いえ、それまでのルナさんの動きが気になりました。何故、あんなに無防備でいたのに誰にも攻撃されなかったのか、凄く気になります』
『あ〜......僕は装備担当なんで分かっちゃうんですけど、あれは基本、誰でも作れる装備によってもたらされる効果なんですよ。これ以上は言えませんが』
『そうなんですね! でも、見つからないにしても凄く綺麗に人数を減らしていましたよね?』
『そうですね、倒した人数だけで言えば、ルナさんは27人も倒してますからね!』
「へ〜27キルですかい。頑張ったな、俺」
バトルロイヤルでこのキル数、かなり高いな。
一般的に、バトルロイヤルは100人からなる試合なので、1人で20人、つまりは2割も倒せる事はそう多くない。
接敵する運、確実に敵を倒せる技量、複数人と相対した時に冷静に対処出来る判断能力。
この3つが主に必要だからな。
「でもルナさん、99人倒してましたよね?」
「あれはイレギュラーだよ。本来はこのぐらいの人数倒せれば『沢山敵を倒した』と、評価されるはずだ」
「そうなんですね!」
「そうなんですよ」
賢いフーなら、きっと理解してくれる事だろう。そう信じてる。
『ではでは! これより本戦出場者の組み分けを開始致します!そ れではルーレット、カモン!』
そう言ってレイジさんはルーレットを出現させた。
「4項目のルーレット......これはくじ引きが定番だろうに」
「ですよね!」
『じゃじゃん! 出ました! 1回戦目は『ガーディ』さん対、『黒の巣』さんです!』
『おぉ! 普段は盾で戦場の前に立つガーディさんが剣を持ち、前に立って戦っている黒の巣さんとどう戦うか、楽しみです!』
「初めてマトモなコメントしてない? この人」
名前、また忘れたけど。
「いえいえルナさん、そもそもルナさんが聞いていない、という事もあるでしょう?」
「あぁ、確かに。それは申し訳ないことを言ってしまったな。ナントカさん」
「アリアさんですよ! また名前忘れたんですか?」
「うん。覚えられん。キャパオーバーだ」
レイン君やクラウド君の名前が入ってきたので、影の薄いアリアさんは俺の脳からはじき出されてしまうんだ。
『これより! 剣術部門本戦、1回戦目を開始します!』
「はじまた」
「はじまたですね」
始まった。ガーディ君と黒の巣君の戦いが。
「ってか俺、初っ端マサキと戦うのか。大変だな」
マサキって、型にハマった戦い方と、その場の判断での戦いを繰り返すので、そこを見極めないと俺のリズムが狂っちゃうんだよな。
「そうなんですか? 彼、堅実な立ち回りとアドリブによる立ち回りを交互にしていたので、そこさえ見極められれば問題無いような気がしますが......」
「よう見てんな〜! 素晴らしい! 俺と全く同じ意見だ」
「ふっふっふ! この私にかかれば戦闘における癖など数秒で理解できますよ!」
「そ、そう」
「なんですかその反応! まるで私がポンコツかのような反応は!」
「理解してんじゃん」
『見る』事は出来ても、『する』事が出来なかったらそれまでなんだよな......悲しい事に。
「ガーディ君って、あぁ見えて型がないな。これは黒の巣君負けるかな?」
「どうでしょうかね? 彼、刀はダメでも剣はそこそこですよ?」
「すんごい上から目線。でも、確かにそうなんだよなぁ」
観戦画面ではかなり熱い剣戟をしているが、少しだけガーディ君が押されている。
多分、『常に攻める』戦い方をする人間と、『誰かを守りながら戦う』方法を取る場合、やっぱり前者が攻めるときに有利だろう。
前者は圧倒的に、後ろに背負う重さが軽いからな。言ってしまえば、何も考えずに突撃できる。
逆に後者は、背負うものが大きく、重すぎる。
もし、仮にガーディ君が攻めることに専念すると、イリスさんやルヴィさんにヘイトが行って、重要な後方火力が失われてしまう。
この差は、とんでもなく大きい。
『試合終了!!! 本戦決勝に進んだのは、『黒の巣』さんだぁぁぁ!!!』
「「デスヨネー」」
あぁ、次は俺か......マサキ、どうやって戦うのかな?
コンコン、とドアがノックされた。
「は〜い!」
「はろー! ルナくん!」
「キアラさん? あぁ、俺の番ですか?」
「そうだよ! カズキもやってたよね?」
「はい。あ、そういえばジャンケンがうんたらこうたら言ってましたね」
「そそ! 刀術はグーを出して負けちゃったからね〜! でも剣術も本戦に出てくれて助かったよ〜!」
「さいですか」
有難いけど、不思議な気持ちだぁ。
これ、もし魔法部門も総合部門も本戦に出たら、カズキさんとキアラさんの2周目が入るのか?
ちょっとだけ気になるな。本当にちょっとだけ。
きっと、数十秒したら忘れてるさ。
「おっと、もう出番だね! もう少し話してたかったけど、しょうがないね」
「もうですか。フー、良いか?」
「はい!」
フーを刀に戻し、インベントリに送った。
「あ! 今のがルナくんの付喪神だよね! 確か、元イシスだっけ?」
「そうですよ。でも、もう話す時間が......」
「そうだった! ごめん! じゃあ行ってらっしゃい!」
「は〜い」
控え室を出て、通路を歩いていく。
「忙しかったなぁ、来たと思ったらマシンガントークが始まって、そんで直ぐに入場か。マジで忙しい......いや、慌ただしい?」
余裕を持って行動しましょう。
『さぁ! 今入場してきたのは、刀術部門で優勝し、予選2回戦目で猛者を倒しまくった、『ルナ』さんです!』
『おおおぉぉぉぉぉ!!!』
えぇ......?
「盛り上がりすぎじゃね? これで負けたら恥ずかしいんだけど」
こんな歓声の中で負けたら、いつぞやのトレント戦の様にスーパーネガティブ状態になっちゃうぞ?
まぁ、とりあえず位置に着いとこ。
『対するは、あのルナさんとフレンドであり、最初に『魔剣術』を発見したプレイヤー、『マサキ』さんです!!!』
『おおおぉぉぉぉぉ!!!』
そしてマサキも入場してきた。ってかマサキ、最初に魔剣術を発見したんだな。すげ〜
「よ、ルナ!」
「よ、マサキ」
「いや〜まさかここで当たっちまうとはなぁ」
「それは同感。できれば決勝が良かったな」
「んだんだ。賞品的にも、戦闘的にも、決勝で当たればそこそこ美味しかったのになぁ」
「それはここで負けた方が、3位決定戦で勝てば問題無い。とりあえず今は全力でやろうや」
「そうだな! よろしく頼む」
マサキが頭を下げて礼をする。
「こちらこそ、お願いします」
俺も頭を下げて礼をする。本来の試合は、礼に始まり礼に終わる。
だが、この大会だと負けた瞬間にポリゴンになるからなぁ。礼で終わることが出来ないのが残念だ。
次回ではその辺、改善されるといいな。1人のプレイヤーとして、相手のプレイヤーを尊敬しているし。礼ぐらいはしたい。
『ではこれより、剣術部門本戦、第2試合を開始します! 両者、構え!』
俺はステラをインベントリから取り出す。
今回は剣を弾かれ、手から離れたところを斬りこまれ、その瞬間にステラを顕現させて倒す作戦で行くか。
アドリブも出来るよう、位置取りには気をつけよう。
「カッケェなぁ、その剣」
「だろ? ソルと一緒に作った、お気に入りなんだ」
「それは良いな!」
『始め!』
「っしゃぁぁ!」
「おぉぉう」
いきなりマサキが斬りこんで来たので、防御した時に変な声出た。
かなり攻撃が重かった。どんだけSTR積んでんだ?
「めっちゃ強くなってんな、マサキ」
「あったりめぇだ! ルナを倒すためにレベル上げに勤しんだわ!」
「それはまぁ......お疲れ様?」
「おう、よ!」
キン! と音を立てて剣戟が始まる。
「いや、マジで強いな。STR幾つ?」
「教えねぇよ!」
「そうか。俺はちょうど、2,800だぞ」
「嘘つけ! 5倍はあるだろ!」
「ないぞ? 多分」
いや、指輪達の効果でそれぐらいはあるかもしれん。
カン!カカカン!
「強いのに早いな」
「へっ!」
マサキ、めっちゃ強くなってる。でも動きが単調になってるな。
そろそろアドリブ、来るかな?
「おら、よ!」
「やっぱり」
キン!
「かぁ! 防がれるかぁ!」
「いや、弾くのがせいぜいだぞ? 今の」
キン! とは音がしたが、感覚的には『ガンッ!』って音が聞こえそうなくらいには攻撃が重かった。
「......おらぁ!」
来た、かち上げ。これでステラを手放せる。
「あ、しまっ」
「貰ったぁ!!!」
「ステラ」
ザンッ!! ザシュッ!!!
「ぐはぁ! 嘘だろぉ!?」
「かったいなぁ、マサキ。俺、今ので倒す予定だったんだけど」
「......ワイバーン製の防具、オススメだぞ?」
あぁ、なるほど。あの空飛ぶトカゲの素材か。それなら硬いのも納得だ。
「それは予想外だった。でもまぁ、俺も予想外でいけ......ば!」
キン!
「ふはは! これは勝ったかな? ルナ!」
「さぁ?」
俺は左手に愛剣を出し、マサキに振りかぶる。
「んなっ!」
ザンッ!!
「おらぁ!」
ついでにステラも投擲した。これで無理なら連撃コースなんだけど。
ドスッ!!
「ぶはぁ!!」
無理だった。しゃーない、こっからは単純な技量勝負だ。
「ステラ」
「うぉぉ!!」
キン!
顕現させてから振るったステラが弾かれた。
マサキ、マジで強いな。反応速度が以前と段違いだ。
「っふん!」
ザンッ!!
弾かれながらも、愛剣で斬ってみた。が、全然効いてないだろうな。
「はっ、軽いぜ!」
「そいや!」
これはあの付喪神さんには申し訳ないが、愛剣も投擲させてもらう。
バスッ!
「いてぇ!」
投擲にマサキが怯んだ、ここだな。
「っよいしょぉぉぉ!!」
ズッバァァン!
「......ははっ、勝てなかった......か」
「いやいや、それでも今まで戦ったプレイヤーで1番強かったよ、マサキ」
「そうか......」
マサキがポリゴンとなって散った。
『し、試合終了!!! 勝者、『ルナ』さんです!!』
『おおおおおおぉぉぉぉ!!!!!』
「......はぁ〜疲れた」
マサキは強かった。本当に。いやマジで。
アイツ今、レベル幾つよ?俺、本格的に最弱コース入るぞ?
「あ、そうだ。............ありがとうございました」
俺は最初の位置に戻り、試合開始の時のように礼をした。
礼で始まったなら、礼で終わるべきだもんな。
「っし、帰ろ」
さぁ、控え室に戻って次の試合の作戦会議をしないと。......1人で。
「ほい、ただいまっと」
「おかえり〜ルナく〜ん」
ん?
「なんでキアラさんがここに?」
「いや、何でもカズキは決勝の時まで居たらしいじゃん? なら私も、とね!」
「えぇ......」
まぁ、いいけどさ。それならフーも出しとくか。
「おいで、フー」
「は〜い!」
「少しの間、雑談と作戦会議だな」
いやまぁ、作戦会議は頭の中で行うんですけどね?
「ようやく黒の巣君と戦えるよ」
あの時の約束、果たそうか。
リルとの狩りの後、そこで初めて出会った黒の巣君。
彼は強いのでしょうか。それとも上手いのでしょうか。
もしくは、その両方なのでしょうか。
楽しみですね!
次回、『思考と行動』お楽しみに!
あ〜、早くまほー部門を書きたいゼェ.....