時間の有効活用
ジカイヨコクゥ.....
「寂しいな」
1人で控え室で待つの、結構寂しい。
「リルはまだ分かる。でもフーは半分武器だろ? なんで俺の手元から離れてんだ?......ってか武器じゃん! それにリルもリルじゃん!」
俺、天才かもしれん。ソルの天才病が感染ったかな?
だって、リルやフーなら、念話や顕現が使えるだろ?
「とりあえず念話を......」
予選の1回戦も観ずに、俺はどうして誰かと話すことに必死になっているのだろうか。
『リル〜? リルさ〜ん? 聞こえますか〜?』
さぁ、返ってくるかな? これで返ってこなかったら、俺は寂しくてここで何をやらかすか分からないぞ?
......リルからの返答がありませんでした。
「くっ! でもまだ1つある! フー、顕現!」
10秒後――
......控え室に1人、自分の考えに自分で賛称し、自分で行動を起こし、勝手に落ち込んでます......
「ちくせう。なんでダメなんだ? 何が原因だ?」
これ、運営的に言えばサーバーが分けられてるのか?
ブロック分けをされても、あの予選は多分みんな同じ草原だったはずだし。
いや、あの草原がバカみたいに広い可能性があるのか。
「じゃあそれとも、異空間とか別次元的な?」
もしかしたら有り得る。空間魔法的な? 古代魔法的な? そんなアレが働いているのでは?
「それでも、顕現はできるでしょ」
「はい、出来ますよ?」
「きゃあああ!!!」
ビックリした! ビックリして超高い声が出た!!
「ふふふふっ、何ですか『きゃあ!』って、女の子ですか?」
「いや、いやいやいや何でフーがここに? さっきは来なかったのに......」
「あ、それは単純に要請を保留にしてました! ソルさん達と、今ルナさんが何を思ってるかな〜って言うのを当てようとしていた所、顕現の要請がかかったんです」
「はい?」
「それで、満場一致で『寂しい』と感じているだろう、という結論になりまして。お話が粗方終わってから来ました」
「......そ、そうなのか」
嬉しいけど、全部バレてんの恥ずかしいな。嬉しいけど。
ってか顕現って、マジで呼びかけてから『応える』んだな。
「それで、ルナさんは寂しい思いをしていましたか?」
......答えたくない。だって、恥ずかしいもん。
「ノーコメントはあり?」
「なしです」
「詰んだわ」
2秒で詰まされた。こんなん誰にも返せないだろ?
「ふふ、後でソルさん達に伝えちゃいますね!」
「やめろぉ......」
酷いよフーえもん! そんな残酷な事をしなくてもいいじゃないか! 僕泣いちゃうよ!?
「ではルナさんはどうして私を呼んだんですか?」
「え?」
え? まだ死体蹴りを続けるの? 嘘でしょ?
もういいよ。全部話したるわ。
「......控え室で1人で寂しかったから、誰か話せる人いないかなって......それで、リルに念話を送ってもダメだったから、武器のフーなら顕現出来るんじゃないかって思って試したら出来た......」
「むふふ」
「その顔やめよ? 泣くよ?」
すんごい顔で見てくるやん。清々しいまでの欲にまみれた笑顔だぞ。
「......はぁ、試合観るか」
「逃げましたね? まぁ、いいですけど」
「うっさい」
そう言って俺はモニターを付ける。
「まだ結構長くなりそうだな」
控え室に飛ばされてからそこそこ時間が経つが、まだ第2ブロック以外は終わってないようだった。
「ルナさんが早すぎるんですよ。そもそも99対1になる事がおかしいですし、それを了承する大会運営もおかしいですし、それに速攻で勝っちゃうルナさんもおかしいです」
「おかしいか?......おかしいな」
普通のバトルロイヤルだったら、敵同士なのに手を組む、『チーミング』という行為はアカウント停止モノの違反行為だ。
「アレか......カズキさんにニヒルの事を言ったのが不味かったか......」
もし、あれからニヒルのメンバーのSNSでも見たら、多分『まぁ、いいんじゃない?』って思うかもしれないよな、個人としては。
でも、運営としてはやっちゃダメでしょう?
「ま、いっか。勝ったやつが強くて、負けたやつが弱い世界だもんな」
「そうですよ。焼肉定食ですよ」
「弱肉強食な」
焼肉定食か......久しぶりに食べたいな。
「家を手に入れたら、焼肉定食を作るか」
「どうしたんです? 突然」
「いや、今のを聞いて久しぶりに食べたいと思ってな。最近、そういうガッツリしたのを食べていないと思ってさ」
最近はお肉を食べても、脂を落として、濃い調味料をあんまり使わないで料理をしている。
何か健康思考になってるんだよな。陽菜のお陰か?
「ならお肉はワイバーンのお肉ですか!?」
「あ〜どうだろうな。お肉はワイバーンを使うにしても、お米とかお味噌汁が無いと定食って感じがしないしなぁ」
「無いなら作るんです!」
「いやいやいや、材料とか環境とか、色々足りないだろ」
確かに一瞬、『作ればいいんじゃね?』とも思ったが、お米を作るには水田とか苗とか沢山の物や土地がいるし、お味噌を作るにしても塩や大豆、容器とか発酵させる環境が必要な事を思い出したので、思考を辞めた。
「ふっふっふ、ルナさん、貴方は便利な魔法をお持ちなんですよ? 忘れましたか?」
「魔法の言葉、『店で買う』か?」
「違いますよ! それでもいいですけど、すんごく高級品になりますよ!? 私が言いたかったのはアレです。『古代魔法』ですよ!」
「えぇ......『空間生成』? あんなの使えねぇよ」
暫定エンドコンテンツだぞ? アレ。こんな序盤と中盤の間くらいで使える訳がない。
「な〜に言ってんですか、たかだか消費魔力20万程度ですよ? 鍛え上げて魔力量を増やしたり、『マナ効率化』というスキルがあれば問題なしです!」
「鍛え上げられるのはドMの人間だけだ。それとマナ効率化って......確か魔法を部門の優勝賞品にあったな。そんなにすごい効果なのか?」
元魔法の女神、プレイヤーがまだ分からないスキルについて知っているのか?
「魔法を使う人には必須のスキルですね。魔法を使う際、消費する魔力が半減しますから」
「やっば」
『マナ効率化』......恐ろしや。コイツだけで『空間生成』に必要な魔力が、20万から10万に落ちるのか......
「えぇ、ですから必須のスキルなんですよ。でも、あのスキルは神でも理解してる方は少ないですから、開発するのはほぼ無理ですからね」
「へぇ、ならフーは?」
多分、フーは理解しているんだろう。じゃないと効果とか人に教えられないだろ?
「無理でした☆」
「そうか」
「と言うのは嘘で、最初に『マナ効率化』の理論を成立させたのは私です」
「そうなのか」
やっぱりフーって、本質的には賢いんじゃないか?
「あれぇ? 全然驚かないんですね」
「予想してたからな。出会った時、最初の数十秒くらいは『コイツ、理知的だな〜』って思ってたからな。......今はポンコツの賢いメイドモドキだけど」
「むむっ! メイドモドキとは失礼な!」
「ツッコむのそこかよ!」
普通はポンコツのとこにツッコミを入れるだろ。
「あ、あの試合が終わりそうですよ。残り5人です」
「ホントだ」
急に話題を変えるじゃん。俺も時々やっちゃうけどさ。
そして画面に映っているのは、今日犬子さんの出てる試合だった。
「「おぉ〜」」
「上手く3人を捌いたな」
「中々上手いですね、彼」
剣一本で、3人からの攻撃を見事に捌き、その内の2人を倒していた。
「二刀流をするやつは少ないのか?」
どの試合でも、二刀流で戦ってる奴がいない。使えれば便利なのに、どうして少ないんだろう。
「そりゃそうですよ。剣を両手に持つのって、本当はすっごくバランスを取るのが難しいんですよ? 逆に、なんでルナさんは扱えるので?」
「オークを実験台にして、ずっと練習した」
「あぁ......可哀想なオーク......」
「......バランス、ねぇ?」
言ってて思ったが、俺が二刀流を使う時、上体を少しだけ反らして剣の重さで重心を取っているが、それが関係しているのかもしれない。
自然にやっていたが、この上体の反らしが二刀流を扱う上の答えだったのかな。
「他はまだまだかかりそうだな。どうする?」
「う〜ん、まだ90人も残ってるところもありますし、結構長くなりそうですよね〜」
このままじゃ話す話題がなくなって、気まずい空気が生まれてしまう。
あっ、そうだ!
「アクセサリー、作るか」
「え? ここで、ですか?」
「あぁ。材料も道具もあるし、誰にも見えず、聞こえない空間だぞ? 作るしかないだろ。
......まぁ、大会のルールに『待機中の装備の作成の禁止』が無いっていう屁理屈もあるんだけど」
大丈夫かな、怒られないかな? それとも没収?
いや、大丈夫だろう。マジでやる事が無いんだ。それに黙って待つのも何か嫌だ!
「子供みたいな事考えてそうですね」
「子供だからな」
そうと決まれば早く作ろう。出来れば強めな効果のやつを。
「う〜ん、何にしようかな。指輪もいいけど、なんかチャラチャラしそうだしなぁ」
「ではネックレスとかどうですか?」
「ネックレスねぇ......作ったこと無いな」
レベルを上げる時も、ずっと指輪や腕輪の、リング状の物ばっか作っていた。
「よし、イメージはできた。ネックレスで行こう」
「おぉ、では私は観戦しておきますね!」
「あいよ〜」
今回使う材料は、大量の神真鍮の玉と、オリハルコンとアダマントの合金だな。
これらを使って、真珠のネックレスみたいな、神真鍮のネックレスを作る。
初めてアクセサリーにあの合金を使うが、多分大丈夫だろう。
......いや、自分なら出来る。そう信じよう。
「よし、始めよう」
まず、 オリハルコンとアダマントを合金にしよう。
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『アダマントのインゴット』と『オリハルコンのインゴット』を合金にしますか?
消費MP:500〜800
成功率:12%
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おや? アルテを作った時は消費MPが600〜800だったし、成功率も5パーセントのはずだったが、かなり優しくなってるな。
『錬金術』のレベルを上げないとな。これからやることが山積みだ。
さ、合金ガチャは爆死するかな?
「1回目」
ピカッ!
「えっ」
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『アダマントのインゴット』と『オリハルコンのインゴット』の合金化に成功しました。
『神鍮鉄のインゴット』Rare:21を作成しました。
『錬金術』スキルレベルが25上がりました。
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大勝利した。まさかの一発ツモだった。
「ではコチラの神鍮鉄に魔力を宿していきます」
「誰に言ってるんですか? 私ですか?」
「いや、独り言」
「えぇ......」
完全に1人の時でも今のは言ってるだろうな。今回はたまたまフーが居ただけだ。
......呼んだの俺だけど。
よし、魔力打ちするか。
それから30分後――
「出来た」
神鍮鉄に魔力が宿り、水色の半透明のインゴットになった。今回はかなり短時間で宿ってくれて、とても助かった。
「おぉ、綺麗に宿しましたね!」
「だろ? こんな水色で半透明な......水色で半透明?......そういやフーの時も水色の半透明だったな」
よくよく考えてみれば、アルテも布都御魂剣も、凄く綺麗な水色の半透明だ。
何か共通点があるのかな?
「あ〜......多分、水色に好かれてるんじゃないですか?」
何だ『あ〜』って。絶対何か隠してるだろ。
「フー? 言ってごらん? アルテとフーに、何か共通点があるんだろ?」
「うっ」
これは聞いておかないと、アルテが半神器から神器になった時に何かあったら怖いからな。
「......ちょ、ちょっと、昔から仲の良い女神が私にいましてね?」
「うん」
「その......ルナさんの話をした事がありましてね?」
「うん」
「な、なんて言いますか......『一緒に付喪神になる』とか言ってまして......」
「うん?」
おいおいおい、まさかここで『付喪神になりて〜』ってあの言葉が来ちゃうのか?
「まぁその、カレンさんとの試合を一緒に見てまして......その子、後輩なんですけどね? その子と『あ〜付喪神になりて〜』って思いまして......」
フラグ回収しちゃったよ。ってか今、半神器だよな? 神器になった時に宿るのかな?
ということはですよ?
「えぇ......? って事はまだ増えるのか......」
「だ、黙っていてすみません! で、でもあの子は静かな子ですので、ご迷惑はおかけしないかと......」
「そうか」
静かなのは助かるよ? 助かるけど困る。『降臨』が付与されたら本当に困るんだ。
「まぁ、黙っていたフーにはこの方とお話をしてください」
俺はおもむろに愛剣を出した。
「ひぃっ!」
「じゃあ、よろしく。たっぷり怒ってやれ」
『ルナ様、お話は聞いております。お任せを』
「頼んだ」
愛剣に宿った渋い声の付喪神さんにフーの事は任せよう。
「さぁ、再開しないと。予選が終わる前に何とか間に合わせないとヤバい」
それじゃあ神鍮鉄を糸にしようか。
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『聖神鍮鉄のインゴット』に『金属糸形成』を使用しますか?
消費MP:500
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お、糸にする時のウィンドウが変わってる。
細かいところを修正してるの、良いな。
前までのウィンドウって、そこそこ見にくかったからな。
ってかこのインゴット、『聖神鍮鉄』って名前なんだな。
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『聖神鍮鉄の糸』Rare:21を作成しました。
『裁縫』スキルレベルが1上がりました。
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結構な長さの糸が数本できた。そして――
「やばい! フー、来てくれ!」
俺は急いでフーを刀にし、腰に顕現させた。
『どうしました?......あっ』
「うん、魔力が切れた」
MPを全部使っちゃった☆
『何やらかしてんですか! あと10分くらいで試合終わりますよ!?』
「いや〜、やらかしたわ〜」
残りMPが少ないのに、金属を糸にするのは危険だな。
『ルナ様、私はどうすれば良いでしょうか?』
あぁ、愛剣のおじさんの事を忘れていた。
「あ、ごめん。インベントリに戻ってもらうけど、いいか?」
『はい、また何か御用がありましたらお呼びください』
「ありがとう」
お礼を言ってからインベントリに戻した。
「うし、再開するか」
『えぇ? 本気ですか?』
「おふこーす。少しでも時間を有効活用したい」
答えながら神真鍮の玉の表面を魔道具で溶かし、糸とくっつける。
『嘘でしょ? また魔力使ってる......というか試合が始まったらどうするんですか? 私、インベントリ行きですよ?』
「のーぷろぶれむ。いつも通り、何も考えてないさ」
『......何が『のーぷろぶれむ』ですか! そんなんで負けたらどうするのぉ!?』
「まぁまぁ、そうカッカしなさんな」
『カッカなんてしてません! 怒っているんです!』
「それをカッカと言うんだがな」
あと少しでネックレスが完成する。
「出来た! めっちゃ綺麗!」
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『神器:ブリーシンガメン』Rare:―― 製作者:ルナ
付与効果『生命力増強:1000』『魔力増強:1000』『神速回復:生命力』『神速回復:魔力』
『全戦闘系スキル補正:特大』『愛の守護者』『感情超強化:愛』『不滅の愛』『フレイヤ加護』
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『神速回復:生命力』
装備者の生命力を1秒につき、30回復する。
『神速回復:魔力』
装備者の魔力を1秒につき、10回復する。
『愛の守護者』
愛する人がいる時、装備者のVITとSTRが2倍になる。
『フレイヤの加護』
『愛の守護者』を付与する。また、『感情超強化:愛』の効果にVITの項目を追加する。
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『「わぁお......」』
回復や防御に特化した性能になった。これ、ガーディ君が付けたらとんでもない事になるぞ?
「とりあえず付けるか」
そして付けた瞬間に、この神器のヤバさが分かる。
「あ、あれ? 30秒でMP全快?」
『とんでもない方の加護を受けましたね......それ』
「フレイヤって確か、愛と戦いと豊穣の神だっけ?」
『よくご存知ですね? その通りです。ピンポイントでルナさんの助けになる効果を付与するとは、フレイヤさんもこっちにくるんですかね?』
「やめてくれ。もう人は増えないでいい」
『女神ですよ?』
「人型なら同じだ。これ以上人口密度を高めないでくれ」
『え〜』
俺は今の状態で満足しているのでね。
「お、そろそろ試合が終わるな」
『次の予選、どうやるんでしょうかね?』
「さぁ? それも直ぐに分かるだろ」
そして最後のブロックの予選が終わり――
『これにて、剣術部門の1回戦目の予選が終わりました! 2次予選会場の控え室にいる皆さん、もう少しお待ちください! すぐに始まります!』
「よし、ネックレスに頼っていこうかな」
『ズルいですよね。1人、速攻で試合を終わらせてアクセサリーを作ってるの』
「これでも負ける時は負けるさ。それに、素早く回復するって事はだぞ? 言い換えれば『すぐには死ねない』んだ。普通より多くの苦しみを多く味わう事になるかもしれん」
『......なるほど。メリットもあれば、相応のデメリットもある訳ですね』
「そういう事だな」
「ま、それも含めて楽しんでいこう」
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名前:ルナ Lv79
所持金:805,240L
種族:人間
職業:『剣士』
称号:『スライムキラー』
所属ギルド:冒険者 (E) 魔法士
HP:1,880<1,000>
MP:2,380<1,500>
STR:2,800(200SP)
INT: 800
VIT: 1,300(50SP)
DEX: 2,300(150SP)
AGI: 1,000(20SP)
LUC:400
CRT:50(限界値)
残りSP:370
『取得スキル』
生産系
『神匠:鍛冶』Lv100
『神匠:金細工』Lv100
『裁縫』Lv98→99
『調薬』Lv1
『神匠:付与』Lv100
『木工』Lv1
『料理』Lv15
『錬金術』Lv72→97
その他
『テイム』Lv2
『不死鳥化』Lv7
<>内アクセサリーの固定増加値
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試合前にとんでもねぇ物を作ってますね。
果たしてこれで、ルナ君は勝てるのか!?
次回、『猛者でもっさもさ』です!お楽しみに!
.....ふふっ、前回は空振りましたが、今回は当てますよォ!