その頂きは、低かった
タイトルゥ!やっちまってますねぇ!!
「ルナ氏、出番だ。入場してくれ」
「はい!......フー、戻ってくれ」
「はいは〜い!」
遂に決勝戦が始まる。これで勝てば、刀術部門優勝だ。
「じゃあ行ってきます」
「おう! 頑張ってこい!」
扉を開け、控え室から出て通路を歩く。
「次の試合も一撃なのかな」
『どうでしょうね。『斬』の効果って、本当に何でも斬れちゃうので、ルナさんのSTRが相当格下じゃないと一撃でしょうね』
「ん? 相手のVITが高い場合は?」
『斬れますよ? 普通に。......傷は浅いでしょうけど』
「やっば。めっちゃ強いじゃん」
何気なく使っていたが、布都御魂剣ってヤベー奴なんだな。推測だが、VITを無視した攻撃が出来るってのは色んな意味でヤバすぎる。
「まぁ、出し惜しみはしないけど」
『当たり前です。こんな時に出し惜しみするのは馬鹿のする事ですよ』
「昔の俺はよくやってたけどな、出し惜しみ」
FSをやる前から、出し惜しみはちょくちょくしてた。......それが原因で負けることも。
FSを始めてアテナ達に出会って、ゲームを楽しみ、『勝つ』事にあまり意識を向けなかった時、気付いたからな。『出し惜しみって、勇気がないだけじゃん』って。
重要な場面を重要と理解せず、ピンポイントで必要な物を持っているのに、その代替品を探して。
本当に馬鹿だった。深く考えて、手元を見るべきだった。
まぁでも、そういう『経験』が出来たから、今の自分の礎になってくれた『出し惜しみ』君には感謝だな。
「さぁ、楽しもうか」
『ですね!』
通路を抜けると、さっきまでの会場にでる。
『これが刀術部門、最後の試合。決勝戦です! この試合の勝者が、現時点での刀術に於ける最強のプレイヤーです!!』
『おおおぉぉ!!!!!』
『では選手紹介と行きましょう! あのガラスの様な青い刀を持った男は、予選で90人ものプレイヤーを倒し、本戦では一撃で勝利を勝ち取ったプレイヤー、『ルナ』です!!』
うわぁ......なんか、恥ずかし〜!
でも、入場しないといけないよな。......はぁ。
「変に緊張してきた」
『今更ですか? 予選の時見たく、面白おかしく殺ればいいんですよ』
「ん〜、うん。だよな」
意識を変えよう。『楽しむ』のは大前提で、そこからの意識を変えよう。
普通だったら『勝ちたい』とか、『負けたくない』とか思うだろうけど、こういう時は『自分』の事を考えちゃいけないんだよな。
となると、意識を向ける先は『観客』となる。
「魅せプかぁ、久しぶりにやるわ」
見てる人を魅力する、そんなプレイをする。その意識だけで、勝利すらも前提条件になるだろう。
『どうやるんですか?』
「んなもん簡単だ。今回は『透明化』と俺の立ち回りだよ。予選ではあまり見れてないだろうしな、透明化」
透明化を見るって、ちょっとおかしいな。
『重要な手札なはずなんですけどねぇ......バラしちゃうんですか?』
「あぁ。そもそもお前が強すぎるんだよ。だからせめて、情報だけでも渡してレベルを下げよう」
『手のひらクルックルと回りますね。ドリルですよ』
「へへっ」
もう、別にいいんじゃないかなぁ。情報だけで負けるようなら、それは俺が弱く、下手なだけだし......逆に情報を垂れ流して俺が勝てば、自分で自分を高める事に集中できる。
『対するは、堅実なプレイで安定した勝利を手にしている、『茜』さんです!! 今回も安定したプレイングが見れるのかぁ!?』
『おおおぉぉぉ!!!』
茜さんが入場してきた。挨拶しとておくか。
「ルナさん、対戦よろしくっす!」
「対よろ」
やべぇぇ!! また癖で軽く言っちゃった!
「あ、あ、対戦よろしくお願いします」
「はいっす!」
ふっ、ここでは頑張って隠している『陰の者』の特徴が出てしまったぜ......!!
「あ、ルナさん、今回は刀出してるんすね」
「あぁ......まぁね。気分だよ」
嘘です。さっきまで控え室でガッツリ話してたからです。そのまま持ってきただけなんです。
「でもいいんすか? フェンリル戦の時のように、空振りと思わせての攻撃とか出来ませんよ?」
「いいのいいの。別に出してようが出して無かろうが、アレは出来るから」
顕現さん、マジ強い。
「そうなんすね! 言ってる意味が分かりませんが!」
「......ならこの試合で見せてあげるよ、是非味わってくれ」
「嫌です! 死にたくないので!!」
デスヨネー
『では、これより! 刀術部門本戦、決勝戦を始めます! 両者、構えてください!』
「お、茜さんは抜刀術派?」
「はいっす! そういうルナさんは構えはないんすか?」
「ない」
決まった構えって、一種のルーティーンと化すからな。『この構えをしないと始まらない』なんて思うようになったら、その構えを封じられた瞬間に終わりだ。
『では、試合開始!!』
「まぁ、待ちだよね」
抜刀の構えをしてるんだもん。迎撃型だよね。
「どうしたものか」
どうやって見ている人に、この試合の意外性を見せるか、悩む。
あ、いい事思いついた。
「『魔力刃』......ほいっ!」
これなら楽しんでくれるだろう。
キン!
「あれ? 弾けるのかそれ」
『魔力刃は魔力を纏った物なら弾けますし、斬れますよ』
へぇ......って事は茜さんの刀、『魔纏』が使えるのか?
「赤いね、その刀」
「はいっす! 特殊クエストの報酬で作ってもらったっす! ってかそう言うルナさんの刀も、特殊クエストの報酬っすよね?」
「そうだぞ」
嘘です。自分で1から作りました。
「魔纏持ちの刀って、強いよね〜」
「そうっすね! 物理無効の奴も斬れますし、魔法との相性も良いっすからね!」
「そうそう、便利なんよな〜」
『魔纏より上の効果を持ってる癖に、何言ってんですか』
うるさいぞ、フー。それに魔纏より上って、『斬』の事だろ? ここでその話をしてみろ、一瞬で嘘がバレる。
「じゃあその刀、こんな事できるか?」
「どれっすか?」
俺は茜さんとの距離を少し取り、『刀を投げた』
「んなっ!」
カン!
上手く弾いたな。安定している、良い動きだ。
「フー」
『はい』
布都御魂剣を手元に顕現させ、一気に距離を詰める。
「えぇっ!?」
「『斬』」
「ぐふぅぅ!!」
VITが高いのか、やりきれなかった。あ〜あ、これで勝つ予定だったのに。
「おぉ、そんなに吹っ飛ぶのか」
『空間ごと斬ってますからね! 斬撃に耐えられても、戻ってきた空間に弾かれますよ!』
「そうなんだな」
あれか? 海を割ったところで、戻ってきた波に押し返される様な、そんな感じかな?
「な、なんすか今の!? 刀が急に消えましたよ!」
「その刀には無いんだな、この効果」
「そんな効果、ある訳ないっす!」
「そうか」
特殊クエスト産の刀、どんな性能なんだろう。気になるな〜
これがもし、ソルやリルの刀を上回っていたら、俺のユアスト人生、刀鍛冶になるぞ?
でもまぁ......顕現がないなら、顕現もある、ウチの刀の方が強いだろうな。
お兄さん、頑張って作ったもん!
「そうか......魔纏なら魔力刃は効かないし、斬っても耐えられちゃったか......」
思考を切り替えよう。
ここからはどうやって魅せるか、その事を考えよう。
そして俺は、思いついた事をする。
「ル、ルナさんも抜刀の構えっすか......」
「あぁ。さっきは俺から行ったからな。今度はそっちから来てくれ。仕切り直しと行こう」
俺は、抜刀の構えを取った。
「いいっすよ!『魔纏』......っす」
茜さんは刀に赤い魔力を纏い、呼吸を整えている。
俺もしよっと。
「......ふぅ」
どんどん思考がクリアになる。
俺がこれからやるのは、『攻撃を見てからのカウンター』だ。
茜さんの刀を『見てから』俺は抜刀する。
「......せぇい!!」
あれは......剣道の上段の構えからの振り下ろしか。......なるほど、剣道経験者か。通りで安定している訳だ。
「......『斬』」
スパンッ! ザン! ザシュッ!
抜刀の攻撃、続く二の太刀、最後の三の太刀も決まった。
それと、茜さんの刀が『斬』によって思いっきり刀が真っ二つになった。
「ぐふっ......」
茜さんはポリゴンとなって散った。
『しょ、勝者、ルナ!!!』
『おおおおおぉぉぉ!!!!!』
『武術大会、刀術部門、優勝者は『ルナ』さんだぁぁぁ!!!!』
「......ふぅ、楽しかった」
『上手いこと斬り返しましたね! 二の太刀も三の太刀も、凄く綺麗でしたよ!』
「そりゃどうも。今回は綺麗に斬る事を意識したからな」
綺麗に斬らないと、見てる側がつまんないだろう?
『......はぁ、これで私の出番は終わりですか。悲しいですね』
「何言ってんだ、総合部門でフーは出すぞ?」
『えっ! 本当ですか!?』
「当たり前だ。俺の中の最強武器を出さないで勝てるほど、総合部門は甘くないだろう」
今日犬子さんとか、マサキやガーディ君との全力の戦いは、流石にステラだけでは荷が重すぎるだろう。
『ではルナさん、そちらに行きますので少し待っていてください!』
「は〜い!」
レイジさんが来るようだ。インタビュー的なやつかな?
すると目の前に魔法陣が現れ、レイジさんが出てきた。
「ルナさん! まずは優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます。......あ、これマジでインタビュー的なやつですか?」
「はい!」
マジか......喋る事無いぞ?
「では、幾つかお聞きしてもいいですか?」
「どうぞ」
「では......刀術部門で優勝されましたが、他にどのような部門に出るのですか?」
「あ、いきなりそこなんですね。えっとですね、剣術と魔法と、後は総合部門に出ますね」
「おぉ! その2つはかなり参加者が多いのですが、意気込みとかありますか?」
「そうですねぇ、楽しむこと、ですかね?」
「なるほど。では今回、刀術部門で優勝されて、お気持ちはどうですか?」
あ、そこで最初に来るであろう質問が来るのね。
ってかこれ、本音で答えていいのか?
「......本音で答えても?」
「はい。これからの開発にも役立ちますから」
そう言われたら本音で言うしかないだろう。
「では......『レベルが低い』と。そう言わせてもらいます。プレイヤーのレベルが低い、スキルのレベルが低い。武器のレベルが低い。そういう、少し残念な気持ちです」
もし、ソルが出場していたら、もっともっと盛り上がっただろうな。
......まさか、こんな思いをするとは思わなかったが。
「なるほど。では、何か改善点とかありますか?」
「う〜ん、これは俺の考えですけど、まず『刀の作り方』を簡単にするといいんじゃないですか? レイジさん、玉鋼から作ることに拘りすぎて、刀を作れる人が少ないと思うんですよ」
「あ〜......確かにそうですね。でも、しょうがないんですよ。刀を作れるの、今のところルナさんだけですから......」
「えぁい?」
変な声出た。
嘘だろ? 玉鋼さえあれば、基本的には誰でも作れるだろ!?
「これに関しては......他のプレイヤーの成長を待ってください。では、2つ目はありますか?」
「あ......ならもう1つ。これは1つ目と同じような感じですけど、『刀の入手方法を増やす』って事ですかね。
確か、特殊クエストの報酬にあるんでしたよね? そのクエストの種類を増やしたり、難易度を落とすかわりに性能を下げたやつを報酬にしたり、とかですかね」
「なるほど! そっちは改善できます! ありがとうございます!」
「お役に立てたようで何よりです」
このゲーム、とんでもねぇ速度でユーザーの意見を取り入れるからな。
今度、その特殊クエストを受けてみるのもいいかもしれない。
「では、これにてインタビューは終了します! 報酬の方は後日配布されますので、その時に受け取ってください!」
「はい」
「それでは、改めて......第1回武術大会刀術部門の優勝者は『ルナ』さんです!!!」
『おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!』
すんごい歓声だな。こういう歓声を貰うのは、始めてだ。
......あ、優勝したらどうすればいいんだろ。控え室に戻るのかな?
「では皆さん、これより観戦席に転移しますので、そのままお待ちください!」
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イベント会場(控え室)に転移します
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そして、ソルとリルの待つ観戦席に飛ばされた。
最初のイベントですからね。一部のプレイヤーと、他のプレイヤーとの差って、かなり大きく感じるものです。
私も、それを痛いほど経験してきました。海外では主流でも、日本では全然浸透していない戦い方で来られた時、めちゃくちゃ苦戦しました。
.....っととこんな話はどうでもよかったんです。次回ですよ次回。次の話をしましょう!
では次回!『魔境と化した部門』です!お楽しみに!
あっこれは合ってるかm(ry