本戦第1試合と雑談
音ゲーに
新しい曲
来たんです
1ミスとって
逃すフルコンボ
ゆずあめ
「わお、普通の控え室」
本戦に出るのに控え室へ飛ばされたが、観戦席の様な意外性がある部屋......という訳では無かった。
「これは座って待つしかないか。する事ないし」
控え室にいたところで、別にすることは無い。
試合が始まれば全力で楽しむだけだから。そのために落ち着こう、などとする意味が分からない。
すると突然、コンコン、とドアがノックされた。
「は〜い」
「やぁ、ルナ氏」
「えっ、カズキさん!?」
部屋に入ってきたのはカズキさんだった。
「まず、本戦出場おめでとう。それと俺が来た用件だが、ぶっちゃけ入場のタイミングを伝えるアレの係だ」
「あ〜、アレですか。あの『○○さん、出番です』みたいな」
「そうそう! キアラとジャンケンして、無事に勝ったからルナ氏のとこに来たんだ」
「それは......おめでとうございます?」
2人でジャンケンしてまで俺の方に来てくれたのか。嬉しいな。
「じゃあ出番まで、少し話をしてもいいか?」
「もちろんです。特にルーティーンとかありませんから、じっくり話せますよ」
「それは珍しいな。なら遠慮なく話させてもらおう。まず、この控え室に関しての説明だが、次の試合で勝った時にもここに戻ってくれ」
「分かりました」
「次に、控え室に帰ってきたら次の試合の観戦ができる。特殊なモニターで観戦出来るんだが......観戦席はもう行ったか?」
「はい。観戦席に飛ばされたんで、ソルと見てました」
「そうか。ならモニターの説明は要らないな。それで、本戦の会場はちゃんとした観戦席があるからな。生で直接見るタイプだ。......よし、あと2分で出番だ」
おぉ、やっぱり生で見た方が盛り上がるもんな。
「分かりました。特に何もせず、普通に入場したらいいんですか?」
気になっていた事を聞こう。これでもし、何かしないとダメ......とかあるんだったら、結構しんどい思いをするからな。
「あぁ、特に何もする必要はない。
控え室を出て、そのまま通路を真っ直ぐに行けば会場に出る。それで戦う場所だが、石のリングがあるから、そこで試合をしてくれ」
「分かりました」
アレか、天下一武○会の会場みたいな感じか。
「よし、そろそろ出番だ。行ってくれ」
「はい、行ってきます」
「おう! 頑張ってくれ!」
運営側が誰か一人を応援しちゃあダメだろうに......
そして俺はドアを開け、通路を進んでいく。
「へぇ〜、普通のコンクリート......かな?」
如何にも『試合会場に繋がる通路です』感を出してるな。
「お、出口だ」
そして通路を抜けると、広い石のリングがあった。
俺の予想通り、アノ会場と同じような感じだった。
『さぁ! 入場してきたのは予選試合は予選試合で唯一、90人も倒したプレイヤー!『ルナ』だぁぁ!!』
うわ、レイジさんがとんでもなくテンション上がってる。
とりあえずリングに上っとこ。
「ふんふんふふ〜ん」
リラックスする事すら考えてはいけない。それが足枷になり、緊張を生むからな。
こういう時は料理をする時のように、自由にしていればいい。
『そして対するは! 筋骨隆々の体から繰り出される斬撃は誰にも防げない! その名は、『阿吽のコキュートス』!!』
ふはっ、名前のクセが強すぎだろ。
そしてリングに上がってきたのは、青い髪のゴリラだった。
「え? ゴリラ?」
「誰がゴリラですか!」
「あ、すみません」
やべぇ、挨拶もせずにいきなり『ゴリラ?』とか言っちゃった。申し訳ない。
「あ〜、ルナです。宜しくお願いします」
「あ、こちらこそ。阿吽のコキュートスと申します。普段はコキュートスと呼ばれています。宜しくお願いします」
「そうですか。阿吽のコキュートスさん」
試合開始の合図はなくても、既に戦いは始まっている。
「えぇ、出来ればコキュートスと呼んでください」
「阿吽のコキュートスさん? どうしました?」
「......えぇ」
うわぁ、俺、嫌われそう。
『これより、刀術部門本戦、第1試合を始めます! 両者、構えてください!』
構えって言われてもなぁ。今はそのまま素手でいいや。
「え? 刀を出さないんですか?」
「うん」
あ、普通に『うん』って答えちゃった。ま、いっか。
『え〜ルナさん? いいんですか? 始めますよ?』
「はい! 大丈夫ですよ!」
『わ、分かりました! それでは......始め!』
試合が始まった。
さぁ、一瞬で首チョンパしてやる。
「はぁぁ!!」
コキュートス君が上段からの振り下ろしをしてくる。
結構な大振りなので、俺から見て右側に避け、布都御魂剣を顕現させる。
「フー、『斬』」
今、抜刀の構えをしているが、嫌な予感がする。
一瞬で試合が終わる予感が。
コキュートス君、VIT高いのかな? 高くなかったら、多分これで死ぬんだけど。
よし、耐えてくれることを祈ろう。
スパン!
「ぐぅぅ!!」
コキュートス君の首を斬ると、そのままポリゴンになって散った。
『「え?」』
会場がし〜んと、静かになる。
やべぇ、まさかマジで一撃で終わるとは思ってなかった。
『ありゃま、一撃でしたね〜』
は、はは......フーは呑気だなぁ。
「え、え〜と、レイジさん。判定は?」
『ル、ルナさんの勝ちです』
「わぁ、勝ちだ〜」
やった〜勝った〜! わ〜い!
........................はぁ。嘘だろ?
そして試合が終わって10秒後、会場がどっと盛り上がる。
『おおぉぉぉぉぉ!!!!!』
『ほ、本戦第1試合、勝者は『ルナ』さんです!! 早い、あまりにも早い!! 開始数秒で決着です!!!!』
まぁ、こんな簡単に行くのは刀術だけだろうな。
「さ、戻るか、フー」
『そうですね。あ、おめでとうございます』
「あんがとさん」
一撃で終わるなんて予想外だ。
斬る前に嫌な予感はしていたが、まさか当たるとは思いもしなかった。
それと、原因は少し分かるぞ。
これは多分、武器の性能差が酷すぎるんだろうな。
これが普通の決闘とかだったら、相手の武器に合わせて俺も市販の刀を使ったんだが......これは大会だ。手を抜く訳にはいかない。
なら、この試合の評価はこうなる。
「やっぱりフーは強いな」
『もちろんです。プロですから』
「何のやねん」
そんな軽口を叩きながら、控え室に帰ってきた。
「あ、ルナ氏......俺、まだ部屋から出てないんだけど......」
「あ、カズキさん。ただいまです」
「お、おう」
あまりに早く終わったもんで、まだカズキさんが控え室にいた。
「まさか、ルナ氏が待機してる時間の方が長いとはな......」
「ですね。武器が弱ければ、もっと長引くはずだったんですけどね」
「あぁ〜、確か布都御魂剣だっけか? アレ、キアラとレイジの合作なんだよな」
あの2人の合作とか、確かに強いわな。
きっと、『ひゃあ楽しい!』とか言って、マトモに性能チェックしてないんじゃないか?
「そうなんですね。でしたら......フー、出るか?」
『え? いいんですか?』
「あぁ」
俺はフーを降臨させた。
「おぉ、その子がルナ氏の付喪神か」
「はい。名前はフーと言います」
「そうか。俺はカズキだ。よろしくな?」
「宜しくお願いします!」
無事に挨拶も終わった事だし、1つ言うか。
「なぁ、フー? なんでメイド服なんだ?」
「え? だってメイドにするって言ってたじゃないですか!」
「ん? そうなのか?ルナ氏」
「えぇ?......まぁ、総合部門で優勝して、家を手に入れたらメイドになるか? とは聞きましたが」
まだ気が早いんだよな。総合部門、マジでどうなるか分からないし。
「え......で、でも......今日はこのままで行きますよ! これは譲れません!
それに、メイド服でご主人様の応援とか、メイドの憧れじゃないですか!」
「ご主人様言うな。それと、そんな憧れを持ってるメイドがいるのか?」
「私です!!! 刀術部門が終われば、私もリルさん達と応援しますから!」
お、おう。とんでもねぇ熱意だな。
「そうか......」
「ま、まぁなんだ。ルナ氏、頑張れ」
「......はい」
カズキさんも引いてるじゃん。フー、最初の理知的なイメージはどこにやったんだ?
「あ! すまんルナ氏! モニター出すの忘れてた!」
カズキさんが突然謝ってきた。
「あぁ、別にいいですよ。多分茜さんが勝ってるので」
「そうなのか?」
そう言ってカズキさんはモニターを出す。するとタイミング良く、試合が終わったところだった。
『刀術部門、本戦第2試合の勝者は、『茜』さんです!!! そしてこれより、3位決定戦を行います!』
「あぁ、本当にすまねぇ、ルナ氏」
「気にしないでください。予想も当たってますし、これからコキュートスさんの刀も見れますから」
「すまん。そう言ってくれると助かる」
誰にだってミスはあるし、今回は殆ど俺の責任だろ。
それからは、コキュートス君と黒の巣君による、3位決定戦を見ながら雑談する。
「そう言えばご主じ「やめろ」......ルナさん。ルナさんは茜さんと戦うことは予想されてたんですよね?」
「あぁ。コキュートス君以外の刀は見たが、どれも酷かった。だが、その中でも茜さんが1番マトモに扱えてたからな」
「あの人は強敵になりそうですか?」
「さぁ? 強敵とか興味ないかな。ただ、強くはあってほしい」
強敵とか戦うまで分からないし、仮にもし、茜さんが強敵なら、より試合を楽しめるだろう。
強者と戦うのは、楽しいからな。
「ルナ氏、意外と戦闘狂?」
「ですよね。予選の時もずっと笑顔でしたよ」
「はい? いや、俺は戦闘狂じゃないですよ。そんなのはアテナで十分ですから」
戦闘狂とか、アテナだけでお腹いっぱいだ。これで俺までも戦闘狂扱いされたら、たまったもんじゃない。
「「アテナ?」」
「あ〜......まぁ、戦闘狂のフレンドですよ、別ゲーの。この大会を配信で見てるはずです」
「あ、前に言ってた方ですか?」
「あぁ。その1人だ」
「アテナ、アテナ......う〜ん......ルナ氏、アテナって名前で強いって言うと、俺、1人心当たりがあるんだが、聞いてもいいか?」
なんだろう? もしかして知ってるのかな。
「いいですよ?」
「ありがとう。ならそのアテナって人の名前、もしかしてこう書かないか?」
そう言ってカズキさんはインベントリから紙とペンを出し、文字を書いていく。
『4thenA』と。
「そう書きますね。アイツを知ってるんですか?」
「まぁ、ファンだからな。っていうかルナ氏はどこで彼と?」
「FSで、ですね。同じチームのメンバーでしたから」
どうせこれからアイツらが来たらバレるんだろうし、『ニヒル』の事とか知ってる人少ないだろうから、話してもいいよな。
「えっ......もしかして、『ニヒル』のメンバーだったのか? ルナ氏」
「はい。『アルテミス』という名前でやってましたね」
「え、えぇぇぇ!! 嘘だろ!?」
えぇ、嘘だと言われましても......ってか知ってるんだな、ニヒルのこと。
公式大会の名前のパワー、やべぇな。
「事実ですよ。それに昨日、久しぶりにニヒル揃ってFSやりましたから。アイツらのSNSとかに、その事は載ってるんじゃないですか?」
「お、俺、Piggy氏の配信見て、ずっとニヒルのファンだったんだよ!! やべぇ、ルナ氏がアル氏って、マジ? 信じられん!」
へぇ、俺達にファンなんていたのか。知らなかったな。当時はそんな事を気にするくらいなら、ずっと試合を回してたし。
っていうかそろそろ3位決定戦終わるけど、カズキさん大丈夫?
「やべぇ、やべぇよ......俺、人生でこんなに驚いた事はねぇよ......!!」
「あぁ......フー、カズキさんが壊れてしまった。どうしたらいい?」
「分かりません。ご......ルナさんが決めてください」
「う〜ん、なら放置だな」
どうしようも、ありませ〜ん。
『3位が決まりました! 刀術部門、3位のプレイヤーは、『阿吽のコキュートス』さんです!!! 皆さん、拍手を!!』
「おぉ、チラチラ見てたけど、コキュートス君が勝ったか。これで黒の巣君はステータスだけじゃダメだと知ったかな?」
彼は多分、刀の扱いが『苦手』なんだろうな。片手剣の扱いに慣れ過ぎていたり、そもそもの知識的な面から、刀が扱えていない。
故に力任せで刀を振るっている節がある。
「そうですね。金髪に青い目の、派手な人には刀は向きません」
「おい、それなら銀髪に金の目の俺もアウトだろ」
とんでもねぇ偏見をぶちかまして来たな。刀は誰だって使っていい。派手だろうが、地味だろうが、な。
「いいんですぅ。ルナさんは強いですからぁ」
「それはダメだぞ。人を見かけで決めつけるのは本当に良くない。女神として、人を沢山見てきたフーなら分かるだろ? それはいつか、痛い目を見ることになるぞ」
過去の俺のようにな。
少し前、FSとかでも流行ったもんだ。アバターの服を、初期から貰える服にして、初心者を装う上級者がな。
どのゲームにも、所謂『初心者詐欺』と言うやつは、一定層いるもんだ。
見た目で騙し、油断した敵を倒すやつがな。
だが、初心者詐欺はプレイングを見れば大体見抜けるもんだ。
行動の端々に、初心者が出来ないような細かい動きがあるからな。
けれど、昔の俺は見抜けなかった。『ただの初心者』と、そう確信して突撃し、トラップに引っかかって負けることもあった。
「......はい。すみません。気をつけます」
「うん。そうするといい。......さて、流石にこれ以上放置すると決勝がやばそうだから、カズキさんを戻すか」
「はい!」
折角の決勝戦なんだ、遅れたくない。
「カズキさん、カズキさん!」
「......はっ! ルナ氏?」
「はい。決勝の入場のタイミング、頼みましたよ」
「あ、そうだった。すまん。それと、決勝戦は5分後だな」
「分かりました」
意外にも、始まるのはゆっくりだった。決勝だからかな?
「ま、始まるまでは適当に雑談でもしていましょう」
謎短歌にハマりそうです。
では、いつものアレ、いきますか。
次回、『刀の頂き』です!お楽しみに!
.....はい。当たってると、いいですね。この予告。
今回も読んで頂き、ありがとうございます!
次回も宜しくお願いします!