第七話『少女の物分りは最悪です』
目で会話。俺とアズの仲なら不可能なはずがない! 一回、目よりもわかりやすいジェスチャーで失敗したことは棚に上げて。
「あ、思い出した! ねぇニーヴェ。私たちちょっと王都に用事があったんだよね?」
伝わったぁぁぁっ! 歓喜! アズ神様っ! ありがとぉぉぉ!
「そうそう! そうなんだよ! 思い出した! ありがとうアズ! ほんとにありがとう!」
テンション上がりすぎてスキップでギルドに行っちゃうかもしれない。
「え、そうなの?! 急ぎの用事?」
心配するクリュー。美少女の心配? なんてことはない。こいつは自分が勲章をもらうのが遅れることを心配してるんだ。最低なやつめ。こんなだからパーティ組めないんだぞ?
「急ぎも急ぎ、大急ぎ! ただでさえ遅れてるのに、今すぐ行かなきゃ怒られるかもしれない! ほらアズ、行こ――」
「――私も行くよ。だってここまで迷惑かけちゃったし。それと私たち、パーティの仲間じゃん?」
「はぁ?」
おっと本音が。てかそういうの今要らねぇよ。迷惑かけたとか俺の舌が攣ったあたりのタイミングで言って欲しかったよ。それと俺たちはパーティの仲間じゃない。少なくとも今は。まだ正式に書類出してないもんね!
「あの、ほら。クリューは先に王様に報告しに行ってよ。ニーヴェは直接ダメージ与えてないから貰えないじゃん? だから私たち先にクエスト受けてこようと思って。王都までの道のりで考えてたんだ」
アズのフォロー。一見ナイスフォローに見えるかもしれないが、それは違う。
なぜならアズは、何一つ嘘を吐いていないからだ。言うなればパーフェクトフォローだ。
そのフォローを無駄にしてはならない。これでもかというほどに頷く。もはや頭を振っているだけにしか見えないだろうが。もうそろそろ王都に入ってからの人々の冷たい視線の集中砲火にも慣れてきたことだし全然大丈夫。既に受け続けてた弾幕によりメンタル粉々ですけどね。
「そっか! ありがとう! じゃあ行ってくるね! 適当に受けておいて!」
適当でいいのかよ。うちのアズが即死級クエスト受けても知らんぞ。何せこいつはクエスト受注に関しては価値観がぶっ壊れてるからね。
それはさておき、ようやくクリューと別れられたので一安心。
「よし、さっさとギルド行ってソロクエスト受けよう!」
「りょーかいっ!」
「今度は俺が選ぶからな!」
「りょ、りょーかい……」
大前提を確認しつつ、アズを連れて足早にギルドへ。
木の扉を開けて建物内へ。途端に居心地の悪いとは言いきれないような、でもそんなにいい匂いでもないような、俺の安心できる香りが鼻をつく。連れ立って来た少しの血と金の匂いにはもちろん虫酸が走った。
――いや待てよ。金といえば、よく考えt――考えなくても残金少なくね? さっき鞄二百個分の金使って、酒場で二個分使った。持ってきたのは五百一個だから――二百九十九個分か。うーん…………やっぱ多いわ。
あと三千万ゴールドくらいあるから……まだソロクエストにチャレンジする余裕はある。俺がクエストで死ぬか金が尽きて死ぬか見ものだ。
「あれ、ニーヴェじゃん。ソロクエストはどうしたの?」
そうだった。ギルドに来るとなぜか俺の周りに人が集まってくるんだ。計算しててすっかり頭から抜けてた。
「すごく早い帰還だよね。まさか本当にスケイオ倒したの?」
うぅ、人混み気持ち悪い。
「誰かに助けてもらったんじゃない? さすがに白魔導士一人じゃ無理でしょ」
「しかもニーヴェくんだよ? 自強化できないんじゃあ、ねぇ?」
うるさい、うるさいうるさい! どいつもこいつも憶測でものを言いやがって。大概合ってるのがまたムカつくよ。
「で、本当のとこどうなんだよ?」
あぁ良かった。話を聴いてもらう余地はあるようだ。本当はこんな所で時間を潰している暇などそんなになかったことをこの時気づいていればさらに良かったんだけど。
「えっとね。クリューっていう光の騎士に出会って、なんだかんだあってクリューに一人でスケイオ倒してもらうことになって」
「なんだかんだ」を話すと長くなるしこの後の話で俺が手伝ったことを知られてパーティ参加希望だと誤解されるのが困るので今後の保身のために割愛。
「クリューって……あのクリュー・ポース?」
いやファミリーネームまでは聞いてないんだけど。適当に答えとこう。
「そうそうそいつ」
「え、あの三大闇脅威の全てで最高勲章を授与された?!」
おぉ、すげぇ。適当に言っても当たるもんなんだね。というか今回のは超有名人だったってだけか。
ってちょっと待ったぁ! 俺のお陰でが抜けてるでしょうがぁ! まぁ誰も知らないだろうけど。本当悲しいなぁ。こういうシチュエーションになると今すぐこの役職辞めたくなるけど、そうするとあと何生涯か遊んで暮らせなくなるから辛い。
「それで、クリューはスケイオを倒せたの?」
ここは粛々と事実を伝えることにしよう。別に褒めてもらいたいって訳じゃないけどまぁ事実だし?
「余裕で倒せたよ。俺が魔力増強魔法と攻撃力強化魔法と攻撃範囲拡大魔法を頑張って唱えたお陰でね!」
ちゃんと伝わった。絶対に。その確信には一片の不安もない。
「ほんと?! クリューすごーい!」
は?
「クリューってやっぱり王国の剣だよね〜」
いや違う違う――え? なぁおかしいって。俺は?
「あの……俺は? 俺結構やったよ? 舌攣ったんだよ?」
さぁ早く俺を褒め讃えよッ! 俺の舌が報われるように早く!
「でも直接じゃないじゃん」
「そうそう。それにクリューだけで倒せたと思うし。余計なお世話だったんじゃない?」
もうこいつらと話してても無駄だわ。なんで今まで気づかなかったんだろ。さぁてさっさとクエスト受けますか。
「アズ、カウンター行こ――」
「――ニーヴェくん、アズちゃん、いる〜?」
やばい考えうる中で今一番要らない出来事が起きた。
「アズっ!」
「わかった!」
ここは俺が食い止めるッ! だからクエストを頼んだ! そんなアイコンタクト。ジェスチャーはなぜか伝わらないけどアイコンタクトなら伝わるもんね! はっはっは、見たかぁっ! これが俺たちの力だ。クリュー、お前から逃げることなんて誰かを矢面に立たせてスケイオを倒すより簡単なんだよ!
「はははっ。ちょっとみんなと楽しくお話してたら時間を忘れちゃってさ――ゑ?」
なるほど納得。こいつも俺と同じ境遇に置かれたわけか。
「ねぇクリュー。スケイオ倒したって本当?」
「勲章貰ってきたの? 見せて見せて〜!」
「すげえなお前。俺らとパーティ組まない?」
しかしクリューは威厳だけはたっぷりに群衆を腕の動きで制すると、言い放つ。あ、なんか嫌な予感。
「私はニーヴェくんと組むから。ごめんね!」
そう言って厄介者は俺に下手くそなウィンクをする。
「え、えーっと、その……」
こういうの本当に困る。なんでこうなるかな? 本当俺の周りって面倒なやつらしか集まってこないよね。その面倒なやつらからの面倒な視線が俺をその場に固定する。
「ニーヴェ! 受注できた!」
よし来た! 視線がアズに向いた一瞬でアズと共に出口に向かって走り出す。
「え、ねぇニーヴェくん! 待ってよぉ! 約束じゃん!」
ごめん。約束は守らない主義なんだ。バイバイ。またどこかd――やっぱできれば二度と会いたくない。
走り出した勢いそのままに王都から出て来た俺たち。俺だけゼェゼェ言いながら、自分のことなのでとりあえず確認。
「それで、どんな、クエスト、受けてくれたの?」
ここで初めて既視感を感じる。やらかした。またこいつに頼んでしまった。いや、今のアズはもう前の鬼じゃない。さすがに反省してくれているさ。
「えっとね、これだよ!」
俺が走りながら唱えた体力増強魔法が効いたのか、汗ひとつかいていないアズは元気よく答える。
「どれどれ――『赤空龍の討伐』。ふむふむ。なぁアズ。ナメてんのか?」
赤空龍――エリュトロンは、レウコンから片道丸三日かかる距離分離れた山の上に巣を作り、その圧倒的な強さで他の龍を従える親玉だ。そいつの何が悪いのかと言うと、騎士を見つけると毎度毎度勝負を挑み、燃やし尽くすところだ。
エリュトロンは火属性持ち。だがその被害者の中には、過去に火属性魔獣討伐クエストで最高勲章をもらった経歴を持つ騎士をはじめ名のある騎士たちがざっと全騎士人口の二十分の一ほど。
もう、叫んでいいですか?
「なんでこうなるんだよぉぉおおおおおおっ!」
ということで俺の無理ゲーソロクエストクリアの旅が始まった(二回目)。




