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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい  作者: 氷華青
第一章『ソロクエストに必要な物は勢いです』
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第六話『目当ての剣は破格です』

 まずいな。本当に王都が目に入ってきた。早くしないと。


「それで、話って何?」


 ワクワクしながら囁き声でアズが訊く。


「逃げるんだよ。王都までついて行くのは――まぁ時間をどぶに捨てるだけで済むけど、さすがにクリューが勲章もらうところを見たいとは死んでも思わないからね」


 「時は金なり」ってよく言うじゃん? だから時間を溝に捨てるってことは金を捨てるのと一緒。でもさ、俺たち酒場で金を溝に捨ててるからもう慣れっこなんだよね。


 同じく囁き声で返した俺に、アズは少し不満げな表情を浮かべるも胸を撫で下ろしたようだ。


「良かった……このままクリューちゃんとパーティ組んじゃうのかと思ったぁ」


 そんなことは絶対にない。俺が今俺として生きている間にはもちろんないし、生まれ変わってもクリューの生まれ変わりとは違う世界線に生まれてやる自信があるから絶対にない。

 違う世界線があるかどうかなんてわからないけど。あ、ちなみに全然伏線とかじゃないからね?


『登場人物がそれ言っちゃダメでしょ!』


 どうした天使ニーヴェ。また出てきたと思ったらわけのわからないツッコミしに来たのか? 頼むからどうでもいいことで脳内を荒らさないでくれ。


『あ、ごめんなさい……』


 なんだ、聞き分けいいじゃん。さっすが天使。出てきたのが悪魔ならこれの十倍くらい時間かかってたぶん王都に着いてた。

 てかまた脱線してる。()()()()()()()。「アズごめん。俺の脳内ではいつも戦争が起こっててたまに黙っちゃうんだ」なんて言ったらヤバいやつだって思われてしまうだろうな。元から思われてるだろうけど。

 はい休戦。アズと話を続けよう。


「それでだけど、どうやって逃げる? 俺は王都で人混みに紛れようとしてるんだけど」


 我ながら自信のある作戦。一応訊いたけど、アズになら賛成をもらえると思っている。

 アズはその真ん丸な双眸を輝かせ――そこまでは良かった――それから軽蔑の表情をあらわにした。


「ニーヴェの戦闘スタイルみたいに地味な作戦だね。それで上手くいくなら苦労しないよ」


 なんで。俺の自信作。こんなにバッサリ斬られちゃうの? 今ので心が大損害受けたんだけど。修理費はどこから出るのかな?


 なるほど一瞬目が輝いたのは俺を軽蔑できることへの喜びか。このサディスティック女め。同じくサディスティック白魔導士に侮辱が効くとでも?

 ――ちょっと今から家買って引きこもろうかと思ったほど心にぶっ刺さっただけだから。


「じゃあアズはどうしたいんだよ? 何か代替案あるんですか? あるなら言ってみなよ。ほれほれ〜」


 これでもかというほど煽る。どうせ無いんだろ? 無いくせに文句だけは言う。俺こういう人嫌いなんだよね。


「クリューにはちょっと用事があるって言って一旦ギルドに向かって、王都でソロクエスト受けたらいいじゃない。一旦受けちゃったらクリューも何も出来ないでしょ?」


 あ、あったのね……。これ煽った方が恥ずかしいやつだ。しかもめちゃくちゃいい案だし。俺こういう頭回る人大好きなんだよね。


「すっごい名案じゃん。じゃあそうするか」


 得意げなアズ。こればっかりはそういう態度でも文句を言えない。


「おーい! ついたよ〜!」


「うるせ――ゴホンゴホン。りょーかい、今行く!」


 危ない本音が出るところだった。


「さっき本音が七割くらい出てたでしょ?」


 やっぱりアズは侮れないな。こいつを敵に回したらどうなることやら。たまに敵に回す時もあったりするけど。




 王都レウコンの門をくぐると、すぐに商店が連なる街道に入る。人混みは嫌いだ。やばい、吐く。病む。ニーヴェくんついに発狂しちゃう。


「と、とりあえず武器商店を探さないと……」


 苦しさを我慢しながら二歩ほど先を歩くクリューに言うがたぶん聞こえていない。あんにゃろう。


「……アズ。クリューを連れてきてくれ」


「いいけど……。どこにいるの?」


 え。アズ、もしかしてあのバカ豪華な鎧が見えないの? 俺が知らん間に協力したおかげでもらえたお金をふんだんに散財した感満載の鎧を見つけられないとでも?


「いるだろ。ほらあそこに……あれ、いない」


 嘘でしょ。さっきまでいたじゃん。どこ行ったのよマジ。まさかクリューに人混みに紛れられるとは想定外だった。


「もぉぉぉぉ、なんでこうなるかなぁ?!」


 もう怒りで苦しさも吐き気も忘れた。アズの手を引きレウコンの中を捜し回ることにする。


「えぇ、ちょっと! ニーヴェ、積極的すぎるよぉ」


 アズが何か言っていたのはわかったけど雑踏の中に消えて何を言っていたかは聴こえなかった。




 靴屋。職人らしき髭のおじさんと俺と同じくらいの歳の青年がいるだけだった。


 武器屋その一。店主の太ったおじさんと熟練っぽいハンサムな剣士と剣の一つを物欲しそうに眺める少年がいただけ。


 薬草屋。怪しい老婆がいるだけだったしとにかく胡散臭かったからすぐに退出。


 武器屋その二。店主の刈り上げのおじさんと若い弓使いの女性がいた。


 防具屋。誰もいなかったんだけど大丈夫かな。よし、今度ここに来た時はここを人混みからの避難所にしよう。


 いつの間にか立場逆転、アズに手を引かれて必死の抵抗虚しく再び人混みの中へ。もう涙目です。


 武器屋その三。店主の若くて背の高い男性と剣の一つを執拗に眺める目立つ鎧を身につけた美少女がいただけ――うおっとぉ?!


「クリューちゃん!」


「見つけたぞ!」


 こんなことくらいで達成感を覚えている自分には後でお仕置きだ。できることなら。


「あ、二人とも遅いよぉ。ずっと退屈だったんだから〜」


「その割にはその剣眺めて楽しそうだったけどな!」


「ま、まぁね……あはは」


 もう面倒くさいから早く購入して逃げよう。


「ほら、それでいいんなら早く買おう。勲章、早く欲しくないの?」


 めちゃくちゃ優しく急かしたつもりだった。今回ばかりは従ってくれると思った。


「えぇー、もうちょっと他のも見せてよ〜」


 ただ、それでも上手くいかないのがクリューということだ。というかさっきまで一緒のやつずっと見てたろ。そんな暇あったら他のも見とけよ。


 イライラ時限爆弾・ニーヴェくん危機一髪のカウントダウン開始。


「わぁ。これもいいなぁ」


「これすっごく綺麗!」


「これ切れ味凄そう! 買おうかなぁ……うーん、やっぱやめた! 次、次〜」


 えっと……もうすぐ爆破ですけどクリューさん大丈夫ですか? 横のアズもイライラが募ってきている様子。


「うーん、どうしよっかなぁ。よし、決めた! あ、でもやっぱりやめた!」


 プッチーン。


「テメェいい加減にしやがれボケぇぇぇっ!」


 もうそろそろ怒っても許されると思う。ここまで来て俺が悪いなんて言う人はいないでしょ。


「ひぇぇぇぇごめんなさぁぁぁい! これにします! だから許してえぇぇ!」


 効果は抜群。今度からは初めからブチ切れた方が良さそう。たぶんそんなことしてたら頭の血管いくつあっても足りない。


 もう待ちくたびれたので店主の元へダッシュ。


「これお願いします」


「あぁ……これね」


 売り物じゃないとは言わせない。剣の相場は一万ゴールドほど。もしそう言われたら何十万でも何百万でも金積んで無理やり買う。その方が早い。


「――二千万ゴールドになります」


 えっと……さっき何百万とか言ったけど、それを超えてくるのやめてくれる? こんな買い物初めてなんだけど。えーちょっと迷っちゃうなぁ。


「アズ、ちょっと来てくれ」


 クリューと一緒に他の剣を見ていたアズを招集。


「鞄を……貸してくれ……ッ!」


 本当ならやりたくなかった。でもさっき確認したところもう俺の鞄は空っぽ。どうしても()()()()()()()()()が必要だった。


「あぁ……それじゃ足りなかったのね……はい」


 呆れながら渡してくれるアズ。そりゃ呆れるわ。俺だって呆れてる。こんなことになるくらいならイルヴィーに食われることも考えた。


「二千万ゴールド、ありますかね……?」


 たった二つの鞄しか持っていない俺を心配するような店主の言葉。安心しろ、金ならある。ただ大金すぎて出すのを躊躇ためらってるだけ。


「あるよ。ちょっと時間かかるから手伝ってくれるかな?」


「あ、はい、それはもちろん! 何を手伝えば……?」


 そりゃ困るよね。アズにもらった方の鞄を台の上に置き、開ける。


「鞄……いっぱいですね」


 そう。鞄の中に鞄。そしてさらにその中の鞄を一つ開ける。


「袋……いっぱいですね」


 そこから袋を一つ出して開ける。


「金貨……え、もしかしてそれ全部金貨袋ですか?!」


 あーそうだよ。さてと。あと二人ほどお手伝いさんをお呼びしますかね。


「アズ、クリュー。早く買いたいからさっさと来て手伝ってくれ」


 だって今から一つにつき千袋入ってる鞄を二百個出すんだもん――地獄の作業だよ。




「ふぅ〜終わった終わった!」


 てめクリューなんもしてなかったろ。


 いやもうほんとに色々どうでもいい。よっしゃそろそろ作戦決行ってことで。俺とアズのアイコンタクトは――成功したことを願うばかりだ。

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