第五十一話『クズ白魔導士は頭の切れるクズです』
ザワつく戦場。
「ニーヴェくぅんっ?! 僕は君を信じていたんだよ?! そんな簡単に王国を捨てられちゃ困るよ?!」
黙れ人格信号機。今俺は猛烈に助かりたいんや。
「ニーヴェさん?! 今すぐその言葉撤回してください! 焼き払いますよ?!」
うるせぇイグナ。さっきまで気配殺してたくせに急に何言ってんだ。
「…………えっ? おう、こく、いいの……? そんな簡単に……?」
いやお前はどうしたんだトゥローネ。びっくりしすぎて口調が変わってんな。
「おい、あいつも反逆者だ! ニーヴェルングを殺せ!」
ひゃー、こ、殺される! 今すぐ騎士団にも土下座しないと。
「ん……?」
トゥローネの辺りにすさまじい気配。見ると、彼のポカンと空いた口から黒い煙のようなものが出てきている。
『ちょっと待ってくれよニーヴェルング。もう少し楽しもうぜ?』
その煙の先端部分には、赤く光る目とギザギザの口があった。なるほど、こいつがトゥローネに取り憑いている魔獣か。
俺は何かの機会があれば、こいつを引きずり出して叩こうと思っていた。
モニカの神話の本に、人に取り憑く魔獣の対処法は取り憑かれた人を驚かせて口を開けさせることだって書かれてたけど、まさか土下座したら出てきてくれるなんて。スーパーニーヴェ平謝りも馬鹿に出来ないね。
ちなみに土下座が最後の手段だったことは誰にも言わない。
「ひ、ひぃ〜! 魔獣だ〜! おい、そこのクソ雑魚騎士団ども、あの魔獣を殲滅しろ!」
クソ雑魚騎士団なんだったら頼るなよ。
黒い煙がトゥローネの口から出切ったことを視認して、俺はレウシスよりも的確な指示を出す。
「クリュー! クリュー・ポース! いるだろ?!」
俺が騎士団の間を通ってこの戦場に来る途中、視界の端に捉えた金髪の少女。あれは、クリューに違いない。
「いるよ、ニーヴェくん!」
「お前ならやれるだろ、あいつを叩き斬ってくれ!」
幸い、強化魔法はもうかけてある。さっきまでの戦いで詠唱していたのは、俺の強化をする魔法じゃない。
当然だろ、俺は自強化ができないんだから。
さっきまでずっと俺は、クリューの強化をする魔法を詠唱していたんだ。
「わかった!」
『ちょ、ヤバいって。まんまと罠にかかってしまったんだが?! 俺っちこいつの体内に戻るのに、あと三十分かかるんですけど?!』
ラスボス感あるくせに、さっきからその口調はなんなの。魔獣って変なやつばっかり。てか体内に入るの結構重労働なんだな。
俺が心の中でツッコんでいる間に、クリューは煙の魔獣に飛びかかる。魔力増強に攻撃必中。クリューを強化する際のテンプレートだ。
クリューの無駄に豪華な剣が眩く輝く。
「キラキラの光よ、私の剣に纏え! やあぁぁぁっ!」
「クリュー、いっけぇぇぇぇっ!」
相変わらず詠唱がガキのそれだけど、まあいいや。俺が強化したんだから大丈夫。闇の三大魔獣だって、スケイオだって俺たちが倒したんだ。
俺はバフ魔法だけが最強の白魔導士。俺と組んで、勝てないやつなんていない。
『うわあああああああっ!!!』
煙の魔獣は光にかき消され、俺たちは眩しさに目を瞑る。
そして再び目を開けると、煙の魔獣は消えていた。
「ここは、どこなんだ……? 俺は――トゥローネ。トゥローネ・シュッツァーだ。良かった、覚えているぞ」
なんか前も見たぞ、このくだり。
「シュッツァーという名の我が奴隷よ、ようやく魔獣からは解放されたか?」
いつも誰に命守ってもらってると思ってんの、この国王。感謝をしろ感謝を。
「はっ、国王陛下。どうやらあなた様にはご迷惑をおかけしていたようで、申し訳ございませんでした。騎士たちも、すまなかった」
「ふん、それならいい。塵は塵らしく、さっさとつまらん任務に戻れ」
めちゃくちゃ安堵した顔してるのに、言葉だけはクズ野郎なの意味わからん。
「さて、クリュー・ポースよ。そなたには報酬を与えねばならんな」
王様スイッチ入りましたー。そんでやっぱりクリューだけかよ。
「あ、あとニーヴェくん。エリュトロンを倒した報酬を渡さないとね!」
「……え?」
ちょっと待って待って待って。
………………え?
「あのぉ、報酬、もらっちゃっていいんすか?」
「うーん、そうだなぁ。でも報告があんまり信用できないっていうのもあるし……」
テメェ俺のことを信じてるのかそうじゃねぇのかハッキリしやがれ。信じてねぇのによくここに呼んだもんだ。
「ってことで、トゥローネくんに勝ったら、報酬あげてもいいよ!」
レウシスは満面の笑みでグーサインをする。ぶっ殺すぞテメェ。
「ぶっ殺すぞテメェ」
おっと本音が。
せっかく魔獣倒していい感じに終わってさ、ようやく仕事落ち着いてゆっくりできると思ってたのにさ、結局トゥローネと戦わなきゃなんないとかもう最悪なんですけど。
一回いい感じに戦闘イベント途中でキャンセルしたじゃない。なんでもっかい再開させようとすんの?
「でも、僕を殺すにはまず、僕を守る騎士を倒さないといけないよ?」
「すっごい道理にかなってる! じゃあやります!」
我ながら長いものには巻かれるタイプの典型してんぞニーヴェくん。
「ニーヴェルング。実はずっとお前と手合わせしたいと思っていたんだ。お前がエリュトロンを倒したという十割がた虚偽のような報告を聞いてな」
せめて一厘だけでも信じてくだピィ。
「俺が勝ったら、認めてくれるか?」
「当然だ。まあ、俺に勝てるはずはないだろうがな」
「わーいニーヴェさん頑張ってくださいー」
わぁ、すごく適当なイグナとリオンからの応援だぁ。あいつら後でシメる。
「トゥローネさん、やっちゃってください!」
「反逆者を滅多打ちにしてください!」
「灰にして農場に撒いてしまいましょう!」
そっか、まだあいつらにとっては反逆者なんだね。レウシスは神話のこと知ってたみたいだけど、この人たち全然知らないんだね。
てか何ここ、完全アウェー?
「準備はいいな、ニーヴェルング?」
「トウのゼンよ」
「モチのロン」みたいに普及させたい「当然」の言い方。
「陽より強力なる灼炎よ、火球となりて、ニーヴェルング・ヴァイスを灰燼と化せ! デスファイアボール!!」
「途中までいい感じだったのにカタカナ来たせいでクソダサくなっちゃってる!」
ツッコミを叫びながら、高速で襲い来る火球を避けて回る。
魔獣に取り憑かれてた時より強力な気がする。もしかしなくてもあの魔獣、人に取り憑く能力以外は大したことなかったな?
てか本当にヤバい。土まみれだったローブをさらに土にまみれさせながら、走って転んでの繰り返し。
「大気よ、急速に流れて風となれ! ニーヴェルング・ヴァイスを身動きの取れぬ状態にせよ! ミウゴキ・ストーム!!」
「最初からダサかったけど、ミウゴキ・ストームはさすがにダサさがカンストしてて、もはや詠唱が成り立ってるのかどうかもわからん!!」
しかし、ちゃんと暴風は吹いてくる。ところどころ焦げているローブが、風にはためく。目を開けられない状態で、名の通り動くことができない。
「くっそ、こうなったら――」
頼るように、手が剣を強く握る。主人公ってのはね、こういうところで成長するんですよ!
「雷よ、ニーヴェルング・ヴァイスの剣に纏え!」
お察しの通り、一番簡単な魔法です。
そういえば、目が見えないから魔法が発動してるのかわからないんだけど。
「トゥローネ! 俺の魔法、発動してるよね? 剣に雷纏ってるよね?」
「ふざけてるのか? お前が握っているのは、何の変哲もないただの剣だぞ」
あれぇ、おっかしいなぁ。
「いやあああああああ助けてぇええええっ! 万策尽きまじだぁあああああああっ!!」
なんでいっつもこうなんでしょうか。




