第四十九話『49は7の2乗ですがそんなこと関係なく話は続くのです』
じゃあホワイトエルツ購入しますか。
「そんじゃあホワイトエルツと……あ、神様は『神の賜物』要らないの?」
するとモニカはそんなにないこともない胸を叩く。そんなにないとはいえないくらいにはあった。って、そんなことばっか思ってるとまた変態って言われるからやめとこう。
「私には必要ない。私の水魔法は完璧だからな」
「もっかい言ってみろ、埋めるぞ?」
「あのぉ……床が破れるので中ではやめてくださいね……?」
「外ならいいんかい! 私は神だぞ?! 神が地中に埋められてもいいと言うのかお前は?!」
恥ずかしいからその実力で周りに「自分は神だ」って言わないで。
「まあこいつは無視しといて……水魔法を強化するためのエルツってどんなのがあります?」
「あ、紹介いたしますのでこちらに来ていただけませんか?」
やっぱり水魔法強化用のはたくさんあるんだな。白魔法は強化しか出来ないけど、水魔法は攻撃に、防御に、回復に、生活にって、めちゃくちゃ汎用性あるしな。
店の人に案内されたのは手前から二つ目の棚。青色系の綺麗な石がたくさん並んでいる。
「こちらはブルーエルツ。水魔法による攻撃を強化します」
女の子が差し出したのは、ちょっと表しにくいけれど、青色といえばこんな色! って感じの青色の石。喩えない方がまだマシだった。
「これを使って、例えばどんなことができるの?」
「例えば……そうですね……」
「そんなことも知らないのか、ニーヴェルング。これはな、攻撃魔法を増幅して、威力をあげたり、射程を向上したりするんだぞ」
「絶対嘘だろ、知ったかぶるのやめとけ」
「あ、はい、そういう感じです!」
「ごめんなさい神様」
モニカの勘って当たるんだね。
「でもそれだったら俺が強化すりゃいい話じゃね?」
「まあ、それもそうだな。他にはどんなものがあるんだ?」
少女は隣の棚に移動し、空色のエルツを一つ掴む。そしてそのままこちらにそれを向ける。
「こちらはスカイエルツ。これを掲げると……」
彼女はスカイエルツを持ったまま、腕を上に動かす。
すると、彼女の前に氷の盾が作られる。
「おわ、すげぇ!」
「防御用か。土魔導士がいるに越したことはないが、これだけでも命はいくつか拾えそうだな」
護身用はいくつあってもいいですからね。
「よし、モニカ。これは買おう」
「というかニーヴェルングよ。なぜお前は防御力を上げるバフが使えないんだ?」
「そんなこと一言も言ってませんよね?!」
ほんとひどいなぁもう。そんな事実あるわけないわけないじゃないですか。
はっはっはっ、今引っかかったやつは静かに手挙げな。
「言ってないが、使えるならとっくの昔に使っているだろう?」
「防御力アップは土属性の魔法なんだよ! 白魔法って不便!! だからスカイエルツは購入確定!」
「ニーヴェルング、それは購入してもいいが、せめて安らかに眠れ……!」
なんで死ぬ前提なんだよ。死なないためのエルツだろうが。あ、それを使うこと考えてる時点で雑魚ってことか。これは一本取られましたな。
「次はこちら、『エルツオブグレートアクアラピスラズリインディゴブレンドオールマイティアルティメットアビスデイライト』です」
「いや長ぇよ! 四十九文字って何?! この世で一番長い名前じゃねぇの?! エルツに世界記録保持させんな!」
「いえ、一番長いのは三四六八文字です」
「なんでそんな名前つけんだ、暇か!」
「あはは……それで、どうされますか? エルツオブグレ――インディゴエルツはご購入されますか?」
ほら略してる。確定で略されるような名前つけるのはやめた方がいいよ。
「待ってくれ、ホワイトエルツとスカイエルツ一袋ずつで充分だ。空いてる手がなくなる」
「だな。私は持ちたくないし、ニーヴェルングに三つも手があるわけでもないし」
大容量カバンはあるけど、護身用のは肌身離さず持っておきたいから。それとお金無いし。それとモニカ一回表出ろ。
「あ、了解致しました。それではお会計まで!」
紙袋いっぱいに空色と白色のエルツを詰め込んで、俺たちは会計所に向かう。
「合わせて四百ゴールドになります」
「ピキャア」
お金が……飛んでいく……。そういえばお家売り払った時のお金、まだ貰ってないんだけど? 騙されたっぽいな。
「どうして……なんで俺だけこんな目に…………」
崩れ落ちた俺の肩を、モニカが叩く。
「よくわからないが、頑張ったな、ニーヴェルング」
「わかんないなら同情するな。ってことで神様お金ください」
必殺、スーパーニーヴェ・土下座・デ・物乞い。これを食らった者は俺に対して投げ銭したくなるという究極の乞食技だ! ギェーヒャッヒャッヒャッ、視界が潤んで見えるぞ。
「急に物乞いとかどんな文脈だ?! 私も実は無一文で下界に降りてきたから、お金全く持ってない……」
「悪いことは言わないからここでお別れしよう。あいにく俺の財力じゃ君を連れていくことは」
「まあ待て。それなら私に案がある」
「なんだと水属性の魔法で泉のように金貨を沸き立たせるだと?!」
やるじゃねぇかモニカ。さっすが女神。
「それは水魔法関係あると見せかけて全く繋がりないやつ!! 出来るわけないだろ!」
でしょうね。
「で、本当は何?」
「このまま空間転移魔法で西の街まで飛ぶ」
「………………………………ほぇ?」
空間転移魔法ってなぁに?
「なんだ、ニーヴェルング。まるで空間転移魔法のことを知らないとでもいうような顔、もっと言えば絵心のない者が手抜きで描いたような顔をしているな」
何、今俺の首から上ってそんなに点のような目と半月みたいな口だけあって髪の毛すらないの? しかもパーツのバランスでたらめなの?
「誰が手抜きの被造物じゃボケェ! ちなみに空間転移魔法の説明をしてくれたら俺の怒りは収まります!」
「なんて収まりやすい怒りなんだ……もはやそれは自分が手抜きの被造物のような顔だということを半ば肯定しているとしか――いや、なんでもない。空間転移魔法とは、その名の通り空間を行き来する魔法だ。移動に長けた風属性の魔法の一種だぞ」
たぶん途中で話を変えてくれたのは俺のキラキラ笑顔のおかげ。これも俺の必殺技。笑顔と土下座じゃスライムすら倒せないのも納得だわ。
ちなみに俺、自分でいうのも何だけどそんなにブサイクじゃないのよ?
「ちょい待って、なにゆえそれを早く言わない?」
「いや、だってエルツ買うって言うから」
「じゃあもうエルツ買ったんだし、今すぐ行こうぜ」
この先の道、正直何の用もないからね。ショートカットとか最高かよ。
「あ、ちなみにこの魔法、三回に二回は命を失うから注意し」
「何それ?! そんなにデメリット大っきいの?! 俺の悪運からすると三分の二を引くの確定演出よ?!」
めっちゃ矛盾してるけど。でも三分の二イコール一でしょ? 計算合ってるよね?
「よし、そうと決まれば、西の街まで飛ぶぞ」
モニカは青色に光る両手を地面に向ける。すると、青色の線が地面に魔法陣を描き始める。直線が一つ正三角形を作り、すぐにできた二つ目と合わさって六芒星に変わる。まるで生きているように、六芒星の周囲に複雑な模様が描き足されていく。みるみるうちに完成した魔法陣が回転し始めて――
「待った! 俺を殺す気か?!」
「安心するんだ、ニーヴェルング。『イグナとリオンには先に行けと伝えた』と言ったが、実は彼らにはこの魔法を使い、先に向こうに送ってある。彼らは無事だ」
「じゃあ安全な三分の一が消えたってことだよね?! ガチの死ぬやつだってことだよね?!」
あんまり確率のことわからないけど、とりあえず三分の二イコール一っていう等式が成立したってことはわかる。
そもそもモニカの魔法をあてにした俺が悪かった。今までこいつの魔法でいい思いをした経験がほとんどない。嫌な思いはこの数時間にたっぷりしてるけど。
「さあニーヴェ、準備はいい?」
「はあ?! 心の準備ができるまであと五億光年(距離の単位)かかりますけど! いーち、にーい、さーん、死ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!」
なんか体が分解されていくような感覚に襲われながら、俺は心の準備が出来ないまま空間転移魔法を体験した。
いつも応援ありがとうございます。氷華青です!
さて、第四十九話です。五十話まであと一話となりました! (((o(*゜▽゜*)o)))
今回はサブタイトルの「49に関係なく」というミスリードをぶった斬って、エルツの名前を四十九文字にいたしました。名前が長いと不便ですね(おい)。
さあ、第五十話という節目に、ようやく西の街に到着する「はずの」ニーヴェくん!
果たしてモニカの空間転移魔法は成功するのか?!
西の街にいる魔獣とは?!
自強化不可の白魔導士はいいとこ見せられるのか?!
これが完結の挨拶にならないことを祈って、次話に乞うご期待です!




