第四十四話『枕投げチームは反省ゼロです』
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アホみたいに高い損害賠償金を払い、宿どころか街そのものから追い出された俺たち枕投げチーム。
枕投げで街から追い出されるまでいくことってあるんだね。
空はまだ暗く、朝日なんて一生顔出さないんじゃないかって思うくらいだ。
「……ど、どうするんです、これから……?」
「ごめんそれ俺が訊きたい」
「そんなの私に言われたって……」
「私、そういう進路決定とか苦手でして……」
イグナ、お前セコンまでナビゲーターしてたろ?
「と、とりあえずさ、レウコン近いんだろ? そこまで歩いて宿見つけるか?」
王都レウコン。普段ならテッペンにいる王のせいで近づきたくないが、あそこは今なら楽園だ。
「そうするしかなさそうですね……」
元ナビゲーターが頷いたのでとりあえず進路は確定。俺たちは重い足取りで動き出す。明かりこそないが、レンガで整備された道はとても歩きやすい。だが、俺たちには上手く歩けない。
なぜなら枕投げで疲れたからである。
「はぁ……なんで枕投げなんてしたんだろうなぁ……」
「アズ、それは言わないお約束な。何とかして口から出てこないように俺たち押さえてたんだよ?」
「ええっ?! 私は後悔してませんよ? 楽しい思い出が作れましたから!」
少しは後悔しろや言い出しっぺ。
澱んだ空気の中ゆっくり歩く俺たち。後ろを見れば既にセコンの街明かりは見えなくなり、前を見てもレウコンの光など見えない。
歩き続けるしかないか。
…………なんじゃこの重い空気。
「なぁ、ちょっと楽しい話でもしよう。じゃないと俺が潰れちゃう」
「わ、わぁー、いいですね! 話しましょう! 何を話しますか? 私は何でもお話できますけれど!」
あんまり軽く言うもんじゃないと思うぞ、そのセリフ。
とはいえ、アズはずっと黙り込んでるし、リオンもこの空気にあたふたしてるし……イグナと一緒に頑張って楽しい空気を作り直すか。
「んー、例えば、そうだなぁ…………」
やっべ、話題が何にも浮かばん。
「で、では、私がここまでどうやって生きてきたかをお話しますね!」
面白いか、それ……? いや、空気を変えるチャンスにならないことはない。頼むイグナ、めちゃくちゃ楽しい生涯を送っていてくれ!
「私は、レウコンの結構有名な炎魔導士一家に生まれました。マギアス家といえば炎魔導士、炎魔導士といえばマギアス家と言われる程に有名ですし、皆さんもご存知でしょう?」
リオンは何度も頷く。やっぱりちょっとアガってる? アズはまだ頭を垂れたままだ。
え、俺? 聞いたことないよそんなの。
期待していた反応が三分の二ほど消し飛んだ状態だったので、イグナの額には冷や汗が流れる。ほんと、大丈夫か……?
「と、ということで、そんな家に私は生まれました! 十二歳までは魔法教育を受け、その後に超一流の光魔導士さんの元に三年間、パーティのメンバーとしていさせていただきましたし……」
「え、すげぇじゃん! なんであの時、あんなフュールとかいうザコのパーティにいたんだよ?」
「もちろん、三年目にボロが出たからに決まっています!」
そんな元気よく言われても。
「……よく三年間もちましたね…………」
「私、ただ単に魔力の大きさと家柄だけで選ばれたんです。ですので、簡単な魔法しか使わなくても勝てる初めの方はまだ大丈夫でしたが……相対する魔獣がどんどん強くなってきて、最終的に魔力を暴走させちゃってエラい目に遭わせてしまいました……」
光魔導士さんのご冥福をお祈りします。
「あの、ニーヴェさん? 拝んでますけどパーティの方々に大事はなかったですからね?」
「よ、よかった……」
俺はあの森の恐怖を生涯忘れない。
「てか、楽しい空気にはならなかったな!」
そこ大事。パーティ追放とか逆に悲しくなってきちゃうだろ?
俺はちょっとブルーな気持ちになったし、リオンだってデフォルトなのか知らないけどしょんぼりした顔してるじゃん? アズはずっと俯いてるけどそろそろ心配になってきた。
「アズ、大丈夫か?」
「ん?! うん、だ、大丈夫!」
怪しいじゃねぇかアズさんよぉ。乙女の悩みでも抱えてんじゃないの? もしそうなら、俺は相談に乗れないからイグナの意見を聴いてみたらってだけ言うよ?
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だって〜。それ以上詮索したりしたらほっぺた無くなっても知らないよ?」
「あはは、そっかぁ。何にもないんだね〜」
めちゃくちゃ怖ぇっ! 俺たちさっきまでよく笑顔で話してたな! 心臓止まるかと思ったわ!
「あ、あの……時短方法を思いついたんですけど……聞きます……?」
「さっさと言えやボケナスぶっ飛ばすぞ」
あう。咄嗟に出ちゃった。俺めっちゃ明るい笑顔だったのに。言葉と表情が一致してな――あれ、さっきもそんな感じだったよね? もしかしてこの四人って言葉の棘は笑顔で相殺されるって思ってる人たちの集まり? 少なくとも俺は棘が届けばそれで良かったから勝手に動いた表情筋を恨んでるんだ☆
「そろそろリオンさんが恐怖でしぼんじゃうので一旦ニーヴェさん黙ってもらっていいですか?」
そりゃ手のひらに火球乗せながら言われたら誰でも頷きますよぉ。
「さあリオンさん! お願いします!」
「ぼ、僕が魔獣を召喚して、それに連れて行ってもらうのはどうですか……?」
「泥まみれになるのは嫌だ」
「まだネッセスと決まった訳ではないですよ?! 僕がネッセスしか呼び出さないポンコツ黒魔導士だとでも?!」
いや、魔獣召喚できる時点で黒魔導士の域超えてるのよあなた。
「んなことはないけど……じゃあ何を呼び出すの? 俺が知る限り最速はネッセスだけど」
「ニーヴェさん、そんなのじゃ立派に魔導士やってるとは言えませんね……! 私はもっと速い魔獣を知っています!」
おう、立派に魔導士やってない人第一号がどうした?
「ほぉ、言ってみろよ。本当にいるんならだけどな!」
「い、言えますよ! えっとぉ、あの魔獣ですよ、あの魔獣! 名前は、確か……うーん…………」
「ねぇ、ちょっといい?」
さっきまでずっと黙り込んでたアズちゃん、満を持してご登場か。どれだけ面白いこと言ってくれるんだろうか。
「な、なんでしょうアズさん! できれば結構長めの言葉でお願いします!」
こいつやっぱ知らねぇな。アズの無意識の助け舟に完全に喜んでるやつだな。
「んーと、そんなに長くはないんだけど……とりあえず、魔獣とかなしで歩いていきたい……かな」
「何それボケたの?! ボケてないの?! どっちでも今一番要らなかった発げゔぁふっ!」
何でだろう、鼻の標高がマイナスになった気がする。
「……ぼ、僕はそれでも大丈夫ですよ……魔獣召喚には嫌な思い出がいくらかありますから……」
「そうと決まれば、元気にレウコンまで歩いていきましょう!」
アズはほっと息をつく。何で? ただ非効率なだけじゃん! 早くレウシスのとこ行かないといけないのに、これじゃ全然着かねぇよ!
まぁ、アズはレウコンで一旦お別れだし、もう少し長く冒険していたいのもわからなくはないけどさ……。
それとイグナは話の流れ変えれて生き生きしてんな。
「ちなみにイグナ? ネッセスより速い魔獣って何だよ?」
「ま、まだ忘れてませんでしたか……ちなみに、もし、もしそんな魔獣がいなかったらどうします……?」
そんなの決まっとるじゃろうが。
「お前をレウコンの道の中に沈める」
「せめて水中にしてください! 途中で体が木っ端微塵になるじゃないですか!」
それじゃあとりあえず、このまま歩いてレウコンまで行きますか。




