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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい  作者: 氷華青
第四章『ソロクエストの次は王様のパシリです』
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第四十三話『枕投げは程々にするものです』

「はぁ、はぁ、はぁ……なかなかやるじゃねぇか」


 粉塵が舞う中、俺はそう呟いた。ここは戦場。一寸先は絶え間なく舞い続ける茶色い塵に邪魔されて見えない。


「うぎゃっ?!」


 近くで衝突音と、気の抜けた断末魔が聞こえた。


「大丈夫か?!」


 共闘していた少年は、気を失って床に倒れ伏している。もうダメか……? いや、まだいける。俺はまだ戦える。


「くそっ、こうなったら……」


 俺は全てを懸ける覚悟を決めた。



*****



 怯えるアズ、イグナ、リオン。彼女らに背を向け、俺は素早くベッドに向かう。

 茶色い塵で把握しにくい状況の中、何とか(ぶき)を掴む。


 今からここは戦場だ。俺はこの(ウェポン)を使い、自らに降りかかった不条理への報いを行う。

 俺のことをバカだとか、利己的だとか、イタい奴だとか思うかもしれない。だが俺は、何としてもやらなければならない。

 なぜなら俺は、キレているのだから。あと、ものすごく恥ずかしいのだから。それとイタい奴だと思うのだけはやめていただきたい。


 粉塵の奥に人影を発見。目標は数歩先。


「うぉりゃぁぁぁあああ!」


 肩を回して、力強く掴んでいる枕をタイミングのいい所で放す。


 さて、そろそろ衝突音と共に目標人物が痛みのあまり床を転げ回る音が聞こえてくるはずだが。


「あ、飛んできましたね……おりゃっ!」


 あれ、イグナの声は聞こえたし、たぶん当たったんだろうけども床を転げ回る音が全然聞こえない。


「ふふっ。ニーヴェさん、枕投げ弱いですね」


 不気味な笑みを浮かべながらこちらに近づくイグナ。その腕にはさっき俺が投げたはずの枕が抱えられている。


「なに……俺の投げた枕を、キャッチしただと…………?」


「はい。結構余裕でしたよ? ニーヴェさん、枕投げ、()()()()()


 めっっっちゃ強調してくるじゃん! なんなの、俺って枕投げまで弱かったの?


「おかしいな……俺、幼少期は枕投げ強かったのになぁ。『ニーヴェ元帥』とか呼ばれてたし。最高司令官だぞ?」


「それって兵力として使えないから仕方なく名誉職を与えられただけでは……?」


 あ、それだわ。


「嫌ぁぁぁあああ! 女の子に枕投げで蹂躙される! 屈辱すぎて死にたくなるぅぅぅううっ!」


 膝をついて、くず折れた俺の耳に口を近づけるイグナ。


「さぁ、楽しい枕投げの始まりですよ?」


 その甘い囁きは、俺にとっては悪魔の笑い声にしか聞こえない。

 再度立ち上がったイグナは、満面の笑みで俺に向かって枕を投げる。


「ばぼっ! 痛てぇっ! この短時間で鉛玉でも込めたのか?!」


 ほんま痛い。内臓飛び出るかと思った。


「くそっ、それなら……」


 イグナに勝てないなら、一番勝てそうなやつから潰す。


「リオンを狙ってやる……!」


 どうも、クズです。


 辺りを見回し、壁沿いに座り込む人影を視認する。そんなポジションとるやつはアイツしかいない。


「おっしゃあリオン、喰らえやぁぁぁあああっ!」


 腕を鞭のようにしならせて、的確に枕を投げる。枕の速度、自己ベスト更新しました。これで攻撃できなきゃ俺はこの戦場で最弱ってことになる。それだけは避けたい。

 ちなみにアズが最強っていうのは確認するまでもないだろ。


「ひえぇぇぇぇえっ!」


 そう叫び声を上げながら、リオンは俺の会心の一撃をしっかりキャッチした。


 ()()()()()()()()()()


「…………なん、だと?」


 あれ、俺死んだくね?


 え、だってさ、三対一でしょ、しかも一が俺で三が他の三人でしょ、さらにさらに三人とも俺より強いでしょ?


 なるほど、これで俺の人生は終わるのか。なんだか走馬灯が見えてきた。旅を始めた時から、スケイオを倒して、スピーテコも倒して、エリュトロンも倒して……結構頑張ってきたんだけどなぁ。

 思えば俺の人生、仲間ってものがいなかったのかもしれ……ん……?


「ワンチャン俺死なない説あるんじゃぼるべじぶぐじょんぬっっっ!」


 まーた鉛玉詰めたみたいな枕が飛んできた。たぶんアズかイグナだろなぁ。起承転結の「転」の辺りで「承」の要素を力ずくでねじ込まれた感じだわ。

 まぁ、んなことは置いといて。


「リオン、俺と共闘しよう! 頑張って女子チームに勝とう!」


 感動的チーム勧誘。俺のまなじりには青春の汗と涙が浮かぶ。涙は枕が痛くて出たってのもある。ともかく、こんなにエモーショナルな勧誘されたら、受けないわけがな


「……一度攻撃されかけたのでお断りします」


「ぼごっ!」


 普通に枕投げられた。しっかり顔面狙ってきよる。


「くそぅ……やっぱ三対一でやるしかねぇのか……!」


 だが、所詮は三対一。こっちよりも向こうの方が三倍の戦力ってだけで――訂正、三倍の数ってだけであって、まだ勝てないとは言い切れない。戦力差は測定不能なくらいあるけど、負けないとは言い切れないんだ! 誰が何と言おうと!


「だからまだ、俺は諦ゔぇっどじょっどっっっ?!」


 決めゼリフを邪魔された。ニーヴェくんに百億万のメンタルダメージ。ちなみに頭の悪いやつってやたらと百億万って数字好きだよねっていう偏見があります。どうも、俺が全世界を代表するバカです。


「はぁ、はぁ、はぁ……なかなかやるじゃねぇか」


 ちなみにさっき頭をやられたから意識が飛びそう。そんな俺の肩に、手を置かれたような感覚が訪れる。はいはい、どこのアズさんでしょうかねぇ? こんな満身創痍の俺の肩に満面の笑みで優しく手を置くのはヤツしかいないんだよなぁ! ということで横を向いて答え合わせ。


「ニーヴェさん、大丈夫ですか……?」


「お前かい! 非協力者が今更何の用だ?! しかも全然大丈夫じゃねぇわ! 枕投げなのに今日一回も枕当てれてないのよ? こんなの『ニーヴェくんをサンドバッグにしようの会』じゃなかったら何だって言うんだ?!」


「ニーヴェ、いいねそれ! 今度から定期開催しようよ!」


 最近声聞いてねぇなと思ったらそこで出てくんのかお前。それと定期開催だけはやめてください。第三回くらいで死者が出て続行出来なくなるからね!


「……ニーヴェさん、協力しましょう……僕も彼女たちに報復をしなければなりません……」


「どうしたんだ急に。ゲロ早い手のひら返しじゃねぇか」


 訊くと、リオンは涙を流しながら言う。


「僕もさっき、バカみたいに天真爛漫な声が聞こえたと思ったら、連続で枕投げまくられてボロボロなんですよぉ……」


「お前そこでダジャレはないわぁ」


「言ってる途中で気づきましたよ! ダジャレを言うつもりなかったですけど!! それに気づいたとしても言わなければよかったんじゃないでうぎゃっ?!」


「リオン! 大丈夫か?!」


 しかしリオンは屍のように動かない。下手したら本当に屍かもしれない。


「くそっ、こうなったら……」


 リオンに活力アップの魔法をかける。さらに、リオンの持つ武器を強化する魔法、塵の中でも視界が良くなる魔法、スピードとコントロールとパワーをあげる魔法もちょい足し(ちょい足しどころではない)する。ちなみに全部詠唱するのに十分くらいかかりました。その間枕を避けるのに必死だったよ。


「リオン! 元気になっただろ! あいつらをまとめて俺らの前に跪かせてやろうぜ!」


「もちろんです! 僕も本気を出します! うぉりゃぁぁぁあああ!」


 俺には全く人影は見えないが、リオンには見えているのだろう。枕はすごいスピードで飛んでいく。意味わからん回転をしながら。これはさすがに取れないだろ!


「イグナちゃん! ヤバいのが来た!」


「アズさん、どうしましょう?!」


 はっはっはっ、俺たちの完全勝利だぜっ!


 あれ、なんかドアが開いた音がしたんだけど?


「てめぇらいい加減にしやがれっ!!! うるせぇし宿ぶっ壊すしでどれだけこっちに迷惑かけてると思ってんだゴラァッ!!!」


 係員さん、なのか……? 豹変してやがる……! 俺ら、そんなにどんちゃん騒ぎしてたのか? 薄々気づいてたけど!


 係員さん登場により凍りついた場の空気が、リオンと俺の合わせ技、「マクラ・ジ・エンド」によって再び白熱する――はずもなく、場をさらにさらに凍りつかせた。


 そりゃ、床に穴空いたらもう誰も何も言えんよね。


 塵の落ち着いた元戦場 (笑) に、俺たちは呆然と立ち尽くす。

 係員さんはこの世で最も明るい営業スマイルをして、


「損害賠償。責任、取ってくださいね?」


そう言いましたとさ。でしょうね。

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