第四十二話『白魔導士の奥義の一つは爽やかスマイルです』
リオンの話の続きによると、グリアに数回殺されそうになったらしいんだけど、グロかったから割愛します。ヤバいわグリア。やっぱり二度と会いたくない。
「まあ、恩人に助けられた僕の話はここまでです。お次はニーヴ」
「は?! 恩人に、助けられた?! ネッセスに殺されそうになったのがたったの一回で、そっから助けてくれたグリアに殺されかけたのが数回だろ?! どこが恩人だよ殺人鬼じゃねぇか!」
「すみません、それでいいです、それでいいですのでニーヴェさんのお話をお願いします」
こいつの感性どうなってんのかわからん。まあいいや。よくないけど。
「よーし、じゃあお待ちかねの俺の話をしようか」
ちなみに内心めちゃ焦ってます。どうやって面白くすればいい……? デタラメ作り上げるか? いや、それはかっこ悪いだろっっ!
「…………」
黙って俺が話し始めるのを待っているリオン。すっごく真面目な顔。え、もしかしてさっきまで自分がくっそオモロい話してたの自覚できてないの?
「いくぞ、言っとくけどそんな面白くないからな?」
「面白さとか求めてないですよ……?」
よかった、それなら安心して話せる!
「えっとな、とりあえずエリュトロン倒したんだけど」
「そこ割愛ですか?! どうやって倒したのか教えてください!」
あ、そっか。余裕すぎてあいつがメチャ強魔獣なの完全に忘れてた。
「んとね、剣をね、ヒョイッ、パシッ、ズヴァーーーン! って感じ」
「わかりませんよ! 説明下手ですか?!」
残念だったな、俺の話は擬音なしには成り立たん。
「下手ですが何か?」
「いいえ、何でもございません……」
おかしいな、俺の爽やかプレッシャースマイルを向けられたリオンがどうしてだか言いくるめられたみたいになってる。
あ、俺の圧力スマイルのせいか。
「まぁとりあえず、軽くキャッチソードしてたら――」
「キャッチソードってなんですか?! なんだか朗らかな日曜日の父子みたいに言ってますけど、それただの殺し合いですからね?!」
何コイツ、めちゃくちゃ口挟んでくるじゃん。
「じゃあそれでいいや。軽く殺し合いしてたら――」
「いや『軽く殺し合い』もよく考えたら意味がわかりませんね!
……ひぃっ、一旦黙ります、僕なんかがお話のお邪魔をしてすみません…………」
いかん爽やかプレッシャースマイルが効きすぎた。
「まぁ色々あってエリュっちが何でかわからんけど剣の鋒を自分の心臓近くに向けた状態でキャッチしちゃったわけ……いやツッコめやいっっっ! 絶好のチャンスだったろ今!」
「エリュっち」って結構渾身のボケなんですけど?
「ひえぇっ……! きき、鋒を心臓に向けてキャッチするわけないでしょ!」
「そこじゃねぇっっっ!」
やっとわかった。たぶん俺が話下手なだけ。
「すまん、俺が悪かった……リオンにツッコミポイントを思い通りに供給してやれないとは……やっぱ俺、ボケ向いてねぇわ……ってことで話終わっていい?」
俺の真剣な話者辞退宣言に対し、リオンは申し訳なさそうに挙手する。
「すみませんツッコミポイントの需要は地の底なのでそのまま続けていただいてもよろしいでしょうか」
鬼やろコイツ。面白くない話をなんでここまで話させようとするの?
「はぁ……えっと、ガチで鋒を心臓に向けてキャッチしちゃったわけよ。それで俺が『エリュっちの持ってる武器を強化する魔法』をかけたら、その剣がめちゃくちゃ殺傷能力高くなって刀身が伸びてエリュっちの心臓貫いたわけ」
リオンは目を見開きながらガタガタ震え始める。死期かな? 水魔導士呼ぶ?
ん、なんかブツブツ呟いてるな。遺言かもしれんから一応聴いとこう。
「……は? ニーヴェさん最強やん。龍殺しの神やん。この世の救世主やん。いや創造主かもしれん。今から神話作らなきゃ(使命感)って感じやん。天上天下唯我独ゾブッッッ!」
あっぶね、ここでぶん殴ってなかったらたぶんもう戻ってこなかった。
「おーいリオン、大丈夫か〜?」
「…………殴ったの誰だと思ってます?」
「殴らなくても戻ってた保証あった?」
「ないですありがとうございます」
あれ、今回はプレッシャースマイルしてないはずなんだけど。また一人、人を救ったってことか。いやぁ、主人公ともなるとたくさん人を救う経験ができるなぁ。
「あの、そんなこと考えてるクズはロクな死に方しないって知ってます?」
「心の声漏れてた! しかも俺が死ぬ前提で話進められてた! バッドエンド確定演出だったよ今!」
「いいえ、クズが死んだらハッピーエンドです」
「そんな恵まれないハッピーエンドは嫌だあぁぁぁぁ!!」
ちょっとリオンさん、あなた俺のこと尊敬してるのか卑下してるのかどっちなの?
「あ、すみません、脱線させてしまいましたね……続きをお願いします」
この混沌の中でさらに続きを聴こうとすることができるあたりすげぇよ。
「お、おう。そんでエリュっちを倒した後、イグナが俺を呼びに来たのよ。で、なんかレウシスが西の街に来いって言ってるって言われて……そっから俺とアズとイグナで旅し始めたんだけど」
「一応言っておきますけど、この国は一夫一婦制ですからね?」
「当たり前だ、俺は一生独身を貫く」
誰かにお金を使うなんてワタクシ絶対に嫌ですのよ。しかも何で俺がアイツらと結婚する気だと思ってんだよ。
「なんだか微妙に答えになっていないような……まぁ続けていただいて」
話の腰折れすぎじゃね? バッキバキぞ? そういえばギックリ腰ってどっかの言葉で「魔女の一撃」って言ったりするらしいよね。じゃあ俺の話の腰は黒魔導士の連撃で折れたんだね。もう瀕死やん。
「んで、フィルストを経由してここ、セコンにやってくる途中に、ある魔獣に出会ったんだ」
ようやくオチに入れる。なんて完璧な流れ。一歩進むごとに五分止まってを何度か繰り返し、ついにオチだ。はっはっはっ、流れが止まって見えるぞ。
「……何という、魔獣なんですか……?」
息を呑むリオン。やめろあんま期待すんな。
「んとね、リフリーってやつで、すっごい技術持ってんの。話してる途中急に棒読み入れてくるの。ね、面白いでしょ、こんな風に。
俺の名はニーヴェルング・ヴァイス。自強化デキナイ白魔ドウシ! よろシクお願いシマすっ!」
あれ、俺上手くね?
「…………」
ん、なんかリオンが黙ったんだけど。笑い死にした? それとも俺がスゴすぎて言葉失った?
「おーいリオン、大丈夫か?」
「あのぉ……これがオチってことで大丈夫ですか……?」
絶望的にスベり倒したっっっ!!
「やっぱ俺ボケ向いてねぇぇぇぇぇっ!」
そう叫んだ時、すぐ近くで轟音がした。耳が千切れそう。
「な、何が起こっどパッ」
あ、どっかから飛んできた何かがリオンに直撃した。
「大丈夫か、リオパッ」
あかん、これ当たったら死ぬやつや。後頭部に直撃したけどもう意識飛びそうなくらい痛てぇ。
「アズさん、どうしましょう。壁を壊しちゃいました……」
「だ、大丈夫! 黙ってればバレないよ! でも、まさか枕投げで壁壊しちゃうなんてね……」
おい、それ色々やべぇな。あまりにも意味不明な展開すぎて意識復活したわ。
「お前ら……いい加減にしろよ……スベり倒して精神的にやられてる俺にとどめの豪速枕ぶつけやがって……」
塵が舞う部屋の奥から、アズとイグナの怯えた顔が覗く。
「ひえぇ……」
リオンも何度目かの弱々しい鳴き声を発する。あくまでも「鳴き声」でいきたいと思う。
「よっしゃお前ら! 十秒だ! 十秒で俺を怒らせたことを後悔させてやる!」
三対一の枕投げバトルが、ここに開戦する。だって枕投げ楽しそうじゃん。一回やってみたかったんだもん。




