第三十九話『寒冷魔獣は棒読みマスターです』
さあイグナ! 今すぐあの寒そうな魔獣を燃やして俺たちが健康状態を良好に保てるようにしてくれ!
「お任せ下さい! 一瞬でヘタレ戦法を取ったニーヴェさんを焼いてからすぐにあの魔獣を焼くので!」
「お願いしますファーストステップを飛ばしてください」
「土下座早っ?! ほんっとニーヴェってプライドかなぐり捨ててるよね!」
丸焦げは勘弁して欲しいんです。
「アズ、それは否だ。白魔導士としてのプライドならある。何を言われても傷つかないかと言われればその答えもノーになる。でも、土下座を躊躇うプライドだけは生まれつき持ってないんだ☆」
「「しょ、しょーもない人間だ……」」
あのぉ、二人してそんなこと言わなくても。ニーヴェくんのメンタルに傷がついちゃう。
それと早く許してくれないかな? 俺ずっと冷たい地面とにらめっこしてる状態なんだけど。
「お前ら、ナニを三人で話シテいるノダ?! ワタシが攻撃をしてイタラ、凍りついていたトコロだったゾ?」
「大丈夫、俺はお前が攻撃してこないって信じてたから」
「腹立つナァお前」
ド直球でディスられた。俺の大事なメンタルがビリビリに!
「あ、そうだリフリー。一つだけツッコみたいことがあるんだけど……」
「つべこべ言ってナイでさっさと戦え」
「ま、まあまあ、一つだけツッコんだらスッキリして戦う気になるからさ〜」
「じゃあ早くシロ、鬱陶しいナァ」
よっしゃあ! やっと違和感を口に出せる!
「てめぇセリフのカタカナのとこだけ器用に棒読みしてんじゃねぇっ!!」
「ニーヴェ、ナイス! それは確かに気になってた!」
「細かいトコロを指摘して来るんじゃナイ! ああ、ようやく攻撃がデキル。喰らえ、『アノ三人ヲ吹雪デ氷漬けニ』!」
もちろんちゃんと詠唱を棒読みでしやがりました。
「さあイグナ! お前の超一流の炎魔法で迎え撃て!」
イグナはこちらを向く。あ、俺の大声が大声すぎて大声しちゃったかな?
「え、普通に嫌ですけど」
「はぁぁぁぁぁぁあっ?! え、なんで? お願いします何回でも土下座しますからっ!」
俺は額から流れる血をものともせず地面に這いつくばって頭を打ちつけ続ける。そのうちに吹雪が俺たちを襲い、俺の体は超高速で震え始める。
「さっっっぶっ!」
「あっれれぇ、私たち全然寒くないなぁ〜」
「ですねぇ〜。ニーヴェさんだけどうしたんですかぁ〜? ひと夏のある日みたいな格好してぇ〜」
こいつら……ッ! 今の状況を存分に楽しんでやがるッ! くそ、仲間だと思ってたのに……!
「お前ら、覚えとけよ……ッ!」
「あはは、大丈夫ですよ。私も鬼ではないので、五つ数えたら終わらせてあげましょう!」
なに、五つ……だと……ッ?
「そんなのめちゃくちゃ遅くカウントしつつ、寒さに悶える俺を見て愉しむに違いない!」
「いいえ、そんなことはありませんよ。いーち、にーい、さーん、しーい、ご!」
あれ、普通に五カウント?
「ねぇイグナさん、何で詠唱しないの? 約束って言葉知ってる?」
「だって私、『五つ』は数えてませんし。『一から五まで』数えただけです」
「なんだとコンニャロッッ!!」
くそっ! ハメられた! そりゃあイグナならクズの俺に対してこういうことするとは思ってたけど! まさかここまで性格悪かったとは!
「性格悪い人見るような目しないでください。ニーヴェさんも十分性格悪いです」
うん、知ってる。知ってるけど、やっぱり言葉って凶器になるんだよね。
「オマエラ、仲間内で潰しあってるんじゃネーゾ! そんなんじゃワタシニハカテナイゾ!」
「だんだん棒読みのタイミング雑になってんじゃねぇよ! シバくぞ! イグナが!」
「もうめんどくさいのでそろそろシバきますね♡」
こっっっわ。さっき世界一怖いハートマークが語尾に付いてたろ。
「『我々に立ち塞がるリフリーを、荼毘に付せ』!」
イグナが詠唱しつつ人差し指をリフリーに向けると、リフリーに火がつく。
「ウワアアアアアアアア」
ごめん棒読みだから全然熱そうに思えない。でもやべぇよイグナ、「荼毘に付す」とか初めて聞いたわ。
「さ、ニーヴェさん、アズさん、次の街に行きましょうか♡」
「「さ、さんせーい……」」
世界一怖いハートマーク、パート2。
はい、なんだかんだそれからは何もなくセコンに着きました。
もうほんとイグナすら怖くなってきたこのパーティまじでキツい。
「で、イグナ。セコンでは何をする予定なの?」
「…………よくぞ訊いてくれましたね!」
え、間空けておいて言うことそれ? 答えをくれよ。
「そろそろ暗くなってきたから……宿屋探す、とか?」
「そうそう、それです! いいですね、アズさん! その調子です!」
お前は何様だよ。てか宿屋探すくらい思いつけよ。考える時間あったんだから。それ言ったら俺も思いつけてないけど。
「それじゃあ、行こっか!」
「ああああああああぁぁぁ! 思い出しました!」
夕焼け色に染まるセコンに、イグナの大声が響く。街道に建ち並ぶ家々の壁はどれも落ち着いた風合いの色をしていて、色はそれぞれ違うけれど目にうるさくない。道行く人の中にはもちろん冒険中の騎士や魔導士もいるが、彼らと同じくらいの人数の住民が街道を歩く。住民たちはほとんどが淡い色の服を着ていて、みなとてもにこやかだ。
さて、イグナの大声に話を戻そうか。できれば戻したくなかったけど。
「何を思い出したの? 大したことなかったらブチ転がすぞ?」
「一体どんな転がされ方を……? まあいいです。思い出したのはこの街でやることですから、ブチ転がされる心配はありません!」
「早くそれが何なのかを言ってくれない? ブチ転がすぞ?」
「どうしても私をブチ転がしたいんですね?! わかりました早く言いますよ言えばいいんでしょう?! えーっとですね……武器を買います!」
え? もったいぶった挙句言うことそれ? イグナ、自分の武器買うためにここ寄ったわけ?
「アズ、とりあえず寝よっか。そんで明日の朝イグナ置いて出発しよう」
「それでいいの……?」
「ストォォオオォップ!!! ちょっと待ってくださいよ! まず置いていかないでください! それと私の武器だけ買うと思っていませんか?!」
「何言ってんだ、アズは次寄るレウコンで置いていくんだぞ? こいつに武器買ったところで良く言って金の無駄、悪く言っぶごっっっっ?!」
右のこめかみ中心の半径三センチ程度の円の辺りに激痛がっ!
「良く言っても金の無駄とはよく言ったわね」
俺のこめかみを正拳突きした直後にシャレとは……さすがに笑えねぇぞ。
「まあ確かに、言い方は悪いですがニーヴェさんの言うことにほぼ賛成です」
「イグナちゃん?! 私は信じてたよ?!」
「それ正拳突きの構えしながら言うセリフですかっ?!」
イグナはアズを何とかなだめて咳払いを一つ。
「それと、買うのはアズさんの武器ではなく……ニーヴェさんの武器ですから」
あぁ……そう? それって良く言って金の無駄だし、悪く言うとアズのやつ買った方がまだ役に立つよ?




