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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい  作者: 氷華青
第四章『ソロクエストの次は王様のパシリです』
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第三十八話『想いは他人にバレるものです』

「あれ、私たちなんでここにいるんでしたっけ?」


「ガチで忘れてやがる! そんなところで有言実行とか要らないから!」


 昨日のくだりをしっかり引き継いでいくスタイルには尊敬しかけるけど迷惑ってことに引っかかって完全に尊敬することはできない。


「まあこの調子ならアズも脳内リセットガールだよねぇ」


 全身真っ青な少女は体を目いっぱい伸ばし、その空っぽであろう頭を若干ではあるが天に近づける。そんなことされても神様困るだろうからやめたげて。


「うーん、いい朝! ねぇニーヴェ、イグナちゃん、これからこの街を出るの? それともまだ何か買い物残ってる?」


 あれ、覚えてね? 五歩歩くどころか寝ても昨日のこと覚えてるくね?


「何言ってんのニーヴェ、それくらい覚えてるよ」


「俺さっき一言も喋ってないんですけど?! なんか急にスペック上がるのやめてくんない?!」


 徐々にスペック上がるなら大歓迎だけど急すぎるとびっくりしちゃうからね。

 てか心読めるとかもう闇魔導士じゃねぇか。目覚めたのかアズ。


「ふっふっふ、私の闇の力が目覚めてしまったようだね!」


 アズが急にそんなこと言い出したらガチで引くわ。まあ言わないだろうけどね。


「ちょっとニーヴェさん、さっきから心の声ダダ漏れですよ。何言ってるんですか、死ぬほど怖いです。冗談ですけど死んで欲しいです」


「冗談ですけどって言うの早くない?!  普通は『殺すなやボケェっ!』っていう俺のツッコミを待ってからだと思うんだけど?!」


「私に普通なんてあると思うんですか? ローブのサイズすら三度目の正直の私に」


 ああ……それもそっか。そういえば、普通ってなんなんだろうね(哲学的思考)。


「ニーヴェ、バカみたいに自称哲学的思考してないで早く次の街に進もうよ!」


 マジなんなんこいつ。心読めすぎちゃう?


「だからニーヴェさん。あなたの考えてることが、私たちに言葉として全部伝わってるんです」


 ちょっと何言ってるかわからないですね。

「ちょっと何言ってるかわからないですね」


 あれ、俺の声帯震えてね? ちゃんとお仕事してね?


「ガッツリしてますよ。一ヶ月間の断食終わった後の大食いの人くらいガッツリしてます」


「まじかよぉぉおおおおおうぉぉぉおおおおお恥ずかじいぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!」


 よりによって心の声ダダ漏れとか……なんだよ哲学的思考って。一回地獄行ってこいよ。さすがにもう声帯は震えてないよ。


「てか大食いの人とて一ヶ月間も断食してたらさすがに大食いできねぇだろ!」


「うわっ、超マジレス……イグナちゃん、もうニーヴェ置いて行こっか」


 アズちゃん今日おかしいって。いくらここまでデレで、ここでようやくツンが出たとしてもツンデレの配分おかしいって。冒頭の「昨日のくだりを……」の文の句点と句点以外の配分くらいになってるって。


 でもイグナは俺を見捨てない。そういう確信があるんだよ。地味に俺が一緒に時間を過ごしたランキング堂々の二位に君臨するイグナだからな。


「私は反対です!」


 ほうら来た。イグナを得た俺はまるで水を得た魚のようだぜ!



 え、俺ってイグナいないと生きてけないの……?



「とりあえずマジレスの償いをさせてから置いて行くべきだと思います! 何もせずに置いていくのは甘いと思いますよ?」


「ああ、なるほど」


 ちょっと待って色々言いたいことがありすぎてパンクしそう。


 一旦整理しようか。

 まず、「俺ってイグナいないと生きてけないの……?」っていう俺の意味不明な疑問があって。

 それとほぼ同時にイグナが発した言葉が俺の予想を軽く反転してきたと。

 プラス「マジレスの償い」とかいう新要素が入ってきて……ラストにアズの「ああ、なるほど」。


 ああ、なるほど。


「いや置いていくなしっ! せめて引きずってでも俺を連れて行け?! それと『マジレスの償い』って何? 金なら出すから俺の精神と身体にこれ以上の苦痛を与えないで?! あとアズ! 『ああ、なるほど』とはなんじゃああああああああぁぁぁい!! 納得すんな! そこで納得したら俺の頭のアルバムの優しいアズちゃんの思い出のラスイチが木っ端微塵切りになるから!」


 あかん……息が……続かなくッ……。

 もうちょっと肺活量増やすためにトレーニングしないとな。俺の場合魔獣倒すトレーニングした方が百倍身のためになるよな。うん、それだな。


 俺の思考って時々誰かに操られてんのかってくらい滑らかに入れ替わるよね。


「ツッコミお疲れ様! さあニーヴェのベリーロングなツッコミも終わったことだし、次の街に進もう!」


 ……お疲れ様。その一言で、俺の肺胞の一つひとつは報われ――るはずがないんですけれども。これ以上この街にいる意味もないし、いい加減先に進むか。


 ツッコミに「お疲れ様」って……絶対言っちゃいかんやつでしょ……。




「さーぁイグナさん! 次はどこを目指すんでしょうかぁ?!」


 朝イチでヘトヘトな俺、いつもおかしいけど今日は()()()おかしいアズ、いつも通りお元気なイグナ、無事にフィルストでの目標を達成し、次の街へと歩き出すことに成功いたしました。アズはいつもは何がおかしいって? そんなの訊かないで。ヒントは「それを言ったら殺される」。さあ、みんなはわっかるっかなぁ〜?


「はいはーい! セコンに向かいますよ!」


 よかった、さっきは適当に言ったけど本当に元気のいいイグナだった。


「とりあえず償いでもどうです?」


「その『償い』ってのはこんな感じでコーヒーみたいな勧め方するくらいには美味しいものなんだろうね?」


「あっはは〜。美味しいわけないじゃないですかぁ」


 ちょ、これ、マジレスじゃね? アズちゃんセンサー確認。



――アズはただただ人を殺しかねない視線をチラつかせながら林道を歩いている!


――ニーヴェはどうする?

・逃げる

・撤退する

・逃亡する

・エスケープ

・チキンムーブ



 俺の脳内の選択肢が百パーセント逃げてる! それと関係ないけど「チキンムーブ」って美味そう!


 んー、じゃあ、特に意味もなく「逃亡する」を選択しようかな? 別にアズが怖いとかじゃなくて。ほら、逃げるしかなかったし。


 あれ、右腕が何かに掴まれている感覚が。


「逃がしませんよ? ちゃんとアズさんに償ってください?」


「……はぁ。あのねぇイグナ。執拗い女の子は嫌われるんだよ?」


「『償い』ってなんですか? 美味しいんですか?」


「よし、偉いぞイグナ」


 なんか子供だましが効いた。この調子でアズも説得できるかもしれない!


「アズ、怖い女の子も嫌わ――」


「誰のせいで怖くなってるかわかってる?」


「――れるとは言いきれないよね!」


 よし、偉いぞニーヴェ。あれ、俺が説得されてる?!


「じゃあニーヴェは償いとして――」


 償いって言うけどマジレスの償いだからね? 超軽い償いだよね? 少なくとも等価交換くらいは弁えてるよね? ほら、商人の基本だし。


「――ローブを脱ぐ!」


「風邪ひかない……?」


 ごめんその言葉しかぱっと思いつかなかった。でもそれ結構キツイぞ。ここ日当たり悪いし、若干風吹いてるし、顔に当たる冷気が……え、もしかして風邪ひくどころのレベルじゃない感じ?


 肩に乗っかるローブの重みから、不意に俺は解放される。ローブを着ている感覚が腕からするするとなくなっていく。


「ニーヴェさんのローブいただきました!」


「おいこらイグナ! 俺の心の準備ができる数億秒前に持っていくとは反則ぶぇっっくしょい!」


 寒い。風邪ひく。凍死する。


「ナイス、イグナちゃん! 私ちょっと寒いからそれ貸して!」


「えー、私だって寒いしニーヴェさんのローブで暖を取りたいんですけど……」


「イグナちゃんはローブ着てるでしょ?! 私、薄着なんだよ?! 鬼なの?!」


 俺も「イグナ鬼説」に賛成します。


「ガタガタガタガタ……」


 なんだこの声は。


「ガータガタガタ! ワタシは冷気ヲ司る魔獣、リフリー! ワタシに出会ったカラには、貴様らにはここで全員凍死してもらうノダ!」


 ああ、なるほど。こいつのせいか。怒りの矛先がしっかり定まった俺のガチギレパワー見てろよお前ら!


「よぉしイグナ! あいつをコテンパンにしてやれ!」


「一瞬で司令塔に回る辺りさすがですね?!」


 イグナの力があればあんなやつボッコボコだもんね。

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