第三十三話『銀の雨は終わりと始まりです』
ワシボクチンという魔獣の仕業で魔法を使えなくされてしまった俺。
対するはエリュトロン。何百万年もの間、数多の騎士と闘い続け、その全てで勝利を飾った業火の龍。
ニーヴェくん、地獄の扉まであと一歩!
「そうなの! ワシボクチンが俺のことを凡人にしたの! だから今のとこ、俺と戦う意味がないから!」
「え? ああ、そう……なんか可哀想だな……とりあえずその呪い解いてやるから、そうしたら戦ってくれる? うん?」
ま? こいつ解けるの? 一万年間で生まれた命の中でたった一つの逸材なの?
「うん! 解いてくれたら考える!」
「そっか! よっしゃ! じゃあ解いてあげるよ! ってちょっと待ったぁ! 考えるな!」
「感じろ?」
「ちげぇぇぇっ! 即決しろってことだよ! 『解いたら戦う』! 約束しないと解かないぞ?」
くっそ、さすがに騙せねぇか。
「それじゃあ山登りの疲労も消してくれたらいいよ」
「さらに注文重ねんの? これラストオーダーよ? これ以上聞かないよ? オッケー?」
なんで疲労回復できんだよ、神か。できないと思って言ったのに。
こうなったら戦うしかないか。
「お、おう、それでいいよ」
「ちょっとニーヴェ、いいの? 絶対勝てないって」
アズの耳打ち。そんなことわかってるけどやるしかないじゃん。
「いいよもう。どうせやらなきゃいけないならここでやる」
はぁ〜緊張してきた。
「よぉし、じゃあ解くよ? いい? ほんとにやってくれるんだよね? 信じるからね?」
そういえばなんでこいつこんな砕けた喋り方なんだよ。気ぃ抜けるわ。
「お、おう。信頼度カンストだから」
「なに自分の信頼度下げてんのよっ! カンストとか言ってる人絶対信頼されてないからね?」
もう俺喋らない方がいいかもしんない。
「ほいっ。二人が喋ってるうちに解いたよ」
仕事が早いな。さて、どう料理してやろうか。
「さて、どう料理してやろうか」
「怖いよアズ! あいつ俺と同じこと考えてる!」
「少なくともニーヴェには料理できないでしょうね……」
なるほど、一対二か。孤立無援の俺が受けて立とう。
「とりあえず邪魔だからそこの青い娘食べていい?」
全然タッグ組んでなかった。その上、
「『食べる』とか言うのやめろ」
誤解生むわ。
「うーん、じゃあ『ご馳走になる』?」
「おう、それで誤解は回避できる」
「結局どっちでも私は食べられるんだけど?」
アズの困った顔。そんなアズを、エリュトロンはいとも簡単に掴んで、口の前に持っていく。
エリュトロンの呼吸がアズにダイレクトアタックをかます。
「なんかすごい爽やかな匂いがする!」
「一日五回歯磨きしてる俺を舐めるな」
エリュトロンの白い牙が光る。口臭くないドラゴンとか初めて見たわ。
てかそれより。
「食わせるかぁぁぁぁあ!」
剣を手にエリュトロンの足元へ向かう。
しかし振り下ろすより先に蹴飛ばされ、骨が折れたような音が聞こえる。
「かはっ!」
でもまだ諦めない。遠のきそうな意識の中で、スピードアップのバフをエリュトロンにかける。エリュトロンは足を滑らす。
「うおっ?!」
倒れそうになるエリュトロンだが、そのまま一回転して体勢を立て直す。
しかしそこに、剣を持って突撃する俺。剣を振り下ろそうとするも、やはり届かず殴り飛ばされる。
飛龍だから前足は退化してるはずなのに、すごい威力だ。
「無駄だぞ、俺はそういう戦士どもを何人も、何万人も、何億人も殺してきているんだから!」
「ちくしょ……」
一撃も与えられない。それなら……以前から考えていた攻撃をするしかない。
絶対に、アズをあいつの胃に入れる訳にはいかない。今まで何度だって、俺は彼女に助けられてきたんだから。俺は本当に、アズがいるだけで――
「うわぁぁぁぁあっ!」
動こうとするだけでブッ倒れそうな体を、遠のく意識を大声と意地とで繋ぎ止めることで制御する。
そして既に何本か肋骨が持っていかれたであろう体を無理やりに走らせ、もう一度エリュトロンに近づいたところで剣を投げる。
詠唱。込み上げる血を吐きつつ、舌だけは正確に言葉を紡ぎ出す。
エリュトロンは、天に舞い上がりながら向かってくる剣をつまらなそうに眺める。
そして、剣が顔の高さにやってきた時、唐突にエリュトロンはそれを掴んだ。人間の掌のような前足で、刃の部分を。
しかし、皮が分厚いのか、エリュトロンの前足から血は流れない。
「言っただろう? 無駄だと」
「いいや、無駄じゃないさ」
詠唱完了。剣の切っ先はエリュトロンの心臓に向いている。そうなることに賭けて、俺はエリュトロンに「対象が持つ武器の威力と攻撃可能範囲の増強バフ魔法」をかけたのだ。
そう、自分の武器が強化できないなら。
「相手に持ってもらって強化すればいいってことよ!」
先程まで安物の剣だったことなどまるで想像もつかないくらいの輝きを放ち、剣はエリュトロンの巨体を貫いた。
「うぐ、ぐわぁぁぁぁあっ!」
咆哮と共に、銀色の雨が降り注ぐ。龍の血に触れると皮膚が溶けるので、先にフードを被っておいた。
役目を終えた剣が、コトンと岩肌に落ちた。
「ニーヴェ!」
アズが抱きついてくる。俺の白いローブが、銀色の雨ではないもので濡れたのを感じる。
言うなら今しかない。今だから、伝えるんだ。
「アズリス……今までありがとう。こんな危険な旅についてきてくれて、本当に助かった」
最初は拒絶もしたけど、アズがいたことで助かったことはたくさんあった。
「ううん、こちらこそだよ。ニーヴェと一緒に冒険できて、私は本当に幸せ」
銀の雨が止む。
いつも罵倒してばっかりで、たくさん辛い思いをさせたけど、ここで感謝を伝えられてよかった。
「ねぇ、ニーヴェ」
アズが少し下から俺を見る。
「もし、良ければ私t」
「あ! ニーヴェさん! ようやく見つけました!」
む、この声は……イグナ! 抱き合っていてはまずい気がしたので、アズを押しのける。
「うへっ」
「イグナ、何か用?」
まさかこんなとこでピチピチローブと再会できるとは夢にも思わなかった。
「えっとですね……王様がお呼びです。『今すぐに、西の街に来い』とのことですので、一緒に行きましょう!」
「え、ちょ、私は?」
「そうそう、アズはどうなるんだ?」
「アズリスさんも、一緒に行きましょう。ただ、危険ですので、レウコンでお別れということになりますが」
なんかまた面倒くさいことになってきたぞ。
「とりあえず、行きましょう!」
イグナは俺の手を掴む。
「ちょ、おい、剣! 剣を持ってきて、アズ!」
「もう、わかったよ! あとで私の話聞いてね!」
俺の旅は、不本意にもまだ終わらないようだ。
こんにちは、氷華青です!
早いもので、この物語も既に10万字を超えております! 3章も終わり、ここまで来れたのは読者の皆様のおかげだと思っております! 本当にありがとうございます!
さて、第4章ですが……まずは黒魔導士・リオンくんの物語になります。




