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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい  作者: 氷華青
第一章『ソロクエストに必要な物は勢いです』
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第二話『白魔導士は富豪です』

 東の街・ナリアトにやって来ましたー。初めてのソロクエスト楽しみだなー(棒)。


「アズ、ナリアトに武器屋あるよね?」


 俺は全く知らないし調べる気も更々ないので、知ってそうなアズリスに訊く。


「んー? 知らなぁい」


 目を合わせず返答。こいつ、連れてきた意味。今からでも一人になってやろうか。


「というかさ、あれすごくない?」


 アズの目線を追うと、街の中央の広場で悠々とお昼寝中の超強そうな魔獣が視界に入ってきた。


「うんすごい。スケイオさんすごーい」


 凶暴な魔獣・スケイオを目にして、自我を失わない俺が居ようか。黒い毛並みはところどころ血に染まり、鼻を突く臭いは俺に顔をしかめさせた。


「気持ち悪っ」


 ほんとにスケイオ気持ち悪い。


「だよね」


「いや、一瞬自我を失ったニーヴェのことを言ってたんだけど」


 この人俺を不快にさせるために生きてるんだろうか。今すぐそんな生き方やめた方がいい。この世の全てを不快にさせる言葉を吐く白魔導士からの助言だ。


 ……なんか最近ブーメラン返って来すぎな気がする。まぁそんなのどうだっていい。


「よーしとりあえず聞き込みするかぁ。めんどくさいけど、スケイオについて俺ら何も知らないし」


 正直スライムに負ける自信すらあったけど、こうなったらしょうがない。本気でやるしか生き延びる可能性はない――逃げるってことも無きにしも非ず。


「やっと冒険者っぽくなってきたね。どこに聞きに行く?」


 そりゃあここまでの道のり、ほぼ旅行してるだけだったからね。ご飯食べたり、剣術鑑賞したり、ご飯食べたり、魔法で創り出される綺麗な景色見たり、ご飯食べたり。


 あー思い出したら腹減ってきた。盛大に腹が鳴る。アズも鳴ったようで、その提案はこうだった。


「……酒場行こっか」


 大賛成。




 酒場にやって来た俺たち。中にはおそらく店主の落ち着いたお爺さんと、大勢の体格のいい男たち。騎士なのかな? そして頭と同じくらい大きい帽子を被った女性魔導士達も多数。みんなスケイオを倒しに来てるんだろう。


 とりあえず甘い果実のジュースを一杯ずつと食用魔獣の肉をふんだんに使った大きめのサンドイッチをアズが一個と俺が四個頼む。


「聞き込み、誰に行く?」


「とりあえず手分けしよう。俺が男に行くからアズは魔導士の人のとこ行って」


 アズが男たちに絡まれるのが心配な訳ではなく、俺が女性と話したくないだけだ。どうしても傷つけてしまうから。レディは男よりガラスのハート持ちって言うし――俺の好感度これ以上下げたくないし。


 アズはサンドイッチを食べ終えて、二つ食べた俺は両手にサンドイッチを持って聞き込み開始というわけで、まずは近くの若いイケメン騎士に。


「あのすいません。スケイオについて情報頂けません?」


 俺のことをチラと見るもののそれ以上の関心は持たなかったようで、


「なんで俺らが頑張って集めた情報を易々と他人の、しかも君みたいな見るからにクエスト初心者にあげなきゃいけないのかな? 不快だからどっか行ってくれ」


 そりゃそうか。今の俺は、この辺りの初心者魔導士がつける装備よりも装備が心もとないし、杖だって魔導書だって王国の名魔導士が持ってるような綺麗なものじゃない。クエスト初心者だと思われても仕方ない。ま、ソロなら初心者だけど。放浪の汚い雑魚魔導士。少なくともここではそれがみんなの俺に対する認識。


「そうですか。ありがとうございます」


 ボロクソに言われたけど何とか冷静に対処。しょうがない、次の人は金で釣るか。次は……と。デカい斧持ったゴツいオジサン騎士にしよう。


「あのすいません。スケイオについて情報――」


「――さっきあいつに断られたばっかだろ? 学習しなよ兄ちゃん。こちとら命懸けてんだ。一つたりともあげらんないね」


 でしょうね。でもこっちには金がある。


「しょうがないか。じゃあ何ゴールドあれば教えてくれるの?」


 腹たったから敬語なんて忘れた。提示した金額によってはぶん殴る。


「うーんそうだな……千万とかでどうだ?」


 あぁこいつアホだわ。お勉強なんてしたこともなさそう。


「あのな、そんな大金あったらこんな魔獣倒しに来るより城建てるわ」


 余裕で持ってるけど。さすがに最初からホイホイと渡せる額じゃない。常識的に考えてだけど。


「まぁそうだわな。兄ちゃんが持ってるはずねぇし。冗談は置いといて、十万ゴールドくらい用意できたらやるよ。今回は冗談抜きだぜ?」


 ざけんなクソジジイ。ナメやがって。十万ゴールドってそこそこいい騎士の年収くらいよ? それを情報だけの対価として支払えなんて――


 ――ほんっとに気が乗らないけど今回ばかりはしょうがない。金貨の袋をジジイの前に並べる。


 一袋目。ちなみに1袋百ゴールド入ってる。ジジイの表情が変わる。軽蔑に。


 ナメてんじゃねぇぞ、本番はこっからだジジイ。そのモジャ髭が1本残らず抜け落ちるくらいまでに驚かしてやるぜ。


 二袋目。ジジイの表情は軽蔑から変わらない。


 三袋目。金貨百枚が地味に重いから腕が悲鳴をあげるまではいかなくとも「怠っ」くらいは言ってそう。ふざけんな俺の腕もっと働け。




 四十八袋目。ジジイは軽蔑なんかとっくに忘れてむしろ怯えてきている。


「おいおいまさか、ほんとに十万ゴールド持ってんのか? 千袋だぞ?」


 こいつ今更なんてこと訊きやがる。


「当たり前だろ。じゃなきゃこんな意味わからん重労働してねぇよ」


 ぽかんと口を開けることしかできないジジイ。そういえばジジイと普通に呼べるほどの年齢に見えないことが冷静になるとわかってくる。可哀想だから今度からオッサンって呼んであげよう。


「あの、もらったはもらったでいいんだがどうやって持ち帰ればいい?」


 はぁ? 知らねぇよ。俺みたいに魔法で容量を見た目の五百倍にした鞄持ってないのかよ? あれは高かった。


「この鞄買えよ。どっかで売ってんだろ。てかそんなことより手伝えよ。袋重いんだから」


 ちなみにこの鞄、軽量補正つき。どんなものでも持ち運び楽々なのだ。


「なんで受け取り手の俺が……まぁいい」


 そう言って鞄の中を覗き込むオッサン。そして彼は自然と涎を垂らす。控えめに言って汚い。


「おらクソジジイ! 一滴でも垂らしてみろ、死ぬぞ?」


 実は綺麗好きなのだ。部屋は散らかすけど散らかってる物一つひとつが綺麗ならいいでしょ。


「じゃあ手伝わせるな!」


 ちなみに今の俺にはオッサンを殺す術はない。


「いや涎を垂らさなきゃいいだけだろ」


「それもそうか」


 あ、納得するんだ。それからオッサンと俺の最初で最後の共同作業が始まった。表現気持ち悪っ。




 ようやく千袋並べ終わって。ん、待てよ?


「オッサン、じょーほーは?」


 これで渡さねぇって言われたら何とは言わないけどコロス。俺たちが汗水垂らして日暮れさせて鞄から金貨袋出しまくった努力が無駄になる。


「もちろん渡さねぇ。これ持ってさいならだ」


 へぇいい度胸してんな。


「あっそ。それならそれでいいけど? 持ち帰れるならだけどね」


 金貨袋千袋だぞ? スケイオ持っていくより難しいだろ。重さの話だから持っていくものの凶暴さは加味してないけどね。


「俺だってこれくらい常備してんだよ」


 そう言ってオッサンは風呂敷を出した。あ、やべ本当に持ってかれる。


 広げるまでわからなかったけど超絶大きな風呂敷だったらしく、五十袋くらいを包んで持っていこうとするオッサン。おいおい。あと九百五十袋どうすんの。往復する?


「あのさ、ほんとに持ち帰るの? 情報くらいくれない? こっちはあんたを信用して先に金払っ――」


 ――バリバリッ、ドスン。


 風呂敷破れてんじゃん。うーんしょうがないか。優しい白魔導士さん見せちゃうかぁ。


「この鞄も付けるからさ。情報くれればだけど」


「ほんとか?」


 実質素手では四百ゴールド持って行ければいい方だ。情報の対価に鞄付きで十万ゴールドか、そのまま四百ゴールド持って逃げるか。オッサンには正しい判断ができる頭があると見た。


「……スケイオを倒すには光が有効だ。闇属性持ちだからな。爪と牙には毒がある。もし少しでも皮膚にそれらが触れようもんなら――一瞬で地獄行きだ。だがそんなに素早いこともないし、毒にさえ気をつければだな」


 オッサン、あんた最高だよ。だが間違えるな、俺が行くのは天国だ。日頃人事を尽くしている俺だからね。まぁそりゃ天国にも行っちゃうよね――俺何かおかしなこと言った?


「簡単そうに言うけどさぁ……それなら騎士がどんなに集っても倒せないわけないでしょーが」


「まぁな。ヤツを倒せる程の光魔法があればいいんだが、残念ながらないんだよそれが」


 なるほどな。俺が光属性のそこそこ強い魔導士と組めば解決する問題だけど……そんなことしたくないなぁ。だってその光魔導士が褒められて終わりじゃん。でもナリアトの人達が食われてくのをこのまま黙って見過ごすのはダサいよなぁ。あーどうしよ。


 とりあえずアズと相談するか。


「ありがとオッサン。おーいアズ、行くぞ〜」


「も〜、ニーヴェ速いよ〜」


 サンドイッチ五個とジュース二杯の代金(六十ゴールド)を払い(高っ。誰だよ暴食してんの)、ニーヴェという名前に反応した酒場のほとんどの人々の視線を浴びながらさっさと立ち去る。正体がバレるのはだいぶめんどくさいから名前を呼ぶのはやめて欲しかったけどこの際しょうがない。


 酒場のドアが閉まるのを耳で確認してからアズに二択を持ちかける。


「っていう状況なんだけどどうする?」


「そうね……とりあえず武器屋に行こう」


 え、なんで?


「そりゃ俺をチームに入れたくて酒場から追ってくるヤツらがいたら逃げられるから好都合だけど、目的は何?」


「そんなのスケイオを倒すためにニーヴェの装備を整えることしかないでしょ?」


 こいつまだ俺にやらせようと?


「あーもう。じゃあ武器屋行くだけ行くよ。けどやるかどうかは保留で!」


「えーやろうよぉ。ニーヴェの嘘つき、臆病者、雑魚白魔導士!」


 聞こえませ〜ん。


 そして俺と、返答が得られなくて少し怒った様子のアズは武器屋に向かって歩き出す。とりあえず歩いてる途中にアズに聞き込みの成果でも訊くか。




 鞄、オッサンに渡すの忘れてた。

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