第二十八話『白魔導士のハッタリは不発です』
メロ、ベルと共に変態を担いでギルドに向かう。
「いやぁ、そっかぁ。ニーヴェくんみたいなクズでも神様くらい信じれるんだぁ」
いやこれにはさすがにムカついたのでストナを投げ飛ばして反論。
「おわっ?! ぶっ! ごろっ!」
「クズってなんだてめぇ! 俺は真っ白な心の持ち主、白魔導士ニー」
「今うちのリーダー投げ飛ばしたの見たんだけど?」
さっきあいつ「ぶっ殺す」って言わなかった? まぁいいや、それよりまだストナに対する良心がメロにあったのが驚きなんだよこっちは。
「そのりぃだぁってやつはどうでもいいとして、ギルドに報告しに行くの俺でいい?」
そろそろ褒め言葉もらっときたい。そうじゃないと今後のモチベが下がってエリュトロンと会うことなく一生をゆったりまったり過ごすことになるかもしれないし。
「ちょっと待てぇーいっ! お前俺を丸太のように道に転がしやがって、一言言ってやろうと思ってたらさらには自分が報告に行くだと?! ふざけんな! 俺だって真面目にリーダーやっぶごっ! ほげぇっ?! は、はだがおれだっ!」
たぶん「鼻が折れた」って言いたかったんだろうな。そんなの後ろから突っ込んできて勝手に鼻っ柱に俺のノールック手の甲クラッシュ食らったのが悪い。
「俺でいいよね?」
「「異論はございません」」
女子二人の同意をもらったので、紫色の短毛がたくさん生えた皮――あんなに可愛かったドゥーラはこんなに見るも無惨な姿になってしまった――を持って、目前に見えるギルドに走る。
木のドアを開き、真っ直ぐカウンターまで。
「あ、こんにちは。ご用件をどうぞ」
「ストナ、メロ、ベル、ニーヴェの四人でドゥーラを討伐しました」
「ニーヴェさん?! あの白魔導士の……?」
なんか知らんけど俺も有名になったもんだな。どうせ悪評高いだけだろうけど。
「は――いえ、たぶん人違いです」
あっぶねぇ、認めたら王都レウコンでの二の舞を演じることになる。
「えー、本当ですかー? そのフード付きの白いローブ、絶対そうだと思うんだけどな……」
「いえ、ほんと違います。誰ですかそのニーヴェってやつは?」
自分で自分を忘れたふりをする俺に、やはり受付の彼女は疑いの目を変えない。
「ご存知ないのですか?! あんなに口悪い――いえ、有能なことで有名なのに……」
「知らないですね。だって俺、ニーヴェルング・シュッツァーって名前ですもん」
嘘は吐いてない。うん、何故かすごく罪悪感に苛まれてるけど大丈夫。シュッツァーとか名乗ったの何年ぶりだろ。
「えー、絶対ニーヴェルング・ヴァイスさんだと思うんだけどなぁ……あ、受注してもらった時の書類で確認すればいいのか」
詰んだお。
「えーっと……ふむふむ……」
考えろ、考えろ。何とかして褒めてもらうんだ! ……俺はなんてしょーもないことの為にこんなに考えてるんだ? 違う違う。そんなのは今考えてちゃダメだ。うーん、なんて言えば……ッ! そうだ!
「あの、シュッツァーさんじゃなくて、やっぱりニーヴェルング・ヴァイスさんですよね?」
「ごめんなさい、間違えてました!」
最高に爽やかな笑顔で言う。
「本当は俺、ストナでし」
「ストナさんなら、結構有名な剣士さんなんで、私も知ってますよ」
「じゃあメ」
「メロさんもベルさんも女性の方ですよね?」
この人、手強い……!
「はい、ごめんなさい、嘘ついてました。俺がニーヴェルング・ヴァイスです。強化しかできないクソ雑魚白魔導士です」
「やはりそうでしたか。いやぁ、一度お会いしたかったんですよ。あ、すみません、脱線させちゃって! それでは報酬の方に話を戻させていただきますね!」
なんかこの人、すごく優しいから「お疲れ様」って言ってくれそ――いやいや、待てニーヴェ! 疑心暗鬼になれ! 信じるだけじゃこの世は生きていけないぞ!
「ドゥーラ一体で千ゴールドになります」
やっす。さすが超簡単クエスト。
「あ……はい」
「ドゥーラはまだまだたくさんいるのでレア度も低いですし、及ぼす被害も物を盗むくらいなので……申し訳ございませんがその金額になりますね」
「からの〜?」
しまった、褒め言葉欲しさにゴミのようなノリで話を進めようとっ!
「え、あの、えっと……」
ごめんなさい受付さん。でもこっからなんて言ったらいいかわからないよ。
ん? あ、いいこと思いついた。
「か、空の袋あげましょうか?」
ふっふっふ、「からの〜?」という失言の中の失言から「空の」に繋げていくという素晴らしきリカバリー! さぁこれで話は何の違和感もなく繋がっ
「えーっと……なんで急に? すみません、要らないです。お疲れ様でした、とお伝えください!」
そう言って奥に下がっていく受付さん。
「は、はい…………」
やらかしたっ!! もう俺恥ずかしくてギルドの受付行けないっ!
『今気づいたの?! だいぶ前から「こいつもうダメだ」って思ってたけど?!』
ほぇーそうだったのぉー。
『関心ゼロ下回ってマイナスかっ! なんだそれ! 脳内で欠伸しながら鼻ほじる君がありありと浮かんでくる!』
もちろん行動に移してはないよ。そんなことしたらさらに引かれて人生を歩んでいけなくなる。
空の鞄に金貨袋を十個詰め込み、ギルドをとぼとぼと出ていくと、ちゃんと報酬欲しさに待っていたストナ達が見える。
「あ、どうだった?」
「千ゴールド。じゃあ俺二百五十ゴールドもらうから、あとは勝手に分配しといて」
しかし三人とも動かない。少しのぎこちない静寂の後、ストナはこれまたぎこちない笑顔で言う。
「ちなみに千ゴールド全部あげるからパーティに正規加入して」
「あげるはずがまだあると思ってたのかお前ら。哀れだな」
こいつらまだ俺の正規加入を狙ってたとは。ハイエナのようなハイエナだな。
『暗喩に直喩を重ねたらそれはもう意味わかんなくなるよ?!』
はい、すんませんした。
さて、アズを探す前に腹を満たそう。ということでぱっと目に入った食事処へ。
腹が減ってはなんとやらって言うけどさっき俺は空腹を感じながら戦ってた。
「すみません、ネッセスのロース肉のサンドイッチ五個ください」
「はいよ! あ、坊や、ちょっといいかい」
俺は坊やの年齢じゃねぇぞふざけんなくそババア早く寿命尽きろって言うのか、言ったら厨房から秒速で包丁持ってこられてそれで刺し殺されるのが怖くて言わないのかよくわからないまま「なんですか?」と訊いちゃう俺。
「今席がほとんど空いてなくてね、相席になっちゃうんだけどいいかい?」
正直飯食えたらなんでもいいのよ。
「あ、全然大丈夫です」
若いウエイトレスに案内されたテーブルは二人席で、向かいには今流行りの――かどうかは知らないけどよく見る――黒いローブに身を包んだ青年が座っていた。
「お客様、大変申し訳ございませんが、席数が足りなくなってしまった故、この方と相席していただいてもよろしいでしょうか?」
ウエイトレスに話しかけられた青年は、ビクッと身体を震わせてから終始挙動不審で、質問の答えにいたってはこうだった。
「ふぁっ、ふぁいっ!」
急に呼びかけられた直後にしかその返事使わないだろ普通。
まぁ何はともあれ同意ももらったので相席に。青年はローブとは真反対の白い髪を持ち、その双眸は淡青色だが、今にも目の光が消えていきそうだった。
青年が食べていたのは俺が頼んだものと同じ、この店の看板メニューと文字通り外にあった看板に書いてあった、「ネッセスのロース肉のサンドイッチ」。ただし今見えている限り、頼んだのは一個だけのようだった。めちゃくちゃチビチビ食べてるし見るからに食欲なさそうだから。
さて、彼の観察も終わったことだし、俺の食事が来るまで何してよっかな。…………なんか気まずい。




