第二十七話『盗られた本は秘密です』
数瞬後にはドゥーラにピンポイント鳩尾突きを食らわされた惨めな俺。
「げべぼっ!」
思いっきり吹っ飛ばされて茂みにダイブさせられる。
てかなんでバフが効いてないわけ? 噛まなかったし、詠唱も間違えてなかったと思うけど。
「ストナ、これ返すわ」
鳩尾が苦しいのに耐えながら起き上がり、ストナに剣を投げる。
「お、おい、あぶねっ、剣投げんな!」
大丈夫、それ大して硬くもないドゥーラも切れないから。
「ってことであとは頼んだみんな!」
俺の試合放棄宣言が終わる前にベルが矢を二本放ち、どちらもがドゥーラの足に刺さる。ドゥーラはうずくまり、もう動けなさそうだ。
なんだか可哀想に思えてくる。
「待てっ! 本当にいいのか?! めちゃくちゃ可愛いんだぞこいつ!」
俺らでいう心臓の辺りを狙うベルに訴えかける。
「『殺戮楽すぃぃぃぃいい』」
棒読みなところから俺のセリフの再生だと推測します。
「はい、そうですね……俺そう言いましたね……」
めちゃくちゃ恥ずかしい。
「まぁ待て、ベル」
ん? まさかの味方ストナ? ヒーロー(笑)は遅れてやってくる的な?
「…………何?」
「――俺が仕留める。やっぱり最後は俺じゃないとな!」
「ただの自己中心的ないつものストナだった!」
俺のツッコミにこちらを向くストナ。おいおい、俺ら隙ありすぎじゃね?
「まぁ見てろよニーヴェ。こんな雑魚剣でも俺ならこいつを殺せる」
いやだから、切れなかったんだって。なまくらなんだって。いくらなまくら振り回したって切れんものは切れんだろ?
それと気になることが。
「メロは何してんだ?!」
「ぎくっ! あ、あはは、観戦〜」
さっきから喋ってないと思ったらそんなことを。まぁ俺もよく観戦するからそれについては何も言わない。
「おいニーヴェ! 俺の最大の見せ場をちゃんと見とけよ!」
フリかな?
ストナはベルに作ってもらった見せ場の空気を存分に吸い込み、そして吐いた。えっと、息を吐いた。いくらストナでもさすがにここで汚いものは出さない。
「いくぞ、本当にいいんだな?」
それ訊かれるとすっごく止めたいんだけど。ちなみにまだ「殺戮楽すぃぃぃぃいい!」は棚に上がったまんまだよ。
もうメロとベルは頷いてるというかヘドバンしてるから多数決で決まったし早くしてあげて。いつ殺されるか分からないドゥーラの心臓がバクンバクンしてショック死する前に。心臓があるかどうか知らないけど。
「よっしゃ、食らえぇぇぇえっ!」
煌びやかな剣を的確に外して振り下ろすストナ。もうほんとドゥーラが可哀想。
「もうさ、ベル撃っちゃってよ」
「……待って」
ベルはストナから眼を離さない。その視線の先を見ると、ストナが剣に切りに行かされていた。
「おぉわっ?! 剣が勝手に!」
必中バフ、かかってる……なんで?
「モッフゥゥゥゥッ?!」
ドゥーラはその断末魔のあと、剣に切られた。刃が当たる前に衝撃波みたいなのが出てそれで切れた。ということは威力増強バフもかかってる……ということ。
「なんか切れたぁぁぁぁあ?!」
「いやてめぇ切るつもりでいったろ?! なんだそのリアクション?!」
俺のツッコミに、ストナはこちらを向き口を開く。
「いや、実はさ」
言い訳をしだすのかな?
「振り下ろした時、あ、これ外れるって思ったんだ」
うん、そうだね。
「たぶんみんなそう思ったから安心して。それで?」
「えっとな……じゃねぇっ! んなもん安心できねぇ! あ、そうそう、それで俺が咄嗟の判断で軌道を修正して見事切ったわけよ」
こいつ大嘘ほざきやがった! てかさっきの、ノリツッコミしつつ最後に軌道修正して話すとか、さすがストナっぽい頭おかしいセリフ回しだったな。
「うーん、なんで俺がやった時はバフかかってなくて、ストナが持っただけでバフかかるんだろ? ストナもしかして同業者?」
「さらっと俺の嘘暴くんじゃねぇよ! しかも俺ただの剣士だし!」
「ニーヴェくん、ちなみに詠唱ってどんな感じにしてるの?」
詠唱…………いつもはあまり意識してないけど、確か詠唱する文言には種類があって……まず最初に魔法をかける対象を選ぶんだけど……。
「……あ」
「え? なにか気づいたの?」
「うん。対象が武器そのものじゃなくてストナだった」
でも確か、武器を対象に魔法はかけられないはず。ということは、対象の持っている武器だけが強化されるってことか。
「試しにストナ、ベルの弓矢使ってみて」
「はぁ? 俺弓矢経験少ないぞ?! 十年くらい前に三日で諦めた覚えがあるぞ?!」
そうこなくっちゃ検証なんてできないんだが。てか飽きっぽすぎるだろ。紅葉か。いやそれは秋っぽいやないかーい。
…………悲し。
まぁ何はともあれ、俺はストナからいい感じに離れた木の幹に杖で印をつける。ボロ杖だから折れても俺にはノーダメージ。
「ここに向かって撃ってみひゃはっ?!」
なんか鋭いものが右の耳のすぐ横を通り過ぎた気がする。
「あっちゃー、やっぱ当たんねぇかぁ」
「いやさっきのは完全に殺しにきてた! 命の危険感じて心臓が横隔膜押した音がしたわっ!」
しかも目標の木は俺の左隣という。これ当たんなかったの奇跡だろ。
と思ったら、矢はこちらに戻ってきて、裏側から印を貫いた。
「は?! チートじゃねぇかっ!」
叫ぶストナ。たぶんもうすぐでバフの効果が切れる時間だけど……これ真っ直ぐ飛ばないならワンチャン弾道の経由地に設定されるよね? ぶっ殺されんじゃん。
「やめろチート野郎! 今度撃ったら殺されてでも殺す!」
「ニーヴェくん、言ってる意味がわかんないよ?! だってストナは木の幹を狙ってるんだから!」
「そうそう。おらよ!」
「ぴきゃぁ……!」
もうダメだ。なるべく矢に心臓で休憩されないように避けつつみんなの元へ走る。
矢を見ると、思い切り目標から逸れたまま飛んでいき、戻ってくる気配がない。
「ふぅ、バフ終わった……」
もう二度とストナに必中魔法かけるもんか。
「ちなみに、盗られた本ってどんな本だったの?」
やっべ、色々ありすぎて回収忘れてた。
「あぁ、あれね」
ふっと髪をかきあげる。今世紀最大の決めゼリフいきまーす。
「経済学のほn」
「本当は?」
俺の大事な一世紀がこれにて幕を閉じました。
「ほ、本当だってぇ」
「そんなの持ち歩いてるくらいならそんなに浪費してなくない?」
メロ、鋭いな。
「てかなんで俺が浪費してること知ってるの?! 言ってないよね?!」
わざわざ自分が浪費してることを他人に言うわけないしね。
「クリューちゃんから聞いたんだよ! あの子、ニーヴェくんにめちゃくちゃ高い剣買ってもらったって」
ああまたあいつか。もうあいつとは二度と会わないだろうからぶん殴ることもできないね。
「それで、なんの本なの?」
「え、普通に教えないけど?」
「ふっふっふ、なるほど……それはつまり、男のロマンの本だな? それなら俺が一緒に見て」
「黙れ変態俺の視界から一刹那以内に出ろ不愉快だ」
一瞬こいつはすごく良いヤツなんじゃないかと思ったんだけど……それは気のせいでやっぱり人のいるところに向かって矢撃つただの変態クズだった。
「言葉の羅列がしんどい……」
そりゃしんどい言葉ばっかり並べたからね。
さてと。辺りを見回し、落ちていた俺の本を拾う。
と同時に、横から手が伸びてくるのを体を捻って盾にすることで回避。
「あっぶねぇ。絶対見られたくな」
左下方向から本が引っ張られた。おかしい、メロの手は右後方から伸びていたはず。
「盗ったよ」
「ベル、ナイスっ!」
「ここでベルかよぉ、そんなの対応できるはずねぇよぉ。もぉぉおおお!」
チームプレーとは卑怯な。パーティのコンビネーションを見せるなら魔獣との戦いでやって欲しかった。
「えっと……『神様について』……?」
「嫌ぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛っ!」
恥ずかしいっ! 神様なんて信じてないキャラだったのに! ずっと隠してたのに!
「どれどれ…………『この世界はモニカという神様に見守られている』……?」
「らしいよ、うん」
「えぇぇ、ニーヴェくんが神様信じてるなんて意外すぎるぅ」
うるせぇその珍しいものを見るような眼やめろ。
メロから神様の本を取り返す。
「と、とりあえず、ギルド帰ろ! ね?」
木の葉の間から見える陽は、もう南中していた。




