第二十五話『男子勢は好感度だだ下がりです』
颯爽と逃げようとする俺の前に、ストナが立ち塞がる。
「ふっ。ここは通さないぜニーべぁっ?!」
そんなの構わずぶっ飛ばす。ここで立ち止まってるようじゃソロクエストなんてクリアできねぇんだよっ!
「ニーヴェ〜? なんで支払いが私なのかな〜?」
そりゃ二人の財布握ってんのがアズだからであって。決してめんどくさいとかこいつらから逃げて無駄な時間過ごしたくないとかじゃないし。
「ごめんなさい俺が払います」
アズの圧には理屈とか通用しないんだなぁ。
「はい、一万二千ゴールドね」
あぁ……百二十袋ね。いつもならダルくて周りのみんなに手伝わせてるところだけど。
「だらっしゃぁぁぁあ! 支払いさっさと済ませてさっさと寝るんだよぉぉおおおっ!」
カバンからテンポよくかつ乱暴に袋を出していく。大容量カバン以外に楽なお金の管理方法ないのかしら。
「はい、これでだいたい百二十袋っ! 終わり! 毎度あり! ありがとうまた来るよ!」
「別に一人二役やらなくてもいいっすよ?! しかも二袋足りてないですし?!」
足りなくたって俺が支払い終わりって言ったら終わり――なはずはないよね。
「もう、ニーヴェしっかりしてよぉ」
「わ、わざとだし?! わざとじゃなきゃこんなことしないし?!」
「わざとなら確信犯っすよ?!」
わざとの方が悪いパターン初めて経験したわ。でもそんなパターン探したらもっとありそうだからこれからは気をつけないと。
「ご、ごめんごめん。はい、二袋。そんじゃあね!」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇいっ! てめぇ俺ら無視すんなよ? せっかくまた出会えたんだ、一クエスト付き合ってもらうぜ?」
また止められた。もうやだこのストナって人。メロとベルはいいとしてこいつだけはしつこいし涎垂らすしで私このお方を見てるだけで反吐が出てきますわ、おーっほっほっほぉおぇぇぇぇお嬢様な俺気持ち悪ぅ。
「なんで吐きそうな顔してんの?」
「ちょっとお嬢様が」
「は? どうでもいいからギルド行こうぜ? いい感じのクエスト受けてこよう」
俺さっき剣買ったからもしかして使わなきゃな感じ? お金稼げるとはいえそれだけはやだな。
「え? 俺行かないけど? 何勝手に俺を面倒事に巻き込もうとしてんの?」
「そうそう! ニーヴェには私と買い物っていう仕事があるんで!」
そんな仕事聞いたことないけど。白魔導士にはもっと白魔導士らしい仕事を持ってきてくれない? それを言うとストナはちゃんとそんな仕事持ってきたな。結局行かないけど。残念ながら俺には寝るという仕事しかないんだよっ。
「はぁ?! 男女ペアでラブラブショッピングかよ?! ふざけんなクソ白魔、爆発しろ!」
こらこら急に発狂するな。でもそんなこと言われると言い返したくなるのが俺だ。
「るせぇぞ男女比一対二のラブラブダブル! 偽最強剣士っ! 溶けろ!」
「溶けねぇよ人間だからな!」
じゃあ爆発する俺は非人間なの……?
「てかダブルってなんだよダブルって?! 俺は別にラブラブしてねぇやい!」
「あぁ? ダブルはシングルの倍だよ!」
最適解じゃない?
「その答え求めてねぇっ!」
俺の最適解が……外れただと?
「えーっと、そろそろ私たち、白けた目をするのに疲れてきたんだけど……」
女子の皆さん、目を死なせる作業ご苦労さまです。
死んだ目を生き返らせて、こちらに一歩踏み出したメロは言う。
「お願いニーヴェくん。今から一日宿屋で寝かせてあげるから!」
「ふんっ! ニーヴェがそんなことくらいで釣られるはずがな」
「ふつつか者ですがよろしくお願いいたします!」
そう、人は睡眠欲には抗えない。
「チョロっ?! ニーヴェ、エリュトロンとの対決遅れてもいいの?」
「当たり前だろ。今寝ることの方が先決だよ」
こいつ俺が徹夜で何日も動ける身体の持ち主だと思ってんのかな? そんなのいても神だけだよ。神だってそんなに信じてないし。
「よっしゃあ、寝――悪い魔獣をこの世から一匹でも減らすためにさっさとギルド行こう!」
「なんかニーヴェが乗り気なのちょっと怖くなってくるな」
じゃあ俺ツンデレしながらクエスト行くことになるの? 疲れるだけなんだが?
「あのぉ、ちなみに私は?」
「アズは危ないから待機!」
「えぇぇ、退屈じゃん!」
確かにアズが可哀想だな。
『そんなのその間にアズに君の装備を選ばせてあげたらいいんだよ!』
あれ、天使ニーヴェじゃん。久しぶり。
『久しぶり。元気してた? こっちは本当に苦労してたよ。君がクズと呼ぶにもおこがましいくらいの悪さばかりするから、脳内の天使サイドの居住区がどんどん悪魔に占領されて減っちゃっててさ』
ほんとに戦争起きてんだ俺の頭ん中。そして俺の善良な心、絶賛減少中なのね。
『おっとっと、天使だけと話して真っ白な心の持ち主になろうったってそうはいかないぜ? 人間には誰しも捨てきれない黒い部分があるんだから俺もついてくるのは当たり前だ』
出たな悪魔。なんだか地味に的を射てくるの腹立つなお前。ちなみに悪魔サイドの意見は?
『お、ノリがいいじゃねぇか。せっかく時間が空くんだ、アズにはお前が強くなるために色々買い揃えてもらわねぇとな』
言ってることが天使と同じ! お前ら戦争やる意味ねぇだろ!
「ニーヴェ、私何してればいいの?」
はっ! 声がかからなかったら戦争の調停するとこだった。危ねぇ、俺が真っ白な人間になってしまう。
「せっかく時間空くんだし、残りの装備でも買っといてよ。けどあんま高いのはなしね。買ってきたらぶっ飛ばす」
「ねぇ、この白魔導士怖いよ」
ストナたちに助けを求めるアズ。湯気ビンタの伝道師がよくそんな怖がり方できるな。
「ちなみにニーヴェ、この子なんて名前なんだ?」
こいつメロとベルだけじゃなくてアズにも手出そうとしてんのか。
「…………アズリス」
「なんで変態を見るような目を向けながら言ったんだ?!」
そこに変態がいるからだよ。
「よぉーし、それじゃあギルド行こっか! メロ、ベル、変態!」
「変態呼ばわりやめろぉっ!」
「気をつけて行ってきてね、四人とも」
アズの心配したような言葉に、右手を挙げて応える。振り向きはしない。振り向けば、俺は安全を取ってしまうから。
てなわけでギルドに来た。ナリアトのギルドに来るのはソロクエストを始めてからは一度目だ。
「ちなみにこの中でクエスト受注に一番信頼のおける人は?」
その俺の質問にすかさずストナが答える。
「まぁおr」
「却下。他は?」
隅で泣いてるストナなんかほっとこう。
「わ、私はベルが一番信頼できるかなって思うよ!」
「え、私?」
なるほどベルか。確かにしっかりしてそ――いや、ここは慎重にいこう。忘れがちだけど命がかかってるんだぞ。
「ちなみにベルが信頼できるっていう根拠は? ないなら俺が行くけど」
「ニーヴェくんあんまり信頼出来ないからよろこんで根拠挙げていくね。えーっと、まず私たちの実力を客観的に見てくれるでしょ? それと、それぞれの得意不得意がわかってるし……あとは――」
「はいそこまで。採用っす。ベルさん行ってらっしゃいませ」
こんなに信頼のおける人に出会ったのは初めてだよ。正確には以前からベルには出会ってるけど。あ、あとそれと。
「メロ〜? 俺のこと信用できないってどういうことかな〜? 俺傷ついちゃうな〜」
「人を傷つけそうな目してそんなこと言わないで」
「そんなことするはずがないじゃないのぉらぁっ! ――ってえぇっ?!」
くそぅ、そんなことしないって言って油断させつつ話しながら間合い詰めて殴りにかかる戦法が筒抜けだと?! 俺の拳がこうも簡単に止められるとは……ッ!
「負けたぜ……完敗だ」
「いつの間にか勝負になってるのは何で?!」
「受けてきたよ」
あ、ベル。いいところに。どこがいいところなのか知らないけど。
「お、ありがと。どれどれ……?」
ベルの差し出した紙を見る。嫌な予感がしたが――
「『盗っ人魔獣の住処攻略』? 推定難易度は星七つ中二つ……なぁベル、抱きしめていい?」
この子わかってらっしゃる。さっすがメロが選んだ人材。と言っても二択のうちのひと
「変態」
どうやら今のパーティ、変態が半数を占めてるようだね。俺含めて。うーん…………俺も隅っこで泣こうかな。




