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ヴァイス 自強化不可の白魔導士は一人で魔獣を倒したい  作者: 氷華青
第二章『ソロクエストへの道のりは長いです』
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第二十話『国王は人格信号機です』

 さて、イグナとの用事は済んだ。あとはこのチビローブをフュールたちの方に送り返すだけ。言うのは簡単だけど実行に移すのが少し難しくなってきた。眠気がね。


「フュールたち、どこにいるの?」


「あ、もうお別れしようとしてますね? まだですよ。彼らとは朝に合流しようと決めましたから」


 バレたか。しかもこいつ余計なことを。さっさと俺は寝たいんだがもしかして徹夜コースとかじゃないよね?


「ということで宿屋探しましょう!」


「いいねイグナ! 歩くの疲れたとか言って徹夜させる誰かさんとは大違いだ!」


 アズにはお世話になってる分だけ迷惑もかけられてる気がする。等価交換成立しちゃってるわけだ。


「あ、あそことかいいんじゃないですか?」


「うん、すっごくいいと思う! 特に壁にびっしりと垂れ下がったツタがいい味出してて――って廃墟じゃねぇかっ! お前廃墟で一晩越すのか?! ホームレスじゃねぇか!」


 普通に俺ホームレスだったわ。


「私とっくの前に賃貸契約やめましたよ? だから正真正銘のホームレスです!」


 やめろそんなに胸を張って言うもんじゃない。あ、でも俺たちは今冒険中なんだ。逆に家がない方が誇らしいんじゃ?


「とはいえ! とはいえ廃墟はやめない? ほら、せっかく買った黒ローブが緑色に変わってもいいの?」


 もうあの中がコケパラダイスであるという前提で話してますが。


「えぇ、それは嫌ですね。ちゃんと宿屋探しましょうか」


「うん、それでいいと思う。ふわぁ……」


「ニーヴェさん、お疲れで眠たいんですね。よ〜し――」


 なんかやり始めるぞこいつ。どうせくだらないから絶対スルーしよう。


 イグナは道の端に行って、正座して、提案した。


「――私の膝枕で寝てください!」


 断固拒否です。誰が人の膝の上で寝るか。それが美少女のものであっても、人と体を触れさせて寝たくはないね。だって俺潔癖症だもん。ほら、白だから。関係ねぇ。


「さぁて宿屋はどこかな〜?」


 眉の辺りに右手を当てる「捜索ポーズ」をとり、加えてスキップをしながらいつにないハイテンションで宿屋を探すニーヴェ氏。


「ちょっと! 深夜で人通りが少なかったからよかったものの、あの状況で頭預けないとか私がめちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですか!」


 おう、頭預けてたらどっちも恥ずかしかったから半分で済んでよかったな。まずあそこで正座すること自体恥ずかしいしな。


「あ、あそこはどうです?」


 またいい廃墟でも見つけたのかな? 今度は何が生えてんだろ。


「って、結構良さそうな宿屋じゃん! さすがイグナ、二回目すら失敗する誰かさんとは違っていいね!」


「さっきからその『誰か』と比べるのやめてもらっていいですか?! その人が可哀想です!」


 アズだから大丈夫、俺は気にしないから。俺は。


 そんなことを言いながら宿屋に入っていく。


「いらっしゃい」


「二部屋空いてます?」


「えーっと……ベッド二つの部屋が一部屋しかな」


「ありがとうございます、ではまたの機会に」


 部屋は一人がいいもん。みんなで守ろうプライバシー。


「断るのそっち?! 女の子の方じゃなくて?!」


「お気になさらずとも、私は一部屋でも大丈夫ですよ? 別に着替えるわけでもないので」


 え、ローブのまま寝るとか信じらんない。俺はちゃんとローブ脱ぐぞ? ラフな格好で寝るぞ? なるほどイグナはローブの下にもう一枚着てないのか。


「俺が一部屋がいいから。次探すぞ」


「なんだかさっき気持ち悪い想像されてた気がします……」


 別に下着の想像とかしてねぇから。いやほんとに。




 そんなこんなで陽は昇り、ソロップの街に朝がやってきた。


「いやぁ朝っていいね。なんだかスカッとするし。……いつもなら」


「…………ですね。なんだか疲れが取れないですけど」


 我々、空いている宿屋を見つけること叶わず、ソロップの街道の端で徹夜した次第であります。寝ると色々盗られたりしそうだからね。というか真面目にホームレスこなしてるのヤバいな。


「あ、イグナとニーヴェ〜」


 おっと聞いたことのある声。


「ようやく見つかりました! いやぁローブを買いに行ったっきりどこにいるのかもわからず、探しましたよぉ。それで、今までどこにいたんです?」


 もう時間感覚狂っててわかんないけどたぶん何時間か前からずっとここにいたよ。その記憶すら夢かもしれない。


「王が直々にわしらに勲章を渡してくれるそうじゃ。なぜじゃろうな、いつもならば王城に自ら出向かなければもらえぬのに」


「へぇ、王様か……それはすごい……勲章か…………俺たち何かしたっけ?」


「したじゃないですか。ほら、スピーテコ全焼きしましたよ」


 そう……だっけか……ふぅん、すごいなぁ君たち……って――


「俺も入ってんじゃんっ!」


 なんか目ぇ覚めたわ。このままじゃソロップ市民全員の眼に俺の醜態を焼き付けることになってしまう。そんな恥ずいこと絶対したくない。

 それじゃあさっさとアズを探して――いや、そんな暇もないかもしれない。こいつらに「ニーヴェは先にナリアトに行った」ってアズに伝えてもらうことにして早く逃げなけれ――


「そんなところにおったか、クソザコゴミクジども。貴様ら無能がボスザルを駆逐したという噂を聞いて直々に来たぞ」


 クソザコはまだはらわたが煮えくり返るだけとして、ゴミクズとナメクジ混ぜて「ゴミクジ」って言うな。茶目っ気抜群か。


「はっ、王様」

「やほ〜」

「お目にかかれて光栄でございますぞ」

「おはようございます……あはは……」


 ダメだ、徹夜イグナが壊れかけてる。そんでルアク、「やほ〜」じゃねぇだろ。「黙れゴミ虫」くらいで上等でしょ。


「どうでもいい挨拶などくだらん。さっさと勲章だけ渡すからそれで帰らせてくれ」


 できれば勲章渡さずに帰って欲しいけどな。てかこいつやっぱりこんなめちゃ怖キャラなんだな。あれ、どうやって俺こいつに土下座させたんだっけ?


「なぁレウシス、なんで今日はここに?」


「おろ? やっほーニーヴェくん。僕がここに来たのはね、君も授与式の場にいて欲しいからなんだ。最近全然来ないよね? 他のメンバーから報告は聞くのに」


 あぁ、そうだった。こいつ――国王レウシスは、俺と話す時だけめちゃくちゃフレンドリーだったわ。あれ、どうやってこいつに土下座させたんだっけ? 残念ながらフレンドリーなだけじゃ解答にならなかったという。


「まぁめんどいから。もう早く帰れば? あんまり王城開けっ放しにしとくのもダメでしょ? さっき早く帰りたいとか言ってたし」


「いや、ニーヴェくんとは幾千の夜を越えてその冒険譚について語り明かしたいくらいだよ」


 俺一夜寝ずに過ごしただけでもこんなに死にそうなのに? たぶん二日目くらいでもう何も話さなくなるよ?


「まぁとりあえず仕事だけ終わらせることにするよ。……コホン。フュール・スネモア」


 急に王様っぽいスイッチ入れんな。そう、こいつのスイッチは三つあるんだよ。暴君――というかただの悪口野郎、友好的な老人、そんで威厳のある普通の王様。あーやりにくい。


「はい!」


 フュールお前ゴミクズって言われてよくそんないい返事できるな。


「ルアク・アウガ。アルテ・ピスダ。イグナ・マギアス」


「は〜い」

「うむ」

「……はいやぁ!」


 うん、やっぱイグナ壊れてる。なんか早朝なのに結構人集まってきた。絶対このトリプルアイデンティティ野郎のせいだわ。


「そして――ニーヴェルング・ヴァイス」


「……はい」


 え、俺もしかして勲章もらえたりするの? そんならソロクエストとかしなくていいんだけど! これはきたかもしれない……!

 はい、これが返事は乗り気じゃなさそうだけど内心めっちゃワクワクしてる人の図です。


「お前たちゴミ――五人は、スピーテコを全滅させることができた。感謝しよう」


 おい、一瞬違う人格チラ見えしたぞ。ていうか感謝されてる! これはほんとに勲章パターンかも!


「ということで、スネモア、アウガ、ピスダ、マギアスの四人には勲章を与えよう」


 …………は?


「え、なんで? いや俺がもらえないのももちろん納得いかないよ、でもなんでフュールがもらえてんの?」


「えっと……僕森から退散する時に一匹だけ倒してたんです。あの、すっごく怖かったんですけど、反射的に剣を振ったら当たっちゃって。いやぁ勲章もらえるって素敵ですね!」


 今すごく煽られてる。その素敵さを俺も感じたいんだが。


「ねぇねぇレウシスぅ、俺は〜?」


「う〜ん、でもダメージ与えてないっていう報告だからなぁ……ほんっとに申し訳ないんだけど無理かなぁ。やっぱりダメージ与えるのが最優先だし」


 やっぱり俺この国のシステムには納得できん。たぶん真っ先にカラスが漁るならこの国の勲章システムだと思う。ほら、ゴミだし。


 そんなことを考えてるうちに、レウシスの後ろにいた衛兵が持っていた四つの勲章を順に受け取り、俺以外の四人に渡していく。

 俺はそれを冷めた目で見つめる。そんな俺を群衆は「なんであの人だけもらえてないの?」という目で見る。お願い見ないで。


「それじゃあ渡し終わったことだし、帰るね。またねニーヴェくん。今度はぜひ王城まで来てよ」


「死んでも嫌だね」


 今だってこんなに辱めを受けてんのに、王城なんかどれだけの衛兵がいて、どれだけ民衆が見に来るか。ここの比じゃない。


「さて。じゃあな、掃き溜め共。俺は王城に帰って貴様らがどれだけそのレンガのように固い頭を使ってもこなせぬような仕事をやらねばならんからな」


 こいつの人格の三分の二が腹立たしいのは我慢しよう。もう会いたくない人ランキング第二位だ。一位はこの街のどこかにいる俺の恩人のサイコパスだよ。


 さて、そろそろアズを探さなきゃ。市民の困惑の視線に皮膚が焼けそう。ほとんどローブで隠れてるけど。

 ついに第二十話まで書くことができました!

 これもひとえに皆様の応援のおかげです。ありがとうございます!

 よければこれからも白魔導士二ーヴェルング・ヴァイスの冒険を暖かい目で見ていってください!

 ギャグクオリティが落ちないように頑張ります(笑)

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