第十七話『炎魔導士は脱線がお好きです』
さぁてこいつらとも合流したことだし、どうやって百二十万ゴールドという大金を受付から持ってこようか考えよう。
「……りだ」
「どうされました?」
「千二百袋とか無理だーっ! 腕何本あってもその腕を同時に動かすために脳が追いついてないから不可能だよっ! てか何自分にツッコんでんだよ! それも自分に対するツッコミだよ! そしてそれも自」
「人に千手観音ニーヴェさんの気持ち悪いイメージさせてから急にエンドレスセルフツッコミするのやめてください。もうそろそろみんな気分悪くなって吐きそうです」
「おぷッ」
おめでとう、アルテは紙一重でギブアップを免れた。危な。ただなんで俺がセルフツッコミ始めたら気分悪くなるのかよくわかんない。
ちなみに千手観音ニーヴェに対する気持ち悪いイメージは認める。実は俺も想像して吐きそうになったから。
「とりあえずほーしゅー金もらわないとだよね〜」
さすがルアク。俺のせいで大幅脱線した話をしっかり元のレールに乗せてくれる。
「報酬金かぁ……あ、私はローブ買わなきゃ」
そして一瞬で再脱線させにかかるイグナ。おそらく無意識なのが末恐ろしい。ちなみに今イグナの衣服は……俺がローブを貸したので何とかセーフ。
「いつまでもこんな真っ白でいたくないですからね。ダサいですし」
めっちゃこっち見るじゃん。何、バカにしてんの? こっちは真っ白が好きなんだよ。人の好みなんだから好きにさせろ。
「嫌なら返してくれてもいいんだぷぁっしょなぶるっ!!!」
やだなぁもう。アズもイグナもすぐ殴る。あ、俺が気に障ること言いすぎなのか。
「誰か魔法の鞄とか持ってないかのう……?」
ボコされた俺を置いて話は進む。てかアルテ、俺がそんな鞄持ってるの知ってるの? じゃなきゃそんなピンポイントでこの世のマイナーツール挙げないっしょ?
「さすがにないっしょ〜。あれ高いし、家があればあれくらいの容量も要らないしね〜」
ないない。あんなの家を売り払った白魔導士がゴールド持ち運ぶためにしか使わないし。
「そりゃ誰も持ってないですよね。ニーヴェさ――いや、まさかね。さすがに……ねぇ?」
お前らほんとに知ってんの? 恐怖なんですけど。てか知ってるんだったらこんな回りくどいことしないで単刀直入に言ってくれれば良いのに。
「わざとらしいんだけど? もしかして俺が持ってるの知ってたり?」
「……ガチですか?」
「ほんとですかっ?!」
「持っておったのか?!」
「え〜、持ってたんだ〜」
もーこいつらなんなん。結局知らなかったのかよ。俺がどれだけ悩んでその挙句に訊いてみたと思ってんだ。
「ごめん、今まで言えなくて。今から取って来るから待ってて」
さてと。アズはどこにいるかな? そういえばあいつって、エルツ――魔力を持つ鉱石。その多くが美しく光り輝く。非魔力持ちが魔法を使うのに用いたり、魔力持ちが自分の魔法を強めるのに使う――を眺めるの好きだったよな。
もうそろそろ夜になりそうだけど探すしかない。宿屋に戻っていないことを祈る。そんなことされたら詰みだもん。
エルツ、エルツっと。あった、エルツ屋。まずはここだ。
「ごめんくださぁい」
「いらっしゃい」
店内には温かい笑顔で俺を出迎えてくれた店主のおじさんと…………いや、それだけしかいなかった。
しかしここで諦める訳にはいかない。
「あの、すみません。青いポニーテールの俺くらいの年の女の子で、目も綺麗な青色の子見ませんでした?」
まぁ見てないわな。
「あぁ、見たよ」
「あぁ、そうですか。ありがとうございま――見たんですか?!」
「う、うん、見たよ」
あ、店主が俺の勢いに押されてる。それなら……このまま勢いで押し切りますか。
「どこに行きました?!」
「え、えーっと……ここから見て右の方に行っちゃったよ」
この人本当に見たの? 見てないとしたらなんの価値もない嘘ついてるよ今。
「…………それはいつごろですか?!」
少し疑ったけど勢いは忘れない。
「ご、五時間前くらいかな」
「よく覚えてましたね?! 五時間前だったらもうその情報は無いに等しいですよ! ソロップ一周まわってからのんびり食事できるほどの時間空いてるんですから!」
いやぁひっさびさにガチのツッコミした。ツッコむって気持ちいいね。だからと言ってツッコミ役に全振りはしたくないけど。
「あひっ、ごめんなさい……」
あ、店主が萎縮しちゃった。申し訳ないなぁ。それは置いといて、もうこうなった以上ソロップを探し回るしかない。すぐに思考をそっちに移行することからして申し訳なさが微塵も感じられないがまぁよし。
「まぁとりあえずありがとうございました」
店を出ると、日が落ちるのは早いものでもう空は深藍に染まっている。
この時間帯人多いんだよなぁ。聞き込みはしやすいけど人混み嫌いの俺には砂漠よりも厳しい環境。
それは嘘だった。
それはそうと人の多さに目が回る。しかし周りを見渡さねば。それがニーヴェ氏に課された役割である。
俺と年が同じくらいのカップルがいる。ちくしょうイチャつきやがって。こっちにはそんな相手もいないやい。
小さな女の子が母親らしき人物に空腹を訴えている。こっちにはそんな暇もないんだよぉ。
四人の戦士らしき人々が力を合わせて大金を運んでいる。こっちはその大金を運ぶ手段が――あれ?
四人の戦士らしき人々が力を合わせて大金を運んでいる。
「ちょっと待てお前らぁぁぁぁぁぁあ!」
「あれ、ニーヴェさん。き、気づきませんでしたよ、全然。ほ、ほんとに」
「気づかないわけがあるかよ! 俺はこのローブの下のラフな格好でも真っ白なんだよ! 下手したらこの街イチ目立つぞ?!」
こいつら俺の分のお金とローブまで持ち逃げしようとしたな。
「探しておったと言えば信」
「じられる訳ねぇだろ! だいたいお前ら、俺に持ち逃げすんなって言っておいて、自分たちは優雅に持ち逃げかよ! 最低だな!」
「ううっ……なんで……信じてくれないんですか……? ぐしゅ、うわぁぁぁん!」
「あ〜あ、イグナ泣かせちゃった〜」
なんで泣くの?! ちょっとぉ、被害者俺じゃね? それかもしかして本当に探してた?
「私以外の、三人は、ぐすん、みんな持ち逃げしようって、言ってましたけど、ぐしゅ、私はローブも借りてるし、ちゃんと探して渡そうって……!」
お前ら三人、なんか罪多めに被らされてんぞいいのか?
「「「………………」」」
「いや否定しないんかいっ!」
もしかしてイグナは全部真実を述べているのでは? こうなったらこいつを信じよう。
「わかった、イグナを信じる。それで俺の分は?」
「お連れの方に渡しましたよ。アズリスさん……でしたっけ?」
そうか安心。こいつらはアズにも一回会ってるから人違いとかはないだろう。
「ちなみにいつごろかわかる?」
「えーっと…………十分前くらいでしたかね。あそこで」
有用な情報きたぁぁぁぁぁ!
「ありがとうみんな! またいつか! さっきのはもう会わないと思ってるけど社交辞令で言った!」
社交辞令って言わないとまた依頼来そうだからね。
「ちょっと待ってください!」
「何よイグナ? 人がスタートダッシュ決め込もうとしてる時に」
イグナさん人に敷かれたレールをちぎっては投げちぎっては投げするの好きだな。
「私のローブ、買いについてきてください」
なるほどそう来たか。本当は今からでもアズを追いかけたいんだけど、俺のローブを握ってるイグナの頼みとあってはしょうがない。
という名目で一応行くけど本音を心の中で叫んでいい?
めちゃくちゃめんどくせえぇぇえっ!!!




